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トヨタ、“変革への第一歩”に位置づける新型燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」発表会

走行時に排出するのは水だけ。「プリウスを越える新たなイノベーション」と加藤副社長

新型燃料電池車の「ミライ」と並んでフォトセッションに臨むトヨタ自動車 取締役副社長 加藤久光氏(左)とトヨタ自動車 製品企画本部 主査 田中義和氏(右)
2014年11月18日開催

 トヨタ自動車は、セダンタイプの新型燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を12月15日に発売する。価格は723万6000円。発売当初は全国のトヨタ店、トヨペット店のうち、2013年度と2014年度に水素ステーションの整備を実施、予定している埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、愛知県、滋賀県、大阪府、兵庫県、山口県、福岡県の1都1府9県の販売店が取り扱いの中心となる。

 ミライの詳細なスペックなどについては関連記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20141118_676295.html)を参照されたい。

タンクに貯えた水素と空気中の酸素で発電して走行する燃料電池車(FCV)の「ミライ」
フロントマスクの大きな特徴であるバンパー両サイドのワイドな開口部は、FCスタックの冷却を目的としているほか、酸素を取り込んで発電するイメージのアピールも意図している
4灯LEDを使って横方向のワイド感を強調する超薄型ヘッドランプと、バンパー開口部に分割して縦型配置されるウインカー&クリアランスランプが力強い踏ん張り感を表現する。4灯LEDは車両外側の2つがロービームとなる
ブーメラン形状のリアコンビネーションランプのコーナー部分がリアタイヤのフェンダーラインから連続し、個性的なリアビューを生み出す
軽量化のためにエングレ加工が施された17インチホイールを採用。シルバーとブラックのツートーン塗装となっている
トヨタ自動車 製品企画本部 主査 田中義和氏

 東京・お台場の日本科学未来館で行われたミライの発表会では、冒頭でトヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏がビデオ出演。自身が“モリゾー選手”としてドライビングを担当した「新城ラリー2014」の00カーとしての走行シーンを織り交ぜつつ、ついに市販のときを迎えた新世代のエコカーについてスピーチを行った。

 車両の概要説明は、ミライの開発担当責任者を務めたトヨタ自動車 製品企画本部 主査の田中義和氏が担当。田中氏は、このミライについて「自動車の次の100年のために」というテーマで開発を実施したと語り、「小型・高性能のトヨタFCシステム」「FCVならではのパッケージングとモーター走行によるFun to Drive」「知恵をカタチにしたデザイン」「FCV特有の機能」の4つが新型車の大きな特徴であると解説した。

 さらに田中氏は、トヨタFCシステムが20年に渡る開発の集大成であり、発電を行うFCスタックはセダンパッケージを可能とするコンパクトなサイズながら、家庭用に普及しているエネファームと比較して160倍以上のパワーを出せることをアピール。このために、1.3mmほどの厚さでセルを製造できる高い設計技術と“モノづくり力”が必要不可欠だったと語っている。

 Fun to Driveでは、113kW(154PS)/335Nm(34.2kgm)を発生するモーターによって優れた加速性能を発揮し、とくにトルクの大きさと応答性のよさによって追い越し加速で真価を発揮するという。ボディー剛性にもこだわって開発を行い、FCスタックを持つ構造面のメリットに加え、FCスタックのフレームには熱可塑性炭素樹脂を使って高剛性と軽量化を両立。リアサスペンションの周囲にブレースを設定し、剛性を引き上げながらサスペンションがよく動くようにすることで、上級セダンにも負けない乗り心地を実現したとしている。このほか、重量配分でも低重心、前後バランスの最適化が図られ、2WD(FF)車ながら意のままのハンドリングも手に入れたことも紹介された。

 FCV特有の機能については大容量の給電システムをアピール。ミライでは外部給電器との接続により、最大9kWの電力供給を実現し、災害時などの非常用電源としても利用できる。また、田中氏は「個人的にどうしても紹介したい機能」として、運転席のステアリング左脇に設置した「ウォーターリリース機能」について触れた。本来は地下駐車場や立体駐車場などを利用するときに、事前に発電時に発生した水を任意のタイミングで排出しておくための機能だが、田中氏はミライから水が出るところを知り合いなどに見せて、このクルマの独自性を話題にして楽しんでほしいと語っている。

田中氏はミライに乗ってステージ脇から登場
ミライの内装デザインについて解説する田中氏。この発表会では透過型スクリーンが利用され、なにもない空間に突然写真や映像が浮き上がるような演出でミライの先進性を強調した
トヨタ自動車 取締役副社長 加藤久光氏

