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BMW、“トヨタFCスタック”搭載の「5シリーズ グランツーリスモ燃料電池車プロトタイプ」公開

「FCVの市場導入目標は2020年」とパワートレーン研究部門執行役員 マティアス・クリーツ氏

2016年9月26日 開催

 ビー・エム・ダブリューは9月26日、東京 お台場の臨海副都心地域にあるBMW&MINIブランドの体験型販売拠点「BMW GROUP Tokyo Bay」センター棟・コンファレンスホールで、研究開発中の「5シリーズ グランツーリスモ」をベースとした燃料電池車(FCV)プロトタイプを公開。合わせて記者会見が行なわれ、独BMW グループ リサーチ 新技術研究本部 パワートレーン研究部門執行役員のマティアス・クリーツ氏がプレゼンテーションを実施した。

研究開発中の「5シリーズ グランツーリスモ」をベースとする燃料電池車プロトタイプ
245/45 R19サイズのピレリ P ZEROに組み合わせるホイールは軽量なカーボン製

2020年のFCV市場導入を目標に開発中

BMW グループ リサーチ 新技術研究本部 パワートレーン研究部門執行役員 マティアス・クリーツ氏

 この記者会見は、開催に先立つ9月24日~25日に日本国内で「G7 長野県・軽井沢交通大臣会合」が実施され、独BMWはFC(燃料電池)システムで共同開発を行なっているトヨタ自動車とともにFCVの車両展示や技術解説などを実施。このために来日したクリーツ氏など同社でFC関連を担当するエンジニアが、より広くBMWグループが取り組んでいるFCVや環境技術などについて説明するために用意された。

 プレゼンテーションの冒頭でFCVについての概要などを説明する動画を紹介したクリーツ氏は「私どもは、パリで2015年に開催された国連気候変動会議(COP21)の場で、とても大事なミーティングを行なわせていただきました。BMWグループは運輸部門の脱炭素化を積極的に推し進め、すべてのエネルギー消費部門のCO2排出量を大幅に削減し、2020年までにCO2排出量を40%下げるということで合意しております。さらに将来的にはCO2排出量を80%以上下げる計画で、これらは2020年、2050年などをめどにした内容ですが、自動車業界にとっては2050年というのも明日と言うことに等しい期間なのです」と語り、将来的なCO2排出量削減に向けて活動していることを紹介。

BMWはG7 長野県・軽井沢交通大臣会合にトヨタとともに参加。すでに市販されている「ミライ」とBMWの燃料電池車プロトタイプを会場で展示した
COP21でBMWグループとして数値目標を含めたCO2排出量の削減計画に合意

 さらにクリーツ氏は、ドイツ国内で2050年までの期間に達成することが決められている「気候保護計画2050」について紹介し、これからドイツでは基本的に運輸業界で化石燃料から脱却することが計画されていると解説。これに適合していくため、BMWグループではバッテリー式のEV(電気自動車)である「BEV」と、FCシステムを搭載する「FCEV」の2種類を用意。小型車や中型車に適したBEVは日々の通勤や都市間の移動に理想的な乗り物であり、再生可能な方法で発電した電力をそのまま使用。大型車に適したFCEVは長距離の移動を視野に入れた乗り物となり、再生可能エネルギーを水素に変換して活用することを想定している。

 このFCEVとして研究開発を進めている5シリーズ グランツーリスモをベースとした燃料電池車プロトタイプは、現時点で0-100km/h加速8.4秒、最高速180km/hを実現。できる限り長い航続距離を手に入れるべくさまざまなタンクシステムの開発に力を注いでおり、会場では例として700BARのCGH2(圧縮水素)、350BARのCcH2(極低温圧縮水素)について紹介。それぞれについてスウェーデンにおける-20℃での極寒テスト、南アメリカにあるテストコースでの35℃以上の状況における酷暑テストを行ない、日常的な使用での実用性を実証したと語っている。

ドイツ政府が打ち出している気候保護計画の概要
「ゼロ・エミッション・モビリティ戦略」として、外部からの電力をバッテリーに蓄える「BEV」、FCシステムで水素から発電する「FCEV」の2つの柱を展開している
記者会見の会場にも展示されたBMWの燃料電池車プロトタイプの主なスペック。2種類のタンクシステムについて説明され、会場で展示された車両はトヨタのFCV ミライと同じ「トヨタFCスタック」を搭載しているという
-20℃から35℃以上まで幅広い環境下でテストを実施。製品自体としては市場導入可能なレベルにあることを実証した
トヨタとの戦略的提携で成功事例を情報交換して水素燃料電池技術を推進。BMWでの市場導入目標は2020年としている

