インプレッション

アルファ ロメオ「ジュリア」(車両型式:ABA-95220/公道試乗)

アルファ ロメオの逆襲

 アルファ ロメオは栄光の歴史だ。1910年の創業と同時にレース活動を開始し、黎明期の自動車産業でたちまち頭角を表す。むしろレース活動をするために自動車メーカーを起こしたと言った方がよいかもしれない。1920年代に早くも高性能メーカーとしてその名を轟かす。アルファ ロメオの理想主義的なクルマ作りはレーシングマシンに裏打ちされた伝統でもあり、それが多くのエンスージャストの心を打った。

 第2次世界大戦の苦難の時代を生きたアルファ ロメオは紆余曲折を経て、戦後のアルファの代表となる「ジュリエッタ」、そして「ジュリア」シリーズを上梓し、戦後の名声を確立した。「ジュリアGTA」や「ティーポ33」「カングーロ」など、心ときめくアルファの世界は現在につながる財産となっている。

 近年、アルファ ロメオは不遇の時代を託ってきた。かつての名声は色褪せ、製品ラインアップは枯渇し、あたかもアルファブランドは欧州専売のローカルモデルの様相を呈していたのだ。「ミト」や「ジュリエッタ」、「8C」「4C」はあるものの、ミトはモデル末期、4Cはピュアなスポーツカーで、柱となる商品に欠けたまま空白の期間を過ごした。

 しかし状況は一変した。FCAグループの中でアルファ ロメオはグローバルなプレミアムブランドとして位置付けられ、グループ内で他の干渉を受けない予算と開発設備が用意された。ここから生まれた第1号が、久々にアルファ ロメオに復活したフロントエンジン/リアドライブの「ジュリア」だ。新しいプラットフォーム、新しいエンジン、新しいトランスミッション、そして伝統のアルファ ロメオデザイン。まさに新生アルファ ロメオに相応しいDセグメントのニューモデルである。

 今後SUVの「ステルヴィオ」などSUVラインアップとスポーツモデル、コンパクトモデルなど6モデル以上をグローバル展開する予定と意気盛んだ。この中には北米への再上陸や中国市場への投入など、大きなプランも含まれる。日本でもアルファ ロメオの専売店が発足し、2018年には60店舗のアルファ ロメオ専売店が勢ぞろいするという野心的な計画を持っている。

9月6日に行なわれた新型「ジュリア」(左)の発表会では、アルファ ロメオブランド初のSUV「ステルヴィオ」(右)もサプライズ公開。会場では1年以内に日本へ導入されることがアナウンスされた

ジュリアのラインアップ

 ジュリアは明快なDセグメントスポーツサルーンで、アルファ ロメオのフラグシップモデルである。このクラスにはBMW 3シリーズやメルセデス・ベンツ Cクラス、ジャガー XEなどがひしめく厳しい市場だ。

 ボディサイズは全幅1865mm、全高1435mm。全長は4645mmと4655mm、そしてV6エンジンを搭載した最上級グレードの「クワドリフォリオ」の4635mmとなっている。3種類ある全長はフロントマスクの造形の違いだが、フォルムに大きな違いはない。ホイールベースは2820mmで共通。

 ちなみに“ジャーマン3”にチャレンジする同様のポジションにある英国のスポーツサルーン、ジャガー XEは4680×1850×1415mm(全長×全幅×全高)で、ジュリアより少し低く長い。

