トピック

高橋敏也のオーテック「リーフ エアロスタイル」で5日間無充電通勤チャレンジ

SUPER GT GT500クラスチャンピオンの松田次生選手がサプライズ登場!

 電気が好きだ。いやいや、突然こう書くと怪しさ全開なので、ちょっとだけ説明させてほしい。私は電気が好きだ。同じか。そうではなくて私は「電気・電子機器系のガシェットなら何でも大好きだ」と言いたいのである。要するにスマホからパソコン、果てはEV(電気自動車)まで、電気を使ったものなら基本的に大好き。まあ最近のガシェットはその多くが電気を使っているので、何でもかんでも興味を持ってしまうことになるのだが。

 そんな私にCar Watch編集部から着信。スマホの画面に「Car Watch」と表示されるとなぜか最近身構えてしまうのだが、それはまた別の話。今回の依頼はというと日産自動車が誇るEV「リーフ」の新型に試乗してみないかというものだった。そう、電気である。EVと聞いてクルマ好き、電気好きのおっさんが反応しないわけがない。しかも新型のリーフとなれば、これはもう飛びつくしかない。だが、簡単に釣られてしまうのも面白くないので、冷静に話を聞いてみる。

私:「そうですか。ついに私の説得力あふれるレビュー記事が評価されましたか」
Car Watch編集部:「いえいえ、そうではなくて敏也さんの事務所って、ご自宅からどれぐらいの距離でしたっけ、クルマで」
私:「? 片道15kmぐらいかな、往復で30kmと少しですか」
Car Watch編集部「それ! それですよ! いい感じの距離感じゃないですか!」
私:「何を言っているのかね、君は?」

 そう、Car Watchが求めていたのは私の鋭い視点から繰り出されるレビュー記事ではなく、「都内でクルマ通勤をする、いい感じの距離」だったのだ。自宅と職場が遠すぎたり近すぎたりする場合、都内近辺でクルマを使った通勤というのは考えづらい。公共交通機関を使った方が便利だし、コスト的にも有利だからだ(もちろん大のクルマ好きとか、特殊な事情がある場合は別)。それが私の場合だと、クルマによる通勤が微妙にいい感じの距離なのだ。朝の通勤時間帯で道路が混雑していても1時間30分もあれば到着するし、夜の道路が空いている時間なら45分もあれば到着する。都内でクルマを使った通勤、リアリティのある距離感とシチュエーション、それをCar Watchは私に求めていたのである。

 まあいい。新型リーフを試乗できるというのだから、その機会を逃す手はない。また、話を進めてみるとこれがなかなか面白い。詳細は後述するが、ほぼフル充電状態の新型リーフを受け取り、それに乗って月曜日から金曜日までの5日間、普通に運転して通勤してみてほしいというのだ。ただし! ただし、その間リーフは「充電しないでほしい」とのこと。この充電しないというのがいったいどういう意味を持つのか? 何はともあれ通勤チャレンジ、スタートである。

リーフが我が家にやってきた!

 2016年3月28日月曜日早朝、私の元に新型リーフがやってきた。今回の試乗ではサプライズが2つばかり用意されていたのだが、新型リーフ受領の際にその1つ目が炸裂した。確かに新型リーフなのだが、明らかにインターネットで見たものよりお洒落なのだ。話を聞いてみて驚いた。なんとその新型リーフはオーテックジャパンの「リーフ エアロスタイル」だったのである! 言うなれば新型リーフのカスタムバージョン、スペシャルな1台なのである。このリーフ エアロスタイルのスペシャルな点に関しては後述する。

 新型リーフ改め「新型リーフをベースとしたスペシャルな1台であるオーテックジャパンのリーフ エアロスタイル(あまりに長いので以後はリーフとする)」は、横浜からやってきた。フル充電はしてあったのだが、横浜から杉並区まで走行した分、バッテリー残量が減っている。まあ、それはそれで仕方のないことだが、なぜか走行可能予想距離は約190kmになっている。バッテリーメーターを見ると、目盛り1つしか減っていない。リーフのバッテリーメーターは12目盛りなので、一目盛り減ったとしても90%以上の残量があるはずだ。そしてリーフはフル充電で「最大280km」(JC08モード)走行できるのである。

