試乗レポート

2020 ワークスチューニンググループ合同試乗会(STI編)

日本で発売されなかった幻のS209も試乗

日本で発売できなくなってしまった幻のS209をはじめSTIのハイパフォーマンスカー3台を試乗

 自動車メーカーのカスタイマイズ部門4社が集まり、純正チューニングモデルを体感する試乗会が開催された。STI、無限、TRD、NISMOの4社が提供するモデルは、さすがに粒ぞろいで特色あるものばかり。ここではSTIが手掛ける「インプレッサ STI Sports」「S209」「BRZ STI Sports」の試乗インプレッションをお届けする。

意のままに動かすためにリアを積極的に使うとは

 どんな環境でも思った通りリニアに動いて、すべての人が楽しく安全に乗れて、運転が上手くなったように感じられるクルマ作りをかねてより提唱しているSTIが、今回とくにアピールしたいと述べていたことの1つが「意のままに動かすために後輪を積極的に使う」こと。さらに、そのための各部のアソビをなくし力の伝達をスムーズにする体幹チューニングと、もう1つがタイヤの接地性に着目した空力の向上だ。

 試乗したのは、マイナーチェンジした「インプレッサ」に新設定された「STI Sport」の2WDと、北米限定の「S209」という、STIが手がけたハイエンドとエントリーの両極のモデルと、お値段なんと50万円(税別)で50本限定という新開発のチタンマフラーをはじめSTIパフォーマンスパーツをてんこ盛りした「BRZ」の3台だ。

STIが量産車の開発に加わり100分の1秒単位でハンドリングの精度を研ぎ澄まし、走りの質感を磨き上げたことで、クルマが手足のように思い通りに動く

 あえて2WDのインプレッサを用意したのは、スバルの正真正銘のエントリーモデルであり、AWDでなくてもチューニングでここまでできることを証明するためという。新たに追加されたベース車のSTI Sportは、足まわりの開発にSTIが関わっており、車体などには手を加えることなく、一連のSTIが手がけたクルマと同じ考え方によりサスペンションのみでSTIの味を作り込んだとのことで、まずはノーマルをしっかり味わってほしいとの思いから、今回はエアロパーツだけ付けた状態での試乗となった。

マイナーチェンジで新たに追加設定された「STI Sport」

 そしていざコースインというときに、いきなり雨足が強まりコースは一面ヘビーウエット。ところが、そんな路面でFFではひたすらアンダーステアとの戦いになるのではと思いきや、ぜんぜんそんなことはなく、驚くほど正確に舵が利き、フロントでグイグイと引っ張りながら、リアがスーッとキレイについてくることにビックリ。その流れ方が絶妙で、FFでリアを使ってコーナリングするというのはこういうことかと大いに納得した。

試乗したデモカーには、フロントグリル、フロントアンダースポイラー、サイドアンダースポイラー、リアサイドアンダースポイラー、ルーフスポイラー、シャークフィンアンテナなどが装着されていた

 バネ上の動きも読みやすく、ダイアゴナルな姿勢を保っていてフロントが逃げる感覚もなく、リアもよく粘りながら思ったとおりに動いてくれる。ウェット路面でこんなふうに走れるのは、それだけ確実にグリップを得られているからにほかならない。むしろウェットでこのコースだからこそ、この味付けがより活きた印象で、このままずっと走っていたいと思ったほど楽しむことができた。

ウェットコンディションでもその高い次元の走りを楽しめた

日本で全開試乗できたことに感謝!のS209

 まさかこの場で乗れるとは思ってもみなかったS209は、アメリカのスバルファンがかねてより切望し、STIとしてもぜひ届けたいという思いがずっとあったモデルがようやく実現したもの。限定わずか209台が北米で販売された貴重なクルマであり、スバルからSTIに転籍した高津益夫氏が最初に手がけたクルマでもある。

日本では発売されない貴重なS209を堪能できた

 実はアメリカでの発売の後に日本にも導入される予定があり、筆者も2019年のデトロイトショーで発表された現場に居合わせ、そのうち日本にも入るらしき話も耳にして楽しみにしていた。ところが音沙汰がないので危惧していたら、事情によりアメリカでの発売がだいぶ遅れてしまい、すでにベース車の生産終了が迫っていたことから、日本への導入は見送らざるをえなくなってしまったそうだ。

