インプレッション

日産「ノート e-POWER」(公道試乗)

 日産自動車の「ノート」はグローバル展開されるBセグメントのコンパクトカーだが、現行モデルが2012年8月に発表されて以来4年が経過。マーケットに刺激を与えるためにも、大きなマイナーチェンジが行なわれた。

 ビッグマイナーのトピックは「e-POWER」の投入に尽きるだろう。ガソリンエンジンで発電し、発電された電気のみで走行するいわゆるシリーズハイブリッドで、EV(電気自動車)「リーフ」の経験を活かして、より簡易型のEVを多くのユーザーに提供しようというものだ。

ノート e-POWER X(プレミアムコロナメタリック)。ボディサイズは4100×1695×1520mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2600mmで車両重量は1210kg
e-POWERの追加に合わせて一部改良が実施され、フロントグリルに現在の日産統一デザインとなっている「Vモーショングリル」を設定。ヘッドライト内にLEDランプを使った「ブーメランランプシグネチャー」を設定して広がりや躍動感を表現している。Vモーショングリル内のブルー加飾はe-POWER専用
リアバンパーも形状が変更されてウイング状のシルエットが与えられたほか、リアコンビネーションランプにはV字型の「ブーメランランプシグネチャー」が配されている

 シリーズハイブリッドは、以前にはトヨタ自動車のマイクロバス「コースター」の1モデルとして存在したが、多くのユーザーにとって身近な存在であるコンパクトカーで安価に提供したのは世界でも初めての試みだ。

 e-POWERのシステム概要を復習しておこう。コンベンショナルモデルに使われている1.2リッター直列3気筒のガソリンエンジンを、コンベモデルと同じ位置に発電用として搭載し、フロントシート下のコンパクトなバッテリーに充電して走行用モーターに電気を供給する。

 リーフはバッテリーに蓄えた電気だけでモーターを回していたので、大容量バッテリーが必要で重量も重くなっていたが、ノート e-POWERは発電用エンジンを持っているのでバッテリーを小さくでき、軽量で価格を抑えることもできた。ちなみにリーフの駆動用バッテリー容量が24~30kWh(モデルによって異なる)なのに対し、e-POWERでは1.5kWhという小さなバッテリーで済ませている。

駆動用モーターは最高出力80kW(109PS)/3008-10000rpm、最大トルク254Nm(25.9kgm)/0-3008rpmを発生。試乗車のe-POWER XのJC08モード燃費は34.0km/L。装備の簡素化などによって車両重量が1170kgまで軽くなるe-POWER Sは37.2km/L

 個人的には発電するだけのエンジンなので、もっと排気量の小さなエンジンでもよいかと想像したが、実際には駆動用モーターに見合うだけのトルクを出すには1.2リッタークラスのエンジンが必要ということだった。

 このエンジンは、ノートの通常モデルになるSやMEDALIST Xに搭載するHR12DE型と名前は一緒だがチューニングが異なり、圧縮比を10.2から12.0に高めて発電用に低速トルクを重視している。58kW/103Nmの出力を持つが、低速回転域で幅広くトルクを出せるようなセッティングになっている。また、e-POWER Sの燃料タンクのみ35Lに縮小(ほかは41L)された。

 e-POWERはプラグインハイブリッドではないので外部充電はできず、エンジンが発電した電気のみで走行する。もともとバッテリーが小さいので自前の蓄電だけでは数kmしか走れない。

向かって左側(運転席側)に直列3気筒DOHC 1.2リッターの「HR12DE」型エンジン、右側(助手席側)にリーフと同じ「EM57」交流同期型電動機とインバーターを組み合わせる「e-パワートレーン」をレイアウト。走行用の電力を蓄えるリチウムイオンバッテリーはフロントシート下に配置する

 モーターとインバーターは基本的にリーフのものを流用するので、定格出力は70kW(95PS)を発生する。パワーコンポーネントを共用化することでコストを抑えることができたという。e-POWER Sの価格は200万を切る約177万円と戦略的だ。もっとも、エアコンなどを装備するのは当然と思われるので、実質的に約196万円のe-POWER Xからとなるが、それにしてもEVとしてはバーゲンセールだ。

 車両重量はリーフが1430㎏(S 24kWhモデル)なのに対して1210kg(e-POWER X)と220kgも軽量化されている。コンベンショナルなノート Xは1040kgだから170kgの増加だが、航続距離を確保できる量産EVとしては軽く仕上がっている。

e-POWER Xのインパネ。ステアリングは3本スポークのウレタンタイプ
シフトセレクターもリーフから受け継ぐ同様のものとなる
パーキングレーキはフロントシート間に置くサイドブレーキタイプで、ドライバーの足下にはアクセルとブレーキのペダルのみをレイアウト

