試乗インプレッション

e-BOXERを搭載したスバルの新型「フォレスター Advance」に市街地で試乗

車両型式:5AA-SKE

9月14日に発売となる「フォレスター Advance」。水平対向4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジン+モーターを採用した「e-BOXER」を搭載する

 フォレスターの試乗は、量産試作車をクローズドコースで行なって以来となる。今回の試乗は日常的に接する市街地で主にe-BOXERを搭載する「フォレスター Advance」に乗って、クローズドコースで分からなかった魅力を探ってみようと思う。

スバルグローバルプラットフォーム採用車第3弾となる新型フォレスター

 まず、フォレスターのおさらいだ。フォレスターはSGP(スバルグローバルプラットフォーム)を採用した第3弾となり、軽量で低重心、高剛性の骨格を作り、応用することで新しいクルマの走りを提供するところになる、精緻な乗り心地も新しいプラットフォームによるところが大きい。従来のフォレスターも好印象だったが、新型ではさらによさが分かりやすく伝わってくる。

 スバル車のよさは視界のよさに表われている。どんなに安全装備が充実しても、ドライバーからの視界が狭ければそれだけ危険に遭遇する割合も多くなる。スバルはAピラーの位置、形状、斜め後方視界などに配慮して、ドライバーからの視界は上々だ。新しいプラットフォームは着座位置が自然な位置で、かつヘッドクリアランスも高い。これはどの席でも同じように作られているので、キャビンは明るい光に満ちている。

 フォレスターのもう1つの美点はオールマイティ性だ。X-MODEはダイヤル1つで走行パターンが変更でき、その実力は「XV」でも実証済だ。フォレスターではプロトタイプ試乗会でぬかるんだ小山をX-MODEを使って難なく走破できたが、X-MODEはよほどの泥濘地で、腹をつかえるような場面でない限り、大抵のところは走破する頼もしさを秘めている。ノーマルモードでの実力が高いだけに頼もしい。

 フォレスターはもちろんフルタイムのAWD。ハイブリッドでもそれは同様だ。動力伝達はエンジン→トルコン(登坂時に効果を発揮する)→クラッチ→モーター→CVT→クラッチ(停車時に動力が伝わらないようにするためのもの)となっている。フルタイムAWDは常に維持され、他車のようにFFモードになることはない。

フォレスター Advanceのe-BOXERは、最高出力107kW(145PS)/6000rpm、最大トルク188Nm(19.2kgfm)/4000rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 16バルブ デュアルAVCS 2.0リッター直噴「FB20」型エンジンに、最高出力10kW(13.6PS)、最大トルク65Nm(6.6kgfm)を発生するMA1モーターを組み合わせたもの

e-BOXERを搭載するフォレスター Advance

 さて、e-BOXERを搭載するフォレスター Advanceを市街地で使ってみると、まずゆっくりしたスタートではモーターのパワーで粛々と発進する。バッテリーに充電されていれば、負荷のかかる状況でない限りエンジンでスタートすることはなく、速度にして約40km/hまではEV走行で走る。それ以上になるとエンジン主体になり、モーターは補助になる。

 モーターの最大トルクは65Nm、最高出力は10kWでそれほど大きな出力ではないために、パンチ力はないが、レスポンスがよく、アクセル開度の小さい所でスッと動いてくれる。大きくアクセルを踏みこむと早いタイミングでエンジンをかけるが、それ以外は自然で反応の早い動きが印象的だ。

 クルージングではエンジンが主体で電動モーターはエンジンを少しサポートする形で走行し、さらに減速時は4輪から回生エネルギーをバッテリーに貯めこむ。ただ、バッテリー回生についてはそれほど強力な減速度は発生させず、自然な減速感を大切にしている。ついでに言うとブレーキフィールもガソリン車に近い滑らかさだ。

 新型フォレスターには進化したX-MODEがあり、抜群の悪路走破性を誇るが、ここでもe-BOXERはX-MODEをサポートする。泥濘地などをゆっくり走る必要がある時にはエンジンはトルコンを使ってトルクを増幅するが、それにもタイムラグが生じる。その時に電動モーターが活躍するのだ。電気はアクセルの動きに瞬時に反応するためにわずかなタイムラグも防いで、悪路でも途切れにない駆動力を伝える。e-BOXERが燃費だけに特化せず、スバルらしく4輪の駆動力制御を積極的に行なうところがユニークだ。

 スバルにはSI-Driveもあり、ステアリングホイールで簡単に走行モードを変えられる。通常はインテリジェントモード(I)で十分。ただ、もっと積極的に走らせたいユーザーにとってはスポーツモード(S)が気持ちのよい加速を楽しめる。かなり差が付けられているので、日常的にSモードを選ぶユーザーも少なくないかもしれない。このモードではe-BOXERはモーターを積極的に働かせ、エンジンの出力マップの変更とともに、アクセルの付きがよくなるように働く。

 このようにe-BOXERは燃費の向上だけでなく、積極的に電気モーターを活用し、走りの質の向上にも使われている。ちなみにバッテリーは従来のニッケル水素からリチウムイオンバッテリーになり、小型化されて、荷室の下に納められる。バッテリーの容量はそれほど大きくないので、全開走行などには限界があり、早いタイミングでサポートを中止してエンジンのパフォーマンスで走ることになる。もちろん、バッテリー充電状況の下限と上限は厳しくチェックされて、過充電や過放電にならないように制限されているのは言うまでもない。

 スバルはハイブリッドへの参入は最近だが、スバルらしい考え方で取り組んでおり、新型XVにもe-BOXERが展開される。

進化したアイサイト・ツーリングアシスト

フォレスター Advanceのインテリア

 さて、スバルのもう1つのセールスポイントは安全だが、それを象徴するものにアイサイトがある。フォレスターにはアイサイト・ツーリングアシストの進化型が搭載されている。

 全車速クルーズコントロールの精度が上がり、車間の取り方や先行車がいなくなった場面での加速の俊敏さなどは、より実用的になっていた。過敏ではない程度に低いギヤ比に落として加速するのは、人間の感覚に合っている。減速も滑らかで、事前の速度コントロールを上手にこなす。

全車速制御を行なうアイサイト・ツーリングアシスト。上限は約120km/hとなる

 また、操舵支援もかなりのコーナーで追従できるが、車線の真ん中を走られるとドライバーは少し違和感を持つ。ぎくしゃく感はかなり小さくなっている。ドライバーがやるような間合いをとったり、レーンの中を維持しつつOUT-IN-OUTができるようになるなど、さらに支援精度が上がることを期待したい。

 もう1つ、ドライバーモニタリングシステムも忘れてはならない装備だ。今はe-BOXERを搭載するフォレスター Advanceにしか備わらないが、顔認証をクルマに応用したもの。5人まで認識できるというが、運転席に座るとシートポジションなどを自動的に合わせてくれる。また居眠り、わき見など検知するとドライバーに警告を与える。便利な機能なので今後ほかのグレードにも展開してほしいところだ。

 2.5リッター直噴ガソリンモデルと、2.0リッター直噴ガソリン+モーターのe-BOXERの2種類あるフォレスター。2.5リッターガソリンモデルの自然な滑らかさも魅力だが、2.0リッターハイブリッドのe-BOXERもスバルらしい新機軸があり好ましい。WLTCの燃費では前者が13.2km/L、後者が14.0km/Lだが、当然ながら市街地ではハイブリッドモデルのAdvanceが有利になる。価格差は同グレードだとほぼ7万円差だが、事前受注ではこの週末に発売となり、デビューフェアが行なわれるフォレスター Advanceが4割を占めるという。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