インプレッション
ボルボ「S60 T6 AWD R-DESIGN」(ポールスター・パフォーマンスパッケージ装着車)
Text by 岡本幸一郎(2015/6/11 08:00)
直6のボルボを手に入れる最後のチャンス!?
かつてはいくらでもあった直列6気筒エンジン=直6が、いつのまにか希少な存在になっていた。2015年6月の本稿執筆時点で、もはや直6の生産を手がけるメーカーというのは数少ない。例外的なものを除いて、日本で普通に買えるというモデルではBMWとボルボぐらいのもの。そして直6を横置きしたクルマになると、あとにも先にもボルボぐらいのものだ。
直6のイメージの強いBMWも、今ではエンジンラインアップは直列4気筒が主体となっているのが現状。一方のボルボにはあまり直6のイメージはないところだが、実は創業まもない1920年代の終わりごろから、ときおりインターバルをはさみつつ直6搭載モデルをラインアップに用意してきた。また、ボルボというとまだまだ5気筒エンジンのイメージも強いのだが、2015年6月の執筆時点ではすでに5気筒エンジンはラインアップされていない。
そんなボルボが、将来的にエンジンを4気筒以下に絞るつもりであることはすでにアナウンスされており、Car Watchでもインタビュー記事を紹介している。
【インタビュー】新パワートレーン「Drive-E」担当マネージャーが語るボルボの将来像とは
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140221_636234.html
そしてついに“そのとき”が訪れようとしている。今回の試乗会は、タイトルがズバリ「VOLVO Straight 6 Engine Final Test Drive」である。会場には、T6エンジン搭載車にポールスターが手がけるソフトウェアを装着した60シリーズが数台用意されていた。
ニューモデルではない車両を並べ、このタイミングで敢えて試乗会を実施した主旨というのは、最後の6気筒エンジン搭載モデルをあらためて味わうとともに、試乗会開催の時点で150台程度が残っているという日本国内向けの在庫を、あとで買いそびれたと嘆くファンがいないよう、これが「最後のチャンスである」とできるだけ多くの読者諸氏に知らせることにある。
ところで、「ポールスター」というのは、ボルボのモータースポーツ&カスタマイズの公式パートナーとして1996年に設立され、すでに欧州のレーシングシーンで輝かしい戦績を収めている「ポールスター・レーシング」に由来する。
エンジンのポテンシャルを引き出す「ポールスター・パフォーマンスパッケージ」は、今回の3.0リッター直列6気筒「T6」エンジンのほか、1.6リッター直列4気筒「T4」エンジンにもオプションで用意されている。さらに、800万円クラスという価格で限定販売された、ポールスターの名前が与えられた別格的なコンプリートモデルも存在している。
「ポールスター」オプションを標準装備ながら割安
以前にその限定販売のコンプリートモデルの素晴らしい走りを味わった機会を除いて、直6エンジンを搭載したボルボ車をドライブするのは久しぶりのこと。今回もドライブして、あらためてそのフィーリングのよさに感心した次第である。
「ポールスター・パフォーマンスパッケージ」というオプションは、最高出力&最大トルク、エンジンレスポンスなどのマネジメントを最適化し、トランスミッションプログラムの変更がメインとなる。大幅なスペック向上を実現しながらも、燃費や排出ガス性能はノーマルと同じで、もちろんオプション導入後もメーカー保証の対象となる。具体的には、最高出力は224kW(304PS)から242kW(329PS)に18kW(25PS)向上、最大トルクは440Nm(44.9kgm)から480Nm(48.9kgm)に40Nm(4.0kgm)の向上を果たす。
オプション価格は20万5715円。ところが、7月31日までの期間限定で「S60」「V60」「XC60」のT6エンジン搭載車を購入すると同オプションが無償でプレゼントされ、さらに通常よりも抑えた車体価格となるキャンペーンが実施されている。価格はレギュラーモデルよりも低めの設定で、同オプションを含めて約46万円~50万円の得となる。
ドライブすると、やはり直6エンジンはサウンドと吹け上がりがつくづく素晴らしいとあらためて思う。このエンジンが世に出た当初よりも低速域でのレスポンスとトルク感が向上し、トップエンドの6500rpmまでよどみなく吹け上がる。全体的にフィーリングがスムーズになっているようにも感じられた。新たに開発した2.0リッター直4のT5エンジンを世に送り出すなど、新しい取り組みにも積極的なボルボだが、一方で直6も直6で進化しているのだ。
しかも、ポールスター・パフォーマンスパッケージはノーマルに対してまったくデメリットがなく、しかも無償で手に入れられるのだから、直6ファンはこの機会を見逃す手はない。これを味わえなくなってしまうのは実に残念なのだが、これも時代だから仕方がない。
コンプリートモデルも予約注文開始
今回はセダンのS60をドライブした。ボルボと言えばエステートモデルのV60のほうが日本でも人気が高いのだが、ドライバビリティとしては、よりボディー剛性の高いS60のほうがだいぶ上だと個人的には思っている。
今回はご覧のとおり大雨のなかでの試乗となり、普通ならここで「あいにくの」というお決まりのフレーズを使いたくなるところだが、このクルマの場合はその必要がない。なぜなら、雨だからこそ天候を問わないオールマイティさを体感することができたからだ。ヘビーウェットでも極めて安定した走行性能で、タイヤのグリップを余すところなく引き出し、安心して、かつ楽しく走ることができるのだ。
そして、前回も好評のうちに完売となった、ポールスターが手がけた2016年版のコンプリートモデルの予約受注も6月1日から始まっている。販売台数と価格は、「S60 ポールスター」が10台限定で829万円、「V60 ポールスター」が40台限定で849万円となる。これこそ本当にボルボ最後の直6エンジン搭載車となるわけで、6気筒のよさが忘れられないスペシャルなボルボ車を好むファンは、少々無理をしても買う価値があるのではないかと思う。