試乗インプレッション

トヨタ「カローラ スポーツ」は公道でどんな乗り心地?

サーキットでは分からなかったパワートレーンの特徴とは

凝った造形のデザイン

 発売から1か月で月販目標の4倍となる約9200台の受注があったという新型「カローラ スポーツ」。同時に登場した「クラウン」が同7倍の約3万台もの受注を達成したことで少々かすんでしまったが、まずまずの滑り出しではないかと思う。

 先だってお伝えしたプロトタイプの試乗に次いで、あらためて目にしたスタイリングは、やはりなかなか印象的だ。よりこなれたように感じられるキーンルックによるフロントフェイスや微妙な膨らみを与えたボディサイド、生産技術の進化により独特の深絞りを実現した樹脂製バックドアを持つリアビューなど、このクルマがいかに造形に凝ってデザインされたのかがヒシヒシと伝わってくる。

 室内空間は視界が良好で開放感もあり、サイズ以上に広く感じられる。このクラスとしてはなかなか質感の面でも頑張っているところも好印象だ。また、今回は事情によりほとんど試せなかったのだが、このクルマのウリであるコネクティッド機能はカーライフに変革をもらたす可能性があると思う。いずれぜひ確かめてみたい。

新型「カローラ スポーツ」。撮影車はガソリンモデルの「G」(225万7200円)で、駆動方式は2WD。ボディサイズは4375×1790×1460mm(全長×全幅×全高。4WD車は全高1490mm)、ホイールベースは2640mm。タイヤサイズは205/55 R16
こちらはハイブリッドモデルの「HYBRID G“Z”」(268万9200円)
足下は切削光輝+ダークグレーメタリック塗装アルミホイールと、225/40 R18タイヤの組み合わせ
開放感のあるインテリアはシルバー加飾とブラックのパネル構成で統一

公道でドライブして分かったこと

 公道試乗に先立って、プロトタイプを富士スピードウェイのショートサーキットでドライブしたときの印象は上々で、「TNGA(Toyota New Global Architecture)」第3弾として段階的にしっかり進化していることも感じられた。中でも、通常はスムーズで荷重がかかるとフリクションが増して硬くなるという特性を持つオイルを用いた新開発のショックアブソーバーを興味深く感じた。実際に富士スピートウェイでは、しなやかさを感じさせながらも攻めたコーナリングでもしっかりロールが抑え込まれているなど、謳っているとおりの走りを実現していて感心させられた。

 ただし、路面の非常にきれいなショートサーキットではリアルワールドでの乗り心地はよく分からない。そこで、公道で乗るとどうなのかが気になっていたのだが、やや予想とは違った部分もあったことをお伝えしておこう。というのは、ごく普通の路面でしなやかなのはおおむねよいのだが、瞬間的に強い入力があると硬くなってしまい、突き上げを感じるシチュエーションもあったからだ。

 アンジュレーションのある路面では、抑えの効いていないような不規則な周期のゆるい振動が見受けられた。ところが、さして大きくない段差や突起を通過しても不意に衝撃を伴うことに驚く状況もあったほどで、いささかスイートスポットの見えにくい乗り味だったように思う。あくまで一般道を短い時間ドライブした限りでの話だが、正直、富士スピードウェイでの印象がとてもよかったことからすると、公道での乗り心地は期待したほどではなかったのは否めない。

 今回に関しては16インチ仕様よりも、18インチ仕様のほうがマッチングとしてはよかった。一般道ではお伝えしたような状況で、今回は事情により高速道路を走れていないのだが、高速巡行ではまた違った側面を見せるのかもしれない。これもいずれぜひ試してみたいところだ。とにかく、相反する要素がいろいろある中で、理想の足まわりを作るというのは、やはり難しいことなのだと思わずにいられなかった。

 一方で、富士スピードウェイでも上々だったステアリングフィールは、公道での印象も申し分ない。微舵の領域から比較的リニアに応答し、フリクション感が小さく、正確性に優れることに加えて、戻り制御を得たことでさらにフィーリングがよくなっている。保舵力も適度で、接地感まで増したように感じられるほどだ。走りを求める人だけでなく、ごく普通のドライバーにとっても、車両の動きが掴みやすくなるので挙動が乱れにくくなり、修正舵を要する状況が劇的に減るはず。ゆえに同乗者にとっても不要に揺すられることが減るなど、恩恵をもたらすことは確実だ。

 戻り制御というのは欧州車ではコンパクトカーでも採用例が多いのに対し、日本車はまだまだ少ないのだが、絶対的によいものであることは間違いない。ただし、開発には手間を要する。実はTNGA第2弾の「C-HR」にも採用したかったそうなのだが、時間が足りなかったらしい。その意味では、カローラ スポーツを買った人はちょっとトクした気分になってもイイってもんだ。

市街地ではハイブリッド優位

 今回は、18インチ仕様のハイブリッドモデルと16インチ仕様のガソリンモデルのCVTモデルに乗ったのだが、動力性能についても、公道のように現実的な状況でごく普通に走ると、富士スピードウェイでドライブした時とはまた違ったことを感じた。

HYBRID G“Z”のエンジンルーム。最高出力72kW(98PS)/5200rpm、最大トルク142Nm(14.5kgfm)/3600rpmを発生する直列4気筒 1.8リッターエンジン「2ZR-FXE」に、最高出力53kW(72PS)、最大トルク163Nm(16.6kgfm)を発生するモーターを組み合わせ、システム全体で90kW(122PS)を発生する
Gのエンジンルーム。最高出力85kW(116PS)/5200-5600rpm、最大トルク185Nm(18.9kgfm)/1500-4000rpmを発生する直列4気筒 1.2リッター直噴ターボエンジン「8NR-FTS」を搭載し、トランスミッションはCVTを組み合わせる

 富士スピードウェイでは、低速トルクはあるがちょっと車重のあるハイブリッドと、軽くて上で伸びるガソリンと、両車のキャラクターがことのほか対照的であることを興味深く感じ、どちらが速いのだろうと思ったりしたものだった。

 公道でドライブしてもその印象は同じで、ガソリンは上まで気持ちよく回ることに変わりはないが、低回転域が薄いのに対し、ハイブリッドはモーターならではの力強いトルクで引っ張ってくれる。また、改良の進んだ最新のTHS IIはレスポンスが比較的リニアになったこともあって、いたって乗りやすい。

 燃費についても、正確に計測したわけではないが、感触としてはハイブリッドのほうがだいぶよさそうだった。発進と停止を繰り返す市街地で乗るには、やはりハイブリッドのほうがメリットは大きいと言えそうだ。

 全体としてはそつがなく、“ベーシックカー”としての完成度はまずまず。そして、魅力的なSUVやハイトワゴンも多々ある中で、トヨタが訴求したいと考えている若い層にとって、このクルマがどれだけ響くのか、今後の動向を見守りたく思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