試乗インプレッション

トヨタの新型「カローラ スポーツ」に追加された6速マニュアル「iMT」で高速&山道を走る

型式:3BA-NRE210H-BHFNZ-Z

 トヨタ自動車のクルマの基本構造を決めるTNGA(Toyota New Global Architecture) GA-Cプラットフォームの第3弾である「カローラ スポーツ」の評価は高い。全世界統一になったカローラ スポーツ(欧州では「オーリス」)は、これまで日本市場を意識した「カローラ アクシオ」とは違ったスタンスでひとまわり以上大きくなった。そのカローラ スポーツに6速MTが設定されて、好天の中、テストドライブに連れて行った。

 Cセグメントに入るカローラ スポーツは全幅1790mm、全長4375mm。これまでのカローラで最大だ。内外装ともにデザインのバランスはよく、最新のトレンドに則っている。塊感のあるエクステリアデザインはスポーツを名乗るにふさわしい。

トヨタ自動車「カローラ スポーツ」のiMT(インテリジェント マニュアル トランスミッション)搭載車が8月2日に追加された。撮影車はG“Z”(238万6800円)。iMT搭載モデルの駆動方式は2WDのみの設定となる。ボディサイズは4375×1790×1460mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2640mm
国内のカローラ専用にフロントエンブレムを一新して、車名の頭文字「C」と3つの花冠をモチーフにしたシンボリックなエンブレムを採用
G“Z”はクロムメッキ加飾付きのリアバンパーとなる
アルミホイールは切削光輝+ダークグレーメタリック塗装/センターオーナメント付となり、タイヤサイズは225/40 R18

 エンジンはすでにCVTとの組み合わせでカローラ スポーツにラインアップされている、新世代の1.2リッターターボ「8NR-FTS」型エンジン。スペックは71.5×74.5mmの若干のロングストロークで、直噴ターボが組み合わされる。採用される技術は可変バルブタイミング、最新の燃料噴射システム「D-4T(Direct-injection 4 stroke gasoline engine with Turbo)」で、シングルスクロールターボとのコンビネーションになる。圧縮比は10.0でレギュラーガソリンが使える。最高出力は85kW(116PS)/5200-5600rpm、最大トルクは185Nm(18.9kgfm)/1500-4000rpmとトルクバンドはワイドに設定されている。

 Gの車両重量は1300kgなので、馬力荷重は11.21kg/PS。乗用車としてオーソドックスだ。これを見てもエンジンはスポーツ志向ではなく、燃費を重視したものであることが分かる。JC08モード燃費はG“Z”で15.4km/L、その他は16.4km/Lとなっている。

カローラ スポーツのiMT搭載車は、直列4気筒 1.2リッター直噴ターボ「8NR-FTS」型エンジンを搭載。CVT搭載車と同じ最高出力85kW(116PS)/5200-5600rpm、最大トルク185Nm(18.9kgfm)/1500-4000rpmを発生する

 マニュアルトランスミッションは6速で、リバースはリングを引き上げて左上に入れるタイプだ。6速のギヤ比は1速/3.727、2速/2.045、3速/1.310、4速/0.971、5速/0.764、6速/0.619で、ファイナルドライブは3.944を選んでいる。上のギヤでクロスしているタイプで、燃費に振ったギヤ比だ。シフトフィールは節度感がしっかりして適度な重さを持ち、好感触だ。ただ、シフトレバーの生えている位置が少々後ろで、日本人にはもう少し前の方が腕をすんなり下げた位置になると思われる。

 カローラ スポーツにはシフトレバーの前にモードスイッチがあり、SPORT/NORMAL/ECOが選択できるが、活発に走るドライバーには常にSPORTモードを推薦する。

 SPORTモードではエンジンのピックアップがよくなり、多少メリハリの効いた回転フィールになる。実はカローラ スポーツのエンジンセッティングは基本的におとなしく、NORMALモードでは少し物足りないと感じられる。個人的には、スポーツを名乗るならNORMALでSPORTモードぐらいのレスポンスはほしい。ECOだとさらにアクセルレスポンスは鈍くなり、燃費運転に徹底したモードになる。

