試乗インプレッション

“2019年モデル”に進化する三菱自動車「アウトランダーPHEV」プロトタイプをサーキット走行でチェック

ランエボで言うなら“エボX”くらいまで来た!?

 三菱自動車工業の稼ぎ頭である「アウトランダーPHEV」は、2013年の登場以来、この2018年5月までに全世界で15万8365台を販売したそうだ。そのうち日本は4万2815台と大健闘。他にはないSUVタイプとして世界初となるプラグインハイブリッド車という独自の立ち位置はゆるぎないもののように感じる。だが、三菱自動車は現状に甘んじることなく、さらなる飛躍を決意。間もなくパワーユニットをはじめ、あらゆる領域を進化させた改良型のアウトランダーPHEVを発売する。

 2019年モデルとなるであろうプロトタイプの試乗が許されたのは、袖ヶ浦フォレストレースウェイというサーキット。SUVでサーキットとはさすがは三菱自動車。とはいえ「発表前だからクローズドコースなんですよ」というのがお約束なのだが、聞けば「存分に味わっていただいても大丈夫ですよ」という。それほどクルマに自信があるのだろう。

「アウトランダーPHEV S Edition」の2019年モデル プロトタイプ
ヘッドライトはロービームに加え、ハイビームもLED化。このほかフロントマスクではバンパーやラジエターグリル、フォグランプベゼルなどをデザイン変更している
車両後方ではリアバンパーを形状変更し、ルーフの後端にリアスポイラーを追加
18インチアルミホイールもデザイン変更。タイヤはこれまでオールシーズンタイヤを標準装着していたが、2019年モデルからサマータイヤに変更。試乗車では「エクリプス クロス」でも採用しているトーヨータイヤ「プロクセス R44」を装着していた

 新生アウトランダーは、エクステリアからインテリアまで質感アップを果たしたことは写真を見ても分かるとおりで、詳細はそちらをご覧いただきたいと思う。それ以上に変化しているのがパワーユニットの大幅な改良だ。エンジンは2.0リッターからアトキンソンサイクルを採用した2.4リッターへと拡大。エンジンを高効率に使えるよう、エンジン回転数を引き下げることが狙いのようだ。加えてエアクリーナーボックスからマフラーまで防音対策を見直し、静粛性にもこだわったところがポイントの1つだ。そのほか、ジェネレーター最大出力+10%、駆動用バッテリー容量+15%、バッテリー出力+10%、リアモーター出力+10kWを達成。部品の約9割を変更したという。おかげでエンジンが始動しにくくなり、ここでも静粛性に寄与。EV航続可能距離は60kmから65kmへ。EV走行領域も拡大され、最高速は125km/hから135km/hに引き上げられている。

アトキンソンサイクル採用の直列4気筒DOHC 2.4リッターエンジン「4B12」型は最高出力94kW(128PS)/4500rpm、最大トルク199N・m(20.3kgf・m)/4500rpmを発生。組み合わされるモーターは、フロントが最高出力60kW(82PS)、最大トルク137N・m(14.0kgf・m)を発生する「S61」型、リアが最高出力70kW(95PS)、最大トルク195N・m(19.9kgf・m)を発生する「Y61」型となる

 一方でシャシーやボディ、そして4WDシステムの「S-AWC」についても今回は大幅に改良している。まず、ボディについては2017年モデルの「S Edition」でリアまわりに用いていた構造用接着剤を、どのグレードにも追加しつつ使用領域を拡大。以前はリアフェンダー内側やテールゲート両サイドに終わっていたものを、前後ドアの開口部にも流し込んだ模様。足まわりについては、ビルシュタイン製を採用しないモデルにも改良が加えられている。これは主にショックアブソーバーのピストン径を引き上げたところがポイント。2013年モデルがフロント30mm、リア28mmだったのに対し、2016年モデルではフロント32mm、リア30mmとなったが、2019年モデルではさらに奢りフロント35mm、リア32mmにしたという。その上でステアリングのギヤ比をクイック化。スポーティなハンドリングが期待できそうだ。

G Plus Package(2019年モデル プロトタイプ)のインテリア。ステアリングのステッチ色をシルバーに変更し、メーターフードやセンターアームレストにもシルバーのステッチを追加して質感向上を図った
メーターパネルではパワーメーター(左側)の表示内容を刷新。左下に車両が走行できない状態であることを示す「Off」ポジションを追加。中央上側のS-AWCディスプレイもデザイン性を高め、前後駆動力配分や旋回時の駆動&回生の状況が分かりやすい表示内容に変更された
G Plus Package(写真)とGにオプション設定される本革シート。内装色はブラックのほか、新色のライトグレーを設定している
フロントシートは肩まわりの形状を変え、シートバックと座面のサイドサポート部分で硬度を変更してサポート性を高める
S EditionとG Premium Package専用となる「ダイヤキルティング本革」のシートは、乗員の体をしっかりと受け止めるホールド性に加え、インテリアの高級感アップに貢献
センターコンソールやインパネ、ドアトリムなどにレーザーエッチング処理を与えたオーナメントパネルを設定して上質感を演出
センターコンソールの後方に「後席用エアコン吹き出し口」を新設。後席乗員の快適性を向上させる
パワーウィンドウスイッチは4つすべてがオート機能付きになり、使い勝手を高めている

