試乗インプレッション

脳内活性ホルモンが分泌される!? 刺激的なアルファ ロメオ「ステルヴィオ」に試乗

走りとイタリアンテイストを大切にしたアルファ ロメオ初のSUV

 アルファ ロメオ初となるSUV。その名は「ステルヴィオ」。ステルヴィオの車名は、イタリア北部のアルプス山中にあるステルヴィオ峠に由来するもの。この峠の標高は2757mで、48か所ものヘアピンカーブがあるモーターリストの憧れの聖地。日本で言えば箱根だろうか。つまり走りに特化したSUVとのメッセージが聞こえてきそう。

 世界的にSUVが大流行している。SUVとはスポーツ・ユーティリティー・ヴィークルの頭文字を取ったもの。スポーツ用多目的車、と訳されている。SUVがどんな種類のクルマなのか?など、いまさら定義することができないほどSUVにはさまざまな種類のものが存在している。ラダーフレームを持ったオフロードヴィークルで4輪駆動のクロスカントリー車。セダンやコンパクトカーのモノコックをベースに車高を上げ、2輪駆動も4輪駆動もあるクロスオーバー車。この他にもピックアップトラックベース車などなど。とにかく、このようにSUVにはいろんな種類があるわけ。もちろん日本でもSUVは右肩上がりで販売台数を伸ばしている。どこかノスタルジックなポイントを持ちながら都会的な最新のテイスト。SUV人気は今まさに旬を迎えている。これまでSUVをラインアップしていなかったアルファ ロメオがSUVを売り出さない手はない。そこで、ちょっと遅ればせながらやっと日本導入となったのだ。

 実は、2017年の12月にボクは米国ですでにステルヴィオに試乗している。このとき、デザインを含めてこのモデルは売れるな!と直感したのだった。果たして、日本でもそうなるのか?

 今回導入されたステルヴィオは導入記念の「ファースト・エディション」と呼ばれる400台の初期限定バージョン。レーシーなレッド仕上げのブレーキキャリパーや専用デザインの20インチ5スポークアルミホイールを標準装備している。インテリアは自分だけの空間としてさまざまな刺激を与えてくれる予感がするほど。イタリアンテイストなデザインと質感はやはりアルファ ロメオと納得できる。14スピーカーのharman/kardonプレミアムオーディオシステムが装備され、前席のシートヒーター、ヒーテッドステアリングも装備。快適な環境で大好きなミュージックを飽きるまで聴くなんてことも、スペースのあるSUVならではの楽しみではないだろうか。ちなみに、リアラゲッジスペースは最大525Lと大容量。リアシートの背もたれは4:2:4の3分割式で、これを倒せばさらに積載能力は増す。

撮影車両は「ステルヴィオ ファースト・エディション」(689万円)。ボディサイズは4690×1905×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2820mm。車両重量は1810kgで4輪を駆動する
255/45 R20サイズのタイヤに組み合わせるのは、専用20インチ5ツインスポークアルミホイール
ステルヴィオ ファースト・エディションのインテリア
ステアリングの左スポークにはACCやヒルディセントコントロールなどのスイッチ
右スポークにはオーディオ類のスイッチ
ステルヴィオには8.8インチ大型センターディスプレイを備えたConnectシステムが装備され、各種オーディオ機能の利用や車両情報の表示、スマートフォン接続が可能。ナビゲーション機能はないが、Apple CarPlayやAndroid Autoに対応している
スタイリッシュなデザインのシフトノブまわりには、「D.N.A.システム」の操作ダイアルなどを設定
運転席側のドアトリム。スピーカーはharman/kardon製
ラゲッジスペースは525Lの容量で、リアシートは4:2:4分割可倒式。ラゲッジルームの側面にはフォールディング用のレバーが付く

 ステルヴィオはスポーツセダンの「ジュリア」をベースにするモノコック構造のSUV。いわゆる悪路が得意なクロスカントリー系SUVに対してオンロードを得意としている。ジュリアの基本構造はFR(4WDもあるが)なのでエンジンは縦置き。FRでは重いトランスミッション(ステルヴィオは8速AT)が前輪よりも後ろにマウントされるので、前後重量配分50:50の理想的なバランスがとれる。しかもステルヴィオは4輪駆動なので雨や雪にも強い。だいたいSUVでオフロードを走る距離はそのクルマの生涯走行距離の10%にも満たない、というデータもあるくらいだから、オンロードに重点を置く開発は納得できるもの。オンロード上の悪天候に強い、という視点で4WDという意味も頷ける。

