インプレッション
日産「ノート e-POWER NISMO」(サーキット試乗)
2016年12月16日 13:32
ノート e-POWERのNISMO仕様登場
日本自動車販売協会連合会が発表する2016年11月の乗用車車名別販売台数において、およそ30年ぶりに日産自動車が「ノート」で販売台数トップを獲得した。そのワケはe-POWERが新たなるユニットとして加わり、今までになかった世界を提示したことにほかならない。ただ、その勢いはまだまだ収まらないだろう。なぜなら、「ノート e-POWER NISMO」が新たに追加されたのだから。
専用のエアロパーツにインテリア、シャシーチューニング、さらにはe-POWERの制御変更まで行なって登場したNISMO仕様は、一見するとこれまでのNISMOの世界観がそのまま展開されたように感じる。もともとノートにはNISMO仕様(ガソリンモデル)があったため、ハッキリ言ってしまえば新鮮さはそれほどない。
だが、よくよくクルマを見てみると、グリルまわりにはブルーのラインが加えられ、キラリと光っていたメッキグリルはダーククロームに色が落とされていることが分かる。よりブルーを際立たせたかったのだろうが、これだけでも落ち着いた雰囲気になるから興味深い。サイドスカートからリアバンパーへの流れはNISMOの方程式通りといった仕上がりであり、リアバンパーのカドには剥離板のような形状が加えられ、そこで発生する渦をスパッと切る仕立てが行なわれている。
NISMOの開発陣いわく「エアロは決してダウンフォースを狙っているわけではありません。基本的にアップフォースなクルマをゼロリフトにしたんです」とのことだった。
乗り込んでみると、インテリアもまたNISMOらしさが光る。ステアリングはグリップの一部がスウェード調となっており、触れただけでスポーティなイメージを感じさせてくれる演出がなかなか。スピードメーターの中心部には赤いリングとnismoの文字が刻まれている。シートはクッション性を保ちながらもホールド性を確保しているノーマルタイプと、座面も背もたれもカチッとしたフィールが味わえるセミバケットタイプのレカロシートを用意。e-POWERとはいえ、抜かりない仕上げが施されている。
ノート e-POWER NISMOのドライブモードの設定
ドライブモード | シフト | 加速※ | アクセルOFF時の減速(回生の強さ)※ |
---|---|---|---|
ノーマル | D | やや強い | やや強い |
B | やや強い | やや強い+α | |
S | D | 強い | 強い(スポーティな味付け) |
ECO | D | マイルド | 強い(燃費重視) |
※基準車のノーマルDを基準とした場合
“イイクルマ感”が満載
スタータースイッチを入れ、試乗コースとなる富士スピードウェイのショートコースに入ろうとすると一瞬だけエンジンがかかるが、それ以降はモーター走行でスーッと加速していく。サーキットでありながらもこの静けさはなかなか新鮮だ。ECOモードで走っていればノーマルと変わらない制御であり、アクセルのみで加減速が行なえるワンペダル走行が可能だ。これはこれで面白いし、とっても新しいと感じる人は多いだろう。
ただ、ノーマルモードやSモードを選択すると話が変わってくる。基本的にはEV走行の頻度を多くしようという目的ではなく、できるだけ自然でリニアなフィーリングで走らせようと努力したことが伝わってくる。回生ブレーキはノーマルのように低速でワンペダルで走れるようなことはなく、あくまで最終的な減速としてドライバーにブレーキを踏ませるように仕立ててあるのだ。
おかげでe-POWERだと運転を構えることもなく、自然な感覚で走ることができる。それはスポーティな反応が楽しめるSモードであっても変わらない。あくまでもリニアに走る、これがノート e-POWER NISMOの特徴。古きよき時代を引きずるオッサンとしては、こちらのほうが安心だし心地いい。スポーティな走りをさせれば、タイトターンの立ち上がりでフロントイン側のホイールがキュキュっとホイールスピンを展開する(VDC OFF)など、パワフルさもなかなかだ。
一方でシャシーまわりのリニアさもなかなか。ステアリングの切りはじめからステアリングは適度な重みとフィーリングを残しながらコーナーへとターンインさせてくれる。キビキビすぎず、けれども求めたとおりにクルマ全体が反応を見せるのは、足まわりだけではなく、シャシーの補強もきちんと行なっているからだ。ガソリン車のNISMO仕様に使われていたガセットをはじめとする補強部材に加え、このクルマ専用に仕立てた新たなる補強パーツがきっとよい仕事をしているのだろう。しなやかな乗り味と狙ったとおりに動くリニアリティ。このバランスがなかなかだ。決してキビキビすぎることなく仕立てたその方向性には、レーシーな感覚はない。
リニアな走りに気をよくした僕は、最後にコースを8ラップ全開で走り続けた。だが、バッテリー残量が少なくなり、パワーを損なわれるようなことがなかったことは大きな収穫である。スロットルの全開率とブレーキング時の回生バランスが取れていたからなのだろうが、富士スピードウェイのショートコースでここまで走れるなら十分だろう。エコカーのど真ん中にいるe-POWER NISMOであっても、スポーツドライビングは十分に楽しめるのだ。
試乗後に開発陣から「このクルマはRacing Car for everyoneではなく、日産の目指すべき方向性を凝縮したものがNISMO仕様です」と聞かされた。ノート e-POWER NISMOの仕上がりはまさにそんな感覚だ。あくまでこれまでのクルマと同様にリニアリティを求めて制御からシャシーを改めたその仕立ては、“イイクルマ感”が満載。クルマとしての正常進化の形をきちんと示していると思えた。