インプレッション

ボルボ「V90 クロスカントリー」(2017年フルモデルチェンジ/公道試乗)

SUVとしての風情をより色濃く演出

 数ある輸入ブランドの中にあって、ボルボの存在感がこのところ急上昇中! きっかけはベーシックモデルであるV40シリーズのスーパーヒット。そして、さらにその動きを加速させるに至った主要因は、日本では2016年初頭から導入が始まった新型「XC90」以降、絶え間なく続く新型モデル攻勢にある。

 フルサイズSUVのXC90。それに続き、日本でも導入が開始された「S90/V90」というやはりフルサイズ級のセダンとステーションワゴンを筆頭に、このところ姿を現すボルボの新型車は、いずれも骨格やシャシー、そしてパワーユニットといったハードウェアのみならず、その生産設備までをも一新させた工場から生み出される、まさに「完全新世代モデル」と呼ぶのに相応しい作品。

 今春開催されたジュネーブモーターショーでは、やはり完全新世代モデルとしての内容を持つ新型「XC60」を発表。さらに、それよりも小さなカテゴリーをターゲットとしたデザインスタディ・モデルの「コンセプト40」という名が冠されたSUVとセダンの姿も、実はすでに披露済みだ。

 冒頭述べた存在感の強さは、今後より身近なモデルの分野でも広まっていくことが確実。実は、このブランドの生産台数規模は、国内大手メーカーでは最小であるスバルのさらに半分ほどに過ぎない。けれども、そう聞くと多くの人が「本当に!?」と反応するであろうボルボへの注目度は、これからいよいよ高まっていくに違いないのだ。

 今回お伝えするのは、ステーションワゴンのV90シリーズのうちの1バリエーションである、CCこと「クロスカントリー」の詳細。このグレードは、フェンダー・エクステンションやスキッドプレート付きバンパーなどの専用ボディキットや、地上高/全高を55mm上げた専用サスペンションなどにより、いわばSUVとしての風情をより色濃く演出したバージョンだ。

今回試乗したのはV90の派生モデル「V90 クロスカントリー」(T5 AWD Summum)。ボディサイズは4940×1905×1545mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2940mm。専用サスペンションの装着により地上高および全高は55mm引き上げられたほか、トレッドはV90(T6)比でフロント35mm増、リア25mm増となっている。車両価格は754万円だが、電動パノラマサンルーフやBowers&Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステムといったオプションが付き、総額は829万9000円
フロントまわりでは専用バンパー(スキッドプレート付き)やグリルが与えられる
足下は19インチアルミホイールにミシュラン「LATITUDE Sport 3」(235/50 R19)の組み合わせ
チャコールカラーのフェンダーエクステンションもV90 クロスカントリーならではの装備
サイドウィンドウのグロスブラックトリムも専用装備
サイドのチャコールカラー・ボディパーツ
リアまわりでは「Cross Country」ロゴが入るバンパーを装着

 とはいえ、その全モデルが4WDシャシーの持ち主であるのに加え、前述のように地上高が上げられたことに付随してアプローチ・アングルやディパーチャー・アングルなど、ボディの各障害角もより大きくなっている点も見逃せない。210mmとたっぷり採られた最低地上高と相まり、決して見せ掛けだけでなく、実際の悪路走破性も明確に向上しているわけだ。

 そんなV90 クロスカントリーの実車と対面すると、「これはベースモデルを凌ぐ人気者になりそう」、というのが率直な第一印象となった。そもそもスタイリッシュなV90のプロポーションは、クロスカントリーならではのさまざまな化粧でさらにその個性が際立つことに。端的に言って、自動車大国である日本に住みながら、敢えて輸入車を手に入れようという多くの人にとっては「より個性の強いこちらの方が、魅力的に受け取られそう」と感じられる。

 一方、インテリアの仕上がりは“普通のV90”に準じたもので、外観のように大きな差別化は施されていない。それでもスカンジナビアン・デザインの考え方に基づいたその仕上がりは十分個性的で、かつ各部の仕上がりのクオリティも文句ナシと言える。

