試乗インプレッション

2018 ワークスチューニンググループ合同試乗会(TRD編)

ラリー参戦車のノウハウを継承した「ハイエース」、“TRDらしい方向性”を追求した「クラウン」の走りとは

TRDのパーツ類を装着した「クラウン」と「ハイエース」

「ワークスチューニンググループ」とは、自動車メーカー直系のモータースポーツ専門会社である「TRD」「無限(M-TEC)」「NISMO」「STI」の4ブランドによる合同活動グループであり、モータースポーツとスポーツドライビングの振興を目的としている。

 4社はモータースポーツの場ではライバルでも、アフターマーケットでは競合しないことから、お互いのレベルアップと効率化を図るべく、グループとして共同で活動する機会を設けている。メディア向け試乗会については、しばらくの中断を経て2015年に箱根で再開。今回は2017年に引き続き群馬サイクルスポーツセンターにて開催された。

ハイエースでミニバンのような走りを

TRD ハイエース

 TRD(トヨタカスタマイジング&ディベロップメント)が用意した試乗車の1台は、なんと「ハイエース」だ。この場になんとも不似合いな商用車を、あえてTRDが持ち込んだのにはもちろんワケがある。それはハイエースのユーザーのためにミニバンのような優れた乗り心地と操縦安定性を実現して提供すること。さらにはTRDが対応できるのがスポーツ系の車種だけではないことを証明するためだ。

 実はTRDには、ちょうど1年前の2017年に開催された「AXCR(アジアクロスカントリーラリー)」に「ハイラックス」で初参戦し、総合2位と3位でフィニッシュした実績がある。今回のハイエースにもそのノウハウがフィードバックされている。AXCR参戦車両を彷彿とさせるエアロパーツによるアクティブな外観に、車両重量や路面からの強い入力にも耐える剛性を確保したというたくましいデザインの15インチアルミホイールが目を引く。

AXCRに参戦した「TRD ハイラックス AXCR」のタフさをイメージさせるLED付きの「エアロパーツセット」(税別16万8000円)を装着
LEDはイグニッションONで常時点灯。フロントスポイラー下側をシルバー塗装にしてアンダーガード風に演出
「リアバンパースポイラー」はPPE製
赤い本体に白でTRDのロゴが入る「マッドフラップ」(税別2万8000円)もオフロードイメージを高めるアイテム
「サイドスカートVer.2」(税別4万円)はステンレス製で、地上高が純正仕様から約25mmダウンとなる
15インチアルミホイール「TRD TF7A」はグッドイヤーの「EAGLE #1 NASCAR」とセットで16万4000円/台(税別)

 商用車として1tの荷物を積むことを想定したハイエースはリアサスペンションのバネレートが高い。また、幅が細くハイトの高いタイヤはトラック規格ということもあって縦バネが強い。それゆえ乗り心地が硬くなりがち。荷室はガランとしているので剛性も低く、車体がねじれやすいことに加えて、空力面でもフロア下が覆われておらず、この四角いボディ形状で車高も高いので横風の影響も受けやすい。さらには荷室優先のためサスペンションに与えられたスペースが小さく、ストロークが少なくなる上、重量のわりに容量も小さい。そんな条件の中で満足できる操安性を出すのは難しいと開発関係者は強調する。

 それゆえに、本来であればリーフスプリングから換えたいところだが、構造変更が必要となり敷居が高くなる。そこでユーザーがとっつきやすいよう、基本的にショックアブソーバーの交換だけで可能なところまで突き詰めたのが今回の仕様となる。

 ショックアブソーバーをスポーツカーでもよく用いられるモノチューブ式としたのは、ピストン径を稼いで少ないストロークの中でもオイルの移動量を増やすことができるので、理想の減衰特性を実現しやすいから。加えて、初期から減衰力がしっかり立ち上がるモノチューブ式の応答性のよさを生かし、一気にロールさせず、じわじわとロールするようにチューニングしたという。さらに、よりサスペンションにしっかり仕事をさせるため、剛性を高めるメンバーブレースをリアのフロア下に装着している。

イエロー塗装でドレスアップ効果も期待できる「ショックアブソーバーセット」は税別12万円
ショックアブソーバーセットとの同時装着を推奨する「メンバーブレースセット」(税別3万円)は、リアタイヤ付近のフロア下に固定してボディ剛性を高める

 足まわりについては前出のAXCRで得たノウハウから、「ラリーではさまざまな路面に対応できる性能が求められ、サーキットと違って動かす必要があります。また、μ(摩擦係数)の低い路面では素早い荷重移動は好ましくなく、できるだけゆっくりにしたほうがよい。フラットライドではなく動きを出して、その中で操縦安定性を高めるために、動く速さを上手くコントロールすることが求められます」と開発関係者が語ってくれた話も興味深かった。

