インプレッション

ホンダ「シビック ハッチバック」(車両型式:DBA-FK7)/「シビック セダン」(車両型式:DBA-FC1)

ハッチバックとセダンにどんな違いがあるのか?

 筆者と同じ1972年に誕生した「シビック」が新型となり10代目となった。すでにCar Watchではプロトタイプの試乗レポートなどで概要を紹介しているが、今回は初の公道試乗レポートとしてお伝えする。試乗車は新型シビックのハッチバック/セダンの両タイプで、エンジンは直列4気筒1.5リッターDOHC VTECターボのみ。ともに前輪駆動となるFFで1グレード構成だ。トランスミッションは両タイプにCVT、そしてハッチバックのみに6速MTモデルが用意され、今回はそのすべてに試乗した。

 ハッチバックとセダン、そしてFF最速モデルを目指した「シビック TYPE R」を加えて新型シビックシリーズは構成される。このうち筆者が新型シビックと初めて対面したのはTYPE Rだった。登場から20年の節目に誕生した新型シビック TYPE Rは、シビック史上初の試みとしてハッチバック/セダンとの同時開発が行なわれた。2017年9月初旬に本田技術研究所の「鷹栖プルービンググラウンド」で試乗した際の印象は「アグレッシブなデザイン」と「TYPE Rの新境地を切り開いた走行性能」だったが、今回試乗したハッチバック/セダンからも「ボディタイプごとの造り込み」と「グローバルカーとしての明確な立ち位置」を感じ取ることができた。

「フレームレッド」のシビック ハッチバック(試乗車は6速MT。MT、CVTとも価格は280万440円)

 1グレードと潔く割り切ったスタンスだけに、ハッチバックとセダンの乗り味には明確な違いが設けられている。試乗前のブリーフィングでは「ハッチバックはよりスポーティな走りを」「セダンはより上質な走りを」をそれぞれ目指したとの説明を受けた……。が、筆者は両モデルを交互に試乗した結果、「ハッチバックがしなやかで上質」と感じ、「セダンが路面状況をストレートに伝える」と、造り手とはまるで逆の印象を抱いた。

 両モデルの性格を表す“上質”と“スポーティ”という単語。これらから想像されるイメージは人によってさまざまだから、我々ライター陣としても短時間の試乗時間ですべてを把握して色づけすることは難しい。しかし、シビックの両モデルは個性が際立っていることから、それこそ読者の皆さんがディーラーで試乗するという限られたシチュエーションでも明確に感じ取っていただけることだろう。では、両車にどんな違いがあるのか?

「ルナシルバー・メタリック」のシビック セダン(CVTのみで価格は265万320円)

 まずは外観。両ボディタイプとも眼力の強いフロントセクションから複数のキャラクターライン、ひと筆書きのような伸びやかなルーフ形状が特徴だ。リアセクションでは被視認性、とりわけ夜間のそれはとても高いと思われる「くの字」型テールレンズ(細部のデザインは各々専用)が両ボディタイプともにアクセントとなる。

 車内では昨今のホンダ各モデルに共通する横方向の広がりを強調したデザインを採用する。外観と違って車内のデザインは両ボディタイプともに共通だが、7インチの液晶パネルを用いたスピード&タコメーター周囲のカラーをハッチバックは赤色、セダンは青色として区別している。また、各種メーターで使われているフォント種類や文字サイズ、字間なども適切で、とくに漢字が並ぶ「航続可能距離」「平均燃費」などの込み入った表示でも一瞬にしてドライバーに情報を伝えることができる。このところの液晶表示画面ではコントラスト(単なる光量だけでなく、表示/非表示部分の光の強弱)が課題だが、新型シビックでは昼間の通常表示/夜間のディマー表示のいずれでもコントラストが強過ぎず好印象を抱いた。

ハッチバックのインパネ。基本的なデザインは同一で、助手席前方の加飾パネルにハッチバックでは「カーボンテクスチャー メタルパネル」、セダンでは「ブラッシュドフィニッシュ メタルパネル」を使うといった差別化を実施
スムースレザーの本革巻ステアリングホイールを標準装備
7インチの液晶パネルを用いたメーターパネルは、外周部分をタコメーターとして、内側に車速を数字で表示する
ハッチバックのみに設定する6速MTのシフトレバーとペダル
7速モードを備えるCVTのシフトセレクターとペダル

