インプレッション

スバル「レヴォーグ STI Sport」

限定車ではなくカタログラインアップモデル

 年次改良によって次々に進化していくのがスバル(富士重工業)のクルマの特徴といっていいところだが、この「レヴォーグ」もまたその道を着実に歩み始めている。B型より欧州展開を開始したことにより、市場からのフィードバックがさらに集まり、新たなる改良がC型に落とし込まれたのが今回の最初のトピックである。

 速度レンジが高い欧州市場では、まず静粛性に対する要望が多かったそうだ。そこでフロントドアのガラス内側にあるウェザーストリップを2重化。リアクォーターガラスの板厚をアップしたほか、荷室まわりへの制振材を追加したという。速度レンジの低い日本仕様ならそこまで必要ないという考えもできたとは思うが、結果として仕向け地別に仕様変更することなく、日本仕様に対してもこの取り組みを横展開したところが素晴らしい。この改良は即座に感じられるもので、B型と乗り比べれば街乗りレベルの走りでもその静粛性アップの恩恵を受けられる。主に高周波領域がカットされた感覚があり、これだけでも上質さが増したと思える仕上がりが嬉しい。

 また、安全性に対する改良も行なわれた。フロントドアビームの強化、リアシートベルトプリテンショナーの追加、そしてリアシートクッションの乗員保持性能向上などが主な内容だ。レヴォーグではアイサイトが標準装備されているほか、装着率82%を誇るアドバンスドセイフティパッケージが存在するなど、スバルもユーザーも安全性能に対する意識が高い。だからこそ、マイナーチェンジで少しでも安全性能を高めようと改良されたのだろう。

ピュアレッドカラーの「1.6STI Sport EyeSight」。ボディサイズは4690×1780×1490mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2650mm。エクステリアでは専用設計のフロントバンパーやフロントグリル、LEDフロントフォグランプ、大型デュアルマフラーカッター、STIオーナメント(フロント/リア)などを装着。足下は専用デザインの18インチアルミホイール(ダークグレー+切削光輝)にダンロップ「SP SPORT MAXX 050」(225/45 R18)を組み合わせる
1.6STI Sport EyeSightが搭載する水平対向4気筒 DOHC 1.6リッター直噴ターボ「FB16」エンジンは最高出力125kW(170PS)/4800-5600rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1800-4800rpm。JC08モード燃費は16.0km/L
専用の本革シート、ドアアームレスト、センターコンソールリッドなどをボルドーカラーで仕上げた上質なインテリアを採用。ステアリングホイール、シフトレバー、インパネセンターバイザーなどにはレッドステッチを施した高触感革を用いている

 こうしたベースがあって、今回の本題となる「STI Sport」である。限定車ではなくカタログラインアップされるそれは、これまでSTI(スバルテクニカインターナショナル)が手掛けてきたSシリーズやtSシリーズとは立ち位置を変え、手ごろな価格でSTIの乗り味を提供しようと考えられたものだ。

 とはいえ、内容はビルシュタインダンパーの採用や専用チューニングのスプリング、そしてステアリングギヤボックスクランプスティフナーをSTIとスバルが共同開発。エクステリアはグリルの変更や18インチアルミホイールを採用するなど、STIモデルらしさが並んでいる。さらにはインテリアに対して上級感のあるボルドー色を新採用するなど、明らかに最上級グレードらしい佇まいをしている。これらすべてを1.6リッターモデルにも2.0リッターモデルにも変わらず与えているところが嬉しい。

こちらは水平対向4気筒 DOHC 2.0リッター直噴ターボ「FA20」エンジンを搭載する「2.0STI Sport EyeSight」。最高出力は221kW(300PS)/5600rpm、最大トルクは400Nm(40.8kgm)/2000-4800rpmを発生し、JC08モード燃費は13.2km/Lとなっている
足まわりはビルシュタインと共同開発したショックアブソーバーと専用チューニングが施されたコイルスプリングを組み合わせたもので、前輪にはコンフォートバルブを備えた可変減衰力サスペンション「DampMaticII」を採用。乗り心地とスポーティな走行性能の両立を図った

しっとりと走る足まわり

 まずは一般道を想定した富士スピードウェイの構内路を走らせてみると、STI Sportというネーミングを与えた割にはしなやかに走ってくれることに感心する。これまでのレヴォーグはどちらかといえば不快なピッチングが多く、フラットに走っている感覚が薄いクルマだったが、荒れた路面に対する足の追従性もよく、しっとりと走ってくれる。このイメージは車重が重い2.0リッターモデルのほうが強く感じた。1.6リッターモデルは軽快だが、やや細かい路面アンジュレーションを拾ってしまう。同一の足まわり設定で両グレードを両立した結果かもしれない。

 さらに好印象だったのは、ステアリングのニュートラル付近のリニアリティが格段に向上していたことだった。B型ではそこに不感帯があり、切り込んだ先で急激にクルマが応答していくことがあったが、STI Sportは微操舵からクルマが反応を始めるのだ。もちろん、それはシャープすぎて扱いにくいわけじゃない。ロールスピードが一定したその動きは、さすがはSTI仕上げだと感心できるものだった。

 後にサーキットを走れば、安定感は高く、コントロール性も抜群。後日ウェットでも試乗したが、自由自在に車両姿勢をコントロールすることができる前後バランスのよさは見どころの1つだった。これならスタビリティコントロールのフル解除を可能にし、スポーツカーのようにドライバーまかせにしてもよいのでは? そんなことを思わせるほどファンな仕上がりをみせていたのだ。

 このように、静かで質感高く、走り味もコントロール性も備わったSTI Sport。これは単なるスポーツ派だけでなく、多くの人に注目してほしい1台。誰もが納得できそうなバランスのよさが備わっている。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:堤晋一