 さて、その4輪駆動のプロペラシャフトは軽量なカーボンファイバー製という先進のマテリアルを採用している。カーボンプロペラシャフトはBMW M3やM4にも採用されていて、しなりやブレがないのでジョイントを省略でき、抵抗が減少して軽量化に大きく貢献する。

 ステルヴィオのエンジンはジュリアからキャリーオーバーされた直列4気筒2.0リッターターボで、280PS/400Nmを発生。そのパワーフィールは素晴らしく、低回転域から高回転域まで淀みなく力強い。ドライブモードはd/n/aの3段階に調整できる。最も激しい走りに対応するのはダイナミックのdモード。dモードをチョイスするとエンジン音がアグレッシブになり、スピードは出さなくてもエキゾチックな排気音を存分に味わえる。もちろんスピードを上げると、よりエンジンの力強さを感じさせてくれる演出材料にもなっている。トランスミッションは8速ATで、0-100km/h加速は5.7秒とかなりの俊足。車重1810kgをこのタイムで引っ張るのにはトランスミッションの役割も大きいのだが、この8速ATはシフトラグが小さく、ギヤ比もエンジンの美味しいところを使えるようマネージメントされたギヤ比だ。

最高出力206kW(280PS)/5250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/2250rpmを発生する直列4気筒2.0リッターツインスクロールターボエンジンを搭載し、8速ATを組み合わせる

 しかも、サスペンションはハードだ。決して乗り心地はわるくないが、路面情報をしっかりと伝えてくれる。コーナーを攻めた時のロールも小さく、チューニング系やスポーティなバージョンを好むオーナーの「待ってました!」という声が聞こえてきそうなくらい。ただし、家族の了解を得た方がよいかもしれない? それほどに、走りに徹している。このあたりがアルファ ロメオの興味深いところで、決して間口を広げて万人受けするモデルを造ろうとは考えていないはず。ステルヴィオでなくちゃ!というオーナーの心をつかんで離さない。そういう走りのテイストなのだ。だから、ステルヴィオのステアリングを握ると脳内活性ホルモンが分泌されるのを感じるほど。いや、実際に分泌されているかどうかは分からないが、見た目以上に走らせると刺激的なのだ。ボクはこの試乗会に2回参加し、その2回目の試乗で病みつきになりそうな感覚を覚えた。

 ジュリア同様にニュルブルクリンク(ドイツ)でお決まりのように開発を行ない、クアドリフォリオが量産SUV最速記録の7分51秒7のラップを刻んでいる。クアドリフォリオはジュリアにもラインアップされる最上級バージョンで、510PS/600NmのV6ツインターボエンジンを搭載するモデル。このエンジンを搭載するステルヴィオ・クアドリフォリオは年内に日本にも上陸する予定という。

 今回の試乗会には開発者のアルファ ロメオ ステルヴィオ チーフエンジニアのアンドレア・ジザック氏がイタリアから来日。そこで、インタビューをお願いした。

――現在、カッシーノ(イタリア)の工場で生産しているが、SUV人気を受けて海外生産の予定はないのか?

アンドレア・ジザック氏:最新の設備を導入していてテイストを守る意味からも、今のところカッシーノ工場で製造していく予定。

――同セグメントでの一番のライバルはどのモデル?

ジザック氏:BMW X3、ポルシェ マカン、そして、アウディ Q5だ。ボルボ XC60のようなコンフォタブルなモデルはライバル視していない。

インタビューに答えてくれたアルファ ロメオ ステルヴィオ チーフエンジニア アンドレア・ジザック氏(左)と、FCA ジャパン株式会社 マーケティング本部 プロダクトマネージャー 平野智氏(右)

 どこまでも走りとイタリアンテイストを大切にするクルマ造り。官能一直線な開発思想と受けたのだが、ラテンの匂いがプンプンして、この響きに反応する日本人は多いと思う。陽気なイタリアンに染まってみるのもわるくない。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在63歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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Photo:堤晋一