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日産、年間10万台規模を見すえた「ニスモ・カーズ事業部」設立の説明会

新生「NISMO&AUTECH」ブランドモデルを今秋披露

2017年4月25日 開催

 日産自動車は4月25日、高性能スポーツブランドとして展開している「NISMO ロードカー」の事業を拡大する新しい戦略について発表。NISMOブランドの戦略基盤となるNISMO ロードカーの車種ラインアップを拡充するため、日産の関連会社であるオーテックジャパン内に「ニスモ・カーズ事業部」を新設することを明らかにした。このほかの発表内容の詳細は、すでに誌面掲載している関連記事「日産、『NISMOロードカー』事業拡大で車種ラインアップ拡充へ」を参照していただきたい。

 この発表を受け、同日に神奈川県横浜市にあるNISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)本社で記者説明会を実施。ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル 代表取締役社長 兼 CEOであり、オーテックジャパン 代表取締役社長 兼 CEO、日産自動車 ニスモ・ビジネス・オフィス 代表なども兼務する片桐隆夫氏から新しく発表についての詳細が説明され、合わせてNISMO社屋の施設見学が行なわれた。

2020年代の前半には年間の販売規模を約1万5000台から10万台以上に

株式会社オーテックジャパン 代表取締役社長 兼 CEO、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社 代表取締役社長 兼 CEO、日産自動車株式会社 ニスモ・ビジネス・オフィス 代表などを兼務する片桐隆夫氏

 記者説明会でプレゼンテーションを行なった片桐氏は、NISMOはモータースポーツをDNAに持つ日産のサブブランドであり、そんなモータースポーツに由来するDNAをユーザーに提供することで、日産車の魅力を高め、日産のブランドイメージを高めることを使命にしていると紹介。その使命を果たすため、今まで以上に多くのユーザーにブランドを周知し、より多くのNISMO車をユーザーに届ける必要があるとの判断から今回のビジネス拡大が決定されたと語った。

 この実現に向けた戦略として片桐氏は「ロードカー」「お客さまとの接点の拡大」「組織」の3点を解説。まず「ロードカー」では、現在は世界各国で販売する「GT-R NISMO」をはじめ、日本、北米、欧州で販売している「370Z NISMO(フェアレディZ NISMO)」と「ジューク NISMO RS」、日本で販売している「ノート e-POWER NISMO」と「マーチ NISMO」、北米で販売している「SENTRA NISMO」、GCC(中東)で販売している「PATROL NISMO」の7車種のNISMO ロードカーを販売しており、一例としてノート e-POWER NISMOはノートシリーズの販売比率で約9%を占めるモデルになっているなど人気を集めていると語る。

NISMOブランドをさらに拡大させる「ロードカー」「お客さまとの接点の拡大」「組織」という3点の戦略について解説された
販売中のNISMO ロードカー。「ノート e-POWER NISMO」はノートシリーズの販売比率で約9%を占める人気になっているとのこと

 この流れをさらに広げていくため、片桐氏はラインアップを7車種から増やし、販売地域についても拡大することが必要だと述べ、車種ではSUVやクロスオーバーをさらに増やすほか、これまでNISMO ロードカーにはなかったEV(電気自動車)やピックアップトラック、ミニバンでも幅広くNISMO ロードカーを設定。5年後の2022年には現在の7モデルから2倍以上に拡大させ、販売地域では増やした新規車種を北米や欧州に投入し、これまで積極的な販売を行なっていなかった中国などの市場にも製品投入。これらにより、現在は約1万5000台/年という販売規模を、2020年代の前半には少なくとも10万台/年を超える台数を販売したいと語った。

 このほかにNISMO ロードカーの商品体系の整理も紹介され、今後は動力性能を大幅に向上させた「NISMO ハイパフォーマンス」、NISMO ロードカー用に開発したアルミホイールなどの内外装部品を日産車のパッケージオプションとして提供する「NISMO ラインオプション」といった取り組みも将来的に展開したいとの展望を述べた。