米国向けSTIチューンドモデルとしては、2018年に発売された「WRX STI Type RA」と「SUBARU BRZ tS」に次ぐ第3弾で、STIコンプリートカーの最高峰となるSシリーズはこのS209が初めてという

 デトロイトで目にしたときから印象深かったワイドボディは、やはり迫力満点! 前出の高津氏の「とにかくサーキットを速く走れることを目指した」との言葉どおり、拡幅されたホイールアーチには、歴代STIモデルで最大幅となる265サイズのハイグリップタイヤが収められている。

グリルにはS209エンブレムが誇らしげに鎮座。フロントバンパー両端には2枚のカナードが装着されダウンフォースを生み出す
吸排気系は専用設計品となり、専用ECUにより制御されている
GTウイングを装着
フロントバンパー、フロントフェンダー、そしてリアフェンダーはワイド化され、265/35R19のタイヤを履く。タイヤはダンロップのSP SPORT MAXX GT。フロントフェンダーにはフェンダー内の空気を抜くためのダクトが増設されている
バネ上重量の軽量化に貢献するカーボン製ルーフ

 足まわりはS208までのビルシュタインをベースに、後輪の接地性を高めるべくチューニングし直すとともに、フレキシブルドロースティフナーリアをコンプリートモデルに初めて採用した。これは「どうしてもステアリングの切りはじめに残った応答遅れを解消するための手段として装着したところ、劇的に改善しました」と高津氏も述べているとおり、S字で素早く切り返しても挙動をまったく乱すこともなくピタッとついてくる身のこなしには感心せずにいられない。これにはカーボン化によるルーフ軽量化も効いていることに違いない。なお、ビルシュタインは日本の車両に合わせてアレンジしたうえで、日本でも販売予定とのことだ。

ガードバー(上)とフレキシブルドロースティフナーリア(下)
フレキシブルドロースティフナーリアとガードバーを装着したところ
スバルテクニカインターナショナル株式会社 開発副本部長 高津益夫氏

 吸気系抵抗低減、ターボ大型化、排圧低減、燃料ポンプやインジェクターの容量増などひととおり手を入れたエンジン(EJ25型)は341HPと強力。EJ25型は不等長不等爆なので、久しぶりにボクサーサウンドを聞けたのも一興だ。動力性能の力強さは言うまでもなし。ショートコースではギヤ比が合わず、ややもてあます気もしたのだが、いかにこのエンジンが強力であるか、その片鱗は十分にうかがえた。ぜひあらためて、もっと大きなコースでドライ路面で全開で走らせて本領を発揮させてみたいところだ。

エンジンは水平対向4気筒 2.5リッターターボエンジン(EJ25型)で、最高出力341HP/6400rpm/最大トルク330lb-ft/3600rpmを誇る
北米向けなので左ハンドル仕様。ダッシュボードやシートベルトなど各所にSTIカラーのチェリーレッドが配され、運転席と助手席は専用シートを装着。エクステリアもフロントグリル、フロントフェンダー、トランクゲートにS209のエンブレムが配される

チタンマフラーの効果

 BRZはSTI Sportをベースにひと通りのSTI市販パーツを装着した仕様で、ベース車自体の進化とSTIのチューニングが相まって、ウェットでツルツルの路面ながらコントロールしやすいことを実感。これにはノーマルの11.9kgから40%もの軽量化を達成したというチタンマフラーが寄与しているようで、「リアオーバーハングがそれだけ軽くなると、回頭性が向上してハンドリングもよくなるはず」と開発関係者も述べていた。

デモカーは、フロントアンダースポイラー、サイドアンダースポイラー、リアサイドアンダースポイラー、ドライカーボンリアスポイラーなどSTIのエクステリアパーツを装着。またブレーキローターはSTIのドリルド(穴開き)ディスクに交換されていた
今回初お披露目となるSTIパフォーマンスマフラーはチタン製で超軽量だ

 肝心のエキゾーストサウンドはチタンマフラー特有の心地よい響きが印象的。低音の力強さとともに高音域の澄んだ音質を楽しむことができる。低音系を強調したマフラーにありがちなこもりもぜんぜん気にならない。もちろんチタンゆえ経年劣化の心配もない。モノがよいぶん値も張るものの、数にも限りがあることだし、BRZをよりよい形で末長く楽しみたい人は急いだほうが賢明といえそうだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一