インプレッション

ボルボ「V60 T4 R-DESIGN PLUS」

買い得感の高い内容と価格

 従来から大きくイメージチェンジを図り、2011年より日本に導入されている現行モデルのS60/V60。2013年度には日本で1万7951台を販売して、ボルボにおいて販売全体の約3割を占めており、V40と並んで主力モデルとなっている。そして、2013年8月に約4000個所にもおよぶ大規模なマイナーチェンジを実施したかと思えば、2014年初頭には新世代パワートレーンを搭載した新しい「T5」をラインアップに加えるなど、その商品力の向上には余念がない。

 そんなS60/V60には、2014年の5月にも装備を充実させた「LuxuryEdition」という特別仕様車が設定されたばかりだが、さらに8月になって「T4 R-DESIGN PLUS」という特別仕様車が発売された。

V60 T4 R-DESIGN PLUS(アイスホワイト)

 なにかこれまでにない装備などが加わったわけではないが、この特別仕様車も非常に買い得がある内容となっている。「ヒューマン・セーフティ」や「全車速追従機能付ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」「フル・アクティブ・ハイビーム」など10種の先進安全機能が、通常は約20万円高のオプション装備となるところを標準で付く。それでいて、ベースモデルの497万8285円より約18万円も低い、479万円に価格設定されているのだ。

 また、購入者には、プログラムの書き換えによって「T4エンジン」の最高出力が20SPアップとなる200PS、最大トルクが45Nmアップとなる285Nmへと向上する「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」を、通常は価格20万円あまりのところを無償でインストールできるキャンペーンも実施される。

 つまり、ベースモデルに合計で40万円分あまりのプラスアルファを加えた上に、さらに約18万円も安いモデルということになる。単純に金額だけで考えても、このT4 R-DESIGN PLUSの買い得感が非常に高いことは間違いない。

R-DESIGNは専用バンパーを採用し、グリル内にバッヂを装着
V60(写真)はリアゲート、S60はトランクリッドに「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」の青い専用エンブレムを装備

走りのよさを再確認

ポールスター・パフォーマンス・パッケージが適用された試乗車の直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンは、20SP/45Nmアップの最高出力147kW(200PS)/5750rpm、最大トルク285Nm(29.1kgm)/2000-4250rpmを発生

 今回の試乗では、標準仕様のT4 SE(最高出力180PS、最大トルク240Nm)と乗り比べることができたのだが、ポールスター・パフォーマンス・パッケージをインストールしたT4 R-DESIGN PLUSの走りとの違いは明白だった。全域にわたってトルクが増しているし、高回転域における回り方の勢いもだいぶ違う。パーシャルスロットルからのツキもわるくなく、強いて挙げると若干の飛び出し感は認められるものの、低回転域であまり扱いにくさを感じることもない。それでいて、JC08モード燃費の公表値も同一だ。そんな同パッケージが無料で付いてくるというのは大歓迎だ。

 念のため記しておくと、従来は未設定だったパドルシフトが2014年モデルから設定されたのもありがたい。また、「Elegance」「Eco」「Performance」という3モードを選択可能な最新のデジタル液晶メーターパネルが与えられているのもよい。

V60 T4 R-DESIGN PLUSのインパネ。基本的にベース車からの変更点はない
2014年モデルからステアリングにパドルシフトを備えるようになった
トランスミッションは湿式デュアルクラッチの6速DCT
アクティブTFTディスプレイの「デジタル液晶メーターパネル」。表示はR-DESIGN専用の「Elegance」
「Performance」ではメーター外周がタコメーターになる
グリーン照明でメーター左側に「エコガイド」を表示する「Eco」
R-DESIGN専用の本革/パーフォレーテッドレザーのコンビネーションシート
シルバーに輝くスポーツペダル

 足まわりについては、デビュー当初のT4 R-DESIGNよりも大幅に洗練されていることをあらためて確認した。初期型は乗り心地がかなり硬く、跳ね気味だったところ、現在ではしなやかで快適な乗り味に仕上がっている。専用のスポーツサスペンションが与えられるR-DESIGNは、実際にはベーシックモデルよりも足まわりが締め上げられているのだが、初期入力からフリクションがなく、よく動くので路面への当たりがマイルド。大きな入力があっても余分な動きを瞬時に収束させる。おかげで結果的にベーシックモデルよりもむしろ乗り心地がよく感じられたくらいだ。

 ハンドリングの味付けも、初期型はいささか切れ味が鋭すぎるきらいがあったが、現在はちょうどよくなっているように思う。

 この乗り心地に寄与しているのがR-DESIGN専用のレザーシートで、もちろん、T4 R-DESIGN PLUSにも標準装備されている。ボルボらしく大ぶりなサイズで、張り出したサイドサポートなどを見るにつけ、いかにもホールド性が高そうだが、用いられている皮革が柔らかく、クッション性もあるので着座感は非常に良好だ。

出口付近にライフリングを思わせる凹みを入れたデュアル・スポーツテールパイプ
専用の「Ixion」デザインアルミホイールを装着。タイヤサイズは235/40 R18
エンジンルームに設置されているタワーバーにもR-DESIGNのロゴが入っている

競合車に対するアドバンテージ

 同価格帯の競合車と比べると、このクルマの価値の大きさと買い得感の高さがより鮮明になってよく分かる。メルセデス・ベンツ C180アバンギャルド(467万円)、BMW 320i スポーツ(498万円)、アウディ A4 2.0TFSI S-line(502万円)などと比べると、まずは価格面での優位性がある。

 そして、ボルボ車として期待される安全装備についても、競合車ではオプションであるとか、そもそも設定自体がない機能も少なくないところ、このT4 R-DESIGN PLUSでは、作動速度域を50km/hに引き上げた「シティ・セーフティ」や、人だけでなくサイクリスト検知機能も追加した「ヒューマン・セーフティ」、ほかにも「アクティブ・ベンディングライト」「フル・アクティブ・ハイビーム」など、先進的な安全技術装備が数多く標準装備されるところは非常に魅力的であることに違いない。

 念を押すと、前述のレザーシートやACCについても、上記の競合車ではオプション扱いか設定なしとなっている。これでS60/V60ともに500万円を大きく下まわっているというのは、非常にバリューが高いと思う。

「ヒューマン・セーフティ」「ACC」で利用されるミリ波レーダー
フロントウインドー内側にあるデジタルカメラは「シティ・セーフティ」「ヒューマン・セーフティ」で車両前方を監視
「BLIS(ブラインドスポット・インフォメーション・システム)」はドアミラー近くのランプが光って車両後方の側面に接近している車両などがいることを警告

 ちなみにボディーカラーについては、主な設定として「クリスタルホワイトパール」「パワーブルーメタリック」「ブラックサファイヤメタリック」「アイスホワイト」の4色が公式にアナウンスされているが、すでに販社が発注しているケースではそれ以外のカラーもあるらしいので、興味のある方は早めに問い合わせてみることをおすすめする。

 なお、T4 R-DESIGN PLUSの販売は、台数や期間が限定されていない。2013年秋に新世代の「T5」が出たとはいえ、25万円以上の価格差もあってか、「T4」を選ぶ層は依然として多いとのこと。ボルボとしてもひきつづき「T4」を主力モデルとして扱っていくという。

 さらに念を押すと、同モデルはモデル末期によくある“バーゲン車”では断じてない。ライフサイクルが長いボルボにとって、S60/V60はまだまだモデルライフのど真ん中にある。そんなS60/V60に、こうした買い得感ある特別仕様車がラインアップされたことを歓迎したい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