これまで手薄だった車種や販売地域に積極的に展開して販売数の拡大を狙う
既存のNISMO ロードカーに加え、「NISMO ハイパフォーマンス」「NISMO ラインオプション」といった取り組みも今後進めていきたいと片桐氏は語る
NISMO ラインオプションのイメージ

 続く「お客さまとの接点の拡大」では、「ただクルマを造って売るだけではなく、ブランドを発信する、お客さまにそれをお届けするといった活動も非常に重要になります」と語り、具体的な活動を紹介。GT-R NISMO以外のNISMO ロードカーは販売を行なっている国にあるすべてのディーラーで購入できるようになっているが、そんなディーラーの一部にブランド発信機能を持たせるため、専用の展示車や試乗車の用意、専門知識を持つスタッフの常駐などを行なう「NISMO パフォーマンス・ディーラー」を設定している。このNISMO パフォーマンス・ディーラーのブランド発信機能を高め、拠点数も2022年をめどに現在の26店から40店に増やしていきたいとの考えを片桐氏は示した。また、現在は日本国内だけにあるNISMO パフォーマンス・ディーラーを、この先は北米や欧州などを中心に広げていきたいとしている。

 これ以外の活動として、NISMO ロードカーのポテンシャルを味わい、適切なドライビングなどをコーチングする「NISMOドライビング・アカデミー」を開設。すでに2月にトライアル版のイベントも実施されており、ミハエル・クルム選手が“校長先生”を務め、このほかにも現役レーシングドライバーが講師として参加した2月のイベントは好評のうちに終了したと片桐氏は語り、2017年に国内で8回の開催を予定しているとのことだ。

 また、今年で20回目の開催となる「NISMO フェスティバル」は11月26日に開催を予定しており、来場者とNISMOのタッチポイントになっているほか、YouTubeなどでイベントの様子が世界に配信され、非常に重要な情報発信源になっていると語られた。

現在は日本国内に26店ある「NISMO パフォーマンス・ディーラー」をさらに増やすほか、北米や欧州にも展開する計画
ユーザーが手に入れたNISMO ロードカーの走りを楽しめる場も提供していく
20回目の開催を迎える「NISMO フェスティバル」。海外に対する情報発信でも重要度が認知され、開催に力を入れて取り組みたいと片桐氏は語った
日産の名車を維持する手助けも日産やNISMOのブランドイメージ向上で重要な要素。日産で供給がストップした補修パーツをNISMOから販売する「ヘリテージ・パーツ・プログラム」はR32型の「スカイライン GT-R」の対応品からスタートし、需要が大きければほかのモデルにも拡大していきたいとのこと
一般ユーザー向けではないが、「GT-R NISMO-GT3」などで取り組んでいるカスタマー・レーシング活動についても片桐氏は報告。GT-R NISMO-GT3は2018年の発売に向けて「エボルーション・モデル」の開発を進めており、さらに戦闘力の強化を図っているという

オーテックとNISMOを2枚看板に育てたい

 こういった新しい取り組みを進めていくために必要な「組織」では、新設されることになったニスモ・カーズ事業部は、オーテックとNISMOという2つの会社を母体にしている。日産の100%子会社で「カスタムカー」「ライフケアビークル」といった特装車を主に手がけているオーテックと、SUPER GTなどのレース活動を中心としているNISMOという日産グループ内での立ち位置から、新しいニスモ・カーズ事業部はニスモという名称を使いながら、所属としてはオーテックの社内に置かれ、対となるNISMO内のモータースポーツ部門は「NISMO RACING」と呼ばれることになると片桐氏は解説。「ニスモ・カーズとNISMO RACINGの活動を合わせてNISMOブランドを強化していきたい」と述べた。