「ジュリア(446万円)」「ジュリア スーパー(543万円)」「ジュリア ヴェローチェ(597万円)」「ジュリア クアドリフォリオ(1132万円)」の4グレード展開となる新型ジュリア。クアドリフォリオのみV型6気筒 2.9リッターツインターボエンジンを搭載し、それ以外のモデルは直列4気筒2.0リッターターボエンジンを搭載。写真のジュリア スーパー(モンテカルロ ブルー)のボディサイズは4645×1865×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2820mm
エクステリアではフロントオーバーハングを切り詰め、操縦安定性の向上と安定感あるフォルムを実現するとともに、バイキセノンヘッドライト、LEDデイタイムランニングライト、LEDテールランプ、前面衝突警報(FCW)、自動緊急ブレーキ(AEB)、ACC(アダプティブクルーズコントロール。スーパー以上のグレードで標準装備)といった現代的な装備が与えられた。足下は10スポークアロイホイールにランフラットタイヤのピレリ「CINTURATO P7」(フロント225/45 R18、リア255/40 R18)の組み合わせ
明るく開放的なブラック/ベージュ内装。スーパーではこのほかブラック、ブラック/レッドの3色から内装色を選択できる
スーパー以上のグレードではステアリングヒーター、パドルシフトなどを標準装備
トランスミッションは全車8速ATを採用。シフト手前にカーナビなどの操作を行なうロータリースイッチが、その右隣には「ALFA DNAドライブモードシステム」を操作するdnaダイヤルスイッチが全グレードに標準装備される(クアドリフォリオのみRACEモード付)
8.8インチセンターディスプレイを採用する「Connectシステム」はApple CarPlay やAndroid Autoに対応
エアコンは全車ともデュアルゾーン式フルオートエアコン(自動内気循環制御、ダストポーレンフィルター付)を採用
エンジンのON/OFFはステアリング内にレイアウトされるスイッチで行なう
スーパーはプレミアムレザーシートを標準装備
トランク容量は480L

 エンジンラインアップは2.0リッターのマルチエアターボが2機種と、V6 2.9リッターターボ1機種となる。2.0リッターは200PS/330Nmをベースに280PS/400Nmが選べ、V6は510PS/600Nmを誇る。4気筒2.0リッターはアルミの軽量エンジンブロックでターボはツインスクロールとなり、レスポンスのよさを重視する。最大トルクの発生回転数は1750rpmと低回転から発生することから、アクセル開度の少ないポイントから粘り腰で柔軟性のある加速を発揮する。

「ヴェローチェ」に搭載する280PSのエンジンは、基本的なエンジンの構成要件は変えずに燃料調整やブーストなどを変えて高出力を実現している。このヴェローチェのみ駆動方式は4WDで、左ハンドルのみの設定になる。

 一方、スーパースポーツのクワドリフォリオはフェラーリの技術も開発に織り込み、0-100㎞/hはわずか3.9秒で走り切るタフなパフォーマンスを発揮する。駆動方式はもちろんFR。そのビビットな加速や運動能力は想像するに余りある。

クワドリフォリオに搭載されるV型6気筒2.9リッター直噴ツインターボエンジンは、最高出力375kW(510PS)/6500rpm、最大トルク600Nm(61.2kgm)/2550rpmを発生
スーパーに搭載される直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力147kW(200PS)/4500rpm、最大トルク330Nm(33.7kgm)/1750rpmを発生。JC08モード燃費は13.6km/L

 一新されたシャシーでは前後重量配分に気を配りながらボンネット、フロントフェンダー、ドアパネルにアルミを採用して軽量化を図っている。プラットフォームも低重心と軽量化で重量物であるパワートレーンの位置を車体の中央に近づけるようなレイアウトを取り、実際エンジンはフロントアクスルの後半に搭載される。これにより前後重量配分は50:50に限りなく近く、ヨーモーメントの低減が図られている。因みにプロペラシャフトはカーボン素材で軽量化されている点も注目だ。

 一方、サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクとなり、こちらもアルミ製でバネ下重量の軽減が図られ、路面の追従性向上を図る。また、クワドリフォリオではボンネットとルーフパネルがカーボンとなり、ハイパフォーマンスに合わせてトルクベクタリングを装備して高いトラクションと旋回性能を狙っている。トランスミッションは全車8速のトルコンATのみの設定になる。

