インプレッション

日産「ブレードグライダー」「リーフ NISMO RC」など電動パワートレーンラインアップ

日産電動パワートレーンの今

 日産自動車の新しい移動体の提案として「Intelligent Mobility」という概念がある。1つはPower、そしてdriving、もう1つはIntegrationだ。Powerは「リーフ」や「GT-R」など、電動化技術のみならず走りにフォーカスしたもの。Drivingは「ProPILOT(プロパイロット)」のように同乗者にも貢献できる自動化技術など、そしてIntegrationはIoTのようにつながることでクルマの多様化を図るものだ。

 この中で、今回は電動化技術に特化したPowerを袖ヶ浦フォレストレースウェイで体感した。はじめに行なわれたプレゼンでは、日産自動車 パワートレインプロジェクト部 パワートレイン主管の仲田直樹氏から、この3年間で急速充電器は1899基から7204基に、普通充電は4766基から1万4445基に増え、充電インフラの充実でEV(電気自動車)の使用環境は大きく改善されていると説明があった。EVの充電スポットは増えていると漠然と認識していたが、これほど拡充しているとは正直思っていなかった。

 さらにEV側ハードの大きな変更なく、バッテリーパック、モジュール、セル、さらに接続技術、電池材料の改善によって、航続距離を伸ばすことができるようになっているという。すでにリーフにもその技術は投入されているが、さらに新型EVはより進化することになり、次期リーフにも期待が高まる。

 最近好調なシリーズハイブリッド「e-POWER」はガソリンエンジンを発電でしか使わないので、特に市街地などの実燃費に優れている。フルEVの手前にある“セミEV”として、そのドライブフィールとともに航続距離を気にすることなくEVに新風を吹き込んだ。特にアクセルOFF時のいわゆるエンジンブレーキの強さは、ガソリンエンジンに慣れているドライバーには新鮮なドライブフィールだろう。EVは減速時、加速時のショックが少ないので定常的な走行でもハンドル修正は少なくなるというデータもあり、確かに気づかずにハンドル操作している回数は減っており、スッキリ走る気持ちのよさや、余計な操作をしない疲労軽減につながっている。EVはいろいろと面白い。

電動パワートレーンを搭載する日産の市販車と言えば「リーフ」(上)と「ノート e-POWER」(下)

 リーフでいち早く本格的なEVを発売した日産だが、会場にはその技術の延長線上にある車両も展示されていた。Lクラスミニバン「NV350 キャラバン」をベースにしたキャンピングカーは大容量バッテリーを搭載し、日常の電子レンジやIH調理、冷蔵庫などはすべてクルマ側で賄えるというものだ。キャビンレイアウトの妙で、バッテリーをうまく床下に収めてスペースを有効に使い、これ1台で完結させることができ、近い将来販売計画もあるようだ。

NV350 キャラバンベースのキャンピングカーは、バッテリーをうまく床下に収めてスペースを有効活用。豪華なキャビンを提案している。愛犬も連れていけるよう、リードをつないでおくこともできる

 またピックアップトラック「NAVARA(ナバラ)」をベースにしたレスキューカーは、現場で必要とされる電源を確保することができる。意外と盲点だが、機材の電気消費量は大きく、即座に充電できるのは命に係わる重要なポイントだ。これも将来的には販売することを視野に入れている。

2016年のハノーバーモーターショーでデビューしたピックアップトラック「NAVARA」ベースのレスキューカー「NAVARA ENGUARD CONCEPT」。ポータブルバッテリーパックを搭載し、有事の際に電力を用いてレスキュー活動が行なえる
荷台スペースのトレイにはレスキュー時に用いるロープや斧といった工具が入れられるほか、荷台の横にはドローンを収納できるスペース(ドローンの絵が書かれている)も。エンジンは190PSを発する2.3リッターツインターボディーゼルで、車高は専用サスペンションにより50mm引き上げられ、悪路走破性を高めている