 仮にバッテリー残量が90%として、最大280km走行できるなら、約250kmと表示されるはずなのだが……。いやいや、これは後で知ったことなのだが、走行可能予想距離の算出は過去の「電費」に基づいて計算される。ということは、過去の電費がわるければわるいほど、走行可能予想距離は減っていくのである。私が借りたリーフに関して言えば、過去の電費はさほどよくなかったはずだ。

 あと190kmは走れると主張するリーフ。私の通勤距離は往復30km、チャレンジするのは5日間なので走行する距離は30×5=150kmであり、寄り道をしても合計160kmぐらいなものだろう。予想どおりならあと30km走れる状態で、通勤チャレンジは終了するはずだ。問題は燃費ならぬ電費だが、私もハイブリッドカーなどを乗りこなしてきた(?)プライドがある。エコで電費のよい走りをして、5日間の通勤を充電なしで乗り切ってみせよう! という訳で5日間通勤チャレンジ、スタート。

 早朝に受領したリーフが杉並区を出発したのはちょうど昼ぐらい。通勤時間帯を避けることができたため、道路は空いていて順調にお茶の水の事務所に到着。メーター読みで走行距離は15.3km、あと175kmは走れるとリーフはいう。その日は別の用事があったため、15時30分ぐらいにお茶の水を出発。道路は混雑していたが大渋滞というほどではなかった。また、比較的暖かかったのでエアコン、シートヒーターなどは使わず、ラジオを聞きながら走行。往復とも私1人が乗車し、帰路には自宅近くのコンビニに寄った。最終的に走行距離は往復で30.3km、あと160km走行可能という状態で初日を終える。

 2日目は午後になってから杉並を出発。往路はさほど混んでおらず快適に走行できたし、かなり電費のよい運転ができたと思う。寄り道などもなかったので、事務所に到着した時点で走行距離のトータルは45.9km、バッテリー残量69%、あと154km走行可能といったところ。問題は復路、帰りである。今までは私1人が乗車していた訳だが、2日目の復路でついに嫁が同乗した。しかもやや時間が遅くなったため気温が下がり、嫁がシートヒーターを「Hi」で使用した。夜ということはもちろんヘッドライトを点灯しての走行となり、それも電気を消費することになる。帰宅した時点で走行距離は62kmとなり、あと126km走行可能という状態で2日目を終えた。

 3日目。やはり午後になって杉並を出発、行きは1人で帰りは嫁同乗という前日とほぼ同じパターンになった。復路でいつものスーパーに寄って買い物をしたのだが、そこは通勤路沿いにあるため走行距離にはあまり影響しない。帰宅した段階で走行距離は92kmとなり、バッテリー残量は46%、あと99km走ることができるとリーフはいう。面白かったのはバッテリー残量が50%以下になったのを見て、嫁が騒ぎ始めたことだ。というのも残り46%からフル充電までは、200Vで充電しても10時間30分かかると表示されるのだ(100Vだと21時間30分!)。急速充電の存在などを知らなければ、確かに不安を感じるかも知れない。だが、私にとっては余裕の数字だった。

 4日目もほぼ今までどおりのパターン。往路は1人、復路は2人。往路の都内は大渋滞こそないがそれなりに混雑していて、復路は時間が遅いため空いている。気温はさほど低くないのでエアコンもシートヒーターも使用せず、ラジオを聞きながら、復路はヘッドライトを点灯して走行する。4日目を終了して走行距離は122.4km、バッテリー残量は30%、あと64km走行可能という状態となった。最終日を残してあと64km走行可能なのだから、これはもう余裕のよっちゃん、5日間通勤チャレンジ大成功! とか思っていた時期が私にもありました……。そう、Car Watch編集部と合流するまでは……。

 2016年4月1日金曜日、チャレンジ最終日がエイプリルフールと被った時点で、私は危機を察知すべきだった。そう、最終日はCar Watch編集部と合流し、写真撮影を行なわなくてはならないのである。普通の通勤だけなら約30kmを走ればいいわけで、バッテリー残量が30%、残り64km走行可能という状態であっても何ら問題はない。だが、写真撮影となると話は違ってくる。まさか撮影のために30km以上走ることはないだろうから、大丈夫だと信じたいのだが……。

「サクラがきれいですね、ここで1カット欲しいですね」とか「秋葉原を走るリーフ、いいですね!」とか言われながら往路を走り、写真撮影をこなし、帰宅してようやくリーフによる5日間通勤チャレンジが終了した。

電気自動車というからには、やはり秋葉原がよく似合う(かな?)

