インプレッション

ボルボ「S90」「V90」(2017年フルモデルチェンジ)

 一見しただけでこのクルマの駆動方式を当てられる人がどれだけいるだろうか? 2月22日から日本市場に投入されたボルボの「S90」「V90」は、全く新しいセダン&ワゴンの形を表現している。プラットフォームは110億ドル(約1兆3000億円)を投入して開発された「SPA(SCALABLE PRODUCT ARCHITECTURE)」を採用。これは2016年のSUV市場を震撼させた「XC90」に続く第2弾製品ということになる。

 SPAは軽量化と前後重量配分のバランスの改善のほか、あらゆるパワートレーンの搭載を見込んだ強固なプラットフォームであることが特徴だが、それ以外にもデザインの自由度を向上させる狙いもあったらしい。Aピラーの延長上にフロント車軸を置くことで伸びやかなデザインを実現したこのクルマは、Aピラーから車軸までの距離が同クラスのFR車と同等だという。FFベースにも関わらずこんなディメンションを持っているからこそ、駆動方式が一見しただけでは分からなかったのだ。

2月22日に発売された「V90」(左)と「S90」(右)
「S90 T6 AWD Inscription」。ボディカラーは「マッセルブルーメタリック」
「V90 T6 AWD Inscription」。ボディカラーは「オニキスブラックメタリック」
S90 T6 AWD Inscriptionのボディサイズは4965×1890×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2940mm。V90 T6 AWD Inscriptionでは全長が30mm短くなり、逆に全高は30mm高くなる。全幅とホイールベースは同一
フロントグリルはボルボの名を世に知らしめた歴史的モデル「P1800」をモチーフにしたデザイン。内側にアーチを描く縦桟もポイントとなっている
ヘッドライトを上下に2分割する「トールハンマー」と呼ばれるクリアランスランプを採用。全車でLEDヘッドライトを標準装備する
ヘッドライトの点灯パターン
リアコンビネーションランプの点灯パターン
S90のトランク。中央部分にスキー板などを通過させるトランクスルーを用意する
「パワートランクリッド」を全車標準装備
V90のラゲッジスペース。容量は通常時の560Lからリアシートを前方に倒したフルラゲッジ状態の1526Lまで拡大可能
フロア下にスペアタイヤを標準装備
フロアからボードを立てることでラゲッジスペースを前後に分割できる「グロサリーバッグ・ホルダー」はワゴンモデルならではの装備。グロサリーバッグ・ホルダーの背面やラゲッジスペース側面などに荷物を固定するゴムバンドを設定している
ラゲッジスペースの向かって右側に電動可倒式バックレストの操作スイッチを備える
「パワーテールゲート」を全車標準装備

 インテリアについても新たな流れは続く。12.3インチのドライバーディスプレイ(メーターパネル)と9インチの縦長センターディスプレイを採用していることは、モダンな感覚が際立っていたXC90と同様だが、エアコンのルーバーが縦長のデザインに改められ、木目パネルの面積が拡大されるなどの変更を行なっている。

 セダン&ワゴンらしく落ち着いた雰囲気になったこと、そして縦長センターディスプレイと周囲の調和も進んだと感じる。また、リラックスした座り心地と適度なホールド性を実現したナッパレザーを纏うシートや、コンサートホール(ボルボ本社があるスウェーデンのイエーテボリ・コンサートホール)と同等の音質を提供するBowers&Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステムが生み出す広がり感のあるサウンドもかなり贅沢な演出だ。ボルボが高級路線を歩み始めたことは、見た目だけの話ではないことが伝わってくる。

S90 T6 AWD Inscriptionのインテリア。内装色とシート色はブロンドで、シート表皮はパーフォレーテッド・ファインナッパレザーを採用する
V90 T6 AWD Inscriptionのインテリア。内装色はチャコールでシート色はアンバー。シート表皮はパーフォレーテッド・ファインナッパレザーを採用。V90ではS90と同じブロンドの内装色のほか、ボディカラーとの組み合わせでチャコールも用意されている
ステアリングホイール・ヒーターを備える本革巻/シルクメタルステアリングを標準装備
センターコンソールに備えるダイヤルを回転させてエンジンを始動させる独自のスタイル。同じくダイヤル操作となるドライブモードは、「Eco」「Comfort」「Dynamic」の3種類でエンジンやトランスミッション、ステアリングの操作レスポンスを変更できる
オルガン式のアクセルペダルを採用。大型のフットレストも備えている
V90 T6 AWD Inscriptionのドアトリム。オプション装着となる「Bowers&Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステム」は45万円高
シートの肩口にスウェーデン国旗があしらわれている
フロントウィンドウに設置する、高解像度カメラとミリ波レーダーを組み合わせた「ASDM(アクティブ セーフティ ドメイン マスター)」。従来使っていたカメラから解像度が4倍になり、赤外線レーザーを使わなくても従来以上の検知能力を発揮する