 このほかにも、シティコミューターとして企画された2人乗りEV「Nissan New Mobility Concept」(ルノーの双子車)で小さなコースをクイクイと走る機会もあり、自転車の延長線上にある乗り物でスマートだ。

2人乗りEV「Nissan New Mobility Concept」

とても貴重な「ブレードグライダー」後席インプレッション

 このように日産の電動化戦略は着々と結実しようとしているが、もう1つのPOWERを象徴するものとして「ブレードグライダー」(プロトタイプ)が用意された。

 2013年の東京モーターショーでスポーツカーコンセプトとして発表されていたが、その後連綿と技術を継承し、ピュアEVの新しいスポーツカーの提案として登場した。

 デザインは日産のグローバルデザインセンターと日産デザインヨーロッパが担当し、技術開発は小まわりの効くウィリアム・アドバンスド・エンジニアリングで行なわれた。さまざまな分野で外部の力を活用する日産らしいスタイルだ。

 ブレードグライダーは効率と空力を追求し、三角翼のメリットを追求した新しい乗り物だ。「Nissan ZEOD RC」とネーミングされた、特異なフロント・ナロートレッドのレーシングカーを2014年のル・マン24時間レースで走らせたのも記憶に新しい。残念ながらリタイアしたが、実際に三角翼の可能性を実戦で追求したところは面白い。

2014年のル・マン24時間レースに出場した「Nissan ZEOD RC(Zero Emission On Demand Racing Car)」

 今回、同乗試乗に供せられたのは、フルEVのインホイールモーターを後輪に内蔵した進化したスポーツカーでフロント・ナロートレッドだ。センターに座るドライバーと、その左右後方に座る2名のパッセンジャーシートがある3座仕様となる。オープンモデルのこのブレードグライダーはまさにプロトタイプで世界に2台しかない。ドライバーはウィリアム・アドバンスド・エンジニアリング側で担当し、筆者は後席のパッセンジャーシートに座ったが、この位置から体験できるのはとても貴重なインプレッションができる。

 前方に跳ね上げられたドアからリアシートに潜り込むように乗るが、思ったよりも乗降性はよい。三角形の底辺に座り、フロント・ナロートレッドを活かした空力的なスタイルによるセンタードライバーなので、後席に座ると前方が開けている。これまでに経験したことのない不思議な感覚だった。オープンモデルだが、戦闘機のようなコクピット感覚(乗ったことないけど)で解放に溢れる。バケットシートに座ると通常のクルマのように脚を踏ん張って体を支えるところがないので、なんとなく心もとない。

2013年の東京モーターショーで発表された、EVコンセプトモデルのブレードグライダー。最高出力200kW(268HP)、最大トルク707Nmを発生。最高速は190km/h、0-100km/h加速は5秒以下というスペック

 ブレードグライダーの車両重量は1300㎏、後輪のホイール内に収まったインホイールモーターはそれぞれ130kWを発生できる能力を持ち、最高出力は200kW(268HP)、最大トルクは707Nmを発生する。左右のモーターはそれぞれトルクベクタリング機能を持ち、旋回力を上げている。バッテリーは5個のモジュールで構成される200kWのリチウムイオンで、車体後部に置かれる。パワーウェイトレシオはわずか4.8㎏/HP。強大なトルクとともに0-100㎞/h加速は5秒を切る俊足ぶりだ。

 サスペンションは前後ダブルウィッシュボーン。タイヤは後輪荷重が極端に大きいこと、トルクが大きいこと、さらに極端なフロント・ナロートレッドによりフロント175/55 R17のサマータイヤ、リア265/35 R19のセミレーシングタイヤを装着する。なかなか見ることのできない組み合わせだ。

日産ブレードグライダー車内動画(1分34秒)

 ドライバーは我々に合図するとピットロードから飛び出していく。ステアリングセンターに主要なディスプレイを配置し、さらにダッシュボードにもモニターがある。バックミラーを持たない代わりに、リアビューカメラから映し出される映像をダッシュボード左右のモニターに投影して確認する。