 一方で、現状では水素の供給インフラが不十分で部品コストもまだ高いため、FCEVは顧客にとって価値があり、経済的にも生産的なクルマではないと分析。この問題解決のためトヨタとの提携が重要な点になると語り、この協業が水素燃料電池技術の市場における成功、推進を目標としていると述べ、現時点では水素燃料電池の日常的な利便性を周知していき、将来的な見通しとして「2020年には燃料電池車の導入が可能になるよう開発を進め、(トヨタと)水素システムへの転換、水素インフラの整備、標準化における協力を行なっていきたい」とした。

水素エネルギーによる“ゼロ・エミッション・モビリティ”実現に向けた各ステップ。一連のステップをクリアするためには政府、業界、メーカーの強固な協力が必要であるとしている
BMWが掲げるFCEVの開発目標。それぞれ高い目標の中で、コスト削減を“最も大きなチャレンジ”と位置付ける
ユーザーが希望するFCVの姿。価格上昇は10%程度まで容認されるという分析
紹介内容のまとめと今後の展望。FCシステムを大幅にコスト低減させるため、業界内でのさらなる協業、国際的な協力が不可欠であるとする
再生可能エネルギーの活用にシフトしたドイツ国内での電力バランスの一例。安定供給に向けてエネルギーの貯蔵が必要であると解説された
水素の生産設備は、2022年に25万台のFCVをカバーする生産規模を目指している
ドイツ政府は2050年を目標に再生可能エネルギーを全体の80%にまで高める計画。増加した再生可能エネルギーが水素エネルギーに利用されるとの予測
ドイツ国内で2018年までに140カ所の水素ステーションが開設され、2023年までに260カ所がさらに増えるという将来予測
クリーツ氏のプレゼンテーション中に紹介されたFCVなどについて説明する動画
車両解説を行なうクリーツ氏

 プレゼンテーションの終了後にクリーツ氏は、展示された燃料電池車プロトタイプを使って技術解説を実施。車両のボンネット下に、エンジンの代わりにトヨタが開発した「トヨタFCスタック」を搭載しており、自社製の水素タンクを車両中央のキャビン下に縦置きレイアウト。駆動用モーターやバッテリーも自社製で、後輪軸重上のラゲッジスペースに重ねて配置しており、これによって水素を活用した“ゼロ・エミッション走行”が可能になることと同時に、従来型の乗用車と同じく4人の乗員が快適にすごせるキャビンスペースを両立していることを強調した。

車両のドアやリアハッチを開け、車両の前後に必要なコンポーネントを分散したことで既存のガソリン車とほとんど変わらない居住スペース、ラゲッジ容量を確保していると解説するクリーツ氏
トヨタのミライと同じトヨタFCスタックを「5シリーズ グランツーリスモのエンジンルームに合うよう多少手を加えて搭載している」とのこと
外観ではFCVであることを示す加飾として、フロントグリルのルーバー側面やバンパーなどにメタリックブルーの塗装が施されている
リアバンパーにもメタリックブルー塗装の加飾パーツを装着。フロア下はフラットな形状で空力性能を向上。FCスタックで発電したときに発生する水分はフロア中央部分から排出されるレイアウトになっている
ラゲッジスペースは奥のリアシート側がわずかに高くなり、左側に盛り上がった部分もあるが、駆動用のバッテリーとモーターをフロア下に収めた影響を最小限に抑えている。リアシート背面は強度アップと軽量化のため、カーボン素材のパネルで固定式に変更されている
ラゲッジスペースのフロア下に収納空間を設定。スペースの奥(写真上側)に見えているのが駆動用バッテリー。この下にモーターがレイアウトされている
軽量化のため、リアハッチ、ルーフパネル、ボンネットはカーボン製に変更された
ドアパネルにロゴマークを設定
水素の充填口を開けるオープナーはラゲッジスペース右側に設置
水素は700BAR(70MPa)の圧縮水素に対応。航続可能距離はEUサイクルで450km
万が一にも水素が漏れ出した場合に対応するため、車内の水素を自動的に車外に放出するシャークフィンアンテナ形状のバルブをルーフ上に設置
4つのドアそれぞれに、漏れ出した水素を検知した場合に点灯する警告灯も追加されている
インテリアではセンターコンソールのシフトセレクター前方に、FCスタックの稼動状態を表示するディスプレイを追加。右側の赤いボタン(写真では展示用にカバーを設置されている)は緊急時にFCスタックなどを強制停止する装置
車両の中央に水素タンクが設置されているため、リアシートは中央にアームレストなどを設置する2人掛けに変更
会場内に置かれていた英文の展示パネル