 乗り味を大きく左右するシート(前席)だが、ここは評価が分かれる部分だ。シート地はファブリックが基本でレザーがオプション扱いになるのだが、レザーを選択すると電動調整機構がセットで装着される。冒頭、新型シビックはグローバルカーと述べたが、それは北米、欧州、アジアなどあらゆる地域に住まわれるさまざまな体躯の方々が乗ることを想定して造られている。もっとも、国産車の多くが各国へと輸出されていることから新型シビックだけが特別なことではないのだが、最適なドライビングポジションという話に限定すると、この電動調整機構がどうしても欲しくなる。

 その理由はこうだ。新型シビックはグローバルカーとして開発が進められてきた。ドライビングポジションの最適化という観点もその1つに含まれる。しかし、シートだけに限定してみるとシートレールとバックレストの調整間隔はグローバルで1つの仕様に定められていて、なおかつそうした間隔は同じくグローバルカーであるトヨタ自動車「カローラ」やマツダ「アクセラ」などと比較すると広めにとられている。よって、手動での調整となるファブリックシートの場合、ピッチを1つ動かしただけでシートは大きく動いてしまうことから、ステアリング位置を含めた最適なドラポジに調整するまでに時間が掛かってしまう。

 その解消方法としてホンダは多くのモデルにシートリフターを装備していて、新型シビックでもあえてシート位置を高めに設定することでドラポジの自由度はかなり向上する。しかし、残念ながらシート高だけでは限界がある。その点、電動調整機構はそれこそミリ単位で調整できるため、例えば季節の変化で衣類の厚みが変わっても柔軟に対応可能だ。

内装色はブラックのみ。フロントシートの座面中央にはアクセント素材が使われている
「単眼カメラ」と「ミリ波レーダー」で車両前方の状況を検知し、各種先進安全機能を働かせるホンダセンシングは、6速MT車も含めてハッチバック/セダンの全車に標準装備。ACCの渋滞追従機能はCVT車専用

 重箱のスミをつつくような話題だが、例えば、ホンダの軽自動車で今年新型となった「N-BOX」では、ステアリングに前後調整のテレスコピック機能がなくドラポジがしっくりこない、という声が聴かれる。多くは男性から聴かれるようだが、これもシートリフターの調整でかなり解消する。高めのシート位置にすることでシート全体がやや前方へと持ち上げられることからステアリングとの距離が狭まり、結果、テレスコ効果が望めるのだ。

 ホンダセンシングに代表される先進安全装備は新型シビックにも標準で装備される。しかし、運転操作の基本は言うまでもなくドライバー。よって、ドライビングポジションの最適化、さらには調整の自由度は総合的な安全性能を高める上でなによりも上位にくるのではないかと思う。

セダンのトランク容量は519L
ハッチバックのラゲッジスペース容量は420L
世界初の装備となる「カーゴエリアカバー」は、ラゲッジスペースの左右どちらにもベースを固定できる巻き取り式のトノカバー

ハッチバックの乗り味にセダンの30%増しの“上質さ”を実感

 さて、では肝心の走りはどうなのか。1.5リッターDOHC VTECターボエンジンには3タイプある。まず、ハッチバックのCVT用が182PS/22.4kgm、6速MT用が182PS/24.5kgm、そしてセダン(CVTのみ)用が173PS/22.4kgm。このうち、もっとも回転フィールが滑らかでパワフルなのはハッチバックの6速MT用だ。最高出力の発生回転数はハッチバックのCVT用と比べて500rpm低い5500rpmだが、ターボの過給効果の安定する2000rpm付近から出力で5%程度、トルクで10%程度上乗せされているため軽やかに動き出し、その後の伸びも力強い。ただ、1速へのシフト操作(左上へのシフト)時に左腕が伸びきってしまうマイナスポイントもあるのだが、ここはグローバル設計としては致し方ないところか……。

