ニスモ、EV「リーフ NISMO RC」のテスト走行を公開
量産車と同様のパワートレーンを超軽量ボディーに搭載。将来的に市販の可能性も

リーフ NISMO RC(左)と市販車のリーフ

2011年6月6日公開



 日産自動車とNISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)は6月6日、千葉県袖ヶ浦市の袖ヶ浦フォレストレースウェイにおいて、電気自動車(EV)リーフのレースバージョン「リーフ NISMO RC」を報道陣に公開した。

 リーフ NISMO RCは昨年のニューヨーク・インターナショナル・オートショーでワールドプレミアされた、リーフベースのEVレーシングカー。ニューヨークショーで公開されたホワイトとブルーを基調にしたモデルと、カーボン地をむき出しにしたモデルが存在し、NISMO社内では前者を1号車、後者を2号車と呼ぶ。

 今回袖ヶ浦フォレストレースウェイで公開されたのは2号車の方で、EVの特徴の1つ、出足の鋭さを活かした「ドライビングプレジャー」を訴求することを目的に開発された。

 大きな特徴点は2つあり、モーター、バッテリー、インバーターは市販車のリーフと同様のものが使われており、これらはフロントからリアに移設され、ミッドシップ搭載されるとともに、駆動方式が後輪駆動に変更されたことが1つ。

 もう1つは見た目からも分かるように、ボディーにカーボンファイバー(東レ製)を採用したことで、車重は市販車のリーフが1520kgなのに対し925kgと、595kgも軽量化されたこと。それに合わせて全長は20mm長く、全幅は172mm広く、全高は333mm低くなり、エクステリアは量産車両のイメージを残しつつ、レーシングカーらしい大胆なフォルムに仕上がっている。

モーター、バッテリー、インバーターはミッドシップに搭載されるとともに、後輪駆動車となったリーフ NISMO RC(市販車は前輪駆動)。市販車のリーフより20mm長く、172mm広く、333mm低いスリーサイズ。車重は市販車に比べ595kgも軽い
エクステリア同様、インテリアもカーボンパーツが多用される
リーフ NISMO RC日産リーフ
全長(mm)44654445
全幅(mm)19421770
全高(mm)12121545
最大出力(kW)

80

最大トルク(Nm)

280

重量(kg)9251520
パワーウェイトレシオ(kg/kW)11.5620
トルクウェイトレシオ(kg/Nm)3.35.71
NISMO 進士守氏

 リーフ NISMO RCの説明を行ったNISMOの進士守氏によれば、一般的にEVはエンジン車よりもトルクの応答性に優れるが、制御をしないとアクセル操作に対して急峻なトルクを発生させてしまい、ドライブシャフトなど駆動トルク伝達系統にねじれが遅れて発生する現象(ガクガク振動)が起きるのだと言う。

 そのため、一般的にはスロットルの動きに対してガクガク振動がでないよう、モータートルクの立ち上がりを鈍らせる制御を行っているそうだが、リーフ NISMO RCでは独自の制振制御技術によってEVの特性を最大限に活かしたアクセルレスポンスを実現し、滑らかな走行を実現したと言う。

 また、リーフ NISMO RCはサーキット走行を前提とするが、サーキットに急速充電器がないため、容易にバッテリー交換できる構造とした。バッテリーはカートリッジ式で、サブフレームと一体型のインバーター、モーター/ギアボックスを取り外すと出現する黒いボックス内に収まる。バッテリー交換にかかる時間は現時点では4名体制で約1時間としており、最終的には2名で30分で作業を完了できるよう目指している。

 航続時間は約20分。より容量の大きなバッテリーを搭載すればより長く走ることができるわけだが、重量とのバランスをみて現時点では問題ないレベルとしている。また、進士氏は0-100km/h加速が6.85秒なのに対し、「GT-Rよりは遅いが、このクラスでは十分に速いレベル」と述べたほか、最高速が150km/hという点について「最高速は最高出力と比例するところがあるので、80kWの出力では高速性能ははっきり言って大したことない」と言う。

 しかし、今回発表された各サーキットでのラップタイムは筑波サーキットで1分7秒16としており、この数値がマーチ(K12)マーチカップカーよりも優れること、また以前に袖ヶ浦フォレストレースウェイで計測した際には1分17秒80だったことを明かし、2010年袖ヶ浦電気自動車レース大会時のテスラロードスター(1分21秒30)よりもタイムがよかったことから「それなりに速いと考えている」(進士氏)と説明していた。

車両のコンセプトと開発のポイントリーフ NISMO RCと市販車のリーフとの主要諸元比較リーフ NISMO RCのレイアウト。バッテリー、インバーター、モーターはリアにミッドシップ搭載する。フロントセクションはインバーター、モーターの冷却用に使うラジエーターが備わる
EVユニットの特徴リチウムイオンバッテリーはオートモーティブエナジーサプライ製カーボンモノコックは東レ製
リーフ NISMO RCの空力解析。GTウイングや下まわりのディフューザーなどによってダウンフォースが発生しているのが伺える航続時間は約20分。袖ヶ浦フォレストレースウェイでの事前テストでは、テスラロードスターのラップタイムを上回った

松田次生選手とニスモの鈴木豊監督

 当日はリーフ NISMO RCのバッテリー交換作業のデモンストレーションが行われたほか、GTドライバーの松田次生選手によるタイムアタックが行われた。

 松田選手いわく、リーフ NISMO RCは「エンジン車よりも静かなことが一番の特徴で、バッテリー残量が減ってもパワーの落ち込みがなく、乗っていて楽しい。迫力感がある」と、レースカーとしての素質を持ちつつ“静か”という新しい価値が付加されたことを紹介するとともに、「エンジン車と違って振動がないし、パワステもついているので女性ドライバーでも扱える。リーフ NISMO RCを通じて幅広いユーザーがEVを使ったレースに興味を持ってくれてらよいのではないか」と述べていた。

 また、SUPER GTでニスモチームの監督を務める鈴木氏に話を伺ったところ、「リーフ NISMO RCのプロジェクトはまだ始まったばかりなので、今後リーフを使ったワンメイクレースを行っていくのかなどは模索中」「リーフ NISMO RCはダンパーやスタビライザーなどのセッティングを行っていない状態で、現時点ではEVユニットの耐久性の確認や、電力などの効率を上げられるかどうかをテストしている段階」としつつ、「EVはモータースポーツに不向きと言われがちだが、EVならではのよさをリーフ NISMO RCを通じて証明していきたい」と今後の抱負を述べていた。

 なお、リーフ NISMO RCは現在2台存在するが、年内に6台が加わって計8台となり、さまざまなプロモーションでも活躍すると言う。また、ユーザーからの希望があれば販売も可能としているが、価格などは明らかになっていない。

松田選手はリーフ NISMO RCを通じて幅広いユーザーにEVレースに興味を持ってもらいたいと述べていた静かに走るリーフ NISMO RC。外からはモーターの音とSタイヤのロードノイズが聞こえる程度。当日は1分17秒台で走る場面も
バッテリー交換作業のデモンストレーションの様子。バッテリーはサブフレームと一体型のインバーター、モーター/ギアボックスを取り外すと出現する黒いボックス内に収まる

(編集部:小林 隆)
2011年 6月 7日