カローラ スポーツのインテリア
ステアリング
シフトレバー
シフトレバーの前方にはモード切り替え用のスイッチを配置
カローラ スポーツはオーディオレス仕様が標準で、撮影車は販売店オプションの「T-Connectナビ」を装着。なお、クルマとトヨタスマートセンターを通信で繋ぎ、24時間カーライフをサポートしてくれるDCM(専用通信機)は全車標準装備となる
「カラーヘッドアップディスプレイ」(4万3200円高)は、ハイブリッドモデル、ガソリンモデル共にG“Z”にのみオプション設定
ペダルはシンプルな樹脂製
ECO/NORMAL/SPORTの3種類のドライブモードでメーターの表示が変わる
撮影車は「本革+ウルトラスエード(センシャルレッド/サテンメッキ加飾付)」(17万5500円高)のスポーツシートを装着
ラゲッジルーム
「4:2:4分割アジャスタブルデッキボード」(8640円高)を装着
タイヤパンク応急修理キットを搭載

マニュアルドライブを楽しんでもらおうとする“小技”が利いたドライビング

 さて、カローラ スポーツのハンドリングは以前に乗った感想と変わりなく、奥が深く、安定性、操縦性、そして安心感、どれをとっても感心させられる。低重心のプラットフォームかつ、サスペンションのレイアウトの自由度が向上しているので、まず直進安定性がビシッと決まっており、路面アンジュレーションや多少の凹凸でも影響を受けず、安心してハンドルに手を添えていられる。

 また、コーナリングに際してもハンドルの応答がシットリとしており、機敏という表現よりもしっかりと路面を捉えてクルマの姿勢を作れる。さらに、旋回中はコーナリングトラクションがかかり、グイグイと回っていく。キビキビ走るという印象ではないが、シャシー性能への安心感は高く、ワインディングロードも自然体で運転できる。

 そして、乗り心地は腰のあるしなやかさで、路面のウネリや凹凸に対しても柔軟にカバーしてくれる。MT仕様もサスペンションは他モデルと基本的に共通で、カローラ スポーツの素性のよさを物語っている。

 さて、SPORTモードにはもう1つの隠し玉がある。“インテリジェントマニュアルトランスミッション”というだけあって、ドライバーのシフト操作を先読みして、例えばシフトダウン時などにシフトレバーの動きを検知してブリッピングを行なう。そのため、ドライバーがアクセルを踏んでエンジン回転数を上げないでも、エンジン回転数が同調し、安全でショックのないドライビングが可能になる。いわゆるダブルクラッチなどの技はいらない。この動作はかなり素早く行なわれるので、ドライブ中は興味深く体感した。

 また、SPORTモード以外でもスタート時のクラッチミートを検知してエンジン回転を少し上げる小技も持っており、マニュアルトランスミッションへの抵抗感をなくし、多くのドライバーにマニュアルドライブを楽しんでもらおうと意図されている。

 もっとも、これまでマニュアルトランスミッションに慣れ親しんで小技を磨いてきた身としては、メカが簡単にやってしまうのでちょっと悔しい。

 エンジン特性とギヤレシオのマッチングだが、高速道路を約100km/hでクルージングした場合、エンジン回転数は6速で2000rpmに留まる。5速では2500rpm、4速ではおよそ3000rpmになる。高速道路では最適なギヤを選べるし、郊外路でも高いギヤで走れるので燃費には優しい。

 この1.2リッターターボは最新のクリーンな省燃費エンジン。日本の山道などでは2速と3速を多用することになるが、iMTの特性で少しアクセルを足すようなセッティングになっている。従って、早いシフトチェンジをするとエンジンの回転落ちが追い付かない場面もある。MTならではのエンストを防ぐためのもので、通常の使い方ではビギナーにも優しい。カローラ スポーツのiMTは、MTへの間口を広げるエンジン+トランスミッションの組み合わせだ。ただ、MT好きのためにiMTのOFFスイッチもあるとよいかもしれない。

 新世代の省燃費ターボの出力も過不足ないと思うが、余裕のあるシャシー性能を誇るカローラ スポーツなので、2.0リッタークラスのパワフルなエンジンを載せたバージョンもちょっと乗ってみたい。きっと爽快だろうな。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一