インプレッション

マツダ「ロードスター ND」(量産仕様)

初の量産仕様を伊豆スカイラインで

 2015年は新車の当たり年で、国内外のメーカーを問わずワクワクさせられる試乗会がたびたびある。そんな中でも、2015年の注目度では1、2位を争うといえるであろうND型ロードスターについては、これまで2度の試乗会が行われた。伊豆修禅寺の日本サイクルスポーツセンターでのプロトタイプ、横浜みなとみらいでの量産試作車に続いて、3度目はついに初の量産仕様そのもの。ステージは伊豆スライラインを中心としたワインディングロードだ。

 ちょうどデリバリーの始まって間もない実車を公道でも何度か目にしたタイミングで、小さいながらも存在感のあるその姿に、思わず目が吸い寄せられてしまったばかり。このスタイリングは個人的にもかなりお気に入りだ。

直列4気筒DOHC16バルブ 1.5リッターエンジン
軽量化のため4穴のホイールを採用

 低いポジションのシートに座ったまま簡単にソフトトップを開閉できるようになったのも、あらためて大いに歓迎したい。状況によって瞬時に開閉できるので、むしろ電動よりも便利。いずれはRHT(Retractable Hard Top)も出てくるのかもしれないが、これならRHTがなくても大丈夫ではないかと思うほど。よくぞこれを実現してくれたものだ。

 何台かが用意されていた中から筆者がドライブしたのは、「S スペシャルパッケージ」の6速MTモデルと、「S レザーパッケージ」の6速ATモデル。トランスミッションだけでなく、リアスタビライザーの有無など走りの味付けが差別化された2台である。

 当日は好天に恵まれたとはいえないまでも、雨に見舞われることがなかったのは幸運だった。山本修弘主査からも「あまりひっちゃきになって走らないほうが……」と言われていたのに従い、限界走行を試すのではなく、軽く飛ばすぐらいのペースで走行。それぐらいの走り方のほうが実に按配がいいのは、これまでの試乗でも感じたとおりだ。

「S スペシャルパッケージ」の6速MTモデル

すべてが手の内で操れる

「S スペシャルパッケージ」の6速MTモデル

 なにが楽しいかというと、すべてが手の内で操れる感覚に満ちていることだ。1.5リッターエンジンは、パワフルというほどでもないが、レスポンスがよく吹け上がりも気持ちがよい。そのときに放つ、やや太く乾いたサウンドもまた操っている感覚を盛り立ててくれる。7500rpmまでキッチリ回って、過去のロードスターのように上のほうで振動が増えて苦しそうな回り方になったりしない。6速MTのシフトフィールもよく、ギヤのつながりも伊豆スカイラインぐらいの、軽いアップダウンとややタイトなコーナーのつづくワインディングでちょうどよい。

 フットワークは、リアスタビライザー等の有無で印象はだいぶ違うのだが、いずれも4輪のタイヤがどのくらいグリップしているのか、今クルマがどのような状態にあるかが手に取るように分かることでは共通している。ステアリングフィールにも路面とタイヤの状況を的確に伝えてくれるインフォメーションがある。

「S スペシャルパッケージ」の6速MTモデル

 スタビライザーの付くS スペシャルは、リアの接地性が高い一方で、フロントを積極的にロールさせることでターンインでの回頭性の高さをより感じさせる味付け。そして、鋭いエンジンレスポンスにより、アクセルワークで曲がり具合をコントロールしていける。ブレーキも非常にリニアなフィーリングで、ペダル踏力に応じて荷重を自在にコントロールできる。こうしたひとつひとつが上手く調和することで、全体として高い“人馬一体”の感覚につながっているのだと思う。

 ドライブした全体の感覚は、最初にクローズドコースでプロトタイプをドライブしたときに感じたことと大きくは変わらないが、そのときはややハイペースで走る状況が多く、ちょっとクルマが動きすぎかなと感じた面もあったところ、過度に飛ばすことをしなかったこの日の伊豆スカイラインでは、よい部分がクローズアップして伝わってきたように思えた。

走りの素直さと「ヒラリ感」では…

 そしてS レザーパッケージのATに乗り換えた。こちらはシートだけでなくダッシュボードやドア内張りなど各部がレザーで覆われていて、パッと見ても上級イメージがある。筆者ももっと若かったら、このあたりにはあまりこだわらなかったところだが、40代半ばの今はこの雰囲気が好み。

 試乗した個体は、特別塗装色ではあったもののオプションはナシ。安全系を含めいろいろなものがすでに標準装備されている。300万円超と車両価格こそ高く見えるものの、実質的にはそれほど割高ではないわけだ。

「S レザーパッケージ」の6速ATモデル
シートに座ったまま簡単にソフトトップを開閉できる
トランクスペースには飛行機内に持ち込めるサイズのキャリーバッグを2個積める

 さっそく同じコースをドライブ。MTがとてもダイレクト感があったのに比べると、ATはややルーズな印象もあり、運転しやすさを優先した印象で、ワインディングを走ると反応がワンテンポ遅れる感もあるなど、ちょっと物足りない部分もなくはない。そこはキャラクターの違いということで、MTとATそれぞれの持ち場に合わせた味付けと認識すべきだろうか。

 足まわりも、スタビライザーが付かないこちらのほうがやはり姿勢変化は大きく出るものの、ドライビング操作に対する反応が素直で、いわゆる「ヒラリ感」がある。初代NA型に近いのは、やはりすでに言われているとおりこちらだと思うので、あの味を求める人は、あえてスタビライザーなしを選ぶべき。筆者にとっては、現代的に味付けされたスタビライザー等が付くMTのS スペシャルパッケージのほうが好みには合っていたのだが、あえて2通りの走り味が用意された意義がうかがい知れる。また、MTにはトルセンLSDが付くのに対し、ATには付かないのだが、両者間であまり大きな違いを感じないのは、基本的なトラクション性能が高いからだろう。

 とにかく、いずれもワインディングを気持ちよく走ることができて、ロードスターがますます好きになった1日だった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