インプレッション

ボルボ「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」

 現在、ボルボのラインアップにおける上級グレードの大半に、「T6」と呼ぶ直列6気筒3リッターターボエンジンが搭載されている。

 直列6気筒エンジンが世界的に消滅の一途をたどっているのはご存知のことと思うが、ボルボではこれを横置きに搭載することで、効率的にクラッシャブルゾーンを確保できることから、あえてこの方式を採用している。

 いまだ世に愛好家の多い直列6気筒エンジンを、横置きとはいえボルボがラインアップしつづけていることも興味深いところだが、このほど、そのT6エンジンの性能をさらに向上させる「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」が、20万円の価格で発売された。以前より海外では販売されていたところ、日本でもようやく準備が整ったので発売のはこびとなった。

V60 T6 R-DESIGN ポールスター・パフォーマンス・パッケージ。後部にポールスターのエンブレムが貼られる。車体色はR-DESIGN専用のレーベルブルー

プログラムでエンジンをパワーアップ

ポールスター・パフォーマンス・パッケージの性能曲線

 「ポールスター」というのは、レーシングチューナーのポールスター・レーシングのことで、ボルボのモータースポーツ公式パートナーだ。これまでも海外では、ポールスターの名を冠したモデルは存在したが、日本では初の販売となる。

 ポールスター・パフォーマンス・パッケージは、内容としては専用エンジン・マネージメント・プログラムと、ポールスターのリアエンブレム、オーナーズブック、ポールスター・パフォーマンス認定証で構成される。

 性能を向上させる方法はいたってシンプルで、ボルボとポールスター・レーシングが共同開発した、エンジン・マネージメント・プログラムによって行なう。ポールスター・レーシングがモータースポーツで培った技術が惜しみなくフィードバックされており、インストール後も新車保証は引き続き適用される。

 性能曲線を見ると、ほぼ全域にわたってパワー、トルクとも向上していることが見て取れる。数値としては、最高出力が224kW(304PS)/5600rpmから242kW(329PS)/5400-6500rpmへ、最大トルクは440Nm/2100-4200rpmから480Nm/3000-3600rpmへと向上している。パワーもさることながら、むしろトルクの上がり幅の大きさが印象的だ。これだけ変わっていれば、体感的にもさぞかし変わっているのではと予想できる。

 それでいて燃費への影響はなく、カタログ記載の燃費値も変わっていないところもポイントだ。

 そこまでよいもので、何もデメリットがないのであれば、ポールスター・パフォーマンス・パッケージをT6エンジンの標準仕様としてもいいのでは? という気もしたのだが、これほどの性能をすべてのT6ユーザーが必ずしも求めているわけではないので、あくまでプラスアルファの選択肢として用意することに意義があると、ボルボでは考えているという。そして、もしも気に入らなければ簡単にもとに戻すこともできる。

右2枚はS60 T6 R-DESIGN ポールスター・パフォーマンス・パッケージ

誰でも効果を体感できる

 試乗したのは箱根ターンパイク。アップダウンが大きく、高速コーナーの連なるステージで、「S60」と「V60」の「T6 AWD R-DESIGN」にポールスター・パフォーマンス・パッケージをインストールした車両をドライブした。

 T6エンジンはノーマルのままでもけっこう速いのだが、ポールスター・パフォーマンス・パッケージをインストールした試乗車は、走りはじめから雰囲気が違う。軽く踏んだだけでも、低回転域から盛り上がり感のある加速をし、そのまま伸びやかに加速していく。

 そして、ノーマルでは高回転域やや頭打ち感があったところ、ポールスター・パフォーマンス・パッケージ車はトップエンドまでストレスなく吹け上がる。全体的にトルクの厚みが増していることも体感できる。勾配のきつい上り坂でもグイグイと上っていく。

 もともと十分にパワフルなT6エンジンに、プログラムの書き換えだけで、まだこれだけ性能向上するほどの余力が残っていたとは驚きだ。

 トルクバンドもノーマルに比べて変わり、スイートスポット自体は小さくなっているのだが、全体的に底上げされているので、扱いにくい印象はまったくなかった。インストールによる効果は、誰でも体感できるほど大きなものだ。

 このエンジンをより味わうがために、パドルシフトが欲しくなった。そして、R-DESIGNの引き締まったフットワークと併せて、ここしばらくのボルボにはなかった、エキサイティングなドライビングを楽しむことができた。

より刺激的に

 もともとT6エンジンはパワフルだと思っていたとはいえ、その加速感は万人向けというか、いわば秩序のあるもの。また、かつてボルボにあった「R」を冠するモデルの役目を、今ではT6 R-DESIGNが引き継いでいると思うが、その点で、刺激度という意味では物足りない印象もなくはなかった。

 今回のポールスター・パフォーマンス・パッケージは、そのRモデルの生まれ変わりのようにも思えるし、ボルボに興味のある人すべてにとって、こうした仕様が用意されているというだけでも、よりワクワクできるではないかと思う。

 なお、ポールスター・パフォーマンス・パッケージは、R-DESIGNに限らず、2011年モデル以降のT6エンジン(型式:B6304T)を搭載する「S60」「V60」「XC60」「V70」「XC70」「S80」などに装着可能。もちろん新車だけでなく、該当するモデルであれば現オーナー車両も含めて。興味のある方は、装着の可否など詳しくは販売店に問い合わせてみて欲しい。

 ちなみに、11月5日の発売から1カ月ほどで、すでに約100台分が販売され、発売後の試乗キャンペーンでの反響もかなり大きかったそうだ。

 装着によって、見た目が大きく変わるわけではないが、動力性能というクルマの基本要素を高めることは、自己満足心を満たしてくれるもの。そして、20万円でこれほど変わり、万全な保証も付くのなら、対価を支払う価値は大いにあると思う。

 ところで、本国ではもっとチューニングしたプロトタイプもすでに存在するとか。そちらの今後の展開にも期待したいところだ。

(岡本幸一郎)