 5日間、リーフに乗って杉並~お茶の水間を通勤した。最後に杉並区の自宅に戻ってきた段階で、あと27km走行可能ということだったから、余裕で最寄りの急速充電スポットまで行くことができる。充電直前の車両表示は以下のとおり。

・総走行距離:161.0km(写真撮影含む)
・バッテリー残量:11%
・航続可能距離:24km
・平均車速:17.0km/h
・100%充電まで:200V 14時間30分、100V 31時間30分
・電費:平均7.9km/kWh

5日間、通勤で使用しての結果。左から電費、平均車速、航続可能距離

 この5日間、さすがにエコモードを解除することはなかったが、そのほかはごく普通の運転をしたつもりだ。幸いなことに天候がよく、エアコンを使わずに済んだのは電費に優しかったと思う。だが、同乗者がいた場合もあったし、その同乗者がシートヒーターを使う場面もあった。夜間の走行ではもちろんヘッドライトを点灯していた。繰り返しになるが、まあ普通の通勤風景ということなのである。ただ、その通勤に使ったクルマがEV、ガソリンを1滴も使わず排気ガスも一切出さないリーフだったというだけなのである。

自宅では充電しないというライフスタイル

 週に5日間リーフで通勤をし、その間は充電をしない。金曜日の夜、あるいは週末になってから充電をするのだが、自宅ではなく最寄りの急速充電スポットへ行く。ある調査によると、リーフに乗る人の多くが「自宅ではリーフに充電をしない」という。純粋なEVであるリーフにとって、走行するためのエネルギーを得られる機会は充電のみ。充電しないで走ればやがてはバッテリーが空になって走れなくなる。自宅での充電となると急速ではなく通常の充電となるが、それでも帰宅して充電器をセットすれば、朝にはバッテリーは満充電状態になっているはずだ。ではなぜ、自宅では充電しないのか?

 このような使い方をしている人たちの多くは「日産ゼロ・エミッションサポートプログラム」を利用しているらしい。

 例えばスタンダードプランの場合、月々3000円(税別)を支払うことで全国にある4200カ所以上の急速充電スポットが使い放題なうえに、6カ月ごとの点検や初回の車検の料金も含まれているなど、日産独自のサポートが受けられる。重要なことなので繰り返すが、日産ゼロ・エミッションサポートプログラムでは急速充電スポットが「使い放題」なのである。充電器のタイプにもよるが、急速充電スポットなら30分ほどでバッテリーを80%以上まで充電できる。そして80%以上の充電状態でウィークデーを乗り切るのだ。

 もちろん別のパターンも考えられる。月曜日から金曜日までは通勤や買い物の足としてリーフを使い、金曜日の夜に急速充電を行なう。週末、レジャーにリーフを使い、日曜日の夜にふたたび急速充電を行なう。日産ゼロ・エミッションサポートプログラムは全国4200カ所以上(日産販売店舗の1700カ所以上、日本充電サービス[NCS]の2500カ所以上)の急速充電スポットが使えるのだから、旅行先でバッテリー残量に不安を感じたら、近くの急速充電スポットを探してそこへ行けばいい。調べてみれば分かることだが、急速充電スポットには24時間いつでも使えるところも多く、ちゃんと状況を把握しておけば不安を感じることはない。

 また、リーフがセカンドカーであり、自宅近くでしか使わない。そして日産ディーラーが近くにあるという人なら、同じ日産ゼロ・エミッションサポートプログラムでもライトプランを選ぶという手もある。こちらは月額1429円(税別)という料金で、全国約1700カ所にある日産ディーラーの急速充電スタンドを無料で使用できる。もちろんその都度料金を支払うことで、NCSの約2500カ所以上ある急速充電スポットも使用できる。

 実際のところ、リーフを家で充電したとしても、そのコストはガソリン代と比較してかなり少なくて済む。しかし、安全な充電環境を自宅に後付けで用意するぐらいなら、外で急速充電という考え方もよく分かる。いずれにしても充電は自宅以外で行なうというスタイルは、かなり広く定着しているということである。

