インプレッション
ルノー「メガーヌ」(車両型式:ABA-BBM5M/公道試乗)
2017年12月1日 07:00
存在感が増して使い勝手も向上
日本におけるルノーの業績は、このところ右肩上がりだ。一時期はかなり落ち込んでいたものの、2010年代に入って回復し、2015年に初めて5000台を突破し、翌2016年には5300台を超えた。フランス勢トップの常連であるプジョーの背中が見えてきたとはいえ、まだ水を開けられていたところ、2017年の上半期にはわずかではあるがプジョーを上まわった。このままいけば、年間でも初めてプジョーを逆転するのではと思わせるほどの勢いを見せている。そんな中で、日本への待望の導入が始まった新型「メガーヌ」のハッチバックとツアラーの、いずれも「GT」グレードを箱根でテストドライブする機会を得た。
これまではどちらかというと柔和で控えめだった外見は、ガラリと変わってアグレッシブな雰囲気になり、存在感が増して車格がひとクラス上がったかのように思えるほど。リアから見ると全幅にわたるテールランプが印象的で、張り出したフェンダーと相まってよりワイドに見える。3Dエッジテクノロジーを駆使した階段状デザインにより、暗いなかでは宙に浮いているように見える。また、ハッチバックに対し全長を240mm、ホイールベースを40mm延長したスポーツツアラーは、より伸びやかなフォルムを見せている。
外観と呼応するかのようにインテリアもスポーティで上質な空間となった。フラットなセンター部にはタッチパネルの7インチディスプレイが配置されていて、最近のトレンドに則ってスイッチ類をできるだけ少なくしようとしたこともうかがえる。アンビエントカラーを5色用意するなど初の試みも見られる。ようやくメガーヌもそうした色気を追求するようになってきたようだ。
大柄な乗員にも対応する、たっぷりとしたサイズを持つアルカンターラのシートに収まると、高めに設定されたコンソールから短いシフトレバーがはえているのも印象的。アームレストは前後に動き、手前のシャッターの下にあるカップホルダーの仕切りも動かせるようになっている。今までのルノーでは考えられないような(?)、重箱の隅をつつくような細かな心遣いが見受けられると思ったら、実はデザインしたのは日本人らしい。
後席の居住性はハッチバックでも十分なところ、ツアラーはさらに足下が広々としている。ホイールベース40mmの差は小さくない。ルーフ形状の違いによりヘッドクリアランスも余裕がある。
車内の収納スペースと同じく、ラゲッジスペースにも気配りが見られる。少しでも荷室容量を稼ごうとタイヤハウス後方をえぐったり、任意に出せるパーテーションや広いアンダーボックスを備えたり、さらには小物入れやベルト、フックも備えるなど、隅々まで配慮が行き届いている。テールゲートが軽い力で上げ下げできるのもありがたい。
新境地をもたらした「4コントロール」
ダイナミクス面での注目は、いうまでもなくCセグメント初となる「4コントロール」と呼ぶ4輪操舵機構だ。構造としては中心部に設置したアクチュエーターで動かすシンプルな仕組みで、プログレッシブに可変する。スポーツモードでは80km/h、それ以外では60km/hを境に同位相と逆位相を切り替える。逆位相では操舵量が約40%も減少して敏捷性が向上し、回転半径も40cmも小さくなるので、より小まわりが利くようになる。
これによりドライビングプレジャーが高まるだけでなく、乗り心地の快適性も向上し、危険回避で急な操作を強いられるような状況でも破綻しにくくなるという。乗り心地にも寄与するのは、ロールを抑えることができるから。ヨーが発生したときの挙動変化が小さくてすむので、サスペンションをソフトにできるわけだ。
