インプレッション

BMW「5シリーズ」(2017年フルモデルチェンジ)

車格が上がったように見える

 1年あまり前にモデルチェンジした7シリーズも、あまりに素晴らしい仕上がりで、感心させられっぱなしだった。そして、その7シリーズから多くの要素を受け継いだ弟分の5シリーズ(7代目)が登場したと聞けば、期待しないはずがない。

 スタイリングも7シリーズに通じるが、思えば従来型のF1#系は、そのまた1世代前のE6#系がチャレンジングだった反動か、一気に控えめなデザインとなった。アッサリしすぎた感もあり、街で見かけてもあまり印象に残らないように感じていた。その点、今回の「G」のコードネームを得た新型5シリーズは、オーソドックスな中にも華やかさがあり、従来よりもずっと存在感が増して、車格も上がったように目に映る。

 インテリアはキープコンセプトながら、高級感が増したように感じられる。5シリーズとなるとビジネスユースへの適性も求められ、それは新型5シリーズの訴求点にもなっているが、車内空間の居住性は後述する走りの快適性も含め上々だ。また、ついに5シリーズにも部分自動運転を可能とした運転支援システムが採用されたことも、大きな特徴として挙げられる。

 日本導入時点では全14モデルがラインアップされ、価格帯は「523i」の599万円から「540i xDrive M Sport」の1017万円まで。「523d」は直列4気筒2.0リッターディーゼルターボ、ガソリン直噴ターボは「523i」と「530i」がスペックの異なる直列4気筒2.0リッターとなり、「540i」は直列6気筒3.0リッターと、相変わらずちょっとややこしい。V8の設定はひとまずない。また、プラグインハイブリッドの「530e」や、5シリーズセダンのカタログモデルとして初めてxDriveが設定されたのも特徴だ。

 価格表について、むろん7シリーズとの差はそれなりに大きいが、3シリーズとの差は意外と小さいと筆者は感じているのだが、いかがだろう?

はじめに試乗した「523d Luxury」(768万円)。ボディサイズは4945×1870×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2975mm。
新型5シリーズのエクステリアは伸びやかなエンジンフード、ショートオーバーハング、クーペライクなルーフライン、ロングホイールベース、サイドに走る2本のキャラクターラインなどを特徴とする。また、シャシーまわりではアルミニウム合金や高張力鋼板、マグネシウム合金を採用したことで、先代比で約80kgの軽量化に成功している
新型5シリーズでは2つのステレオカメラ、ミリ波レーダーを前方に3基、後方に2基装備することで部分自動運転を可能にする「ドライビング・アシスト・プラス」を採用。ACC(ストップ&ゴー機能付)やレーン・ディパーチャー・ウォーニング、衝突回避・被害軽減ブレーキに加え、高速走行時に車線の中央付近を走行しやすいようにサポートする「ステアリング&レーン・コントロール・アシスト」、センサーが車両側面を監視し、隣車線から自車の車線に入ってくるなど側面衝突の危険性が高まった場合にステアリング操作に介入して衝突を回避する「アクティブ・サイド・コリジョン・プロテクション」といった新機能が盛り込まれた
インテリアカラーはキャンベラ・ベージュ。10.2インチのワイド・コントロール・ディスプレイはタッチパネル機能が備わるほか、3Dカメラによりドライバーの手の動きを認識して、ジェスチャーで車載コントロールシステムの操作を行なえる「ジェスチャー・コントロール」機能を搭載
トランクルーム容量は530Lを確保
こちらは「540i M Sport」

あまりに軽快でスムーズな走り

 試乗したのは768万円の「523d Luxury」(以下「523d」)と、986万円の「540i M Sport」(以下「540i」)。エンジンはもちろん足まわりも違うわけだが、2台に共通して感じられたのは、あまりにも軽快でスムーズな極上のドライブフィールだ。7シリーズに乗ったときにも感銘を受けたことを思い出したが、5シリーズもその味をしっかり受け継いでいる。これほど滑らかに走るクルマはあまり心当たりがない。これには新型5シリーズの特徴である、同等モデルの新旧比で約80kgという軽量化も効いているはずだ。