 さて、5日間通勤チャレンジを終えて、リーフのバッテリーは限りなく空に近い。今こそ充電の時である。リーフのカーナビには「Zero Emission」というメニューがあって、そこから「充電スポットを探す」という機能が選択できる。この機能を使うと現在地と関連づけて、例えば最寄りの急速充電スポットを探すことができるのだ。リーフのメーターは「バッテリー残量低下」との警告メッセージを表示しているし、ガソリンスタンドマークならぬ充電スタンドマークまで点灯している。そこで自宅近くの「日産プリンス東京販売 荻窪店」へと向かった。

滅多に見られない(?)メッセージ。都内であれば、これが出たからといって慌てる必要はない(それぐらい急速充電スポットはたくさんある)
バッテリー残量11%!
あと24kmしか走れず、エアコンをONにすると-2kmとなる
この状態からノーマル充電でバッテリー100%まで持っていこうすると、これぐらい時間がかかる
充電スポットを探す。上から4番目の日産プリンス東京荻窪店へと向かった

 果たしてそこに急速充電スタンドはあった! 慌てず騒がずリーフを充電スタンドのエリアに停車し、急速充電を開始する。パワフルな100A超え、360V超えの急速充電は伊達じゃない。急速充電スタンドはタイマー的に30分の充電を行ない、バッテリー残量を約80%まで回復させることを目安としている。しかし、バッテリー残量によっては90%を超えるところまで充電できる場合もある。

まずは充電ポートリッドオープナースイッチを押して……
充電ポートを開く
日産ゼロ・エミッションの充電サービスカードで充電を開始する
充電プラグを充電ポートに挿す! エヴァンゲリオンのアンビリカルケーブルではないので注意!
充電中。驚異の105A、365V!
フード上の充電インジケーターが充電状況を教えてくれる。1/3、2/3、そしてフル充電点灯から5分後、インジケーターランプは自動的に消灯する
バッテリー残量によってはこのように96%ぐらいまで充電される場合もある
これでまたリーフ エアロスタイルは200kmの走行が可能になった(累積された電費によって走行可能距離は変化する)

 逆にスーパーマーケットなどの公共施設に併設された急速充電スポットの場合、出力が小さいものもあって、その場合だと30分の急速充電で80%まで届かない場合もある。もちろん、バッテリー残量が多ければ30分で80%を超えることもある訳だが。急速に関わらず充電スポットはインターネットで検索することができ、サイトの中には充電スポットの出力が明記されているものもある。なので、必要に応じて充電スポットを使い分けるようにしたい。

今回撮影に協力いただいた日産プリンス東京販売 荻窪店。青梅街道沿いに大型ショールームがあり、日産ゼロ・エミッションサポートプログラム会員およびEVサポートプログラム会員は無料で急速充電を利用できる。GT-Rの特別教育を受けたGT-Rマイスターを配する「日産ハイパフォーマンスセンター」(メーカー認定店舗)でもある。住所は東京都杉並区桃井3-5-5

スタイリッシュなだけじゃない「リーフ エアロスタイル」

 日産プリンス東京販売 荻窪店でリーフの急速充電を行なっている際、たまたま目にとまったのが新型リーフの試乗車、それも今回私が試乗したものと同じ黒いモデル。だが、両者には決定的な違いがある。そう、置いてあった試乗車はノーマルモデルで、私が試乗したのはオーテックジャパンのリーフ エアロスタイルということだ。

これだけ見ても美しくてまとまったデザインだと思うのだが、ノーマルと比較するとリーフ エアロスタイルのカスタマイズのレベルがよく分かる。エクステリアでは専用フロントエアロフォルムバンパーやサイドシルプロテクター、リアアンダープロテクター、LEDバンパーイルミネーション、専用17インチアルミホイールが与えられる。ボディサイズは4460×1770×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2700mm。走行性能について、VCMを専用チューニングしてアクセルを踏み込んだ時の反応を向上させているのはリーフ エアロスタイルならでは。搭載する「EM57」モーターは最高出力80kW(109PS)/3008-10000rpm、最大トルク254Nm(25.9kgm)/0-3008rpmを発生

 新型リーフはデザイン的に見て、よくまとまっているという印象がある。特にスーパーブラック塗装のモデルは、引き締まった雰囲気といい意味での迫力がミックスされていて存在感がある。そこにオーテック ジャパンのカスタマイズを施したのがリーフ エアロスタイルとなる訳だ。その名のとおり、カスタマイズのメインはエクステリア、すなわちエアロパーツとなる。これがもう、お世辞抜きに格好いい。