ジュリアのハイエンドモデル「クワドリフォリオ」(トロフェオ ホワイト)
エクステリアでは前後バンパー、フロントサイドフェンダー、エアアウトレット、カーボンインサート付サイドスポイラー、カーボンリアスポイラーなどを専用装備。またクワドリフォリオのみエンジンフード、ルーフパネルがカーボン製になる。足下ではガンメタリック仕上げの5ホールアロイホイールにピレリ「P ZERO CORSA」(フロント245/35 ZR19、リア285/30 ZR19)を組み合わせる
シートなどにレザーとアルカンターラを組み合わせるとともに、レッドステッチをあしらったクワドリフォリオのインテリア。センタートンネルやダッシュボード、インパネなどにカーボンファイバーを採用する専用内装になる
ジュリア主要諸元
ジュリア(受注生産)ジュリア スーパージュリア ヴェローチェジュリア クワドリフォリオ
価格4,460,000円5,430,000円5,970,000円11,320,000円
ステアリング位置
乗車定員5名4名
ボディサイズ(全長×全幅×全高)4,645×1,865×1,435mm4,655×1,865×1,435mm4,635×1,865×1,435mm
ホイールベース2,820mm
車両重量1,590kg1,670kg1,710kg
エンジン直列4気筒2.0リッター直噴ターボV型6気筒2.9リッター直噴ツインターボ
最高出力147kW(200PS)/4,500rpm206kW(280PS)/5,250rpm375kW(510PS)/6,500rpm
最大トルク330Nm(33.7kgm)/1,750rpm400Nm(40.8kgm)/2,250rpm600Nm(61.2kgm)/2,550rpm
変速機8速AT
駆動方式2WD(FR)4WD2WD(FR)
JC08モード燃費13.6km/L12.0km/L-
サスペンション(前/後)ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
主ブレーキ(前/後)ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前)225/50 R17225/45 R18225/45 R18245/35 ZR19
タイヤサイズ(後)225/50 R17255/40 R18225/45 R18285/30 ZR19

ジュリア、その美点とは

 試乗したのは「スーパー」でジュリアの中でもボリュームゾーンのグレードだ。エンジンは200PSの2.0リッターターボ。タイヤはピレリ「P7」(フロント225/45 R18、リア255/40 R18)のランフラットタイヤを履く。

 マルチエアエンジンは構造上、高回転タイプではなく、その分低速からの厚いトルクを持っていることが特徴だ。さらにターボと組み合わせ、低速回転からのトルクのツキがよく、アクセル開度に素直に反応する。ターボラグをほぼ感じることがないのは非常にありがたい。アクセルの微小な動きにも反応してくれるが、過敏でないので大排気量自然吸気エンジンのようなトルクの豊さを感じて気持ちがよい。中間加速もタイムラグなく滑らかな加速を堪能できる。

 このトルクの持ち味、そして軽いボディとの相乗効果で、ジュリアは軽く動く。この慣性モーメントも含めた軽さがジュリアをジュリアらしくしている。スーパーの重量は1590㎏で、よきライバルとなるオールアルミボディのジャガー XE PUREが1600㎏だから、ジュリアは新開発エンジンやカーボンプロペラシャフトなど軽量化を図って軽く仕上げているのは立派なものだ。

 エンジンの高回転域の伸びは平均的なものだが、8速トルコンATはそれを補って余りある。テンポよく変速していき、2速では70km/h近くまで引っ張れる。8速ATはパドルでもシフトできるが、このパドルが他車よりもかなり上下に長く、最初は面食らった。操舵中に触りそうになり気を使ったが、これも積極活用すると面白い存在になる。

ステアリングには大型のパドルシフトが備わる(スーパー以上に標準装備)

 長いシフトレバーの右手前にはドライブモードを変えるdnaダイヤルスイッチがある。dは想像どおりDynamicでステアリングとエンジンレスポンスの両方をよりダイレクトにし、nはNaturalでオールマイティ、そしてaはAdvanced EfficiencyでいわゆるEcoモードに相当する。たしかにDynamicではまるで特性が異なり、熱い血が騒ぐような感触、nはメリハリの効いた、そしてaは燃費抑制したドライブが楽しめる。

