インプレッション

2017 ワークスチューニンググループ合同試乗会(STI編)

フレキシブルパーツによる強靭でしなやかな走り

「STI(スバルテクニカインターナショナル)」「TRD(トヨタテクノクラフト)」「NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)」「無限(M-TEC)」という4社の合同グループ活動である「ワークスチューニンググループ」。2017年の合同試乗会でSTIが用意したのは、フルに手をかけた「レヴォーグ」と、ライトチューンの「インプレッサ スポーツ」だ。

 STIといえば、まずは「STIフレキシブルパーツ」について、あらためてざっと触れておきたい。剛性を高めるとよくなる部分だけではなく、そうではない部分も出てくることがあるのはご存知かもしれないが、例えばタワーバーは、ボディの歪みを抑えることでターンインでの応答性を向上できる半面、路面からの衝撃が伝わりやすくなり、乗り心地の悪化を招くという側面もある。

 そこでSTIでは、バーの中心を球体のジョイントでつないで柔軟性を持たせた。そうすることでボディの歪みを抑え、リニアな操縦性を実現しつつ、継ぎ目の部分がしなることで衝撃をいなして快適性を確保できる。効いてほしい方向にだけ効かせ、そうでない方向には効かないようして副作用が出ないようにするわけだ。

試乗後に行なわれたインタビューで、「STIフレキシブルパーツ」の構造や効果などについて解説するスバルテクニカインターナショナル株式会社 商品開発部 担当部長 森宏志氏

 一方のドロースティフナーは、加えた力の強さに応じて変位するという特性を持つバネの力を利用したものだ。これをシャシーの要所に装着して、あらかじめ引っぱる力をかけておき、入力があったときにいつでも反応できるようにスタンバイさせておくという仕組み。これによりステアリング操作に対する応答遅れがなくなる。これらは今回の両車にも、もちろんフルに装着されていて、STIが追求する「強靭でしなやかな走り」の実現に大いに貢献していたことを、あらかじめお伝えしておこう。

まるで“レヴォーグのtS”

 レヴォーグでもコンプリートカーを出すべきだとかねてから思っているのだが、このクルマはかなり近いイメージなのではないかと感じた。開発陣も「もし『tS』を出すとしたらこういう感じ」と述べていた。

レヴォーグの「1.6STI Sport EyeSight」をベースとした「STIパフォーマンスパーツ」装着車。フロント、サイド、リアのアンダースポイラーをセットにした「STIスタイルパッケージ」は12万円(税別)

 2016年に追加された、STIと共同開発によるカタログモデルの「STI Sport」(ただし、試乗車は最新のD型ではなくC型)をベースに、「STIパフォーマンスパッケージ」をはじめ、STIがラインアップしているひとおおりのアイテムを装着した仕様で、もともと存在感のあるSTI Sportが、さらに存在感を増しているのは見てのとおり。エアロパーツはむろん風洞実験を経て開発されたもので、これまでのSTIではキックアップしているものが多かったところ、より空力性能を追求した新形状となっている。また、ウインカーに連動してドアミラーに大きめの矢印を分かりやすく表示するのもナイスアイデアだ。

フロントにはアンダースポイラー(税別3万9000円)のほか、「フロントバンパーカナード」(税別2万5000円)、「スカートリップ(チェリーレッド)」(税別1万円)などを装着
サイドアンダースポイラー(税別5万5000円)は後輪側(写真内右)にSTIのメタルバッヂを設定
「アンチグレアドアミラー」(税別2万9000円)はLEDランプを内蔵し、ウインカーなどの発光に連動してミラー外側が矢印形に光る
試乗車はパフォーマンスマフラーとEPR(中間パイプ)をセットにした「STIエキゾーストキット」(税別18万円)を装備
緻密に形状をチューニングしたボルテックスジェネレーターを備える「ルーフエンドスポイラー」(税別3万7000円)。空力性能の前後バランスから、フロントアンダースポイラーとスカートリップとの共着が推奨されている
リアアンダースポイラー(税別4万円)のほか、側面に「リアサイドアンダースポイラー」(税別3万5000円)も装着
ウルトラスエードを使ったステアリングホイール(税別4万9000円)。エアバッグやホーン、各種スイッチは純正装着のステアリングから流用する
2種類のレザー表皮やピアノブラックパネルなどを組み合わせて構成する「STIシフトノブ」(税別2万2000円)
STIロゴ入りのフロアマットはベース車の純正オプション(3万6180円)
フロントドアの「STIロゴ入りステンレス製サイドシルプレート」はベース車に標準装備
STI19インチアルミホイール(税別20万円/台)に、225/40 R19サイズのダンロップ「SP SPORT MAXX 050+」を装着。サスペンションスプリングは「STIコイルスプリング」(税別3万6000円)に変更されている

