インプレッション

ボルボ「S60 ラグジュアリー・エディション」

多数の装備が採用された「ラグジュアリー・エディション」

 新型「V40」のスマッシュヒットを筆頭に、数ある輸入車ブランドの中にあってもこのところその存在感を確実に高めつつあるのが、歴史あるスウェーデン・メーカーであるボルボだ。このブランドから、またもちょっと気になるモデルが上陸した。前出V40と並ぶ同社の基幹モデルである「S60」「V60」シリーズに設定された特別仕様車「ラグジュアリー・エディション」がそれだ。

 端的に紹介すれば、「もともと人気の高かったT4 SEグレードをベースに、さまざまな特別装備を採用しながらも価格を抑えた、いわゆるお買い得バージョン」と呼べるのがこのモデル。具体的には、約50万円相当分のメーカーオプションを組み込みながら、ベースモデルよりも約20万円安の低価格を実現、というのが謳い文句になっている。

 今回取材を行ったのはセダン・バージョンのS60。実は、そのエクステリアのルックスは、ベース仕様のT4 SEに比べ寸分の違いもない。特別仕様車と耳にして専用デザインのボディーキットなどを纏う姿を期待した人には残念かも知れないが、逆にファストバック調でちょっと個性的なS60のクリーンなプロポーションが“手付かず”の状態でキープされた点を歓迎する人も多いはずだ。

T4 SEグレードをベースにする「S60 ラグジュアリー・エディション」。ボディーサイズは4635×1865×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2775mm。価格は399万円(ステーションワゴンの「V60 ラグジュアリー・エディション」は419万円)

 こうして、見た目のドレスアップよりも内面のグレードアップに重きが置かれたラグジュアリー・エディションではあるものの、実はキャビンへ乗り込もうという段階では、すでに特別仕様車ならではの恩恵を受けられることになる。

 このモデルには、ベースグレードではオプション扱いとされる「キーレスドライブ」を採用済み。キー上のボタンを操作しなくても、ドアハンドルを引くだけでロックが解除され、やはりベースグレードではオプション設定に留まるゴージャスなレザーシートへと、スマートに乗り込むことができるからだ。

多数の安全装備に加え本革シート、助手席8ウェイパワーシート、12セグ地デジチューナーなど約50万円相当のオプションを装着しつつ、価格はベースモデルから20万円以上引き下げられている

 そんな前後のレザーシートに加え、パッセンジャー側フロントシートの8ウェイパワー調節機能や地デジチューナーなど、快適機能の充実も図ったラグジュアリー・エディションの真髄は、ボルボが誇る数々の最新セーフティ・デバイスをほとんど「フル装備」という状態にまで採用した点にある。

 ベースグレードにも標準装備される、50km/hまでの速度域で作動する前車への追突回避・軽減オートブレーキの「シティ・セーフティ」に加え、ミリ波レーダーとデジタルカメラを活用して歩行者や自転車への追突回避・軽減を行う「ヒューマン・セーフティ」も装備。同時に、やはりミリ波レーダーを活用する全車速追従機能付きのクルーズコントロール「ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」や車間の警告機能、さらにはドアミラーの死角をカバーする「BLIS(ブラインドスポット・インフォメーション・システム)」や70m後方を監視して急接近車両の存在を知らせる「LCMA(レーン・チェンジ・マージ・エイド)」、後退時に左右からの接近車両を知らせる「CTA(クロス・トラフィック・アラート)」、道路標識を読み取ってメーターパネル内に表示する「RSI(ロード・サイン・インフォメーション)」、ドライバーの注意力低下をセンサーで検知して休憩を促す「DAC(ドライバー・アラート・コントロール)」、対向車・先行車への眩惑を防ぎながら可能な限りハイビームを維持する「フルアクティブ・ハイビーム」等々と、実に多彩なドライバー・サポートのアイテムを満載しているのだ。

 実は、400万円台の半ばから後半で出揃う周辺ライバルたちの装備をチェックすると、人や自転車を検知して作動する自動ブレーキ・システムや、アクティブ・ヘッドライトの標準採用は他に例を見ず、前車追従機能付きのクルーズコントロールも、多くのモデルが20万円前後という高価なオプション・アイテムであったりする。

 対して、S60 ラグジュアリー・エディションの場合にはそれらすべてを備えながらも400万円を切る価格を実現。なるほど、これはいわゆる“お買い得バージョン”の中にあっても、特に価値あるモデルだと印象を改めて強く抱かされることになるのだ。

「排気量の数字を忘れてしまう」実力の持ち主

搭載する直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンは、最高出力132kW(180PS)/5700rpm、最大トルク240Nm/1600-5000rpmを発生

 いかに「装備充実」と言っても、もちろん自動車の本質部分に魅力が薄ければ、それは本末転倒というものだろう。だが、このモデルの場合は幸いなことに、クルマ本来の機能である走りの質感についても、なかなか高い得点を与えることができるのだ。

 6速DCTとの組み合わせで搭載されるエンジンは、直列4気筒1.6リッターの直噴ターボ・ユニット。排気量だけに目を奪われると「そんな小さい心臓で大丈夫なの?」と不安になる人も居るかも知れない。だが、わずか1600rpmから発せられる240Nmという最大トルクと180PSという最高出力は、1.5t級の重量をとりあえず不満なく走らせる実力の持ち主であるのは間違いない。実際に自らでアクセルペダルを踏み込んでみれば、「排気量の数字などは忘れてしまう」のがこのモデルでもある。

 加えて、かつてはやや足腰が硬いという印象だった乗り味が、昨年のマイナーチェンジを受けてすっかりしなやかなテイストになったことは、すでに各所で報告済みの事柄。もちろんこのラグジュアリー・エディションでもそうした好印象は変わってはいない。そんなタイミングでシフトパドルが採用されたことも、嬉しいポイントであるわけだ。

 ただし1点だけ留意をすべきことは、すでにボルボではすべてのモデルに及ぶ新世代パワーパックへの転換プログラムが進行中で、この特別仕様車を含むS60/V60 T4シリーズが搭載する現在のパワーパックも、近い将来には2.0リッターの直噴ターボ・ユニット+8速ATへと置き換えられる可能性が強いということ。

 前述のように、実際の動力性能には現状でも不満があるというわけではない。しかし、すでに新世代パワーパックが採用されたハイパワー・バージョンである、S60/V60のT5シリーズの実力を知ってしまうと、それと基本構造を共にするパワーパックを採用するはずの次期T4シリーズも、その時点でより燃費や静粛性の向上が図られることは確実というのを承知と納得の上で選ぶべきが、この特別仕様車でもあるということだ。

 その装備内容や走りの実力からすれば、それでもこのラグジュアリー・エディションが大いなる“お値打ち車”という評価は少しも変わりようがない。が、最新の心臓部を搭載することこそに新車の価値を見出すという人に対しては、「もう少し待ってみるのが賢明」とアドバイスをしたくなるのもまた事実なのだ。

 このあたりをどのように受け取り、判断するかは、まさに“アナタ次第”ということになる。じっくり吟味し、迷いに迷ってから結論を出して欲しい。そんなちょっと悩ましい特別仕様車でもあるのがこのラグジュアリー・エディションというわけだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

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Photo:中野英幸