 そんな新たな路線を歩み始めたボルボではあるが、やはり根底にある安全に対する姿勢については変わらない。というより、むしろ常に進化し続けており、XC90から採用が始まった右折時に対向車を検知する「インターセクション・サポート」に加え、「シティ・セーフティ」の追加機能である「大型動物検知機能(夜間含む)」は、同時発売の「V90 クロスカントリー」と3モデルそろって世界初の技術となる。

 大型動物検知機能は衝突によりヘラジカが車内に突っ込んでくることを防止することを狙った装備。そこまで考えているとはさすがだ。さらに歩行者・サイクリスト検知機能もきちんと備わっている。また、同じく世界初の装備として道路逸脱事故の回避を支援する「ランオフロードミティゲーション」を採用し、さらに万が一道路を逸脱したとき、乗員に対する縦方向の入力を軽減する「ランオフロードプロテクション」(XC90で世界初採用)も全車に装備。これは先述した豪華なシートの根元に機械的に装備されるもので、付け根が瞬時に折れてシートが下がることで、背骨に対するダメージを大幅にカットできるらしい。まさに高級感だけでなく中身もシッカリ。ボルボらしさが光っている。

デジタル式の12.3インチ・ドライバー・ディスプレイは4モードから表示を選択できる
タブレットを意識したという縦型の9インチ・センターディスプレイ。さまざまな機能をタッチパネルで操作可能で、センターコンソールの物理的なスイッチやボタンの数を8個に集約したことをアピールしている
車両を上空から見下ろしたような映像も表示できる「360°ビューカメラ」を全車で採用
オーディオのボリュームなどは物理的なスイッチとダイヤルで操作できる

“次世代のボルボ”を感じさせる走り

 今回は直列4気筒DOHC 2.0リッターエンジンにターボとスーパーチャージャーを搭載することで320PS/400Nmを発生する「S90 T6 AWD Inscription」と「V90 T6 AWD Inscription」の2台に試乗することになった。要はセダンかワゴンかという違いである。

 走り出せば低速域からリニアで力強いトルクフルな感覚。スロットルを開ければスポーツカーかと思えるような加速を展開する。だが、あくまでもコンセプトはリラックス&コンフィデンスである。シャシーはいずれのボディもフラットで、優雅さが際立っている印象が強い。対角線上にロールをするいわゆるダイアゴナルロールをさせず、限りなくフラットに走らせてやろうというのが狙いのようだ。

「B420」型の直列4気筒 2.0リッター直噴ターボ+スーパーチャージャーを採用。最高出力235kW(320PS)/5700rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpmを発生する

 足まわりはフロントにダブルウイッシュボーン、リアにマルチリンクを採用するあたりは一般的だが、リアサスペンションに関してはコイルスプリングを持たず、インテグラル・アクスルと呼ばれるグラスファイバー複合素材を使ったリーフスプリングを採用しているところが特徴的だ。軽量化と高剛性、さらにはNVH低減とラゲッジスペースを拡大できることがメリットだという。今回の試乗車はどちらも走行距離が1000km以下で、足まわりにはまだシブさが残っているようにも感じたが、これも距離を重ねれば改善されるだろう。というのも、実は以前にスウェーデンで乗った本国使用のS90&V90はかなりしなやかだったからだ。

タイヤサイズは235/35 R20。試乗車にはピレリの「P ZERO」が装着されていた
コイルスプリングではなく、グラスファイバー複合素材で構成するリーフスプリングを横向きに配置し、左右のタイヤを接続した「インテグラル・アクスル」をリアサスペンションに採用

 このように、高級さばかりでもなく、安全性だけでもなく、走りにも気を配っているS90&V90は明らかに“次世代のボルボ”を感じさせてくれた。ボルボが世界のトップモデルと肩を並べ、さらに追い越そうとしている勢いを持ったモデルであるように思える。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