インプレッション

2017 ワークスチューニンググループ合同試乗会(TRD編)

ストリートを念頭に置いた意のままの走り

「TRD(トヨタテクノクラフト)」「STI(スバルテクニカインターナショナル)」「NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)」「無限(M-TEC)」という4社の合同グループ活動である「ワークスチューニンググループ」。2017年の合同試乗会でTRDでは「86」と「エスクァイア」をドライブした。

 86には、2016年にマイナーチェンジした「KOUKI」に合わせて新設した、話題作の「MCB(モーションコントロールビーム)」、ストリート重視のチューニングとした新しいサスペンションキットやエアロパーツをはじめ、装着パーツは多岐におよぶ。ただし、エンジン本体には手を入れていない。それでいて、合計するとパーツ代だけで196万3000円(税別)もの価格になるのだが、それだけかけるとここまでよくなるのかという仕上がりであった。

KOUKI 86 TRD

 走った第一印象は、率直に“楽しい!”。今回はノーマルと乗り比べることもできたおかげで、より明確に両車の違いを確認することができ、まさしく“意のまま”の走りを実現していることを体感。イメージどおりにノーズが向きを変える気持ちのよい回頭性と、アクセルワークで曲がり具合を意のままにコントロールできる、自ら操っている感覚を楽しませてくれた。

 それでいて、ストリートを念頭に置いた今回のセッティングは乗り心地も実に快適に仕上がっている。人気のドアスタビライザーやブレースセットなどの装着により、ボディの剛性感も段違い。ショックアブソーバーには「DLC(ダイヤモンドライクカーボン)」と呼ぶ加工が施されているおかげで、オイルシールのひっかかり感もなく、それが乗り心地や初期の操舵応答性に効いていて、よく動き、なめらかにロールする。

 サスペンションセットにはダイレクト感を重視して、ピロアッパーマウントが含まれるのもこだわった部分。ゴムのアッパーサポートのほうが衝撃をボディに伝わらないようにするのは容易だが、ピロアッパー化によって出る振動はショックアブソーバーで抑えようという考え方だ。実際の印象もピロのわりに衝撃が伝わってこない。ストリートでも使いやすいよう、乗り心地をよくしながらも旋回性能を上げるため、減衰ゼロでバネレートを決めて、なるべく減衰を上げないようにしたとのことで、結果的に減衰の値はノーマルより低いぐらいになったという。

 このコースにはいくつか非常にきついギャップがあるのだが、サスペンションストロークの限界を超えないよう、うまくバンプタッチさせて完全につぶれても底づきしないようにしているらしく、実際にも今回の全試乗車の中で底づきしなかった、ごく少ない1台である。とはいえ、もう少し路面がきれいなほうがマッチングとしてはよさそうな印象ではあったのだが、現実のワインディングロードはもっと路面がきれいだろうから、今回やや気になった部分が顔を出すこともあまりないかと思う。

18インチの鍛造アルミホイール「TRD SF3」(税別32万8000円)にミシュランの「パイロットスーパースポーツ」を装着。赤く塗装されたキャリパーを採用する「モノブロックブレーキキット」(税別50万円)では、フロントに対向4ピストン、リアに対向2ピストンを採用する
エンジンは純正状態。エンジンルーム内にシャフト部にカーボンを使う「フロントストラットタワーバー」(税別2万8000円)、バネ剛性と減衰力を86に合わせてチューニングした「MCB(モーションコントロールビーム)」(税別8万円)を装着。このほかにもスチール製の「メンバーブレースセット」(税別5万6000円)を使ってボディ剛性を高めている
6速MTはシフトストローク量が20%ダウンする「クイックシフトレバーセット」(税別3万8000円)に変更。シフトノブもTRDの「本革シフトノブ」(税別1万円)となっている
ボディ剛性を高める「ドアスタビライザー」(税別1万4000円)
汎用品でシートベルトに取り付ける「ショルダーパッドセット」(税別9000円)
ドアの開閉に連動してLEDが光る「ドアスカッフプレート(LED付)」

 さらには4輪の接地感が高いことも印象的だ。とくにリアはトラクションも高く、リア内側も抜けない。ノーマルなら横滑り防止が介入するような状況でも、グリップが高いので入りにくい。限界付近の挙動も穏やかで掴みやすく、いたってコントローラブルに躾けられている。

 これにはエアロダイナミクスも効いているはず。SUPER GTマシン開発のノウハウを採り入れたというエアロパーツは、20km/h程度の低い速度からすでに効力を発揮するようになっているのだと開発関係者は述べていた。さすがにそこまで低速域ではよく分からなかったが、車速が高まるにつれてタイヤが路面に押しつけられてグリップ感が増していくのが体感できる。空力は乗り心地にも効いていて、空力でスタビリティを高め、車両を空気でしっかり保持して足をよく動かしてやることで、乗り心地もよくなるわけだ。