EVの入門編として面白く楽しめる1台

 さて、実際に走らせてみると、当然ながらEVそのもの。アクセルを踏んだときの加速はEV特有の瞬発力のあるトルクを体感できる。レスポンスもシャープでガソリンエンジン車とはひと味もふた味も違う。初めてe-POWERのステアリングを握ったユーザーとって、きっと感動の瞬間に違いない。また、アクセルを強く踏んだ場合は即座に発電用エンジンが始動して、感覚的にはガソリンエンジン車に乗っているような気分になるところがフルEVのリーフと違う点だ。

 静粛性に関しては、EVは基本的に静かだが、それだけにe-POWERでは急にエンジンが始動するとノイジーにも感じる。ただ、遮音に気が配られており、騒音の絶対レベルは低い。欲を言えばもっとということになるが、価格や重量とトレードオフの関係になることを考えると、十分に妥協できるレベルだ。

シート表皮はトリコット。シートカラーはブラックで、サイド部分に白いラインが入る。青いパイピングを使うフロアカーペットはe-POWER専用のオプション品
ラゲッジスペースなどの車内スペースに影響が少ないこともe-POWERのアピールポイント。補機類用のバッテリーは重量バランスの兼ね合いなどもあってラゲッジスペースのフロア下に移設されている

 e-POWERにはガソリンモデルにはない「ドライブモード」がある。3モードあるうちの「S」と「ECO」では回生発電が強く働き、アクセルペダルから足を離しただけで強い減速力が発生する。つまり、通常の市街地走行で、落ち着きのあるドライブをしているときはアクセルペダルの操作だけで加速も減速もできるワンペダルドライブが可能となる。これもEV特有のドライブ感覚だ。アクセルを離したときの減速は0.08Gと言われているので、感覚的には軽くブレーキを踏んだようなイメージだ。

 この2つのモードは回生力が強く、積極的に発電する。もっとも、バッテリーが小さいので大きな充電は期待できない。これに対して「NORMAL」モードでは、普通のガソリンエンジン車の感覚で減速する(回生しない)ので、通常の2ペダルモデルと同じドライブ感覚になる。

 クリープ走行はe-POWERでも同様で、ブレーキで減速して停車したときはクリープが発生する。つまり、ブレーキペダルを踏んで停車したときはペダルを踏み続ける必要がある一方で、アクセルペダルの操作だけで停止線に止まったときはクリープはしない設定になっている。ただ、混同しないよう停車中は常にブレーキを踏む癖をつけた方がよさそうだ。

中央に大きくスピードメーターをレイアウトするe-POWER専用ファインビジョンメーター
左側にパワーメーター、右側にエネルギーフローメーターを配置。スピードメーター内に燃費や航続可能距離、デジタル時計などを表示できる
センターコンソールのシフトセレクター後方にドライブモード切替のスイッチを設定
運転席前の右側に「インテリジェントエマージェンシーブレーキ」や「LDW」「VSC」などのOFFスイッチを用意

 乗り心地やハンドリングはバッテリーなどの重量物を低い位置に搭載しているので、意外と上下ダンピングに優れている。185/65 R15(オプション)のタイヤもよく踏ん張って、ハンドリングもどっしりとしているのが印象的だ。

 Sモードではシャープなアクセルレスポンスを体感できるが、ECOモードは減速時の回生力はSモードと同じなものの、アクセルレスポンスは鈍くなる。

標準仕様のタイヤサイズは前後185/70 R14だが、試乗車は15インチアルミホイールのオプション装着に合わせて185/65 R15サイズのブリヂストン B250を装着していた

 e-POWERは市街地でのフットワークに優れており、使いやすく楽しい。まさにEVの強みを発揮できるシチュエーションだ。ただし、高速道路の連続走行で燃費が悪化するのは構造上やむを得ないところで、機会があれば実際の燃費を検証してみたい。

オプション設定の「スマート・ルームミラー」は「インテリジェントアラウンドビューモニター(MOD機能付き)」の映像も表示可能。向いている角度に関係なくカメラ映像を表示できるので、後席に座っている人も見やすいというメリットもある

 シフトインジケーターの視認性がわるいとか、「スマート・ルームミラー」は被写界深度を取りにくいなど、パワートレーン以外での要改善点はあるが、ノート e-POWERはEVの入門編として面白く楽しめるのは間違いない。エコカーを選ぼうとしているユーザーには俎上に載せてもよい1台だ。

【お詫びと訂正】記事初出時、本文の一部に誤植がありました。お詫びして訂正させていただきます。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一