試乗インプレッション

フルモデルチェンジ級の大幅改良。三菱自動車「アウトランダーPHEV」(2019年モデル)に公道で乗った

PHEVシステムやS-AWCが進化、クオリティも向上

クオリティとユーティリティを向上

 PHEV(プラグインハイブリッド車)として他社に先駆けて世に送り出された「アウトランダーPHEV」の登場から、間もなく丸6年を迎えようとしている。そのタイミングで、このモデルの根幹に関わるPHEVシステムをはじめ、S-AWCの進化、クオリティおよびユーティリティの向上という3つの要素を柱に、このほどフルモデルチェンジに匹敵するほどの大がかりな改良が実施された。

 内外装にも手が加えられ、2年前のマイナーチェンジでガラリと変わったエクステリアデザインがさらにリフレッシュされて新鮮味を増した。ホイールもまたしても変わって新しさを感じさせるデザインになった。

 インテリアも、これまでどおりの基本デザインを踏襲しながらも細かな部分まで手を入れたことが功を奏して、高級感が格段に高まっていることに驚かされた。既存の日本製SUVにはあまりない雰囲気を感じさせる、ダイヤキルティングの本革シートも目を引く。シート自体が改良されて、これまでよりもホールド性が高まり着座感がよくなっている。

 その他、USB電源の増設や後席乗員向けのエアコン送風口の新設、さらには1500W電源を全車標準装備としたり、充電中でもオーディオやエアコンが使えるようになるなど、よりユーザーにとって役に立つ変更がいくつも行なわれている。

 そしてドライブしても、その上質なドライブフィールには大きな進化を感じたことを、あらかじめお伝えしておこう。

8月23日に大幅改良して発売されたプラグインハイブリッドEV「アウトランダーPHEV」(写真の「G Premium Package」は479万3040円)。ボディサイズは全グレード共通で4695×1800×1710mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。今回の改良では衝突被害軽減ブレーキシステム「FCM」と誤発進抑制機能(前進および後退時)が標準装備され、全車「サポカーS ワイド」に該当した
エクステリアではヘッドライト内部のデザインを変更するとともに、ハイビームにLEDを採用。ラジエターグリル、LEDフォグランプベゼル、フロントスキッドプレート、リアスキッドプレート、アルミホイールのデザインも変更され、質感を向上させた。また、空力性能を高めるリアスポイラーも追加している。さらに各モデル(S Editionをのぞく)の前後ショックアブソーバーのサイズアップを行なうとともに、新型バルブを採用することで上質な乗り心地と高い操縦安定性を手に入れた
ボディの左側にガソリン用のフューエルリッド(写真左)、右側に普通充電/急速充電用のリッド(写真右)が用意される。普通充電(AC200V/15A)を用いた場合の満充電までの所要時間は約4.5時間で、急速充電では約25分で80%まで充電可能
撮影車のG Premium Package(およびS Edition)ではフロント&リアシートとドアトリムにダイヤキルティング本革を採用し、レーザーエッチングを施したオーナメントパネルと組み合わせることで上級感を向上。また、オーナメントパネルやハザードスイッチパネルのデザインに加え、モーターとエンジンの出力状況が分かるようにパワーメーターの表示をそれぞれ変更した
車両運動統合制御システム「S-AWC」では、従来の2つの4WDドライブモード「NORMAL」「LOCK」モードに加え、「SNOW」「SPORT」を新設定。「SNOW」モードでは滑りやすい路面での安定性とコントロール性を高め、「LOCK」モードでは主により荒れた路面に特化した制御に変更し、高いトラクション性能を発揮する。そのほか前後ドア、ラゲッジルームの開口部、リアホイールハウスのボディパネル接合部に構造用接着剤を塗布し、パネル同士の接合面積を増やすことで車体剛性を高めたという
今回の大幅改良に伴い、後席用エアコン吹き出し口をフロアコンソール後部へ追加したことで後席の快適性を向上。パワーウィンドウ開閉スイッチは運転席からすべての窓をワンタッチ操作でオート開閉できる機能を新採用して利便性を高めた
アウトランダーPHEVでは、ラゲッジスペースに最大1500Wまでの家電などを動かせるコンセントを用意。アウトドアで電気製品などが使えるスグレモノだ