 S-AWCについては「SPORT」モードと「SNOW」モードを追加することで、走行性能をさらに引き上げようとしている。SPORTモードを選択した場合、トルク特性もシャープになるが、それに合わせて駆動力配分をリア寄りにして積極的に曲げていこうとしている。これによってヨーレートはより高く発生し、曲がりやすくなるということのようだ。一方でSNOWモードはトルク特性を穏やかにしてコントロールしやすくするほか、リアへのトルク配分はSPORTほど積極的には行なわないようにセットされている。

センターコンソールでは、ツインモーター4WDのスイッチがプッシュ式からトグル式に変更。その後方側に「SPORT」モードのプッシュ式スイッチが追加された
SPORTモードのスイッチを押すと、メーターパネルのS-AWCディスプレイにブルーのアイコンを大きく表示してアピール。その後もS-AWCディスプレイ左上にモード表示される
ツインモーター4WDのモードに「SNOW」モードが追加された
従来どおり「EVプライオリティモード」「バッテリーセーブモード」「バッテリーチャージモード」も設定
アウトランダーPHEV 2019年モデル プロトタイプ・インカー解説編(3分43秒:撮影・安田剛)

サーキットを存分に味わえる走りはお見事!

試乗の舞台となったのはサーキットの袖ヶ浦フォレストレースウェイ

 今回は2017年モデルのS Editionから試乗を開始し、続いて2019年モデルのベースとも言える「G Plus Package」、最後に2019年モデルのS Editionに乗るスケジュールとなった。まず、改めて2017年モデルに試乗してみると、これはこれで熟成されているようにも感じる。これ単体で乗ればわるくはないし、狙いどおり動くようにも感じるのだが……。ただ、以前に一般道で試乗した際は、荒れた路面でハーシュネスがきつかったりしたことを思い出した。もう少しボディがしっかりしていればな、と思ったものである。

2017年モデル「S Edition」

 その後に2019年モデルのG Plus Packageで走り出すと、まず驚いたのが確かに静かになっていることだった。エンジンを遠く感じるような錯覚にさえ陥るほど。ただ、インバーターなどの音が若干目立った感覚があるのは気のせいではないだろう。あちらを静かにすればこちらがうるさくなる、というのはよくある話。今後はそんなところも気を遣ってほしいところだ。

2019モデル「G Plus Package」(プロトタイプ)

 パワートレーンについては力強さが全領域で増した感覚があり、無駄にアクセルを踏まずして速度が増していくような感覚があるところはマル。フットワークはストロークする感覚が豊かになっており、路面からの入力をうまくいなしてくれている。それでいてクイックにレスポンスするステアリングがあるから、クルマが小さく感じる。キビキビとした中に豊かな乗り心地がある、そんな感触なのだ。質感は明らかに引き上げられ、見た目どおりの乗り味が展開されているとでも言えばいいだろうか? いずれにせよ、かなり大人な感触の1台になったというのが正直なところだ。

2019年モデル「S Edition」(プロトタイプ)

 最後に乗ったS Editionは、足まわりが引き締められ、無駄な動きが少なくなっているところがあいかわらずウリのようだ。SUVにも関わらずサーキットを存分に味わえるその走りはお見事! SPORTモードに入れれば、狙ったラインよりも内側に立ち上がる駆動配分を見せつけてくれる。リアモーター出力の向上はこんなところにも役立つのかと、改めて感心させられるところだ。感覚的だが、クルマの車体半分くらい内側のラインを通れるS-AWCのセッティングは絶妙としか言いようがない。SUVでここまでできるなんて思いもしなかった。これが“新生アウトランダーPHEV”の実力だ。これは何も限界域の話ばかりではない。このSPORTモードは普通に走ったとしても、確実に安全にコーナーをクリアするツールとして役立つに違いない。

 SUVであることを言い訳にせず、まるでランエボのように進化を続けるアウトランダーPHEVは、ランエボで言うところのXくらいまで来たような気がする。ステージを変えて発進したこのクルマは、次にどんな世界を見せてくれるのか? 公道で走れることも楽しみだし、これからの販売台数がどう飛躍していくのかも期待しておきたいところだ。

アウトランダーPHEV 2019年モデル プロトタイプ・ハイペース走行編(3分45秒:撮影・岩田和馬)

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛

Movie:安田 剛

Movie:岩田和馬