 ニスモ・カーズ事業部は日産自動車からの派遣を中心に、オーテック、NISMOといった日産グループから50人のスタッフを集めて構成。NISMO ロードカーの製品企画や設計・開発、マーケティングやアフターセールスなどを担当することになるという。この理由について片桐氏は「これまでは、NISMOブランドに関わるビジネスは、日産やオーテック、NISMOでバラバラになっていたわけです。これをNISMOに関連する人材や知識を1カ所に集約しようということで、これによってノウハウが蓄積できることに加え、より鮮度が高い仕事を迅速に進められるようになる。そんな理由からニスモ・カーズは発足しました」と説明した。

 また、オーテックの内部に設置された理由については、「今回取り扱うことになるNISMO ロードカーは、日産の基準車をよりスポーティにコンバージョンするという行為です。その点においてはオーテックにかなりの知見があり、この知見を使えることが一番大きな理由で、そのほかにもオーテックには生産に関するインフラがあって事業部を設置できることも理由です。少し複雑ですが、これによってオーテックのなかにニスモ・カーズ事業部を作ることになりました」と解説している。

オーテックとNISMOの会社概要
ニスモという名称の事業部だが、NISMO ロードカーの開発に適していることからオーテック内に新設された

 このほかに片桐氏は「ちょっと別のお話」として、今後のオーテックブランドについてもコメントした。オーテックではライフケアビークルや商用特装車などの生産に加え、独自ブランドとして「ライダー」「ボレロ」「モード・プレミア」などをカスタムカーとして販売している。しかし、日本国内については今後、オーテックを会社名ではなくNISMOのようなブランドとしての扱いに変更。時間をかけて各サブブランドをオーテックブランドに集約していく計画を明らかにした。これにより、NISMOはレースDNAを前面に打ち出した「ピュア・スポーツ」、オーテックは独自性のあるカロッツェリアを想起させる「プレミアム・スポーツ」と、同じスポーツという立ち位置ながら方向性を差別化した2枚看板に育てていきたいと語った。

 さらに片桐氏は「現在はこういったパワーポイントの説明だけですが、NISMOブランド車では“近い将来に追加する車種”、新生オーテックブランドでは“近い将来に出すクルマ”を、この秋には具体的なクルマとしてみなさまにご披露したいと考えています。ぜひご期待ください」と語り、今後の展開についてコメントした。

オーテックもNISMOと同じような日産のサブブランドにしていく計画
今秋にNISMOとオーテックの両ブランドで新モデルを披露することも明らかにされた

 記者説明会後には、集まった記者を対象にNISMO社屋の施設見学が行なわれた。基本的な内容は2013年2月に行なわれた新社屋移転直後の内覧時(関連記事:NISMO、新社屋「グローバル新本社」を公開、2013年度のモータースポーツ活動計画も発表)から大きな変更は行なわれていないが、下記に設備や展示車両などの写真を紹介する。

NISMO本社の外観
屋内に入ってすぐの場所に、ル・マン24時間レースで活躍したプロトタイプレースマシン「R390 GT1 32号車」を展示。実際に走行した車両を、壁面を強化して固定している
ショールームスペースに国内では販売しているNISMO ロードカーを実車展示
ショールームの壁面側には、これまでのレース活動で手にしてきたトロフィーやレーサーが着用したレーシングスーツなどの記念品を展示している
NISMO直営のプロショップである「NISMO大森ファクトリー」
NISMOのコンプリートエンジンなども展示している
認証工場であるNISMO大森ファクトリーの車両整備場
歴代スカイラインも美しく仕上げられている
シャシダイナモルーム
4輪アライメントテスターを備えた車検ライン
NISMO大森ファクトリーの奥にあるスペースで歴代レース車両の整備なども行なわれている
エンジンの性能や耐久性などを確認するベンチテスト室
当日はGT-R NISMO GT3のエンジンをチェックしていた
カーボンパーツの製造工程も紹介された
カーボンパーツは実際に手に持って軽さを実感することもできた
新人研修で製作されたというカーボンを使ったトレー
カーボンパーツを焼成する焼成炉