ロールしたときの動き方が違う

岡本幸一郎氏による「TRD ハイエース」群馬サイクルスポーツセンター走行ムービー(2分59秒)

 ノーマル車両と乗り比べたところ違いは明らかで、ステアリングを切ったときの反応がぜんぜん違う。ロールはするがロールの仕方が違って、内側のタイヤが浮き上がるのではなく、外側が沈み込む感覚。もっと重心高の低いクルマに乗っているような雰囲気となるおかげで圧倒的に不安感が小さい。

「積極的に動かしているのでロール量は減っていないが、姿勢の作り方で減ったように感じる。人間の重心が上に行くと、動きに不安を感じるようになる。沈ませるか浮かせるかによっても印象がずいぶん違うので、わるいほうにならないようにした」とのことで、実際にもTRDモデルははるかに安定している。また、操舵に対する応答遅れも小さく、スポーティな印象すらあり、そのあたりはTRDの面目躍如と言える。

ハイエースに与えた各パーツなどについて解説する株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント テクノクラフト本部 車両開発部 技術統括部 車両評価グループ グループ長の相澤剛氏

 乗り心地も、モノチューブというから硬いのではと思っていたのに、まったくそんなことはない。ノーマルは路面への感度が高く、快適性はいまひとつなのに対し、TRDモデルは足まわりがよく動いて、入力が上手く緩和されている。この味付けには「仕事でハイエースを運転する人が、揺られることなく快適に乗っていただきたい」という思いが込められている。フロア振動加速度の計測データも見せてもらったが、波が小さくなっていることが分かった。人は0.06Gよりも大きな動きを不快に感じる。それをダンパーのみで抑えることに成功したわけだ。

 加えてシートの出来も非常によく、身体にフィットして適度にサポートしてくれる。快適な乗り心地と相まって、長い距離を走っても疲労感が小さくなることにひと役買ってくれることに違いない。

「スポーツシート&シートレール」は運転席と助手席のセットで34万円(税別)
「TRD プロテクションシート」(税別6000円)はドレスアップ性と実用性を兼ね備えるアイテム

新型クラウンをTRDお得意の機能パーツで

 そしてもう1台試乗したのが、発売されて間もない「クラウン」の2.0リッターターボを搭載するRSグレードに手を加えたデモカーだ。若返りを図ったクラウンをベースに、オリジナルのエアロパーツをまとった姿はいっそう若々しくスポーティに目に映る。なお、RSだけでなく、標準ボディ向けにもコンセプトの共通するエアロパーツが設定されたほか、ボディ同色の組み合わせを好まないユーザーに向けた「ブラックエディション」という選択肢が初めて用意されたのも特徴だ。

TRD クラウン
前後のバンパー内側に「パフォーマンスダンパーセット」(税別9万円)を装着。操縦安定性と快適性をそれぞれ引き上げている
19インチ鍛造アルミホイール「TRD SF4」を、ミシュランの「Pilot Sport 4S」とセットで装着。価格は63万6000円/台(税別)
フロント、サイド、リアの3点セットになる「エアロパーツセット」(税別18万5000円)を装着
「サイドスカート」(税別7万2000円)はブラックとボディ同色の塗り分けでアグレッシブなイメージを強調
「リアトランクスポイラー」(税別3万5000円)は純正装着品との交換装着となる

 走りについても、ドアスタビライザーをはじめ、車両の前後にパフォーマンスダンパーなどを追加してTRDらしい方向性を追求したという。ノーマル車両も独ニュルブルクリンクで実力を試したことを強調しているだけあって、なかなかよくできていると感心させられたのも記憶に新しいが、それをベースにTRDが得意とする機能パーツを得たことで、さらに少なからずドライバビリティが向上している。

スライド機構付きのスペーサーを使ってボディ剛性を高める「ドアスタビライザー」(税別3万円)で走りの一体感をさらに高める
株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント テクノクラフト本部 商品事業部 商品販売室 販売支援グループの堀田昌樹氏

 ノーマルでも高く評価されているハンドリングはよりシャープになっている。微小舵角の領域から応答遅れがなく、走りの一体感が増している。また、フラット感も増して、タイヤの路面への追従性が高まっていることを感じる。それでいて乗り心地が損なわれた印象もまったくない。コンセプトどおり、クラウンも外面と内面ともにTRDらしさが見事に表現されていた。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛

Movie:岩田和馬