ハッチバック 5速MT車の「L15C」型直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ガソリンVTECターボエンジン。最高出力134kW(182PS)/5500rpm、最大トルク240Nm(24.5kgm)/1900-5000rpmを発生
セダン CVT車の「L15B」型直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ガソリンVTECターボエンジン。最高出力127kW(173PS)/5500rpm、最大トルク220Nm(22.4kgm)/1700-5500rpmを発生

 CVT同士で比較すると、カタログに記載されているパワーカーブどおりハッチバック用がパワーで上まわっていて(トルク値は同一)、4000rpm以上の領域では明確に力強さを体感する。とくに、アクセル開度の大きくなる箱根路の5~8%程度の上り勾配ではその違いは明確だった。しかし、細かく比較してみるとアクセル開度の少ない領域(≒過給効果が出にくい領域)ではセダンの出力特性のほうが右足のアクセル操作に対して従順で扱いやすいという側面もあった。具体的は右折待ちの状態からスッと発進して加速するようなシーンではセダンの優位性は際立っていたのだ。また、加速特性のつくりこみ(過給制御やCVTのレシオ変化特性)もセダン用は大きな排気量の自然吸気エンジンのようにアクセル操作に対して1:1となるような(≒アクセルをジワッと踏んでもすぐクルマが反応する)印象が強く、盛り上がりには幾分欠けるものの巧みなCVT制御も手伝って常用回転域を低く保ちやすい。これもセダンの美点だ。

 足まわりはどうか? ハッチバックは18インチのみ、セダンは16インチが標準で17インチがオプション扱い。「セダンは上質さを狙った」と開発されているように、セダンのホイールには16/17インチともに路面から拾う音や共鳴音を吸収する消音装置が組み込まれている。そのため、確かに遮音性は高く、そもそもタイヤのエアボリュームが大きいため乗り味そのものは上質に感じられる要素が大きい。しかし、筆者はハッチバックの乗り味にセダンの30%増しの“上質さ”を実感した。セダンには全般的に細かな上下動が多く(タイヤの影響力が大きいか?)カタさが目立ち、半面ハッチバックにはしなやかに動く4つの足に代表される上質さがある。

 造り手の想いに反する筆者の素朴な疑問を、TYPE Rの開発主査でありハッチバック/セダンの足まわりの開発にも従事された柿沼秀樹氏(本田技術研究所 四輪R&Dセンター主任研究員)に伺ったところ、「ハッチバックは専用タイヤ(グッドイヤー・イーグル F1)を装着していること、TYPE Rと同じくイギリスのスウィンドンにある英国工場(セダンは埼玉の寄居工場)で造られていること、コンプライアンスブッシュや各種のCPUなどに異なる部品を用いていることなどから乗り味に違いが表れている」という。また、柿沼氏は続けて「ハッチバックはTYPE Rのベースとなっているためボディ設計の考え方にセダンとの違いがあり、ハッチバックはよりガチッとしたボディとなっていることで、4つのタイヤをより積極的に動かせるようになっています。よって体感上、よりしなやかに感じとられるのではないか」と話す。

ハッチバックに純正装着されている235/40 R18サイズのグッドイヤー「イーグル F1」
セダンにオプション設定されている215/50 R17サイズのブリヂストン「トランザ ER33」

 筆者のおすすめはNo.1はハッチバックで電動調整機構の付くレザーシートをオプションで選んだ仕様。トランスミッションはマニュアルトラスミッション好きなので迷わず6速MTといきたいところだが、1速ギヤの位置が遠いことから筆者の体躯(手足がもう少し長ければなぁ)には少し合わない。ということでCVTに決まり。セダンはハッチバックから14万円近く安価でパフォーマンスも互角。広大なトランクルームに魅力を感じるライフスタイルならセダンもいい。なにより日本の道路事情にマッチした動力性能は魅力的だ。ただし、電動調整機構の付くレザーシートはお忘れなく。

【お詫びと訂正】記事初出時、キャプションの情報が一部間違っておりました。シビック ハッチバックのMTは6速になります。お詫びして訂正させていただきます。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一