インプレッション

ボルボ「V90 R-DESIGN」(2017年フルモデルチェンジ/公道試乗)

エレガントでスポーティ

 評判も上々の新世代ボルボの皮切りとなった「XC90」の日本導入から1年あまり。セダンとステーションワゴンのフラグシップとなるS90/V90の標準モデルに次いで、「R-DESIGN」の試乗会が実施された。

 いまやプレミアムカーもスポーティ志向のモデルが好まれる時代。ボルボにおいても例外でなく、全体的にR-DESIGNの販売比率が高くなっている。ただし、R-DESIGNと呼ぶ中でも仕様の違いがあり、たとえばXC90のR-DESIGNでは、内外装デザインは差別化されていてもサスペンションのチューニングは他のグレードと共通だった。一方、S90/V90ではスプリングレート、ダンパー、アンチロールバー、車高、パワーステアリングの制御などがR-DESIGN専用となる。

 ゆえにドライブフィールも少なからず異なるはずだが、走りについては後ほど述べるとして、まずはR-DESIGNの大きな魅力である内外装デザインが目を引く。シルバー系と黒を効果的に用いた外観は精悍な雰囲気で、専用形状とした前後スポイラーにより、ワイド&ローイメージが強調されていることも見て取れる。スポーティなイメージを高めながらも持ち前のエレガントさが損なわれていないところはさすがである。

 専用色の「バースティングブルーメタリック」も、R-DESIGNならではのルックスをさらに引き立てている。躍動感を見せる旧世代ボルボのスタイリングもよかったと思うが、そこから一変した新世代のボルボも、伸びやかなフォルムとディテールの造形の美しさが際立っている。

 インテリアも黒基調の精悍な雰囲気の空間に仕立てられている。専用のカーボンファイバーパネルもそれを引き立てている。むろんV90らしく広くて使いやすいトランクを備えているのは、R-DESIGNにおいても変わることはない。

今回試乗したのはパワートレーンに直列4気筒 2.0リッター直噴ターボエンジン+スーパーチャージャーに8速ATを組み合わせる「V90 T6 AWD R-DESIGN」(769万円)。ボディサイズは4935×1880×1475mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2940mm
エクステリアでは、R-DESIGN専用装備としてシルクメタル・サイドウィンドウ・トリム、リアバンパースポイラー、ダイヤモンドカットとマットブラックのコンビネーションになる5ダブルスポーク(8.5J×20)のアルミホイール、マットシルバーのドアミラーカバー、グロスブラック・トリム(フロントバンパー)、フロントグリルを装着している
ブラックを基調にしたスポーティなインテリアでは、カーボンファイバー仕上げのデコラティブパネルが与えられるほか、専用のスポーツシート、パドルシフト付きステアリングホイールなどを装着。パーフォレーテッドレザーを用いたキーケース、アルミニウム・スポーツペダルなども専用品

20インチタイヤと最適なマッチング

 シャシーの標準モデルとの違いを具体的に述べると、フロントのコイルスプリングと、新世代プラットフォームで採用された特徴的な樹脂複合素材によるリアのリーフスプリングのレートが50%強化されているほか、ダンパーは標準モデルでは一般的なツインチューブ式のところモノチューブ式とされ、さらにはアンチロールバーも強化されている。タイヤはInscriptionでも選べるものと同じ255/35 R20サイズのピレリ「P ZERO」に、5ダブルスポークの専用デザインのアルミホイールが組み合わされる。

 これによるフットワークの仕上がりはなかなか妙味だ。ハイトの低い20インチの偏平タイヤを履き、バネ下もけっして軽くないであろうところ、バタつく印象があまりないところがよい。足まわりはかなり引き締まっているにもかかわらず、けっして不快な硬さを感じさせることもなく、タイヤを路面に押しつけるかのような、骨太なロードホールディング感がある。20インチタイヤとのマッチングが最適に図られている印象だ。

 ハンドリングの前後バランスも良好だ。ロールがよく抑えられていて、ステアリングを素早いアクションで操作しても応答遅れが小さい。ステアリングフィールもしっかりとしていて、操舵力の重さが異なるだけでなく、グリップ感も標準モデルを上まわる。おかげでややハイペースで箱根のワインディングを走っても、なんら不安に感じることなくコーナーに入っていける。サイドサポートの張り出したスポーツシートの着座感もよく、コーナリングでもしっかり身体を支える。R-DESIGNらしくスポーティな走りへの期待にもしっかり応えてくれる。

Inscriptionより30万円安い!?

直列4気筒2.0リッター直噴ターボ+スーパーチャージャーエンジンは最高出力235kW(320PS)/5700rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpmを発生。アイドリングストップ機構を備え、JC08モード燃費は12.5km/L

 V90 R-DESIGNの動力源は、ターボチャージャーにスーパーチャージャーを加えた直列4気筒2.0リッターエンジン「T6」のみの設定となる。2段階で過給するためか、出足でやや段付き感を覚えるのは否めないが、低回転域から非常に力強く、トップエンドまで勢いよく吹け上がっていくさまは「T6」ならでは。2200-5400rpmという幅広い回転域で400Nmの最大トルクを発生する特性により、きつめの上り勾配であろうと浅いアクセル開度でものともせず駆け上がっていく。

 4気筒ながらやや重低音の効いたエキゾーストサウンドも、R-DESIGNのキャラクターによく似合う。組み合わされる8速ATは、変速制御がスムーズでダイレクト感もある。欲を言うともう少しシフトチェンジが素早いとなおありがたいところだが、パドルシフトが備わるのはR-DESIGNの特権だ。なお、ポールスターのソフトウェアもすでに用意されているそうなので、いずれぜひ試してみたいところだ。

 ボルボ車として期待される世界最先端を誇る安全装備についても、アクティブボンネットの標準装備化はもとより、人間や自転車に加えて大型動物までもカバーした検知機能や、路外への逸脱を防いだり、逸脱したときの被害をより小さく抑えるというボルボの安全思想に基づく独自の機能を備えているのは、もちろんR-DESIGNでも同じだ。

 個人的にも、今ボルボを買うならモデルを問わずR-DESIGNが本命だと思っていたのだが、V90に関してもその思いは変わらなかった。エレガントさが売りの新生ボルボでは、ひょっとしてR-DESIGNはミスマッチなのではと思う面もあったのだが、そんなことはなかった。しかもこれほど数々の専用アイテムが与えられていながら、実はInscriptionよりも車両価格が30万円も安いと知って、さらに驚かずにいられなかった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