インプレッション

フォルクスワーゲン「ティグアン」

 フォルクスワーゲンのコンパクトSUVである「ティグアン」にFFモデル「ティグアン TSI ブルーモーションテクノロジー」が追加された。

 まずはティグアンはどんなクルマなのか、そのプロフィールから振り返ってみたい。ティグアンがデビューを飾ったのは2007年のフランクフルト・モーターショーであった。当時は、BMW「X3」がすでにヒットしており、ボルボからも「XC60」が出るなど、SUVでも乗用車ベースで、よりコンパクトなモデルに注目が集まっていた時期だ。そのトレンドの中でフォルクスワーゲンが世に送り出したのがゴルフのプラットフォームを利用したティグアンであった。

 その初代ティグアンは世界各地で好評を得ることに成功する。デビューの2007年から2011年までに世界5大陸で57万台以上のセールスを記録。そして2011年3月のジュネーブ・モーターショーにてフェイスリフトした現行モデルが発表された。

 このフェイスリフト後のモデルは、2011年11月に日本に上陸する。このときは、最高出力132kW(179PS)の2.0 TSIエンジン(直列4気筒直噴ターボ)に7速デュアルクラッチトランスミッション「DSG」とフルタイム4輪駆動システム「4MOTION」を組み合わせた「ティグアン スポーツ&スタイル」のみのラインナップであった。そして翌2012年2月にスポーティなエクステリアと専用装備を充実させた「ティグアンR-Line」を追加している。

 そして、今回、新グレードとなるFFモデル「ティグアン TSI ブルーモーションテクノロジー」が追加されたのだ。このモデルには従来からある2リッターTSIと異なる、1.4リッターTSIエンジンが搭載されている。また、すでに導入されていた2リッターの4WDモデルは「ティグアン R-Line」のみに整理され、名称も「ティグアン 2.0 TSI R-Line 4MOTION」に改められた。

ティグアン TSI ブルーモーションテクノロジー

ダウンサイジング&シティユースのトレンドにフィット

 試乗できたのは17インチのタイヤ&ホイールを装備するベーシックな「TSI ブルーモーションテクノロジー」だ。ベーシックといえども「パサート」や「トゥアレグ」とも意匠を同じくする水平基調のグリルを持つフロントのルックスは、硬質で上質なイメージ。コンパクトSUVというクラスを超え、より堂々とした上級クラスのクルマのような存在感が漂っていた。

 運転席からのインテリアの眺めは、微妙にデザインが異なるけれど、ゴルフの雰囲気に近い。パーツごとの組み合わせが緻密だ。色気や贅沢さはないけれど、機能的で精密な優れた道具であるという印象。

 また、目線が高いこともあり、左右幅などの車体感覚はつかみやすい。実のところサイズは4430×1810mm(全長×全幅)であり、日産「エクストレイル」や三菱「アウトランダー」、マツダ「CX-5」など国産SUVとほとんど変わらない。逆にティグアンの方が、若干小さいくらいだ。そのため実際に取りまわしもわるくなく「大きなSUVは手にあまる!」と考える人でも、試してみる価値はあるだろう。

 走り出しの最初の1歩は、かなり力強い。1540kgの車体がアクセル操作に対して、グイとばかりに軽々と動き出す。低回転から働くスーパーチャージャーと高回転を得意とするターボチャージャーという2つの過給器を備える1.4 TSIは、低回転からトルクフルだ。わずか1500rpmで最大トルクの240Nmを生みだし、そのまま4000rpmまで最大トルクを発揮し続ける。街中であれば、そのトルクのピークの中である1500~3000rpmでほぼ事足りてしまう。エンジン音の遮音の度合いは高く、同乗者との会話も明瞭だ。排気量はわずか1.4リッターだが、十分以上の動力性能が確保されていた。

 組み合わせる6速DSG(2リッターの4WDモデルは7速DSG)の作動は非常に滑らかだ。追い越し加速など一気にパワーが欲しいとアクセルを踏み込んだときの対応もジェントル。鋭く荒々しく加速するのではなく、同乗者が驚かないようなスムーズな加速を見せる。

 また、この1.4リッターTSIユニットを搭載したティグアン TSI ブルーモーションテクノロジーのJC08 モード燃費は、14.6km/L。アイドリングストップ機構「Start/Stopシステム」やブレーキエネルギー回生システムだけでなく、巡航中にアクセルペダルをリリースするとエンジンとトランスミッションを切り離して慣性走行を行うコースティング走行モードまでも標準装備に。こうしたシステムも採用したことで従来の2リッター・モデルの11.5km/Lよりも大きく燃費性能が向上している。十分な動力性能と高い省燃費性能を併せ持った、欧州のエンジン・ダウンサイジングのトレンドの王道をゆくパワートレーンというわけだ。

 ステアリングの手応えは軽めだが、微少舵付近の締まったフィールは、いかにもな欧州車テイスト。ワインディングでの身のこなしは俊敏さよりも安心&安定重視が狙いのようだ。ロールに不安感はなく、なによりも路面の凹凸を上手にいなす。この乗り心地のよさはSUVではなく、完全に乗用車のレベル。大柄で背の高い車体からくる不満や不安は微塵もない。それどころかジェントルなパワートレインに見合った優雅な身のこなしは、国産SUVとは異なるティグアンならではの魅力だ。

SUVに求められる要件にどう答えるか

 近年のSUVには、悪路での走破性能ではなく、舗装路での快適な走行性能の方が強く求められているのは誰もが知るところ。さらに、プレミアム&コンパクトSUVといえば、その傾向はより強い。実際のところオフロード能力は「本気を出せばすごい!」というイメージとしての役割が強く、国産SUVよりも遙かに高額な欧州プレミアムSUVをドロドロの悪路に持ち込むことは、日本においてはマレなことではないだろうか。

 そうした現状を踏まえれば、ティグアンにFFモデルをラインナップが加わるのは、ごく当然の流れであり、導入が遅すぎたくらい。高いオフロード能力ではなく、ドイツ車らしい、しっかりとしたオンロードの走りや高品位なつくり込みが魅力となるわけだから、積雪地域でもなければ無理に4輪駆動にこだわる必要もない。

 また、今回追加されたFFモデルの価格は339万円である。これは国産SUVよりは上だが、輸入プレミアムSUVとしては最も手頃な価格帯という絶妙な価格設定だ。

 FF化によって、手頃な価格を実現。しかも、トレンドの最前線をゆくダウンサイジング加給パワートレインによって、高い省燃費性能と十分な動力性能を併せ持つ。SUVを日常の足として利用したい人にとってティグアン TSI ブルーモーションテクノロジーは魅力溢れる1台に見えることだろう。

(鈴木ケンイチ)