インテリアの基本デザインはベースのV90に準ずるが、ブラックに塗装されたウッドパネルは専用品になる。インテリアカラーはチャコール、シートカラーはアンバー

 そうした中にあって個人的にちょっと気になったのは、手動式に留められたステアリングコラム調整機能と、スイッチ数の削減という目的が少々過度に至ったとも思える操作系。前者は「このクラスならば電動化されて当然」とも思えるし、縦型の大型スクリーンがインテリアの重要なアクセントであるのは納得の上でも、むしろ操作性が低下してしまっているのが残念だ。

長時間のクルージングは得意科目

試乗車が搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力187kW(254PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpmを発生。JC08モード燃費は12.9km/L

 前述のようにいずれも4WDシステムの持ち主ながら、最高出力254PSを発するものと同320PSを発するものの2タイプの直列4気筒2.0リッターガソリンエンジンを、いずれも8速ATとの組み合わせで搭載するのが日本仕様のV90 クロスカントリー。

 実は、両者に大きな出力差が生まれる理由はその過給システムの違い。前者がターボチャージャーを単独で加えるのに対して、後者はターボとメカニカル・スーパーチャージャーという仕組みの異なる2基の過給メカニズムを採用。今回テストドライブを行なったのは、「T5」のグレード名が与えられたよりベーシックな前者のバージョンだ。

 V90 クロスカントリーは同じパワーユニットを搭載するベースのV90に比べると、後輪駆動系の追加や装備の違いのため、車両重量が100kgほど上乗せされる計算になっている。実際、比べれば加速の軽快感やアクセル操作に対する加速の追従性がやや低下した印象を受けた一方で、絶対的な加速力が「文句ナシ」という評価であることにはいささかの変わりもない。

 厳しく見ると、50km/h程度までの比較的低速域では、路面の凹凸を拾ってのブルブル感やバネ下の動きの重々しさが、ベースのV90にはやや見劣りする印象。率直なところ、街乗りシーンでの走りの爽快感は「ベースモデルの方がやや好印象だったナ」という思いが募ることとなった。

 ところが高速道路へと乗り込み、車速が増していくと前述のような比較的低速時に感じたネガティブな印象は、いずれも一掃されていく。こうしたシチュエーションでは路面が比較的平滑であることもあり、舗装の継ぎ目などでややドラミング的な低周波ノイズが耳に付くものの、足下がバタ付く感じはほとんど気にならないレベル。乗り味のしなやかさを演じようとするためか、ボディの動き量はやや大きめだが、これはXC90までを含めて最新の90シリーズ全般に共通する傾向だ。

 一方で、V90やS90に比べるとロードノイズが明確に小さいことは意外な発見。これを筆頭に、「現90シリーズの中でもっとも静粛性に長けているのはV90 クロスカントリー」と評してよさそうだ。

 地上高のアップに伴って重心も上がった理屈だが、ワインディングロードへと差し掛かってもそれを不得意とする印象は感じられなかった。特に軽快というわけではないものの、右へ左へと連続するコーナーもソツなくこなしてくれるのがV90 クロスカントリーのフットワーク・テイストだ。

 全般的に評すれば、「地上高のアップなどが図られたものの、ベースのV90に対するマイナス面は小さく、高い静粛性などもあって長時間のクルージングはむしろ得意科目」と、そんな評価を与えたくなるのがこのモデルの走りの実力。

 ところで、そんなV90 クロスカントリーがベースモデルに全く遜色のない実用性の持ち主であるのは言うまでもないだろう。そもそも長けているとは言えなかった小回り性が、さらに最小回転半径にして0.1m増してしまったのは残念。1.9mを超えた全幅も、日本では“過大”と感じる場面が少なくないのも事実だ。だが、高められた地上高はむしろより優れた乗降性をもたらす方向に働いているし、キャビンやラゲッジスペース空間の広さも、いずれも文句の付けようがない。

 ビッグサイズのステーションワゴンは、メルセデス・ベンツかBMWくらいしか選択肢がないと思っていた人にとって、V90は大いに気になる存在に映るはず。中でも、このV90 クロスカントリーはボルボというブランドの存在感をさらに高める、今後の伏兵であることは間違いなさそうだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:堤晋一