インプレッション
2017 ワークスチューニンググループ合同試乗会(STI編)
2017年12月4日 07:00
フレキシブルパーツによる強靭でしなやかな走り
「STI(スバルテクニカインターナショナル)」「TRD(トヨタテクノクラフト)」「NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)」「無限(M-TEC)」という4社の合同グループ活動である「ワークスチューニンググループ」。2017年の合同試乗会でSTIが用意したのは、フルに手をかけた「レヴォーグ」と、ライトチューンの「インプレッサ スポーツ」だ。
STIといえば、まずは「STIフレキシブルパーツ」について、あらためてざっと触れておきたい。剛性を高めるとよくなる部分だけではなく、そうではない部分も出てくることがあるのはご存知かもしれないが、例えばタワーバーは、ボディの歪みを抑えることでターンインでの応答性を向上できる半面、路面からの衝撃が伝わりやすくなり、乗り心地の悪化を招くという側面もある。
そこでSTIでは、バーの中心を球体のジョイントでつないで柔軟性を持たせた。そうすることでボディの歪みを抑え、リニアな操縦性を実現しつつ、継ぎ目の部分がしなることで衝撃をいなして快適性を確保できる。効いてほしい方向にだけ効かせ、そうでない方向には効かないようして副作用が出ないようにするわけだ。
一方のドロースティフナーは、加えた力の強さに応じて変位するという特性を持つバネの力を利用したものだ。これをシャシーの要所に装着して、あらかじめ引っぱる力をかけておき、入力があったときにいつでも反応できるようにスタンバイさせておくという仕組み。これによりステアリング操作に対する応答遅れがなくなる。これらは今回の両車にも、もちろんフルに装着されていて、STIが追求する「強靭でしなやかな走り」の実現に大いに貢献していたことを、あらかじめお伝えしておこう。
まるで“レヴォーグのtS”
レヴォーグでもコンプリートカーを出すべきだとかねてから思っているのだが、このクルマはかなり近いイメージなのではないかと感じた。開発陣も「もし『tS』を出すとしたらこういう感じ」と述べていた。
2016年に追加された、STIと共同開発によるカタログモデルの「STI Sport」(ただし、試乗車は最新のD型ではなくC型)をベースに、「STIパフォーマンスパッケージ」をはじめ、STIがラインアップしているひとおおりのアイテムを装着した仕様で、もともと存在感のあるSTI Sportが、さらに存在感を増しているのは見てのとおり。エアロパーツはむろん風洞実験を経て開発されたもので、これまでのSTIではキックアップしているものが多かったところ、より空力性能を追求した新形状となっている。また、ウインカーに連動してドアミラーに大きめの矢印を分かりやすく表示するのもナイスアイデアだ。
ドライブすると、空力も効いてか直進安定性に優れる上に、ステアリングを切ったとおりに本当にキビキビと走れる。ベース車もなかなかよいと感じていたところ、より俊敏で一体感のある走りを実現していて、ドライブしていてとても楽しい。
かなりひきしまった足まわりにより、乗り心地には少々バタつきも感じられたものの、開発陣によるとそれは重々承知していて、デモカーには見栄えを重視してあえて19インチのタイヤ&ホイールを履かせているとのこと。そのあたりが気になる人は、少し控えめに18インチあたりにとどめたほうがよさそうだ。
手軽な内容で「SGP」の走りがさらに
インプレッサは、「STIパフォーマンスパーツ」として設定されているエアロパーツのほか、冒頭で述べたSTI独自のフレキシブル系パーツ一式を組み込んだという比較的手軽な内容で、実は足まわり自体も変更なし。スプリング、ダンパー、スタビライザーなどはノーマルのままだ。ただし、リアの動きをよくすればSTIの考える乗り味は十分に表現できるとの判断から、リアのラテラルリンクについてはSTI製に交換済み。また、タイヤ&ホイールの交換により、1輪あたり約2kgの軽量化を実現している。
そうした比較的手軽な内容ながら、これほどの走りになるとは予想外だったというのが率直な印象だ。むろん、「SGP(スバルグローバルプラットフォーム)」の導入による、もともと評判のよい現行インプレッサの実力もあってのことに違いないが、路面の荒れたこのコースでも、しなやかな乗り心地のまま、走りの一体感とリアの接地感が増していて、俊敏で安心感の高いコーナリングを実現している。
ステアリングを切ったとおりにクルマが反応して、あまり修正舵を必要とすることもなく、ピタッと決まるライントレース性も気持ちがよい。旋回速度も前出のレヴォーグと比べてもそん色ないレベルだ。ノーマルの足まわりゆえ、挙動の出方は今回試乗したすべての車両の中でも大きめだが、むしろもっとも乗りやすいとすら思えたほど。ステアリングをとおして路面の状況がしっかり伝わってくるし、タイトコーナーでは内輪もしっかりグリップしている感覚があり、とても懐の深い乗り味には、車格が上がったかのような上質感もある。
小さな投資でこれほど大きな効果を得られるとは驚いた。なお、開発陣によると、「バラ売りですが、ぜひセットで付けてほしい」とのことだ。まさしくSTIがかねてより標榜している、「運転が上手くなった」感覚を体験できる仕上がりであった。