地上高が標準仕様から約35mmダウンする「サイドスカート」(税別4万8000円)
フロントグリルの両脇にLEDを縦型配置する「フロントスポイラー(LED付)」(税別8万円)
フロントタイヤの前方とリアタイヤの後方に追加して空力性能を高める「エアロタービュレーター」(税別1万8000円)は合成ゴム製
ドアパネルとウィンドウの境目に接地されている黒いパーツが「サイドスタビライジングカバー」(税別2万8000円)。窓下の段差を埋めて整流効果を発揮し、車両の直進安定性を向上させる
カーボン製の「フロントフェンダーエアロフィン」(税別4万8000円)
汎用アイテムの「ドアハンドルプロテクター」(税別3000円/個)
「ハイレスポンスマフラーVer.R」は「リヤバンパースポイラー」とセットで税別17万4000円
両サイドの「リヤサイドスポイラー」(税別1万4000円)とトランクリッド上の「リヤトランクスポイラー」(税別3万2000円)
ツヤありブラック塗装が施された「エアロスタビライジングカバー」(税別1万6000円)

 性能はもとよりルックスにも大いにこだわっていて、できるだけファッショナブルであるようデザインしたと開発関係者が述べるとおり、スタイリングもなかなかよい。デュアルマフラーが目を引くリアは、マフラーのさらに下にウイングを通したようなデザインとされているのも、性能と見た目の両面を追求してのものだ。

 エアロパーツで特徴的なところでは、前期から設定しているエアロタービュレーターやリアウィンドウとトランクの隙間を埋めるリアトランクスポイラーに加えて、新商品のサイドウィンドウ下の段差を埋める「サイドスタビライジングカバー」が挙げられる。空力というのはトータルバランスが大事なので、新たに作ったものに合わせて全体を見直し、さらに官能評価をもとに微調整して角度を変えるなど、実は想像を絶するに緻密な作業を経ているそうだ。

3兄弟向けドアスタビライザー登場

 この6月にマイチェンしたばかりの、ヴォクシー、ノア、エスクァイアについても、TRDではすでにエアロパーツをスポーティグレードと標準グレードともにフルラインアップしている。そのうち試乗用に用意されていたのは、意外なことに3兄弟の中で最もマイチェン前にTRDのパーツが売れていたというエスクァイアだ。

 聞いたところでは、少々高くても高級感のあるインテリアが手に入れられることからエスクァイアを選んだものの、実はノーマルのメッキギラギラのフェイスをあまり気に入っていないユーザーが少なくないらしい。今回の試乗車はその思いに応えるべく、純正のメッキグリルを廃してメッキの桟を細めにするとともに、ブラックアウトした面積を増やして男らしい意匠とした、エレガントスポーツっぽい方向性でまとめられている。

エスクァイア Gi“プレミアムパッケージ”TRD

 なお、ヴォクシーとノアも、それぞれに相応しいテーマを与えてデザイン。とりわけメッキを強調した大きなグリルが与えられた新しいノアは、そのイメージチェンジに合わせた意匠を意識したという。よりユーザーの満足度を高めたいとの思いから、LEDデイライトをすべてに採用している。

「フロントスポイラー(LED付)」(税別7万2000円)は、下側のブラックアウトされた部分にLEDを内蔵する
エスクァイアのフロントマスクの雰囲気を大きく変える「フロントグリル」(税別5万6000円)
17インチアルミホイールの「TRD TF4A」(税別18万8000円/台)。試乗車にはグッドイヤーの「イーグル RV-F」(205/50 R17)が装着されていた
リアハッチは「リヤライセンスガーニッシュ」(左右セットで税別6000円)、「バックドアガーニッシュ」(税別9000円)などでドレスアップ
「リヤバンパースポイラー」(税別5万3000円)や「サイドスカート」(税別6万3000円)は、「フロントスポイラー(LED付)」とセットの「エアロパーツセット」(税別16万7000円)も用意される

 性能面に関わるアイテムでは、スポーティサスペンションセットやドアスタビライザー、ブレースセットなどが装着されている。ドアスタビライザーは上級ミニバンの「アルファード」「ヴェルファイア」用が発売されるや大ヒットしたという経緯を受けて、今回こちらのMクラス3兄弟にも設定されるはこびとなった。

鉄板を曲げて成型している純正パーツブラケットを鋳鉄製のブレースに変更。厚さを増して強度を高め、ボディ剛性アップを果たす
ドアスタビライザーはブレースとセットで税別3万円
後席でもボディ剛性強化による乗り心地の変化を体感

 リアのブレースは、ボディ側の取り付け点が動く前にダンパーを動かそうという発想から設計されており、そこが動かなくなることで旋回性能が上がる。今回のドアスタビライザーの設定によりフロントの剛性が高まることに合わせ、バランスを取るべく既存品とは仕様が変更されている。さらに、前述のエアロパーツにより、空気で押さえることで横風に対するスタビリティも高くなる。それらの効果はドライバーはもちろん、後席に座っても体感できる。

 また、従来は中立から切り始めたところのゲインが高かったところ、マイチェンにより切った分だけついてくるリニアな味付けとされたことも効いて、今回のデモカーは挙動が乱れにくく、直進安定性にも優れるように感じられた。これも後席乗員にとってメリットをもたらすに違いない。

 ところで、TRDといえば「GR」との競合も気になるところだが、GRシリーズはコンプリートカーとはいえ、あくまでトヨタ自動車。TRDはあくまでアフターパーツメーカーであり、実はGRモデル向けにアドオンタイプの空力パーツなどをラインアップする予定とのことで、そちらも楽しみにしたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一