試乗インプレッション

2018 ワークスチューニンググループ合同試乗会(NISMO編)

税別900万円の「GT-R NISMO」用キットや「ノート e-POWER NISMO」オーナーが熱望するLSDで走りはどう変わる!?

NISMOのパーツ類を装着した「ノート e-POWER NISMO」と「GT-R NISMO」

「ワークスチューニンググループ」とは、自動車メーカー直系のモータースポーツ専門会社である「NISMO」「TRD」「無限(M-TEC)」「STI」の4ブランドによる合同活動グループであり、モータースポーツとスポーツドライビングの振興を目的としている。

 4社はモータースポーツの場ではライバルでも、アフターマーケットでは競合しないことから、お互いのレベルアップと効率化を図るべく、グループとして共同で活動する機会を設けている。メディア向け試乗会については、しばらくの中断を経て2015年に箱根で再開。今回は2017年に引き続き群馬サイクルスポーツセンターにて開催された。

試乗の合間に、“NISMOアンバサダー”でNISMOドライビングアカデミー 校長も務めるミハエル・クルム氏(左)、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社 セールス&マーケティング部 営業グループ マネジャーの碓氷公樹氏(右)のお2人からデモカーについての解説などを受ける

N アタックパッケージを得たGT-R NISMO

 NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)は1年前と同じく「GT-R」と「ノート」というラインアップだが、GT-Rはベースが別物。NISMOでは“初期型のGT-Rでもここまでできる”ということを証明すべく、これまではあえて2008年モデルをベースとしたデモカーを持ち込んでいたのだが、今回用意したのは2017年モデルの「GT-R NISMO」がベース。2013年9月にミハエル・クルム選手がドライブして、ニュルブルクリンク北コースで7分08秒679の量産車最速タイムを記録したときのパーツをパッケージ化した「N アタックパッケージ Aキット」を装着したデモカーだ。キットのお値段はなんと税別900万円。ベース車の価格も1877万5800円と、今回の合同試乗会で用意されたすべてのデモカーの中でもダントツの高額車両であり、性能的にもブッチギリであることは想像に難くない。

 見るからに速そうなド迫力の外観からして、このクルマがタダモノではないことは明らか。胸の高鳴りを抑えつつ乗り込み、いざコースインすると、走り始めた瞬間からまずは強烈な加速Gに圧倒される。とにかく速い、速すぎる。エンジンの吹け上がりとともに高まるエキゾーストサウンドの咆哮もたまらない。

GT-R NISMO N アタックパッケージ Aキット装着車
市販化に向けて開発中というBBS製鍛造アルミホイール。ブレーキパッドは摩擦材を変更したN アタックパッケージ Aキット用を装着
フロントスポイラー下にゴム製の「アドオンスポイラー」を追加
ドライカーボン製の「専用カーボンフロントフェンダー」は、フロントタイヤ後方の位置にフリックを設定
オーリンズ製の車高調整式ショックアブソーバーは減衰力調整が4WAY式。専用スタビライザーもロール剛性可変式となる

 タイトコーナーの進入でステアリングを切ると意外とロールすることを感じるのだが、それもこの仕様のポイント。ニュルのように路面の荒れた場所でグリップを得るためには、足まわりを柔らかくしてよく動かしてやる必要があるからだ。今回はコースの特性に合わせて、普通のN アタックパッケージよりもやわらかめにサスペンションセッティングされていた。加えて、今回の車両に装着されていた“SUPER GTのGT500参戦マシンで採用しているホイールの市販版”として開発中のBBS製鍛造アルミホイールも、より衝撃を吸収してくれるので乗り心地が若干よくなるはずだという。

 このコースの路面はニュルをしのぐほどバンピーであるにもかかわらず、不安なくアクセルを踏んでいくことができたのは、懐の深い足まわりのおかげ。車体がフラットに保たれたまま足まわりがしなやかにストロークして路面を捉えるとともに、空力により車速が高まるほどタイヤが路面に押し付けられる感覚が増していく。極めて高いスタビリティを実現しており、強大なパワーを強力なグリップで着実に速さへとつなげることができている。