 ドライブすると、空力も効いてか直進安定性に優れる上に、ステアリングを切ったとおりに本当にキビキビと走れる。ベース車もなかなかよいと感じていたところ、より俊敏で一体感のある走りを実現していて、ドライブしていてとても楽しい。

 かなりひきしまった足まわりにより、乗り心地には少々バタつきも感じられたものの、開発陣によるとそれは重々承知していて、デモカーには見栄えを重視してあえて19インチのタイヤ&ホイールを履かせているとのこと。そのあたりが気になる人は、少し控えめに18インチあたりにとどめたほうがよさそうだ。

手軽な内容で「SGP」の走りがさらに

 インプレッサは、「STIパフォーマンスパーツ」として設定されているエアロパーツのほか、冒頭で述べたSTI独自のフレキシブル系パーツ一式を組み込んだという比較的手軽な内容で、実は足まわり自体も変更なし。スプリング、ダンパー、スタビライザーなどはノーマルのままだ。ただし、リアの動きをよくすればSTIの考える乗り味は十分に表現できるとの判断から、リアのラテラルリンクについてはSTI製に交換済み。また、タイヤ&ホイールの交換により、1輪あたり約2kgの軽量化を実現している。

インプレッサ スポーツ「2.0i-S EyeSight」をベースに「STIパフォーマンスパーツ」を装着した試乗車
艶消しブラック塗装の「フロントアンダースポイラー」(税別3万9000円)
艶消しブラック塗装の「サイドアンダースポイラー」(税別5万5000円)
インプレッサの「リアルーフスポイラー」(税別4万円)もボルテックスジェネレーターを備える

 そうした比較的手軽な内容ながら、これほどの走りになるとは予想外だったというのが率直な印象だ。むろん、「SGP(スバルグローバルプラットフォーム)」の導入による、もともと評判のよい現行インプレッサの実力もあってのことに違いないが、路面の荒れたこのコースでも、しなやかな乗り心地のまま、走りの一体感とリアの接地感が増していて、俊敏で安心感の高いコーナリングを実現している。

 ステアリングを切ったとおりにクルマが反応して、あまり修正舵を必要とすることもなく、ピタッと決まるライントレース性も気持ちがよい。旋回速度も前出のレヴォーグと比べてもそん色ないレベルだ。ノーマルの足まわりゆえ、挙動の出方は今回試乗したすべての車両の中でも大きめだが、むしろもっとも乗りやすいとすら思えたほど。ステアリングをとおして路面の状況がしっかり伝わってくるし、タイトコーナーでは内輪もしっかりグリップしている感覚があり、とても懐の深い乗り味には、車格が上がったかのような上質感もある。

エンジンルーム内に「フレキシブルタワーバー」(税別3万円)を装着。通常は見ることができないが、フロア下には「フレキシブルドロースティフナー」(税別2万8000円)も組み付けられている
ガンメタリック色のSTI17インチアルミホイール(税別16万8000円/台)に、225/40 R18サイズの橫浜ゴム「ADVAN Sport V105」を装着。白いSTIロゴが1つ1つに入る「STIホイールナットセット」は2万円(税別)
カーボン調PVC材の「ドアハンドルプロテクター」(税別6000円)
本革+ディンプル本革の「シフトノブ」(税別2万2000円)は、上部にチェリーレッドの糸を使ってSTIのロゴが入る
通常はブラックのスイッチをチェリーレッド色に変更する「プッシュエンジンスイッチ」(税別1万5000円)

 小さな投資でこれほど大きな効果を得られるとは驚いた。なお、開発陣によると、「バラ売りですが、ぜひセットで付けてほしい」とのことだ。まさしくSTIがかねてより標榜している、「運転が上手くなった」感覚を体験できる仕上がりであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一