試乗インプレッション
日産「ノート e-POWER NISMO S」デビュー。チューニングパワーユニットの実力はいかに?
0-100km/h加速1.7秒短縮の「S」モデルは刺激的だった
2018年9月25日 10:00
チューニングパワーユニット搭載
新車販売台数でトップを記録し、明るい話題を日産自動車に与えた「ノート e-POWER」。そのワケを考えれば、購入しやすい価格とコンパクトなボディ、そして好燃費を記録することができるなどさまざまあるだろう。一方で、エンジンを発電機として使い、そこで得た電力を使って100%モーターで駆動するというシステムに惹かれたユーザーもいるだろう。瞬間的にトルクが立ち上がり、力強く、そしてスムーズ……。それでいてEV(電気自動車)のように充電の心配いらずということがヒットの理由なのかもしれない。
だが、それだけでなく、単純にドライビングが面白いと興味を示したユーザーがいたこともまた、ノート e-POWERの販売を後押ししている。それはノート e-POWERを購入したユーザーのうち、ナント13%もの人々がNISMO仕様を選択したということからも伺える。13%というと少ないようにも感じるところだが、モータースポーツ直系のエアロを身にまとい、サスペンションやボディ補強を与えたクルマである。いわゆるキワモノにも関わらず、そこまで売れたことには驚きだ。ノート e-POWERの魅力はエコで安価なだけじゃないということが、これだけを聞いてもご理解いただけるだろう。
そんなユーザーをもっと満足させたいと、次なる一手を日産は考えた。それがここにある「ノート e-POWER NISMO S」である。“S”が与えられたクルマはガソリンエンジンモデルにも存在する。コンパクトなノートに1600ccのエンジンを押し込み、マニュアルトランスミッションを搭載した、現代にしては珍しいタイプのいわゆるホットハッチだ。ちょっと破天荒でどこか懐かしいタイプのこのクルマと、全く同じエンブレムをノート e-POWERに加えるなんて「ちょっと強気すぎじゃない?」なんて心配になるほどである。それはノート e-POWER NISMO Sが採用するパワーユニットは、基本的にこれまで採用されていたものと同様だからだ。
けれども話をよくよく伺ってみれば、コンピュータ制御を改めるだけでなく、インバーターに採用されている部品には「セレナ e-POWER」で使っていたものを流用しているとのこと。これによりモーター最高出力は80kWから100kWへ、モーター最大トルクは254Nmから320Nmへ、発電用エンジンも58kWから61kWへと向上。減速機に対してもこの出力に対応したベアリングを採用するなど、万全の態勢を整えている。おかげで最高速はメーター読みで155km/hから180km/hへと拡大。0-100km/h加速は1.7秒短縮している。さらにはドライブモードを2つ新たに加えているところもポイントだ。ここまで来れば立派なチューニングパワーユニットといっていいだろう。
破天荒さにニンマリ
その効果を確認するために、ノート e-POWER NISMOと比べながらテストコースを走ってみる。“S”のエンブレムの実力はどうか?
まず、圧倒的に違うと思えたのは、意外にもECOモードにおけるリニアリティの高さだった。スロットルに対して素直にトルクが立ち上がり、無駄にアクセルを踏み込む必要がなくなっていたのだ。ベースモデルでは深く踏み込まないと反応しないイメージで、必要以上にアクセルを踏んでしまいがち。結果として、エンジンがかかる頻度が多くなっていたのだ。このクルマは持ち込み登録されるクルマということもあって、モード燃費の発表が行なわれていないが、テストによれば実際にはベースモデルよりも1割ほど燃費が向上したというが、それも納得の乗り味がそこにある。
続いては本題となるSモードで走り出す。ATのセレクターはまずDレンジでスタートだ。すると、ベースモデルに対してデータ通りと思えるかなり俊敏な加速を示してくれるから面白い。さらに高速へ向けての伸び感が維持されるところも好感触。ベースモデルは走り出しこそトルクがグッとくる感覚があるが、高速へ向けて元気がなくなるイメージ。それが払拭されたことがノート e-POWER NISMO Sの魅力の1つだ。減速時の回生ブレーキも強く、アクセルのみのワンペダル走行がしやすくなるところもベースモデルと変わらずだ。
セレクターをBレンジにすると、その刺激はさらに高まる。発電機となるエンジンをスタンバイさせ、すぐに発電できる状態を作り出すそれは、応答遅れがさらになくなり豪快な加速を示してくれる。スタンディングスタートでアクセルを全開にすれば、わずかにホイールスピンをするようなところもあり、ちょっとヤンチャさが備わったところは驚くばかり。“S”のエンブレムを与えるには「やはりこれくらいの破天荒さがないとね」と、ちょっぴりニンマリだ。
一方で回生ブレーキは変わらずなのだが、アクセルを踏む方向でのレスポンスが高まったところからアクセルオフをすると、その落差が大きいために、より車両の姿勢を積極的に操ることも可能だった。スラローム走行では前後の荷重をアクセル1つでクリアしやすくなり、結果的に速く走れるようになっていたから爽快だ。
ここまでパワーユニットがアップすると、シャシー側がタイヤも含めてベースモデルと同様というところが若干物足りなくは感じたが、それも許せる範囲内。どうせ“ちょっとチューン”でしょ、なんて思っていたが、そんな考えを見事に裏切ってくれたところが嬉しい1台だった。