インプレッション

ボルボ「V60 ポールスター」(Drive-Eモデル)

Drive-Eパワートレーンに換装

 最初に少しおさらいをすると、ポールスターは1996年の設立からボルボを駆ってレースに参戦してきた、ボルボにとってもともと関係の深い「公式パートナー」。2015年夏にはボルボがポールスターのビジネス部門の株式を取得し、100%子会社化した。

 モータースポーツにこそ参戦していたものの、かつての市販車は「スポーツ」とは無縁という印象だったボルボだが、最近ではまったく状況が変わってきたのはご存知のとおり。今や「R-DESIGN」はイメージリーダー的な存在となっているほど。また、件のポールスターが手がけたエンジンマネージメントプログラムを使い、エンジンの出力やトルクを最大限に引き出した「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」も大半のモデルで選ぶことができる。さらには、2014年モデルからは少数限定販売のコンプリートモデルもある。今回紹介するのは、その“本命のポールスター”と言えるコンプリートの最新版となる、2017年モデルの「V60 ポールスター」だ。

8月5日に100台限定で発売された「V60 ポールスター」。価格は859万円で、セダンボディの「S60 ポールスター」は20万円安の839万円。ボディカラーは写真の「レーベルブルー」のほか、「アイスホワイト」「オニキスブラックメタリック」の3色
直噴ターボ+スーパーチャージャーの直列4気筒DOHC 2.0リッター「B420」エンジンは270kW(367PS)/6000rpm、最大トルク470Nm(47.9kgm)/3100-5100rpmを発生。トランスミッションは8速ATで駆動方式は4WD

 3年目を迎えた今回のハイライトは、パワートレーンの変更にある。従来は3.0リッターの直列6気筒ターボだったところ、「Drive-E」の「T6」、すなわち2.0リッター直列4気筒スーパーチャージャー+ターボとなり、ATは6速から8速になった。スペック的には、最大トルクは若干低下したものの、最高出力は向上しており、0-100km/h加速が0.2秒短縮されている。

 そんな最新ポールスターの戦闘力をより如実に体感できるようにと、わざわざ箱根ターンパイクを貸し切って試乗会は開催された。つまり自己責任のもと、スピードの制約なく走れるという、願ってもない機会を得ることができたわけだ。

期待に応える4気筒エンジン

ボディサイズは通常ラインアップのT6 AWD R-DESIGNと同じ4635×1865×1480mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2775mm

 エクステリアは見てのとおり。空力を高めるエアロフォルムが、けっして派手すぎず控えめながらも、ただものではない雰囲気を漂わせている。カーボンパネルをはじめ各部が専用に仕立てられたインテリアのクオリティ感も高く、随所に配された青いステッチも印象的だ。柔らかな触感のヌバック(バックスキン仕上げの人工皮革)を用いたシートは、身体を収めるとバケットシートのような包まれ感がある。

ボディ下側へのエア流入を厳守させるフロントスプリッターコーナーは、250km/h走行時に発生するダウンフォースを21kg増加させる
フロントグリルにポールスターバッヂを装着
アクティブエキゾーストシステムを採用し、リアバンパー下側はディフューザー形状となっている
V60は「大型ルーフスポイラー」(写真)、S60は「大型リアスポイラー」を標準装着
リアハッチにもポールスターバッヂを装着し、専用スカッフプレートにもポールスターバッヂが描かれている
V60 ポールスターのインパネ。内装色はブラック系のみを設定
センターコンソールのパネルは専用カーボンファイバー製に変更。8速ATにはシフトチェンジを4000rpm以上で行なう「Sport+」モードを設定し、変速スピードを高めたほか、スロットルOFF時のレスポンスも向上させている
ヌバックと本革を組み合わせた専用ステアリング
大型のサイドサポートを持つスポーツシートも表皮にヌバックと本革を使う専用品
滑り止め付きの専用アルミニウムペダル&フットレスト

 いざコースイン。せっかくなので、今回ポールスター専用に追加された「Sport+」モードを主体に走らせてみたのだが、低回転域からとてもパワフルで、痛快な吹け上がりを楽しめることが印象的。3000rpmから7000rpmにかけてタコメーターの針の上昇する勢いがカタログモデルの「T6」とはまるで違う。このエンジンフィールこそポールスターの醍醐味に違いない。

 8速となったATは踏み込みに対するレスポンスもよく、シフトチェンジは素早い。シフトダウン時のブリッピングも“いかにも”という感じではなく、さりげなくこなすあたりもボルボらしい。

 また、一連のT5やT6と同じ2.0リッター4気筒エンジンながら、エキゾーストサウンドも別格だ。3.0リッター6気筒ほどとは言わないまでも、4気筒らしからぬ低く重厚な音質のサウンドは、ポールスターのコンプリートモデルとしての期待にも十分に応えるものだ。

オーリンズ×ミシュランの妙味

 同じスウェーデンのオーリンズと共同開発したサスペンションは、本当に素晴らしい仕上がりで感銘を受けた。よく引き締まっていて、車体の振動をピタリと一発で収束させるのだが、一方で動くべきところではスムーズに動いてくれるので、振動そのものが起こりにくく、起こっても瞬時に収まるという印象だ。

 よくストロークしていることは、外から見ていても明らかだったとカメラマンも口にしていたほどで、いつもよりも心なしか写真の映りがキレイな気がする(!?)のも、そのおかげだろう。

 足まわりは極めてフラット感が高く、4輪が常に最適な状態で路面に追従している感覚がある。ハードブレーキングをしてもリアが浮く感覚もない。ステアリングへのキックバックも少なく、狙ったラインをトレースしていける。

 この素晴らしい走りには、ミシュランのパイロット スーパースポーツも大いに寄与している。オーリンズとミシュランをポールスターがまとめあげ、見事なまでの調和でこの走りを実現しているわけだ。

タイヤはカタログにも銘柄が明記されているミシュラン「パイロット スーパースポーツ」で、サイズは245/35 ZR20。ブレーキはブレンボ製6ピストンキャリパーと371×32mmのスリット入りベンチレーテッドディスクを組み合わせる。ブレーキブースターとメインシリンダーも新規開発品
サスペンションにはデュアル・フロー・バルブ(DFV)搭載のオーリンズ製ショックアブソーバーを採用。電子制御AWDシステムもポールスター専用となっている

 また、前述したヌバックのスポーツシートは、それほどきつく締め付ける感じでもなく、快適な着座感でありながら、ターンパイクを限界域で走らせても身体のブレが気になることもなく、極めてホールド性が高いこともよく分かった。このシートもまた素晴らしい完成度だ。

 動力性能やハンドリングが引き上げられていて、むろんパフォーマンスはとびっきり高いながらも、乗り心地がよく、安心感もある。あまりにもすべてのバランスがよいため、むしろ通常のカタログモデルより乗りやすいように思えたほど。いわばV60 ポールスターは、V60の超・最高級グレードのような仕上がりである。

 ボルボの中ではもちろん、このところ世界的に伸長しているというパフォーマンスモデルのカテゴリーで名を馳せるライバル達に対しても、独自の存在感を発揮しているポールスターの最新モデルは、またしても驚くほどの完成度の高さを見せつけた。とにかくドライブしているあいだ、ずっと感心しきりであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一