「専用カーボンリアウイング」はウイング部分がドライカーボン製で、アルミ製の脚部にもドライカーボン製のカバーを設定。高さ調節は2段階、角度調節は12段階で変更可能。ウイング側面に「7:08.679」の数字が刻まれている

 また、他社を含めて今回の合同試乗会で多くのデモカーが底付きした大きなギャップを越えてから着地するシーンでも、このクルマはけっして底付きしないことにも感心させられた。キットの値段が高い理由としては、このサスペンションとエアロパーツにかなりお金がかかっているからと説明されたが、それだけあって本当に素晴らしい走りを実現している。

 2016年、2017年に続き、今回もNISMOアンバサダーを務めるクルム氏とN アタックパッケージという最高の組み合わせで、助手席からこのクルマのポテンシャルを引き出した走りを体感することができたのだが、それはもうすごいのなんの。インパクト満点だった。そこには世に数あるクルマの中でも究極的に性能を突き詰めた姿があった。

筆者自身での運転に加え、今回もNISMOアンバサダーのクルム氏にドライブしてもらい、助手席でこのクルマのポテンシャルを体感。本当に素晴らしい走りだ

e-POWER向けにフロントLSDを開発中

岡本幸一郎氏による「ノート e-POWER NISMO」群馬サイクルスポーツセンター走行ムービー(4分11秒)

 一方の「ノート e-POWER NISMO」は、1年前と同じ車両をベースに待望のLSDを装着した点に注目だ。実はノート e-POWER NISMOでスポーツ走行をたしなむユーザーは少なくなく、「NISMOドライビングアカデミー」に参加している人もけっこうな数にのぼるとか。そして、彼らからの「LSDが欲しい」という声を受けて、NISMOとしても市販化を念頭に開発中なのだという。ちなみにe-POWERの場合、LSDの換装には1回エンジンを下ろす必要があり、装着には少々手間がかかる。また、デモカーはLSDの効果がより分かりやすいよう、あえて2017年は装着されていた車高調が外されノーマルの足まわりに戻されていた。

 実際にドライブすると、LSDの恩恵は明らかだ。モーター駆動ゆえガソリンエンジン車よりも一気にトルクがかかるので、効果はより大きいと開発関係者も述べるとおり、LSDのなかった2017年のデモカーでは、アクセルを全開にすると派手に前輪が空転していた上り坂のタイトコーナー立ち上がりでも、見事に空転が抑えられている。

ノート e-POWER NISMOをベースにフロントにヘリカル式LSDを装着したほか、通常は「ノート NISMO S」用となる17インチアルミホイールにミシュランの「パイロット スポーツ4」(205/45 R17)、「NISMOスポーツリセッティング」などを与えたデモカー

 しかも、FF車につきステアリングに影響して乗りにくくならないよう、LSDには機械式ではなくヘリカル式を採用した意図どおり、ステアリングを取られて煩わしい思いをすることもなく、いたって運転しやすい。それでいてグイグイと前に進んでいく。トラクション性能は十分に確保されていて、モーターの強力なトルクをしっかり路面に伝えることができている。LSDがあるとないでは大違いだ。

 NISMOスポーツリセッティングによる、e-POWERならではの加速フィールにもさらに磨きがかかっている。「ドライブモード」で「Sモード」を選ぶと、アクセルペダルとダイレクトにリンクした加減速が快感だ。加速フィールは出来のよいエンジンにある“伸び”にも似た感覚があるし、加速だけでなく減速側も、ワンペダルドライブによって上手くリズムをつかむとブレーキを踏むことなく運転できるところもe-POWERならでは。戻し方によって、減速力を自分で積極的にコントロールする楽しさも高まっている。

 GT-Rやノート e-POWERのような日産が誇る世界的にも稀有な才能を持つベース車の価値を、NISMOパーツの数々がさらに高めてくれている。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛

Movie:岩田和馬