エンジンの存在を感じさせない

 まず印象的なのが、エンジンの存在を感じさせないほど静粛性が高まったことだ。PHEVシステムの進化は、EV走行を拡大すべく、バッテリー容量および出力の向上、ジェネレーターやリアモーターの出力向上を図るとともに、2.4リッター化とアトキンソンサイクル化により効率のよい領域が広がったことで、エンジンが従来よりもかかりにくく、かかってもあまり回転を上げずにすむようになった。加えて、音を抑えるためにいろいろ手当てしたことがしっかり効いているようだ。エンジン停止~再始動でも注意していなければなんら気にならない。また、バッテリー容量が上がったこともEV走行の拡大に寄与している。

PHEVシステムでは、駆動用バッテリーの容量を12.0kWhから13.8kWhに引き上げるとともに、最高出力を10%向上。さらにリアモーターの出力を約12%、ジェネレーターの出力を約10%高めることで、EV走行の航続距離が従来の60.8km(S Edition、G Premium Packageは60.2km)から65.0kmに伸長した。アトキンソンサイクルを採用した直列4気筒DOHC 2.4リッター「4B12」型エンジンは最高出力94kW(128PS)/4500rpm、最大トルク199Nm(20.3kgfm)/4500rpmを発生。モーターはフロントが最高出力60kW(82PS)、最大トルク137Nm(14.0kgfm)の「S61」型、リアが最高出力70kW(95PS)、最大トルク195Nm(19.9kgfm)の「Y61」型となる。さらにエアクリーナーやメインマフラーを改良するなど、エンジンから発生する音を大幅に低減させているのもポイントの1つ

 モーター出力の向上によりドライバビリティも向上している。従来はアクセルを強めに踏んだときにCVTのようにエンジン回転が先に上がって、後から加速がついてくる感覚があったところ、それが抑えられてリニアに吹け上がるようになって、不快に感じることがなくなった。さらには全体的にトルク感が増していることも進化のポイントだ。

 そして新設のSPORTモードを選ぶと、思ったよりもずっとドライブフィールが変わることに驚かされた。もともとリニアなアクセルレスポンスがさらに俊敏になり、加速Gが鋭く立ち上がる。そのパワフルな走りっぷりには予想を超えるインパクトがあった。直線路で素早く加速したいときはもちろん、ワインディングを楽しく走りたいときにもSPORTモードはもってこいだ。一方のSNOWモードについては、冬道で乗ることができた際にあらためてお伝えしたい。

 加えて、メーターが変わったおかげでクルマがどのような状態にあるのか常に分かりやすくなったことも今回の改良点だ。こうした一連のPHEVシステムの進化の恩恵を、視覚的にも実感することができる。

大きく洗練されたフットワーク

 フットワークの印象も少なからず変わっていた。今回、「S Edition」の2017年モデルと2019年モデルを乗り比べたほか、2019年モデルの「G Premium Package」を単独でドライブしたのだが、2019年モデルの走りは大幅に洗練されていることがよく分かった。

 まず乗り心地がよい。容量UPしたノーマルのカヤバ製ダンパーが与えられたG Premium Packageは、足まわりがしなやかによく動きながらも適度にダンピングが効いていて、高速巡行でもフラット感が高く目線がブレない。

 一方のビルシュタイン製ダンパーを装備するS Editionは、従来とダンパー自体のチューニングに変更はないというが、2017年モデルで見受けられる、ややビリビリした感覚が薄れて快適性が向上していた。これらに効いていると思われるのが、全車を対象とした構造用接着剤の追加によるボディの剛性の向上だ。いずれも基本骨格がしっかりしたことで、足まわりがより理想的に動くようになったのだろう。

 さらに、2017年モデルと乗り比べて印象的だったのが、ステアリングフィールがだいぶ違ったことだ。よくできていると感じていた2017年モデルも、あらためて乗ると切り始めが重く、やや引っかかりを感じたのに対し、ギヤ比をクイック化し、それに合わせて電動パワステの制御を最適化した2019年モデルは、舵角が小さいのはもちろん、フリクションがなくスッキリとしている。

 さらには、そんなはずはないのにまるで前軸重を軽くしたかのようにノーズの入りが軽快で、動きが素直なことも印象深かった。開発陣に聞いたところ、前後がシャフトでつながっていないツインモーター4WDの強みを生かして、わずかに時間差を設けてリアのトルクを早く出すよう配分したとのことで、それが効いたようだ。2019年モデルの方が走りに一体感があって、より乗っていて楽しい。

 このように目に見える部分はもとより、見えない部分がさらに大幅に洗練されていて、PHEVの先駆者として他の後発モデルも見習うべき目覚ましい進化を遂げていた新型アウトランダーPHEVであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