 絶対的なグリップが高く、旋回力も高いが、チョット気になるのはハンドル操作の微小域で軽くクルマが反応するので、少し気ぜわしい。また、電動パワーアシストのステアリングは操舵力が軽く、少しの力で反応するので乗り始めは高速直進時などでハンドルに手を添える力に慣れが必要だ。しかし、このジュリアならではの持ち味は、ドイツ勢とも英国車とも違ったイタリア車ならではのダンディズムを感じる取ることができる。

 コーナリング姿勢に入ると、ニュートラルで素直なハンドリングを持つ。軽くて重量配分に優れたジュリアはステアリングを左右に切り返す場面でも、軽くノーズをかわして軽快にコーナーを抜ける。過度なロールもなく、気持ちよいスポーツセダンだ。たまに遭遇するコーナーに対して対角線に横切る小さな段差などでは、少し跳ねる動きを見せるが許容範囲。

 そして乗り心地はなかなか優れている。サスペンションがよく動き、路面の追従性がよいのでバネ下ですべてを収める感触だ。もちろんそれなりの路面凹凸では突き上げもあるが、これだけ軽快なクルマとしては乗り心地との両立が素晴らしい。低速ではランフラットタイヤの特性もあり、コツコツ感はあるものの、こちらも不快になるほどのものではない。後席もそれほど大きな突き上げは感じない。

 静粛性もしかり。新しいプラットフォームの恩恵で振動伝達がよく遮断されているのと、遮音材の効果的な配置で特に高周波の音がよく遮断されており、耳障りな音がカットされている。また低周波のロードノイズのような音も気にならない。この部分ではスポーツサルーンというよりもラグジュアリーサルーンと言ってもよいだろう。

 ブレーキタッチは最初、踏み始めの反応に違和感があったものの、制動力、踏力、そしてコントロール性ともにリニアで面白くなった。コーナー手前の操作感も満足のいくものだ。そして、このタッチに慣れてくるとこれもジュリアの個性としてとても好感が持てるようになった。

 シフトレバー手前のロータリーパッドは8.8インチのセンターディスプレイ、7インチのメーター内ディスプレイをコントロールするもので、最近のトレンドに則ったインフォティテイメントである。カーナビは独自のものを持たない。スマートフォンをつなぐことでApple CarPlayやAndroid Autoを利用することになる。この操作はロータリーパッドで行なえる新しい試みだ。これもアルファらしい取り組みである。

 キャビンは大人4人分の居住空間をたっぷり確保している。レッグルーム、ヘッドクリアランスも十分だ。標準となるレザーシートはこのクラスに相応しく腰があって、しっとりと体を受け止めてくれるもの。特にバケット形状ではないが、ホールド性に文句はない。

 トランクも長方形に近い成型と、左側にはえぐりをつけて収納力は高そうだ。最近の大きなゴルフバッグは斜めにしなければならないだろうが、大きな容積は結構飲み込めそうだ。最終的にはリアシートバックが3分割で前倒できるので、嵩張る荷物の場合は倒してしまえばかなりの荷物を積み込むことができる。

 安全技術も充実している。ACC(アダプティブクルーズコントロール)やブラインドスポットモニター、そして歩行者検知付きの前面衝突警報、緊急自動ブレーキなどを備える。ただ、レーンキープは警報のみで積極的に操舵するに至らないが、これはアルファの流儀には合わないだろう。

 ジュリアは激戦区のDセグメントに打って出た後発モデルだけに、他社に負けず気合いの入ったスポーツサルーンだった。今回試乗したボリュームゾーンのスーパーはしなやかで芯の強さが印象に残ったが、プライスタグは543万円。ベースのジュリアは446万円だが受注生産で、オプションを付けることを考えるとスーパーがリーズナブルな選択だ。597万円のヴェローチェと1132万円のクワドリフォリオもラインアップされ、このグレード展開も他社に準じる。

 まずはアルファ ロメオの本格的な復活の狼煙を歓迎したい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