インプレッション

ホンダ「フリード ハイブリッド」

 長屋に代表されるように、昔から日本人は1つの部屋をあるときは食卓として、あるときは居間として、夜になったら寝室として、工夫しながら使い分ける暮らしをしてきた。本田技研工業の「フリード」は、「そんな日本人にしか造れない、アイデア満載の部屋をイメージしたクルマです」と言う、開発主査を務めた田辺正氏の言葉が印象的な1台だ。四畳半に4人家族が暮らしても快適だったと言われる長屋。全長4265mmの5ナンバーボディで、3列6人~7人乗りを実現するフリードは、新型になってどんな工夫がプラスされたのだろうか。

 一番の難問は、運転しやすいサイズと室内の広さのバランスだったという。ユーザーの半数以上が子育て層だった先代では、やはり「室内をもうちょっと広くしてほしい」という声が多かった。そのためには全長を延ばしたいところだが、あとどれくらいなら運転しやすさを損なわずに済むのか、その見極めが課題となった。そこで実際にユーザーの自宅に足を運び、どこまでならサイズアップ可能なのかを試してもらった。その結果、全長があと80mmアップまでならOKという結論が出たという。

 また、室内を広くするといっても、どこを広げれば快適さが増すのか、使いやすくなるのか。その割り振りも悩ましく、やはり実際にユーザーがどんな風に使っているのかを研究しながらの開発となった。

 そんな新型フリードは、全長を50mmアップに止めながら、1~3列目までのヒップポイント距離が90mm広がった室内空間を実現。2列目シートには先代より120mm増えた360mmのロングスライド機能を与えることで、3列目シート使用時の居住性アップも考えられている。また、6人乗りモデルではセンターウォークスルーの幅を1列目で50mm、2列目で25mm拡大。アームレストありの状態でも、先代では引っ掛かってしまった私のオシリがちゃんと通過するようになっていた。このためにスライドドア内部の部品まで改良するなど、数々の見えない苦労があったらしい。

フリード ハイブリッド EX。ボディカラーは新色の「ブルーホライゾン・メタリック」。ボディサイズは4265×1695×1710mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは全車2740mm

 さらに、ラゲッジスペースも工夫が凝らされたポイントだ。フリードのほかに、2列シートの5人乗りモデルとして、先代の「フリード スパイク」改め「フリード+(プラス)」もラインアップしているが、そちらではとくにラゲッジの使い勝手が肝になる。

フリード+ ハイブリッド EX。ボディカラーは新色の「シトロンドロップ」。ボディサイズは4295×1695×1710mm(全長×全幅×全高)で、フリードより全長が30mm長い。車名バッヂ以外で外観の大きな差は、フリード+はリアハッチがバンパー下まで続いていること

 開口部の地上高が先代より185mm低い335mm(FF車)となったことや、掃き出し口の横幅が広がってほぼスクエアな開口部になったことで、ゴルフバッグを立てて4個積んでもまだまだ余裕があるというスペースは驚きだ。ユーティリティボードを使えば上下2段に分けて荷物が積めるほか、フルフラット化を実現したシートにより、セミダブルサイズのマットレスが敷ける広大なスペースも確保。進化した車中泊機能は、どう使おうかとワクワクさせてくれる。

ラゲッジスペースのフロアを先代比で135mm下げ、FF車では開口部の地上高を335mmとして重い荷物の載せ降ろしが楽になったほか、後席では座面を前方に引き上げてシートバックを前に倒すと、シートバック背面のボードを使ってフラットなラゲッジスペースが作れる
ユーティリティボードの耐荷重は200kgで、荷物を下のスペースに収納して車中泊するようなシチュエーションも想定しているとのこと。ホンダアクセスが用意する純正用品には、アウトドアレジャーで活躍するさまさまなアイテムをラインアップ

 これは、ハイブリッドシステムの「IPU(インテリジェントパワーユニット)」が先代では3列目シート下に置かれていたところを、新型では1列目シート下に移動したことなどにより可能となったもの。ほかにも、ハイブリッドモデルにも4WDが設定されたり、車いす仕様車では車いすの乗員を含めて6人乗車が可能となったほか、コンパクトミニバンの福祉車両として初めてハイブリッドモデルを設定するなど、数々の恩恵がある。

