試乗インプレッション

初期型NDロードスターのオーナー目線で新型「ロードスター」「ロードスター RF」に乗ってみた

1.5リッター、2.0リッターともに進化。渇望したテレスコ機能もついに装着!

2回目の商品改良

 ND型ロードスター・シリーズ(ソフトトップモデル/1.5リッター、RF/2.0リッター)が2回目の商品改良を行なった。前回1回目の商品改良は2017年11月に行なわれ、ここではシリーズ初の商品改良として、ソフトトップモデルが足まわりを含めた大がかりなメニューをこなした。

 まず、電動パワーステアリングのアシスト量を変更し、中速域(発表はないがおおよそ65km/h)までは従来よりも重めにしつつ、それ以上の高速域では従来と同じ重さとして、とくに低中速域においてサスペンションに対する過剰で素早い入力を抑える変更を行なった。それに伴い、リアサスペンションのアッパーリンクブッシュのバネ定数をやや落として、バンプストッパー長を延長、さらにストッパーのバネ定数変化を緩やかにすることで、しなやかさを増強した。さらにトランスミッション精度を向上させるとともに、各部に遮音材を追加して高周波ノイズを軽減している。また、リアホイールハウスに制振材と吸音材を追加し、車両後方からのロードノイズも軽減した。

 これに対し、RFはボディカラーの追加や装備の追加のみだったが、今回の2回目の商品変更では、ソフトトップモデル/RF共にエンジンや先進安全技術に至るまで手が加えられた。ちなみに1回目、2回目を通じて外観の変更は一部グレードのホイールカラー変更(ガンメタリック塗装→ブラックメタリック塗装)や、後述するフロントバンパー内のグリル形状変更程度と極めて少ない。

 もっとも、最近のマツダが行なう商品改良は各車で実施され、さらに回数も多く、変更内容が多岐に渡る。そこで改めて、ロードスターの改良ポイントについて概要を整理したい。ソフトトップモデルはND型が初登場となった2015年モデルからこれまでに、①エンジン改良(今回変更)、②足まわり改良(前回変更)、③ボディカラー/装備追加(前回と今回)などが行なわれたのに対し、RFは2017年モデルから①エンジン大幅改良(今回変更)、②ボディカラー/装備追加(前回と今回)が実施されるなど、ボディ形状による違いが見てとれる。

ブルーリフレックスマイカカラーの初期型NDロードスター(S スペシャルパッケージ)に乗る交通コメンテーターの西村直人氏が、新型ロードスターをチェック

軽快な加速フィールの2.0リッター

 今回の取材は公道で行なわれた。ここでの試乗車は、ソフトトップモデルが今回の商品改良で期間限定販売(2018年12月24日まで受注)として追加された特別仕様車「キャラメル・トップ」(6速AT)、RFが新型/従来型ともにVS(両車6速MT)だ。まずは、エンジンの大幅改良が図られたRFから紹介する。

商品改良を行なって7月26日に発売した新型「ロードスター」「ロードスター RF」。写真はロードスター RFのVSグレード(6速MT/365万400円)で、ボディサイズは3915×1735×1245mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2310mm。車両重量は1100kg
ロードスター RFは高輝度塗装の17インチアルミホイールにブリヂストン「S001」(205/45 R17)を組み合わせる。電動格納式ルーフは、スイッチ操作開始からルーフロックまでの時間は約13秒で、10km/h未満であれば開閉操作が可能
今回の改良に伴い、VSグレードでは写真のスポーツタン(本革)とブラック(本革)の内装を追加。オーバーン(ナッパレザー)と合わせて3色を用意する
ロードスター RFが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター「SKYACTIV-G 2.0」エンジンでは、吸気ポートに高出力化に適したコモンポートをSKYACTIV-Gシリーズで初採用するとともに、27gの軽量化を達成したピストン、新開発の高強度ボルトや肉厚の最適化によって41g減量したコンロッドなどを採用。これにより出力は従来の最高出力116kW(158PS)/6000rpm、最大トルク200Nm(20.4kgfm)/4600rpmから、最高出力135kW(184PS)/7000rpm、最大トルク205Nm(20.9kgfm)/4000rpmへと進化するとともに、最高回転数も従来の6800rpmから7500rpmへ引き上げられている

 実は公道での試乗に先立って、クローズドコースで新旧RFの運動性能については高い速度域に至るまでしっかりと比較試乗する機会があった。そこでの印象は、当然ながら26PS(158PS→184PS)の出力向上(トルクは5Nm/0.5kgfm向上)を果たした新型は力強く、出力カーブが上向きはじめる4000rpm以降では同乗者でもはっきり体感できるほどパワフルになり、エンジン音や排気音もソフトトップモデルの1.5リッターエンジンに似た澄んだ気持ちのよいものに生まれ変わっていた。