特にお気に入りなのがこの専用17インチアルミホイール(タイヤサイズ:215/50 R17 91V)。軽すぎず、暗すぎず、ちょうどよい青! ちなみにリーフでは「エマージェンシーブレーキ(自動ブレーキ)」や「LDW(車線逸脱警報)」といった先進の安全装備が全車標準装備されるのも魅力の1つ

 やり過ぎず、かといって遠慮せず。カスタマイズのお手本のような仕上がりだが、お手本にするぐらいならリーフ エアロスタイルを選んだ方がいいだろう。というのも、リーフ エアロスタイルはインテリアにもモダンホワイトレザーシートというオプションが用意されているうえに、走りもチューニングされているからだ(グレード別設定)。インテリアに関してはリーフ エアロスタイルに負けないカスタマイズは可能だろうが、走りのチューニングに関しては相当に難しいと思う。というか、素人が手を出せる領域ではないと思う。

撮影車はオーテックのオプション扱いのホワイトとブラックを組み合わせた「モダンホワイトレザーシート」を装備。質感が大人っぽく上質に仕上がっているのが○。エアコンを使わなくとも快適に過ごせるよう、ステアリングヒーターやシートヒーター(前後席)が標準装備される

 リーフにとってエンジンの代わりとなる存在、もちろんそれはモーターな訳だが、その出力特性を左右するのが「VCM(Vehicle Control Module)」である。このVCMがリーフ エアロスタイルでは専用チューニングされている(グレード別設定)。ノーマルのリーフではアクセルを踏み込んだ際にいったんグッと出力を上げ、上がり切ったところで比較的早めに出力を絞り込む。だがリーフ エアロタイルの専用チューニングでは、出力の絞り込みが少なく設定されており、加速感が持続するような味付けになっている。

 日産プリンス東京での急速充電も終わったことだし、最後の写真撮影までにバッテリー残量が足りなくなった場合はまた充電すればいいだけの話。という訳で、リーフをエコモードから開放(電費はわるくなる)してもまったく問題ない。そこでリーフ エアロスタイルの専用チューニングを味わうべく、エコモードを解除してややラフにアクセルを踏み込んでみた……。ああ、こりゃスゴい! 有無を言わせぬ圧倒的な加速感は、ガソリンエンジンには出せないパワフルなモーターならではの感覚である。もし機会があるなら、ぜひこの感覚をリアルに体験してほしい。踏めば誰にでも分かるから、このスゴさは。

サプライズすぎるゲストが登場!

終始ノリのよかった松田次生選手。日本を代表するレーサー兼鉄道模型マニア

 リーフの試乗、最後に待っていたのは箱根での写真撮影だった。箱根を舞台としてリーフ、いやリーフ エアロスタイルのスタイリッシュなところを余すところなく撮影しよう、そんな話である。もう電費を気にする必要もないし、心配事といえば当日の天気だけ。だが、そういった気楽な雰囲気を吹き飛ばしてくれるのがCar Watchだ。最終日の撮影にはサプライズなゲストが登場するというのだ。後々思い知らされたのだが、これがもう本当にサプライズでビッグなゲスト、というより驚愕のゲストだったのである。

 最初に言っておこう。松田次生選手である。SUPER GTを2年連続で制覇し、今年もチャンピオンとなれば前代未聞、前人未踏、問答無用の大偉業を達成することになる、あの松田次生選手である。私はその松田選手が運転するリーフの助手席に申し訳なさそうに座っているのだ。そしてこれまた申し訳ない話なのだが、その松田選手への質問は「秋葉原へはよく行かれます?」とか、「何かげん担ぎはあるんですか?」とか、そういった他愛のないものばかり。今、正直に言おう。誰だ、こんなビッグなゲストを呼んだのは!?(Car Watch編集長、たっての希望だったそうです)

 といっても私自身、元々バイク乗りの単にクルマが好きなおっさんである。当初、松田選手と言われてもまったくピンとこなかった。もちろんSUPER GTの存在は知っていたが、そこともリレーションしないぐらい無知だったのである。なのでゲストの存在を知らされても以下のような反応だった。

Car Watch編集部:「箱根の撮影にはゲストがいらっしゃいます。松田次生選手です」
私:「? 日産の方ですか?」
Car Watch編集部:「調べてみてください。では当日、よろしくお願いします」
私:「?」