 また、発表会には6月に行われた新型FCVの開発状況説明会にも参加したトヨタ自動車 取締役副社長の加藤久光氏が登壇。「トヨタとモビリティの新しい時代の幕開けになる新型車の車名は“ミライ”以外に思いつかなかった」と語る加藤氏は、1992年からスタートしたトヨタにおけるFCV開発の歴史や、ミライに至る前段となった世界初の量産ハイブリッドカーであるプリウスの開発経緯、トヨタが考えるエネルギー対策などについて紹介。プリウスはトヨタが社会にもたらした大きなイノベーションであると自負し、さらにミライはプリウスを越える新たなイノベーションの幕開けになると表現。ミライが「モビリティとして地球環境問題やエネルギー問題の克服に繋がるイノベーション」「水素というエネルギーがもたらす水素社会へのイノベーション」という2つの大きなイノベーションを象徴する存在であると語り、「FCVや水素エネルギーが社会に広く受け入れられるようになれば、社会のあり方そのものを大きく変える、プリウスをはるかに超えるイノベーションになります」と、ミライに込められた大きな意義について紹介した。

トヨタのエコカー開発とFCV開発の歴史について解説する加藤氏
加藤氏は水素が資源に乏しい日本にとって非常に重要なエネルギーであり、“究極のエコカー”であるFCVによって水素社会の推進を目指すことで社会貢献したいと語った
発表会の冒頭では、トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏がビデオ出演してミライの車両コンセプトや開発に込めた思いなどを紹介
ミライのボンネット下には駆動用モーターなどを組み合わせた「パワーコントロールユニット」をレイアウト
トランクリッドの運転席側には「FUELCELL」のバッヂを装着
水素の充填口は助手席側のリアタイヤフェンダーに設定
近くに高圧水素タンクなどが配置されるため少し複雑な形状になっているトランクだが、9.5インチゴルフバッグを3個収納できるスペースを確保。フロアボードの下にジャッキやパンク修理キットなどを収納する
トランク内の運転席側に補機類用のバッテリーを搭載。その上側にはAC100V・1500Wのアクセサリーコンセントを用意する
トランク内にCHAdeMO端子を設置。外部給電器と接続すれば発電した電気を緊急用電源として利用できる
外部給電中は車内のメーターパネル内に利用状況を分かりやすく表示。外部給電のON/OFFスイッチはステアリングの右下に用意する
ミライのインパネ。メーターは4.2インチTFT液晶で構成するセンターメーター式
本革巻きの3本スポークステアリングはヒーターを内蔵。電動チルト&テレスコピックも採用する
ピアノブラック調のフラットなパネルを採用するセンターコンソール
プリウスなどのハイブリッドカーでもおなじみになっているエレクトロシフトマチック
パーキングブレーキは足踏み式。“普及させるために可能な限りコスト低減している”という実情が見て取れるコンサバなペダルまわり
田中主査いち押しの装備である「ウォーターリリース機能」のスイッチはステアリング左側に設置
リアシートのシート間に用意されたアームレストには、深い収納スペースと格納式ドリンクホルダーに加え、シートヒーターの操作スイッチを設定
フロントシートのアームレストにはqi(チー)規格対応のワイヤレス充電器を用意
「ウォームホワイト」のシート
「ブルーホワイト」のシート
「ブルーブラック」のシート
後方まで長く続くピラーの部分は側面がガラスとなり、後方視界を確保
フロントシートの下にトヨタFCスタックを設置しているため、リアシートで足先を入れるスペースは存在しない
ドアトリムにはソフトパッドとピアノブラックのパネルを組み合わせ、触感の違いで調和を表現している
「トヨタフューエルセルシステム(TFCS)」について紹介するミライのカットモデル
高圧水素タンクはリアシート下とトランク下の2個所に設置
高圧水素タンクに繋がるパイプは左リアフェンダーに沿って配置。意外なほど細く感じるが、もちろん安全性はしっかり確保されているとのこと
高圧水素タンクはトヨタが自社製造
2008年モデルのトヨタFCHV-advに搭載したFCスタックと比較して、ミライのFCスタックは24kW高出力化しつつ、重さなどは半分近くまでコンパクト化
専用スマートフォンアプリ「Pocket MIRAI」では全国の水素ステーションが検索できるほか、走行履歴を樹木で表現する機能も用意。“発電時に出た水で木が育つ”という発想。季節に合わせてクリスマスツリーになったり、門松になるといった演出も予定している
日本科学未来館のエントランス脇にある浅い池にもミライを展示
「新城ラリー2014」で走行した00カー仕様のミライ
オフロード走行に対応するため、フロント部に金属製のフロアガードを追加し、バケットシートや4点式シートベルトなども採用している

(編集部:佐久間 秀)