 しかも、レブリミット回転数が6800rpm→7500rpmへと高められたことで、連続する低中速コーナーで多用する2速や3速ギヤでの守備範囲がグンと広まってシフト操作が減少し、ステアリング操作に集中できることも確認できた。

 クローズドコースでのパフォーマンスについては別記事にあるように、筆者も存分に体感できたものの、大幅改良を受けた2.0リッターエンジンは市街地ではどんな一面を見せるのか、公道試乗前はここがとても気になった。ちなみに筆者はND型ロードスター(2015年モデル)のオーナーでもある。愛車となって4年目に突入したソフトトップモデルのグレードは「S スペシャルパッケージ」で6速MT。メーカーオプションとして当時の「セーフティパッケージ」を装着している。

 その筆者からすると、新型の2.0リッターはまさに1.5リッターの兄貴分というイメージ。従来の2.0リッターは中回転域まではスムーズでパワフルだったが、6000rpm弱でその勢いが衰え気味になっていた。そこを新型2.0リッターは、高回転域ではどこまでも伸びていくパワーフィールが上乗せされ、(厳密には違うパワーカーブだが)1.5リッターエンジンの相似形であるように感じられたのだ。

 また、エンジンサウンドにしても軽快で力強い1.5リッターのよさがグッと伸ばされた印象。これらは、分割型の低イナーシャ(慣性)デュアルマスフライホイールと、拡張室内に吸音室を配置したマフラーにグラスウール(ガラス繊維による断熱吸音材)を隙間なくギチギチに詰め込みつつ、マフラー出口の直近には音の雑味を取り除くレゾネーターを配したことで得られた効果だ。これらの相乗効果により、アクセル操作にスッと反応する優れた応答性と、力強い音(100~200Hz)に伸び感のある音(300~400Hz)が加わった新型2.0リッターならではのパワーフィールが仕上がった。

 伸び感のある音は市街地走行で頻繁に使用する2~4速の間で実感できる。なかでも2~3速では1.5リッターよりも図太さがプラスされ、車両重量が少し減ったかのような軽快な加速フィールが味わえる。これら、ドライバーの感覚に訴えかける性能の向上は、マツダがこだわりをみせる加加速度(躍度)を改めて見直した結果だという。

ゆっくりとした発進性能は1.5リッターが若干上!?

 一方のソフトトップモデルは、久しぶりの試乗となった6速AT仕様だ。本来であれば筆者の2015年モデルとの比較を含め6速MT仕様が理想であったが、試乗車の都合で断念……。とはいえ収穫は多かった。

ソフトトップのロードスターでは、「S Leather Package」をベースに新採用のブラウンカラーのソフトトップとスポーツタン色のインテリアカラーを組み合わせた特別仕様車「Caramel Top」(6速AT/320万7600円)に試乗。ボディサイズは3915×1735×1235mm(全長×全幅×全高)、車両重量は1060kg
ロードスターが搭載する直列4気筒DOHC 1.5リッター「SKYACTIV-G 1.5」ではフューエルポンプの高燃圧化とともに、燃焼速度を高めたことで異常燃焼を抑えながらトルクアップを実現。従来が最高出力96kW(131PS)/7000rpm、最大トルク150Nm(15.3kgfm)/4800rpmだったところ、最高出力97kW(132PS)/7000rpm、最大トルク152Nm(15.5kgfm)/4500rpmに進化

 1.5リッターの伸び代は2.0リッターのように大きくはない。パワーで131PS→132PS、トルクにしても150Nm→152Nmと少ないものの、MTモデルでのクラッチミートポイントと重なる1000rpmでのトルク値は7Nm向上し、4500rpmでシフトアップを行なった際はレブリミットである7500rpmに至るまで全域に渡って2Nm向上。

 正直、6速AT仕様であったため新型となったパワー/トルクアップを実感することは難しかったが、違いはすぐに体感できた。まず、ギヤ段の保持がさらにしやすくなっている。アクセルペダルの踏み込み量を深くすれば、それに応じて高回転域までギヤ段を保持できるし、「ドライブセレクション」でスポーツモードを選べば、従来から装備していたダウンシフト制御(ブレーキングしながらのカーブ進入時)が働く。加えて、カーブの途中でスロットルを戻し気味にした際のギヤ段の保持制御がさらに適確になった。市街地でゆったりと走らせている際にはシフトアップがイメージ通りに進み、ワインディングロードに近いシーンでは抑制されるシフトアップや、保持されるギヤ段でスムーズな走りをアシストしてくれる。