 523dでも十分に快適なところ、電子制御ダンパーの与えられた540iがまた妙味で、ピッチングが少なくてフラット感が高く、さらに快適。車両重量は540iの方が60kgばかり重いものの、フットワークの印象も540iの方が軽快に感じられた。

 また、統合制御により後輪操舵も行なう可変レシオステアリングもさらに洗練されて、公道を普通に走った限りではまったく違和感を覚えることがなく、優れた小回り性と、俊敏性と走行安定性を両立したハンドリングという多くのメリットを享受することができた。こちらも前述の軽快な走りに大いに寄与していることに違いない。

 強いて難点を挙げると、ブレーキに少し違和感あり。ブレーキエネルギー回生によるものか、軽めの踏力を一定に保っていても途中で微妙に減速Gが変化するときがある。これはBMW車が同機構を採用してからずっと気になる症状なのだが、それが新型5シリーズでも見受けられたのは否めない。

ディーゼル、ガソリンとも進化

 パワートレーンも進化した。「523d」に搭載される直列4気筒2.0リッターディーゼルターボは、新たにアドブルーを採用した新開発エンジンであり、スペックは従来と不変ながら性能が向上したように感じられる。従来よりもさらにノイズや振動が低減しており、タイヤの発するノイズなど他の要因による音が気にならない低い速度域から加速するときに限ってはディーゼルっぽい音を感じるものの、それらかかき消される中~高速走行時には言われなければディーゼルだと分からないぐらい。また、この新しいディーゼルエンジンと前述の軽量化に加えて、Cd値0.22というクラストップの空力性能などにより、従来の16.6km/Lから21.5km/Lへと大幅な燃費向上を果たしたのも大したものだ。

「523d」に搭載される直列4気筒2.0リッターディーゼルターボエンジンは最高出力140kW(190PS)/4000rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpmを発生。0-100km/h加速は7.5秒(2WD/欧州仕様車値)、JC08モード燃費は21.5km/L

 一方、「540i」に搭載されるガソリンの直列6気筒3.0リッター直噴ターボは、従来のN55系の後継となるモジュラーエンジンのB55系となった。ディーゼルの完成度も高かったとはいえ、こちらを味わってしまうと、やはりその美味さに魅せられずにいられない。いまやBMWの中でも貴重になりつつある「ストレートシックス」ならではの調律されたエキゾーストサウンドを聞かせながら、7000rpmまで伸びやかに吹け上がるさまにはホレボレさせられる。ビジネスユースが主体のユーザーならなおのこと、ガソリン、ディーゼルを問わず価格と経済性で4気筒モデルが選ばれるケースが多いだろうが、少々高価であっても、よりBMWならではの世界を持ち合わせているのは「540i」であることには違いない。

「540i」に搭載される直列6気筒3.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力250kW(340PS)/5500rpm、最大トルク450Nm(45.9kgm)/1380-5200rpmを発生。0-100km/h加速は5.1秒(2WD/欧州仕様車値)、JC08モード燃費は12.5km/L
走行中、白線を認識するとメーター内の白線を示す線がグリーンになり、ステアリングに操舵力を与えて高速走行時に車線の中央付近を走行しやすいようにサポートを行なう

 部分自動運転については、渋滞にも対応した前走車との車間維持機能や車線維持機能を一般道と首都高速で試したところ、動作は的確かつスムーズであり、印象は概ね良好だった。

 また、同じ車線内に侵入してきた車両との側面衝突の回避を図るという独自の新機能が、実際にどのように作動するのかも興味深いところだ。なお、自動車線変更機能についても海外向けにはすでに設定しており、いずれ日本向けにも導入する見込みだという。

 このところ上級移行した3シリーズが、かつての5シリーズの領域まで入り込んできた感もある中で、やはり5シリーズでないと得られない価値があり、その価値が従来に比べて大きく引き上げられたように感じた次第。さらには競合車に対しても、要素によって多少の勝ち負けはあれど、総合力では上まわり、クラスの頂点に立ったように思える。このクラスの新たなベンチマークと呼べる、本当に素晴らしい仕上がりであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