 もちろんすぐさまインターネットで調べる。当然のようにインターネットで溢れかえる情報。プロのレースドライバーであること、SUPER GTを2連覇中であること、業界では知られた鉄道マニアであること、更新頻度がかなり高いブログで自ら情報を発信していることなどなど。いや、大変な人物じゃないか! そんな人と私はいったい何を話せばいいのだ!? 慌ててCar Watch編集部に電話をする。

私:「調べました、松田次生選手。スゴいゲストじゃないですか!」
Car Watch編集部:「でしょ。よろしくお願いしますね」
私:「いやいや、私は何を話せばいいんですか!? レースドライバーってことで話が弾みそうなハッシー(自動車ジャーナリストの橋本洋平氏)の方がいいんじゃない!?」
Car Watch編集部:「松田選手は鉄道マニアだから、そのあたりを切り口にして話を盛り上げて。よろしく~」
私:「わし、鉄道マニアじゃないし……」

 鉄道マニア的な話は同行するカメラマン氏が担当してくれるそうだ。なので私は松田選手とリーフの話をすればよろしい、そう言われたものの……不安である。そして撮影当日、状況は悪化の一途をたどる。写真撮影にはまったく向かない悪天候となったのだ!

 それでもスケジュールに変更はない訳で、某所にて松田選手と落ち合う。まあ正直な話、こちらはガチガチに緊張していた訳だが、オーテック ジャパンのカスタマイズカー「エルグランド ライダー」(を、さらにカスタマイズしたもの)に乗った松田選手は、実に爽やかな好青年だった。挨拶も無事に終え、さっそく箱根へ移動することになったのだが、ここで予期せぬ事態が。なんと移動するリーフを運転するのは松田選手だというのである!

 撮影日は2016年4月5日、その週末である4月10日にはSUPER GTの開幕戦が岡山で開催される。もちろん松田選手はGT500クラスで参戦する訳だが、もし仮にその松田選手を乗せて「何かあった」ら誰も、どうやっても責任の取りようがないのである! ならば松田選手に運転してもらうしかないというのがCar Watch編集部の決断。松田選手はそれを快く了承してくれたし、後述するがそもそも松田選手は大のクルマ好きなのである。リーフも楽しんで運転してくれた。

 が、しかし。その助手席にいる私の立場はどうよ? ゲスト、それもビッグなゲストに運転してもらう、レースに詳しい訳でもないおっさんの立場は? さらに写真撮影が困難な天候、気温が低い上に小雨が降り、目的地である箱根に到着してみれば、そこは白いガスで煙っているという始末。天候に関しては私の関知するところではないのだが、申し訳ないやら何やら複雑な気分である。逆にそんな状況を打破してくれたのは松田選手であった。実に話しやすくフレンドリーな人なのだ。

箱根、これだもの。ドライバーは松田選手
もうね、カタログ用の写真かと
笑顔で運転してくれた松田選手。レースの時はまた違う雰囲気なのだろうと、助手席のおっさんは想像している

私:「呼んだ側の人間が言うのもなんですけど、この時期(週末にはSUPER GT開幕戦)に呼んでしまって大丈夫だったですか?」
松田選手:「まあまあ、翌日レースだとちょっとつらいですけど、今日は火曜日なんでまだ大丈夫ですね」
私:「なるほど。やっぱり当日に向かってどんどんテンションというか、気分が上がっていくという感じですか?」
松田選手:「そうですね」
私:「その気持ちの盛り上がりは、レース当日に合わせていくものですか?」
松田選手:「合わせてやる感じですね」
私:「レースでは何かげん担ぎとかありますか。当日は真っ赤なパンツをはくとか、そういうのは?」
松田選手:「げん担ぎは……いや、ないですけどね。もう本当、あれですね、普通のパンツで。あまりげん担ぎとかして、それがダメだった時のショックも大きいですから」
私:「なるほど(笑)」
松田選手:「なるべく気にしないようにします」

 パンツの話じゃない! もっと何か別のことを質問しなくてはならないはずだが、パッと思い浮かばないのだ! レースのことでも、リーフのことでも、もっと別の話をしなくては!

