試乗インプレッション

アップデートが行なわれたアウディ「TT」シリーズ、封鎖されたマン島でその実力を試す

306HP/400Nmの新型TTSを体感

アウディ TTでマン島TTレースのコースを!?

 Car Watch読者ならおそらく、イギリスの伝統ある「マン島TTレース」について耳にしたことのある人も多いだろう。マン島というのは、イギリスの中心をなすグレートブリテン島とアイルランド島の間にあるアイリッシュ海のほぼ中央に位置する島だ。約572km2という面積は淡路島よりもわずかに小さく、人口は約8万4000人と少なめ。

 そんなマン島の公道を閉鎖して毎年5~6月に行なわれるTTレースは、初年度の1907年から約100年で、何人かの日本人も含む約240人ものライダーが命を落としている。死と隣り合わせの世界で、最も危険なレースとしても知られる。その走りがいかにスリリングであるかは、公開されている動画サイトでも見ることができる。

初代TTの誕生から20年が経った2018年、ドイツ本国でTTのマイナーチェンジが行なわれた。今回はその新型TTにマン島で乗った

「TT」というのは、「TT=Tourist Trophy(ツーリスト トロフィー)」の意味。かつてレースというものが現在のように周回コースで行なわれる前には、都市と都市を結ぶ長距離の公道を使って速さを競うという形態であった。そしてツーリストという言葉は旅行者ではなく、遠征するスポーツ選手を意味する。

 TTレースはマン島の公道の全長約60kmあまりを封鎖して行なわれており、当初は市販車の改良を目的に行なわれていたというが、徐々にエスカレートして、世界中から恐怖をものともしない猛者たちが挑戦するようになった。マシンの性能向上に伴い、今やスーパーバイククラスの平均車速は200km/hをゆうに超え、最高速は実に320km/hに達するという。

 そんなTTレースに由来する車名がこのクルマに与えられたのは、過去に関連の深い出来事があったからだ。まず、アウディの前身であるアウトウニオンを構成する4ブランドのうちの1つであったDKWが手がけたモーターサイクルが、1938年のTTレースで優勝した。さらに、同じくアウトウニオンの一角をなすNSUによるモーターサイクルもTTレースを席巻した時期があり、それにちなんでNSUが1950年代に生産した初の4輪車である「プリンツ」の高性能版に「TT」の名が与えられた。

NSU初の4輪車「プリンツ」の高性能版「TT」。写真はそのレース用モデル
NSUのモーターサイクル「クイックリ― TT」
DKWのモーターサイクル「SS 250」

 それから長い年月が経過した1998年、その特徴的なデザインが大いに話題となった初代アウディ「TT」がセンセーショナルなデビューを果たしたのはご存知のとおりだ。そして、初代TTの登場からちょうど20年が経ち、このほど3代目TTのマイナーチェンジが報じられたばかり。そんな記念すべき年に、最新のTTを駆り、なんと「TT」つながりでマン島TTレースで実際に使われるマウンテンコースを占有して思いっきり走ることができるという、願ってもない機会に恵まれた。

 ちなみに、レース期間以外にこうしてコースを封鎖した例は過去にはないという。さすがはアウディである。

TTシリーズのトップモデルとなる「TTS クーペ」。本国および欧州諸国では2018年第4四半期から発売される予定で、価格は約5万4500ユーロ。なお、ベースモデルのTTでは145kW(197HP)を発生する「40 TFSI」、180kW(245HP)を発生する「45 TFSI」の2種類の直噴ガソリンエンジンが搭載される
TTS クーペのエクステリアでは、シングルフレームグリルがマットシルバー&マットブラックで構成されるとともに、アルミニウム調で仕上げられたワイドなフロントスプリッター、バーティカルエアインレット、トリムストリップなどを採用。リアまわりでは立体的なディフューザー、4本出しのテールパイプがデザインハイライトになる
TTSが搭載する直列4気筒2.0リッター直噴ターボ「TFSI」エンジンは最高出力225kW(306HP)/5400rpm、最大トルク400Nm/2000-5300rpmを発生。トランスミッションにはデュアルクラッチAT「7速Sトロニック」を採用し、クワトロシステムで4輪を駆動。0-100km/h加速は4.5秒(ロードスターは4.8秒)を誇る
TTSのインテリアではアウディバーチャルコクピットにスポーツディスプレイが追加されるほか、Sスポーツシート、コントラストカラーのステッチなどが特徴になる