 なお、1.5リッターの6速MT仕様には、2015年の初期モデルから1速にギヤをシフトしてブレーキペダルから足を離した瞬間に、エンジン回転が150rpmほど自動的に上昇する機構が組み込まれている。これにより発進時のクラッチミートがとてもやりやすい。それこそ、市街地でのスタートではアクセルペダルを踏み込まずしてクラッチ操作だけでスルスル走り出せるから、渋滞路ではペダル操作量が減り重宝している。ロードスター専用設計である6速MTは1~6速のギヤ比、最終減速比に至るまでソフトトップモデル/RFで共通で、RF/2.0リッターの6速MTにはこの回転上昇機構は今回の商品改良でも装備されていない。よって、本来であれば排気量の大きな2.0リッターが有利なはずのアクセルペダルオフでのゆっくりとした発進性能は、1.5リッターが若干ながら上であると改めて筆者には感じられた。

渇望したテレスコ機能が付いた!

 最後に、新型となって全車に標準装備となった技術のうち2点を紹介したい。

 1つが先進安全技術である「i-ACTIVSENSE」の機能強化で、今回から光学式カメラを使った歩行者検知型の衝突被害軽減ブレーキ「アドバンスドSCBS」、超音波ソナーを使った後退時の衝突被害軽減ブレーキ「SCBS R」が備わった。また、6速AT仕様には前後の誤発進抑制制御機能が装備され、フロントバンパーのグリル内に超音波ソナーが装着される。

 なお、従来型でもセーフティパッケージを装着していると新型と同じ場所に光学式カメラが装着されていた。新型はSCBSを追加機能としつつ、同じ筐体のなかに収まる新しい光学式カメラを収納することで、前方向の視界悪化をまったく招くことなく新たな機能を手に入れた。

今回の商品改良では先進安全装備も進化。車両だけでなく歩行者も検知対象となった「アドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポート(アドバンストSCBS)」に加え、「車線逸脱警報システム(LDWS)」「ハイ・ビーム・コントロールシステム(HBC)」「アダプティブ・LED・ヘッドライト(ALH)」などを組み合わせることで「サポカーS・ワイド」に該当

 そしてもう1つの技術は、筆者が新型最大のトピック(!)としているステアリングの調整機構だ。これまでの上下42mmのチルト機構に加えて、前後30mmに渡り調整ができるテレスコピック機能が装着された。このテレスコ機能、筆者は納車時から渇望していた装備で、正直、これだけでも買い換えたいと(気分だけは)と盛り上がっている! 調整幅はわずか30mmなのだが、筆者の身長170cmにはとても大きく、左右に大きくステアリングを切り込んでも左右の肩がバックレストから離れることがなくなった。

 また、シートスライドを1ノッチ下げることができるため、左足の膝とダッシュボード下部とのゆとりが生まれた。このゆとりによって、従来からシートに備わっていたシート前部をチルトさせる機構がしっかりと活かせるようになったのだ。強めの減速度を伴いながらのヒール&トゥを行なう際は、広がった足下スペースは有利に働く。また、ここで得られたゆとりは万が一の衝突時に、左膝を中心とした加害性を弱める働きもある。

 筆者の2015年モデルにこのテレスコピック機能を装着する、いわゆるレトロフィットが可能か否か、技術者に確認したところ、「物理的には可能ですが、ステアリング機構は重要保安部品の1つです。例えば、ディーラーで対応というわけには残念ながらいかないと思います……」とのお答えをいただく。まぁ、そうだよなぁと思いつつも後ろ髪引かれる思いだ。

歴代ロードスターで初めてテレスコピックステアリングを採用。従来の上下42mmのチルト機能に加え、新たにストローク30mmのテレスコピック機能を搭載している。左右写真の肘の角度の違いをお分かりいただけるだろうか

 1回目の商品改良では1.5リッターが主役だったが、今回の商品改良は2.0リッターが主役。RF/2.0リッターエンジンの大幅改良によって、ND型ロードスターはシリーズを通じて相似形のパワーフィールを手に入れたことはオーナーの1人としては歓迎したいところ。日本のロードスターファンからは、「ソフトトップモデルにも2.0リッターエンジンを!」と望む声は少なくないようだが、キャラクターの棲み分けという意味でも、筆者は1つの完成形を見せる1.5リッターエンジンこそソフトトップモデルにふさわしいパワーユニットであると考えている。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:安田 剛