インプレッション

オーテック「ノート e-POWER モード・プレミア」(クローズドコース)

モード・プレミアに用意されるTouring Packageに注目

 エンジンで発電した電気を利用して、100%モーター駆動とする日産自動車「ノート e-POWER」の走りはかなり斬新に感じた。モーターのスムーズな加速感に加え、ほぼアクセルオフのみで完全停止できるエネルギー回生制御などはこのクルマの真骨頂だ。新たな世界を見せてくれるクルマが誕生したことは、久々に心躍るものがあった。

 けれども、これまでのクルマとはちょっと違う乗り味に戸惑ったことも事実。モーターのみで走行中、バッテリー残量が減少したり、ブレーキブースターの負圧が減少しすぎたりした場合、突然エンジンが2400rpmまで吹け上がり発電を始めることもまた違和感があった。タウンスピードでそれが始まると、モーターだけで走っていた静寂が一瞬にしてなくなることも物足りない。エンジンを始動する時は、できるだけ燃焼効率がよいポイントで回してやろうという考え、そしてモーター駆動時間をできるだけ長くしたいという思いがそうしているらしいが、昨今の1000rpm以下のアイドリングに慣れ切った身体には少々違和感を感じる。

 一方で、ボディが軟弱で特に足まわりの動き出しにシブさを感じるなど、1台のクルマとしてノート e-POWERを見ると、まだまだ先を求めたくなるポイントがあった。もちろん、実用車としては十分なレベルにあるのだが……。

 そんな思いを解消してくれるのが、今回話題にするオーテックジャパンの「ノート モード・プレミア」である。このクルマは上質さをウリにしたグレードの1つで、エクステリアからインテリアまで洗練された造り込みが行なわれていることは一目瞭然。ノーマルとはひと味違う世界観は、写真を通じて十分に伝わるのではないだろうか。

オーテックジャパンは、11月2日に発売した日産「ノート」の一部改良モデルをベースに、内外装の高級感を高めたカスタムカー「モード・プレミア」を12月12日に発売する。「モード・プレミア」には、自然給気仕様の直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」エンジンを発電専用に搭載し、EV(電気自動車)「リーフ」の開発で培われた「e-パワートレーン」のインバーターとモーターを流用して前輪を駆動する「e-POWER モード・プレミア」を含む全4グレードを展開。写真は「e-POWER モード・プレミア」(ベースグレードはe-POWER X)で、ボディサイズは4130×1695×1520mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2600mm。価格は220万7520円
撮影車は8万6400円のオプション設定となる「Touring Package」を装着。同パッケージは走行性能をコントロールするVCM(Vehicle Control Module)を専用チューニングした「ファインレスポンスVCM」を採用するとともに、ボディ補強パーツ(フロントクロスバー、メンバーステー、センタートンネルステー、テールクロスバー)や専用チューニングサスペンション、切削光輝の16インチアルミホイールを装備。さらに電動パワーステアリングのセッティングも独自のものになっている
「モード・プレミア」のエクステリア。フロントまわりではメタル調フィニッシュのフロントバンパーやフロントグリルが専用装備になる
メタル調フィニッシュのサイドターンランプ付電動格納式リモコンカラードドアミラー
「モード・プレミア」ではハロゲンヘッドライトが標準装備となるが、オプションでLEDヘッドライト(写真)も選択可能
フォグランプも「モード・プレミア」専用品
リアまわりではメタル調フィニッシュの専用リアバンパーフィニッシャーを特別装備
テールゲート左側にレイアウトされる「Mode Premier」のバッヂ。右側の「e-POWER」バッヂは標準車に準ずる
「Touring Package」に含まれる切削光輝の専用16インチアルミホイール。タイヤは横浜ゴム「DNA S drive」(タイヤサイズ:195/55 R16)を組み合わせる
発電専用として搭載される直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」エンジン。「EM57」モーターの最高出力は80kW(109PS)/3008-10000rpm、最大トルクは254Nm(25.9kgm)/0-3008rpmを発生。「e-POWER モード・プレミア」はベース車と同様に「ノーマル」「S」「ECO」というドライブモードを設定するが、「Touring Package」に含まれるファインレスポンスVCMによって加減速のフィーリングは独自のもの(ECOモードはベース車と変わらない設定)だが、最高出力や最大トルクの数値に変更はない。なお、「モード・プレミア」は持込み登録車のためJC08モード燃費は公表されていないが、その数値はベース車(e-POWER X)の34.0km/Lから概ね変わらないとのこと
「モード・プレミア」のシートはブラック/ブラウン(写真)またはグレージュ/ブラウンから選択できる。そのほかインテリアでは専用の本革巻3本スポークステアリング(ステッチ専用色)やシルバーフィニッシャー(センタークラスターサイド、パワーウィンドウスイッチ)が与えられる
e-POWER搭載車はシフトモードに電気自動車(EV)「リーフ」と同じDレンジとBレンジを設定。ドライブモードの選択ボタンはセンターコンソールの右側に用意
ドライブモードは「ノーマル」「S」「ECO」から選択できる
写真のフロアカーペット(左)とラゲッジカーペット(右)はオプション設定
ギャラクシーゴールドカラーの「e-POWER モード・プレミア」
シートカラーはグレージュ/ブラウン

