試乗レポート
シトロエン「ベルランゴ」はユーティリティ&走行性能を両立した正統派“レジャー・アクティビティ・ビークル”
積載性に優れ、ダイナミックに走り、乗り心地はしなやか
2021年1月7日 07:00
とびきりのユーティリティ性能に、はやりのSUVも真っ青!?
2018年春に開催されたジュネーブ・モーターショーで、通算3代目となるモデルとして発表をされたのが現行のベルランゴ。ここに紹介するのは、2019年の10月と11月に行なわれた先行予約が共に5時間半で満枠となった(!)ことを受け、2020年10月に改めて正式発売が開始をされた2つのグレードで構成されるカタログモデル。アロイホイールやレザーステアリング、パノラミックガラスルーフ+リア・シーリングボックスなど、充実した装備が特徴の上級グレードである「シャイン」は、前出先行予約時に販売された“デビューエディション”に準じた内容を備えるメイングレード。一方の「フィール」は、タフに使える遊びの道具感を強調したベーシック・グレードと位置づけられている。
歴代モデルと同様に、リアサイドにスライドドアが用いられたボディのサイズは、全長が4405mmで全幅と全高は共に1850mmというもの。当初から貨客兼用を意識して開発されたいわゆる“レジャー・アクティビティ・ビークル”(LAV)に属するモデルだけあって、まずは大きな特徴と言えるのが「広大」という表現がぴったりと決まるそのインテリア空間だ。
特に、ラゲッジスペースは比類なき大きさで、その奥行きはリアシート使用時でも後方に90cm以上を確保。さらに、簡単操作でフロア面にダイブダウン格納されるシートをアレンジすれば、奥行きは1.7m超にまで拡大される。加えて、この状態からフロントパッセンジャー用のシートバックを前倒しすれば、「最長2.7mの長尺物を収納可能」という長さの荷室が出現。いかにも堅牢そうなハードボード・タイプのトノーカバー下までで計測されるVDA法による容量も、後席使用時で約597L、後席アレンジ時では最大2126Lというデータなのだからまさに規格外と言いたくなる大きさだ。
端的に言ってしまえば「単身者の引っ越し程度ならこれ1台で済んでしまうのでは!?」と、そう思えるほどのユーティリティ性能を備えるのが、このモデルのパッケージング。この点では、はやりのSUVも真っ青の実力の持ち主なのである。
機能性に“シトロエンらしさ”を加えた内外装デザイン
そうした一方で、決して「積めるだけ」のモデルではないという点もまた、ベルランゴならではの見逃せない価値ということになる。
このモデルのルックスが、決して“働くクルマ”一辺倒とは目に映らない理由――それは、エクステリアのさまざまなポイントに、このブランドの最新乗用車と同様のデザイン言語が散りばめられているからでもあるはずだ。
中央に“ダブルシェブロン”を据えた横長グリルの下にビルトインをされた、一見それとは気づき難いデザインのヘッドライトや、一部シトロエン車のアイコンとしてすでに定着をしているサイドの“エアバンプ”などがそれに当たるもの。“四角四面”に留まらないサイドのウインドウグラフィックなども、単なる商用モデルとは一線を画す遊び心が感じられるポイントだ。
一見では分からないものの、ガラス部分のみでも開閉をできるテールゲートも見どころの1つ。前述の飛びぬけたユーティリティ性をさらに後押ししてくれることになる。
決して高級感は伴わないものの、機能性にプラスアルファのデザインへの拘りが感じられるインテリアの仕上がりも、「働くだけ」のモデルに差を付けるポイント。洒落たベルト風の装飾があしらわれたグローブボックス・リッドやダイヤル式シフトセレクター、パドルシフトなどは「乗用車であること」を主張するかのポイント。
加えれば緊急時の自動ブレーキを筆頭に、前車追従機能付きのクルーズコントロールやバックカメラ、レーンキープアシストやインテリジェントハイビームなどが標準装備と、各種の運転支援システムが思いのほか充実しているのもこのモデルの特徴だ。
さらに、Apple CarPlay/Android Autoにも対応する8インチのタッチスクリーンまでもが標準と知れば、「マイカーとしても俄然興味が沸いてきた」という人も居るはずだ。
見た目からは想像できないダイナミックな走行性能
日本に導入されるベルランゴが搭載するパワーパックは、1.5リッターのターボ付きディーゼルエンジン+ステップATという組み合わせ。前者は「燃焼室のデザインやインジェクション・システムにかつてのル・マン24時間レース参戦マシン用ユニットで培ったテクノロジーを採用」と伝えられ、後者は「アイシン製の最新8速アイテム」と説明をされれば、ここでも改めて乗用モデルとしての“本気度”の高さを感じる人は少なくないはずだ。
実際、130PSという最高出力のデータこそ控えめではあるものの、300Nmという最大トルクは1.6t超という車両重量に対しては十二分な値。率直なところ、スタートをして即座に実感したのは「予想をしていたよりも加速がはるかに強力」という印象で、特に1500rpmをクリアする付近からはエンジン回転から摩擦感が減少し、一層ダイナミックに吹き上がるように感じられることとなった。
タコメーター上のレッドラインは5500rpmに引かれているが、現実にはすでに4500rpm付近でオートアップをされるので実際にはこの設定は無意味であるもの。けれども、3750rpmと低い最高出力発生ポイントを過ぎても頭打ち感は皆無でフィーリングはなかなか伸びやかなもの。加えれば、エンジン透過音が思いのほか抑えられているので、抵抗なくアクセルを踏んでいけることもこうした好印象に繋がっている。
いずれにしても、ATセレクターダイアル下にレイアウトされたボタンを押してM(マニュアル)モードを選択し、「回らないパドル」を駆使していくと予想をしたよりもはるかにダイナミックな動力性能を引き出すことができるのが、ベルランゴというモデルでもあることは間違いない。見た目とは裏腹な仕上がりなのである。
ハイドロニューマチック・サスペンションの風味を彷彿とする乗り味
さらに、その走りで非凡な印象を味わわせてくれる原動力となったのが、そのフットワークの仕上がりでもあった。
“こうしたモデル”ゆえに、その足まわりのセッティングは当然それなりの積載を行なった場面も想定はしているはず。にもかかわらず、サスペンションのストローク感はどんなシーンでもしなやかで、速度が高まっていっても高いフラット感をキープ。ロードノイズが盛大に伝えられることを除けば、その乗り味はかの“ハイドロニューマチック・サスペンション”の風味すらをも彷彿とさせてくれるのだ。
同時に、望外に路面を正確に捉えてくれるハンドリングの仕上がりも好意的に受け取れたもの。偶然遭遇することとなったヘビーウェット状態のタイトなワインディングロードでさえ、狙ったラインを外さないその仕上がり具合には、ミシュランの「プライマシー4」という“プレミアム”なシューズを奢られていることも関係をしていたに違いない。
かくして、大人5人をしっかり乗せた上でも大量の荷物を残さず飲み込み、あまつさえ“スポーティ”とも紹介をしたくなる非凡な走りのポテンシャルを備えたベルランゴとは、実は「フランスの隠れたスーパーカーなのではないか!」と思えることに。
確かに、ゴージャスなレザー仕立てのパワーシートは存在しないし、スライドドアもマニュアル式。後席用のAVシステムなども設定はされていない。けれども、そうした点に重きを置いたラグジュアリーなミニバンなどとはまた全く異なる価値観の下に存在する孤高のユーティリティ・モデルが、実はベルランゴという1台でもありそうだ。