私:「松田選手は、あるタイプのリーフの開発にも関わられたと聞きました」
松田選手:「リーフ NISMO RCといって、パワーユニット系、モーターとかバッテリーとかインバーターは市販と同じものを使って、超軽量化したレーシングカーみたいなリーフを昔作ったんですよね。それが凄い面白くて」
私:「多分前のリーフがベースになっていると思うのですが、プログラムも書き換えたんですか?」
松田選手:「プログラムは市販モデルと一緒です」
私:「そのあたりをいじらないで軽量化だけで攻めたというのは、何か理由があったんですか?」
松田選手:「やっぱりレースを楽しめるという、EVでちょっとレースできないかなみたいな、“究極の速いクルマを作りたい”というのもあったみたいで。本当カッコよかったですよ。クルマは凄くいいなと改めて思ったんですけどね」

 最近、松田選手のお気に入りは「ノート NISMO S」だそうだ。先日も富士スピードウェイへ「完全プライベート」で行って、ノート NISMO Sを走らせてきたという。そのノート NISMO Sはカスタマイズの最中なのだそうだが、富士スピードウェイを2分20秒前後で周回するという。すいません松田選手、隣に座っているおっさんは、スポーツカーに乗って周回してもそれ以下のタイムでした。ごめんなさい、ごめんなさい……。

箱根町役場の前には2台分の急速充電スポットがある。もちろん、リーフのナビでもその存在を確認できる
ポーズをお願いすると快く応じてくれる松田選手

 そのほか興味深かったのは以下の話。

私:「松田選手が乗られているようなレースカーというのは、燃費どれくらいなんですか?」
松田選手:「燃費はわるいですよ~」
私:「ですよね……リッターどれくらい走ります?」
松田選手:「今乗っているGT500の燃費はナイショですけれど、過去に乗ったレースカーだと1km/Lぐらいのクルマもありました」
私:「そうすると、乗り方がよくて速いと意外と燃費がよかったりするんですか?」
松田選手:「ああ、しますします。レースでは左足でブレーキを踏むことがあるんで、まあほとんど左足ですかね。なのですが、意外とアクセルを戻さないうちにブレーキを踏んじゃう人が結構いて、それで速く走れる部分もあるんですけど、基本的にはそれが燃費にもわるさをするんです」

昼食では松田選手とCar Watch編集氏がエルグランド ライダーのカスタム話で盛り上がっていた

 このほか、箱根のような坂道の多い道では、下り坂はシフトの「Bモード」をうまく使うと回生ブレーキの効率がアップするとのこと。実際、松田選手の運転で下り道を走ったのだが、バッテリー残量が数%回復した。もちろんBモードをうまく活用した結果である。松田選手曰く、「リーフのBモードはエンジンブレーキならぬ、電気ブレーキ、電ブレですね」だそうだ。また、松田選手が何度も口にしていたのは、リーフのマイナーチェンジ前のモデルとの比較で、「いやー、軽くなったなあ。前のモデルはちょっと重い感じがあったんだけど、軽くなったなあ」と繰り返しつぶやいていた。

下り坂をうまく利用して回生ブレーキの効率をアップさせる走りを見せてくれた松田選手

 面白かったのは、たまたまロマンスカーの旧型車両を見ることができたのだが、私が「あ、珍しい電車が」と言った途端、松田選手とカメラマン氏が素早く反応し、シャッター音を鳴り響かせたこと。もちろんレンズが追っていたのはロマンスカーだったというオチなのだが。

 当日、最後の記念撮影で熱海の海岸へ行ったのだが、やはり気温が低い。松田選手は楽しんでくれていたようなのだが、もし風邪でもひかれたら……、週末には大事な第1戦があるというのに……。などと思うと私の胃からは悲鳴が聞こえた訳だが、そこはそれプロのレースドライバー。「鍛えてますから大丈夫ですよ」とニッコリ。どこまでこの人は爽やかなのだろうかとか思いつつ、悪天候の中、なんとか撮影を終えることができた。

ぶっちゃけた話、格好いいよね、この人

 今年、松田選手はGT500クラス3連覇を目指しているという。不肖・高橋、まずは近くの神田明神へ必勝祈願に行きます。そしてレースのときはテレビの前で熱烈応援いたします。R35 GT-Rのホイールやブレーキを移植したエルグランド ライダーで爽やかに去って行く松田選手を見て、そう誓った高橋であった。

追伸:やったぁぁぁ! 祝、松田次生選手、第1戦優勝!
「SUPER GT第1戦岡山、GT500の優勝は1号車 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ組)」

協力:株式会社オーテックジャパン

(高橋敏也/Photo:安田 剛)