 ただ、注目は何もそんな見た目だけの話ではない。モード・プレミアに用意された「Touring Package」がなかなかイイ味を出していることである。専用の16インチホイールにはじまり、専用セッティングのサスペンション、電動パワステ、そしてボディにも補強(フロントクロスバー、フロント&リアメンバーステー、センタートンネルステー、テールクロスバー)が加わるのだ。

 さらにはファインレスポンスVCMを与えることで、パワートレーンの制御も変更。ECOモードはノーマルと変わらないアクセルだけのワンペダル走行が可能だが、ノーマルやSモードでは独自のセッティングを行なっているのだ。ちなみにこれらは12月に登場すると言われているノート e-POWERのNISMO仕様にも同様のものが与えられる。

リニアさが増した印象のパワートレーン制御

 今回は街乗りから高速道路、そしてワインディングを想定したクローズドコースを走ってみたが、そこで一般的なレベルで動かしてみても違いは明らかだった。ステアリングの切りはじめから程よい反力が感じられると同時に、素直にクルマ全体がロールしていく過程はとても自然。足がしなやかに動いているのも伝わってくる。荒れた路面でもこれなら上質にこなすことができるだろう。タイヤや足まわりだけでなく、ボディにも手を加えた効果はハッキリと感じられる。

 パワートレーンの制御はリニアさが増した印象だ。回生制御は車速が高い領域から一定した感覚であり、低速でアクセルオフした時にノーマル車で感じられたグッと引き止められるような回生は感じられない。だから完全停止するならブレーキペダルで止まる必要がある。加速方向もまたモーターのトルク変動が少なく、ジワリと速度を重ねていく。発電制御もいきなりエンジンが吹け上がることもなく、ジワリと車速に応じてエンジンが回転を上昇させていくところが心地いい。Sレンジについてはそこからアクセルレスポンスを向上させたイメージ。ちょっと元気よく応答してくれる感覚はなかなかだ。

 すなわち、基準車のようにこれまでの世界とはまったく異なる感覚は薄れたものの、今まで通りのクルマとして乗ることができる環境を整えているわけだ。それでいて燃費は変わらずだというから問題ナシ。いざとなればノーマルとは変わらないECOモードがあるわけだし、Touring Packageのネガは目新しさがないこと以外に見当たらない。

 あと求めるなら、メダリストグレードに準備されていた厚いウィンドウとドア内部に与えられた吸音材。これらが装着されないことで、石はね音が車室内にやや入ってきている。より上質にというのであれば、次なる対策として視野に入れるべきかもしれない。とはいえ、モード・プレミアに与えられたTouring Packageの見どころはかなりのものがあった。同様の仕様が与えられるというNISMOグレードも含めて、これからノート e-POWERの魅力がより一層深まることは確実である。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学