 ただ、残念だったのは、3列目シートの格納操作が先代と変わらず跳ね上げ式で、重たくて面倒なこと。田辺氏によれば、ステップワゴンのような床下格納式などいろいろと検討はしたが、最終的には跳ね上げ格納式にするしかなかったという。それでも先代より軽量化し、格納時の張り出しも抑えられているとのことだった。シエンタでは、3列目シートが2列目のシート下に収まる床下格納式を採用しているが、毎回2つの操作が必要だったり、2列目にチャイルドシートを装着している場合には、いちいち取り外さなければ3列目の出し入れができないなど手間がかかる。それを考えれば、使い勝手の面ではフリードの選択がベストなのかもしれない。

ホンダアクセスのフリード+ ハイブリッド純正アクセサリー装着車
無限のスタイリングセットなどを装着したデモカー
ホンダアクセスのフロントグリルは写真のカラードタイプのほか、クロームメッキタイプも用意。LEDフォグランプも写真のクリアに加え、11月下旬にはイエローが発売予定
スライドドアの開閉と連動し、ブルーLEDが足下を照らすオートサイドステップは全車に装着可能
純正用品のセンターコンソールバッグは、中央部にチャックを設定。側面に小物を入れるポケットも備えている
2列目キャプテンシート用のシートカバーは、大型ヘッドレストの左右サポートキット付きも選べる

身体が横揺れしない3列目シートは好印象

 さて、運転席に座った印象は、フリードもフリード+も変わらない。明るく開放感があり、北欧家具のような温もりを感じさせる雰囲気だ。フロントウィンドウはドライバーの見上げ角を向上させ、左右のフロントクォーターウィンドウを大きくとった視界のよさと、出っ張りがなくてスッキリとしたインパネのデザインで、とてもリラックスできる空間になっている。ルームミラー近くに後席の様子を確認できるサブミラーがあるのも、子育て層にはとくに嬉しい心遣いだ。

 まずは1.5リッター直噴ガソリン+CVTモデルで走り出すと、エンジン音がやや大きく感じられるものの、中速域までとても軽やかな加速フィール。大人3人乗車では余裕たっぷりで、市街地でのストップ&ゴーもキビキビとした挙動が爽快だ。さすがに7人フル乗車になると最初のひと踏みに重さは出るが、その後はしっかりとカタマリ感のある走りを見せてくれた。

フリード+ ハイブリッドのインパネ
メーターパネル左側に「信号情報活用運転支援システム」(オプション)の「発進遅れ防止支援」などの情報を表示できる

 実は田辺氏は、走りに定評のあるミニバン「オデッセイ」の開発にも携わっている。「だから、フリードの走りにも魂を込めました」という言葉は、高速道路を走ってなるほどと実感できた。レーンチェンジやカーブでのフラットな安定感、ボディが一体となっているガッシリ感が、運転に余裕をもたらしてくれる。新設計の骨格やシャシーによって重心が8mm下がり、スタビライザーの剛性を20%アップさせたことでロールを低減。リアのトーションビームはとくにこだわって改良し、リアサスのねじり剛性は先代比100%アップというから驚きだ。

 ステアリングはもう少し落ち着いた手応えがほしいと感じたが、自然で前のめり感のないブレーキングや、3列目シートでも身体が横揺れしない乗り心地は好印象だった。

シート表皮は写真のファブリック×プライムスムースとファブリックのみの2タイプを設定する
3列目シートは広さがアップしただけでなく、走行中に横揺れしないことでも快適性が高い空間となっている

 そして1.5リッターハイブリッドモデルに試乗すると、やはり際立つのは静かさ。タイム計測ではガソリンモデルの方が加速がいいらしいが、アクセルを踏んだ感覚ではハイブリッドモデルの方がモリモリとした力強さを感じる。トランスミッションが7速DCTなのもその理由かもしれない。でも、決してスポーティ感が強いのではなく、なめらかさや上質感のある大人っぽい乗り味だ。こちらも3列目の乗り心地は上々で、オマケのような3列目シートが多いコンパクトミニバンの中では別格の快適性だと言える。

 外観を初めて見たときには、いったいどこが変わったのか分からないと感じるぐらいキープコンセプトで登場した新型フリード。でも、実際に乗って使ってみると「ちょうどいい」がウケて大ヒットした先代から、さらにユーザーの細かな要望に応えていることが分かった。運転しやすいボディサイズでも、広くて便利に使えるクルマが欲しいという日本人ならではの願い。新型フリードは、「ちょうどいい」から「もっとちょうどいい」に進化した、日本の暮らしを支えるコンパクトミニバンだ。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:堤晋一