試乗インプレッション
2018 ワークスチューニンググループ合同試乗会(STI編)
「フレキシブルシリーズ」で“体幹”を鍛えた「フォレスター」&「WRX STI TYPE RA-R」に乗った
2018年9月12日 00:00
「ワークスチューニンググループ」とは、自動車メーカー直系のモータースポーツ専門会社である「STI」「TRD」「無限(M-TEC)」「NISMO」の4ブランドによる合同活動グループであり、モータースポーツとスポーツドライビングの振興を目的としている。
4社はモータースポーツの場ではライバルでも、アフターマーケットでは競合しないことから、お互いのレベルアップと効率化を図るべく、グループとして共同で活動する機会を設けている。メディア向け試乗会については、しばらくの中断を経て2015年に箱根で再開。今回は2017年に引き続き群馬サイクルスポーツセンターにて開催された。
フレキシブルシリーズの効果
STI(スバルテクニカインターナショナル)では、クルマを運転するすべての人に、もっと安全に、もっと楽しく、運転が上手くなる機会を提供することを念頭に開発に取り組んでいる。その一環として、着るだけで身体にフィットし、筋肉の動きをサポートすることでより運動しやすくなるという「高機能スポーツウェア」の考え方に基づく独自の「フレキシブルシリーズ」をスバルの各車に向けてラインアップしている。
これは、クルマも人間のように体幹を鍛えると体の軸がぶれなくなり、姿勢がよくなって思いどおり動かせるようになることから、クルマの土台であるプラットフォームをより強靭でしなやかにすることを目的に開発されたもので、走行安定性の向上に確実に効く機能パーツである。
「よく誤解されるのですが、フレキシブルシリーズというのは車体剛性を上げるものではありません。横方向にはしっかり力を出しながら、上下や前後の入力はいなす特性を生かして、接地性を高めつつも乗り心地は悪化させないチューニングを行なっています。ドロースティフナーはヒステリシスロスを抑えて操舵時の応答性を高め、タワーバーはロールしはじめた瞬間、横力が出るときに外輪と同時に内輪をひっぱるのが役目です。ギャップを乗り越えたときに、リジッドのタワーバーでは外輪がバンプすると内輪の荷重が一瞬抜けてフロントが逃げるのですが、ロールしながらでもしっかり内輪の接地を確保できるので、せっかくある4つのタイヤを有効に使うことができます。そのためにSTIのフレキシブルパーツは非常に有効です。タワーバーとドロースティフナーの2つでガラリと走りが変わります」とSTIの森開発部長は述べる。
今回は、そんなフレキシブルシリーズのパーツを装着した新型「フォレスター プレミアム」のSTIパフォーマンスパーツ装着車と、限定車「WRX STI TYPE RA-R」のSTIパフォーマンスパッケージ装着車をドライブした。
スッと動き、接地性の増したフォレスター
フォレスターは、日常的に使う人にはよりリラックスして、たまに運転する人にはより安心してドライブしてもらえるように、幅広い層に訴求できるよう仕上げたという。
SGP(スバル グローバル プラットフォーム)を採用して全面的に刷新された新型フォレスターは、あらゆる要素がレベルアップしていてノーマルのままでも印象は上々だ。その出来のよいノーマルの素性をより生かすべく、フレキシブルシリーズのタワーバーとドロースティフナーで“体幹”を鍛え、エアロパーツにより空力性能を高めたのがこのデモカーだ。
前出の森開発部長がノーマルの完成度の高さに触れつつも、「強いていうとセンター付近にわずかに不感帯があるので、スッとクルマが動く気持ちよさが感じられるよう、操舵応答性をもう少し上げたい」と述べたとおりで、ドライブするとステアリングの切りはじめにノーマルで見受けられた若干の応答遅れ感が払拭されて、よりリニアなフィーリングになっていることを体感した。
加えて、見るからに効きそうなカナード形状のエアロパーツによるダウンフォースとの相乗効果で、荒れた路面でも車体のぶれが抑えられていて、フラット感のある上質なフィーリングに仕上がっている。車速を増すほどにフロントが落ち着いて、コーナーリングでも内輪が路面に粘りつくかのようにタイヤが押しつけられて、しっかりと接地している感覚がある。まさしく4つのタイヤを生かしきっていて、ステアリングを切ったとおり思いのままの方向に自在に行ける感覚が高まっていて、より気持ちよく走ることができる。
極めて俊敏でリニアな操縦性
発売当日に限定500台が完売したというTYPE RA-Rは、STIの持てる最高のパワーユニットといえるSシリーズ直系のエンジンや専用に造り込まれた足まわりを与えつつ、軽量化のため装備を絞った「究極のカスタマイズベース車」と位置付けられる。
そんなノーマルのままでも十分に速く楽しいクルマに仕上がっている素性のよさを最大限に生かしながら、STI推奨のパーツを組み込むことで、さらに走りのレベルを昇華させた仕様となる。
内容としては同じくフレキシブルシリーズ一式とエアロパーツ一式をパッケージ装着するとともに、見た目にも印象的な「ドライカーボンリアスポイラー」をはじめ、風洞およびニュルブルクリンクでの実走行で検証を行ない、ダウンフォースと整流効果によって高速安定性、直進安定性を高める空力アイテムの数々が与えられている。パッケージに含まれるエアロパーツ類は既存のWRXで適合できるものでまとめた。
ノーマルのTYPE RA-Rは素の状態のままでもバランスがよく、アンダーステアも出にくい。標準装着されるミシュラン製タイヤのグリップもかなり高い。コンプリートカーではないので、あえて素のよさを引き出すチューニングを行なったと森開発部長は述べる。加えてステアリングギヤレシオが11:1とされている。
いざドライブすると、ターンインでのシャープな動きにビックリ。こんなによく曲がるとは予想を超えていた。アンダーステアが出てもおかしくないような状況でもグイグイと曲がっていき、コーナーリング中の切り増しに対しても挙動を乱すことなく的確に応えてくれる。行きたい方向に自由自在に瞬間移動できる感覚とでも言おうか。これには空気で押さえつけてタイヤのポテンシャルを上手く引き出していることも効いていることだろう。
加えてハンドリングは極めてクイックながら、鋭敏すぎないところが絶妙だ。開発関係者によると、まさしくそこには苦労したらしく、センター付近がナーバスで動きがピーキーにならないよう、ゲインのさじ加減には大いに気を配ったという。結果として、極めて俊敏かつリニアな操縦性を実現している。ただし、ステアリングへのキックバックがやや大きいことが気になった。クイックレシオにするとこうなりがちなのだというが、もう少し抑えられているとなおよいかと思う。
とにかく、2台のいずれも「すべてのユーザーに気持ちのよい走りを提供したい」というSTIの思いを見事に体現していたことに感心した次第である。