 EV特有のモーターノイズとロードノイズだけが耳に入る独特な感覚で、あっという間に1コーナーまで到達する。早い! 瞬発力のある電池ならではの実力だ。いよいよ注目のコーナーに入る。フロントが軽いのでハンドル操作とともにスイッとノーズをコーナー方向に向け、ドライバーの操舵量は少ない。操舵力は知るべくもないが、細いタイヤからしてもそれほど腕力は必要なさそうだ。

ブレードグライダーのインテリア。運転席後方左右に後席をレイアウトした3シーター仕様になっている

 極端なナロートレッドがどんな挙動を示すのか興味深かったが、かなり高いコーナリング速度で旋回していく。慣れたコンベンショナルな4輪車とは違って、ちょっと浮遊感のある不思議な感覚だ。体に高い横Gがかかるが、フロントタイヤで支えられている感覚がないので、慣れるまで落ち着かない。

 高速コーナーからタイトコーナーまで、この浮遊するような不思議な感覚は変わらず、かといってクルマは姿勢が乱される素振りもない。タイトコーナーではトルクベクタリングも効果的に働き、グイグイと曲がり込み、S字コーナーでハンドルを切り返す場面でもリアがしっかりとグリップしている感覚とフロントの俊敏な動きは印象的だ。不思議な浮遊感とグリップ力は、新しい乗り物であることを強烈に感じた瞬間だ。

 ストレートでは軽く150km/h以上をマークし、今にも離陸するんじゃなかろうかという感覚だ。ちなみにブレードグライダーのスペック上の最高速は190㎞/hとなる。わずか2ラップの試乗だったが、新しい体感にちょっと酔った感覚はドライバーと握手をした後もしばらく残っていた。この試乗体験は非常に貴重だった。EVの可能性とそれがもたらすレイアウトの面白さ、そしてこれらをスポーツカーとして提案したことで、さらに印象が深まった。

EVレーシングカー「リーフ NISMO RC」にも試乗

 さて、ブレードグライダーの後は久しぶりに「リーフ NISMO RC」のハンドルを握った。かつて追浜にある日産の施設「グランドライブ」で試乗しているが、久しぶりのコクピットだ。リーフ NISMO RCはリーフのパワーユニットをミッドシップに置いた完全なレーシングカーで、ワンメイクレースなどをしたら面白いと思ったものだ。

 袖ケ浦は本格的なレイアウトを持つサーキットなだけに、グランドライブとは違った面白い時間だった。ドライブフィールはミッドシップのレーシングカーそのもので、リア荷重が大きいだけにガッチリとサスペンションを硬めて安定志向としている。もちろんミッドシップの回頭性のよさは生かされているので、ハンドル操作に対してクイッとノーズをコーナー方向に向ける感触はレーシングカーそのものだ。コーナリングスピードは相当に速く、ほとんどロールを感じずに旋回していき、安定性は高い。ヒラリと言うよりもどっしりとしたライントレース性が特徴だ。

リーフ NISMO RCのボディサイズは4465×1942×1212mm(全長×全幅×全高)。ボディをカーボンファイバーとし、車両重量は925kgを実現する。足下はレイズ製18インチホイールにブリヂストン「POTENZA RE-11S」(225/40 R18)の組み合わせ

 左右にハンドルを切り返す(と言ってもステアリングギヤレシオが早いので、少し切るだけだ)S字コーナーでも路面に吸い付いたように走り抜け、低い着座姿勢もあって低いアイポイントから目に入る光景はなかなか雰囲気がある。

 ただ、マックスパワーはリーフと同じなので、レーシングカー的な高速での伸びはなく、直線はあまり得意としていない。中間加速はEVらしい力強さがあって、レスポンスよく、グイと加速してくれる。もう少し大きなモーターを乗せると違った実力を見せてくれるだろうが、コンセプトはリーフのパワーユニットを使った実験車的な色合いが強いので、その実力は十分に堪能できた。面白かった!

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:原田 淳