箱根のワインディングでは、後輪操舵の効果を顕著に感じる。普通のクルマとの違いに最初は少々戸惑うものの、小さな舵角でスイスイとノーズが向きを変える感覚に慣れると実にこれが気持ちよい。タイトなコーナーが折り重なる場所でも、揺り返しがほぼ出ない。一方で、Rの大きなコーナーを高めの車速で走ると、後輪は前輪と同位相となりスタビリティが高まる。舵角がピタッと決まって、狙ったとおりにラインをトレースしていける。前輪の舵角と車速をもとに制御しているようだが、シンプル・イズ・ベストであることがよく分かった。また、若干硬めのシートは乗り心地とホールド性を見事に両立していて、ワインディングでも不満はない。
この気持ちのよいフットワークを支えているのは、ほかにもいくつか理由がある。一新されたプラットフォームの素性がよいことも大前提にあるが、サブフレームをボディに直付けしているのも特徴。ブッシュがないぶん応答性が高まり、俊敏性が向上する。また、アームの取り付け方もレスポンスを高めるため最適化を図っている。電動パワステについても、このクラスは一般的にはシャフトをアシストするところ、今回の「GT」グレードについてはラックをアシストすることで、よりダイレクトなフィーリングを実現しているのだ。
ハッチバックとツアラーでは、操縦感が同じになるようサスペンションや4WSのチューニングを差別化しているというが、ハッチバックは剛性感が高く、シャープでキビキビとしているのに対し、ツアラーは前後バランスがよく、俊敏な中にも落ち着きを感じさせるといった具合に、ホイールベースや重量など基本性能の違いによる差異はある。
そこで、前後重量配分はどうなのかと車検証を確認してみて、ちょっと驚いた。車両重量は1430kgと1480kgなのだが、前軸重/後軸重がハッチバックは930kg/500kgのところ、ツアラーは880kg/600kgとなっていたのだ。前半部分のメカニズムは同一ながら、前軸重は実に50kgもツアラーが軽い。これは実際に計測した数値に違いないそうだが、後半部分の違いが軸重に影響したようだ。
もう1つ、ブレーキフィールもよいなと感じてボンネットを開けてみたところ、従来と違ってマスターがちゃんと右側に付いていて安心したことも、ぜひお伝えしておきたい。
1.6ターボ+7速DCTの走りは?
パワートレーンは、「M5M」という型式の1.6リッターのガソリン直噴ターボエンジンに7速DCTという組み合わせとなる。エンジンは現行「ルーテシア RS」用の次世代版で、DCTは湿式多板クラッチを持ち、小型軽量で大トルクにも対応するものだ。
このスペックながら価格が控えめでコストパフォーマンスの高さを感じさせるが、実際にもなかなかパワフルで、レッドゾーンの6200rpmまでキッチリとまわる。欲をいうと、あと3-400rpmでもいいからもう少しまわしたくなるのが本音ではあるものの、実に気持ちのよいパワーフィールだ。
DCTの制御も、微低速域でもATとそん色ないほどスムーズで扱いやすい半面、せっかくDCTなのだからもう少しダイレクト感があるとなおよい気もした。Dレンジではキックダウンしないので、せっかくのエンジンの美味しい回転域を使えるようマニュアル操作でシフトダウンしても、まだ余裕がありそうなのにギヤが落ちないことが多い。スポーツモードだけでもそうなるとよいのだが。
走行モードの切り替えは、スイッチが減らされたせいか、ワンタッチではなく液晶ディスプレイで階層を1つ入らなければならないが、「R.S.」スイッチが設けられているのでよしとしたい。エンジンレスポンスとシフトタイミングに加えて、サウンドも臨場感のある音になる。
このようにメガーヌは、これまでにも増して見どころ満載のクルマになった。とりわけ4輪操舵による爽快なフットワークは、競合車にはないメガーヌならではのキラーコンテンツだ。Cセグメントにはメジャーな競合車がいくつもあるが、その中でもひときわ異彩を放つ存在である。これまでドイツ車以外は眼中になかった人も含め、ぜひ目を向けるべき1台といえそうだ。