見た目も走りもスポーティに

 スタート地点には試乗用に用意された高性能版の「TTS」がズラリ。フェイスリフトによりシングルフレームグリルの内側がハニカムを用いた立体的なデザインになり、よりレーシーな雰囲気になったほか、バンパー形状も両サイドの開口部が変わり、ワイド&ローイメージを強調していることが見て取れる。テールランプまわりがリフレッシュされたリアビューも新鮮味がある。

 20年前の登場時にはスポーツカーながら愛らしいことが印象的だったTTだが、代を重ねて丸みを帯びた中にもシャープさが増したスタイリングが、今回いっそうスポーティな雰囲気を強めたように見える。そのほか、仕向け地によって変更内容に大なり小なり違いはあるようだが、日本仕様はパワートレーン系などに大きな変更はなく、年明けごろに導入される見込みという。

 そしていよいよTTでマン島を走る。封鎖された約20kmの区間をインストラクターの先導で往復する。最高速の上限は90mph(約145km/h)でという指示があった。すでに何度も乗っているTTだが、今回ばかりはさらに特別な感情を抱かずにいられない。

 走り出すと、高度にチューニングされた直列4気筒2.0リッター直噴ターボ「TFSI」エンジンは、5気筒にも似た独特のエキゾーストサウンドを放ちながら、全域がパワーバンドのごとく力強く加速し、その勢いを衰えさせることなくレブリミットの6800rpmまで爽快な吹け上がりを披露する。歯切れのよいシフトチェンジとダイレクト感のある走りも、いつもながら「Sトロニック」の強みに違いない。

 フットワークも上々の仕上がりで申し分ない。アウディらしい俊敏で正確性に富むステアリングフィールにはさらに磨きがかかり、ハイスピードコーナリングでもなんら不安を感じさせないスタビリティの高さにもあらためて感心する。

 ドライブモードの「ダイナミック」を選ぶと、より瞬発力が高まりパワー感が増すとともにエキゾーストサウンドも野太くなるほか、磁性流体による足まわりはさらに引き締まった乗り味となり、ステアリングも重くなるなどして、このシチュエーションを楽しませてくれる。

どんなシチュエーションでも楽しめる

 夢のような時間が過ぎ、件の占有時間も終了して、マウンテンコースを一般車両も走り始めたが、われわれにはその日の宿泊地に向かうまでにまだ3時間ほど残されていて、それまでは自由に走ってもよいとのことだったので、せっかくなのでTTレースで使われるコースをフルに走ることに。むろんそれからは占有走行ではないので、交通規則に従い日常使いで新しいTTがどうであるかを体感した。

 マイナーチェンジにおける変更点として、とくに挙げられていない車体や足まわりについても、数字などに表れない改良が施されているらしく、全体的に洗練されているように感じられた。20インチでも、マグネティックライドが付いているおかげで乗り心地は上々だ。ドライブモードを「オート」か「コンフォート」に設定しておくと、足まわりが路面の凹凸をしなやかにいなす。スポーツカーとしての素性はマウンテンコースでも感じたとおりである一方で、プレミアムコンパクトスポーツとしての資質もこれまでよりも乗り心地や静粛性が微妙に改善されているようで、よりスポーティかつ上質になっている。

 アウディならではの俊敏なステアリングレスポンスにも磨きがかかり、中立から切り始めたときの、これまでにも増して隙間のなくなったように感じられた応答遅れを感じさせないリニアな回頭性も気持ちよい。TTはどんなシチュエーションでもドライビングプレジャーを与えてくれるクルマであることをあらためて実感した次第である。

 加えて、リアシートを倒すとかなり広いラゲッジスペースが出現するのもTTならでは。こうしたスポーツカーの中では実用性も抜群に高いこともTTの強み。また、独自のアイデアをいち早く実用化したバーチャルコクピットのような先進的で使いやすい装備による恩恵もあり、日常使いも快適にこなすことができそうだ。

 生誕20周年を迎え、こうしてよりスポーツ純度を高め、洗練度を深めた新しいTTが日本上陸を果たす日が待ち遠しい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。