インプレッション

マツダ「ロードスター(ND/2.0リッター)」

欧米市場向けの2.0リッターエンジンを試す!

 せっかく開発したのだから、きっといずれは日本でも発売されるはず……と、そんな予感は漂うものの、それでも「新型ロードスターは1.5リッターモデルこそがベストバランス!」という開発陣の強い思い入れもあって、まだ当分は日本ではお目にかかれそうもないのが、欧米市場に向けて販売が行なわれている2.0リッターエンジンを搭載したマツダ「ロードスター」。

 アウトバーンを擁するドイツを筆頭に、より高速域までを日常とするヨーロッパの環境。ランプウェイでの速い初速からの合流や延々と続く上り坂など、実は意外と厳しい走りのシーンも見られるフリーウェイが全国各地に広がるアメリカの環境――日本では売らない”大排気量モデル”を欧米でのみ展開する理由を、マツダではそんな各市場の独自性を考慮した結果であると説明する。

 なるほどそうした事情を鑑みれば、日本では1.5リッターモデルこそが相応しいというコメントも確かに説得力を持つもの。一方で、そうは言ってもすべてのロードスターは日本で生産されるモデル。それゆえ、海外向けには用意されるより高いパフォーマンスを備えたバージョンを、生まれ故郷である日本で味わえないのはやっぱり悔しい! という気持ちがどうしても残るのも、また間違いのない事柄ではある。

今回テストドライブしたのは、海外では「MX-5」の名で知られるロードスターの「クラブ」グレードをベースにする「ブレンボ/BBSパッケージ」装着車
ブレンボ製のフロントブレーキやBBS製のホイールが与えられる

 筆者自身にもそんな葛藤が渦巻く中で、アメリカはロサンゼルス近郊をベースに、2015年中に発売されたさまざまな注目モデルを一堂にテストドライブできる機会に恵まれた。ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーの選出を行なうWCA(ワールド・カー・アワード)が主催する試乗会へのさまざまな出展車両。その中に、運よく2.0リッターエンジンを搭載するアメリカ仕様のロードスターの姿も見つけることができたのである。

 アメリカ仕様のロードスターのカタログを目にすると、現地で用意されるのは装備内容やサスペンションセッティングの違いなどから、「スポーツ」「クラブ」「グランドツーリング」という3グレード。その中から今回テストドライブを行なったのは、ビルシュタイン製ダンパーを採用し、MT仕様についてはフロントのサスタワー・ブレースやトルセンLSDも採用する最もスポーティな「クラブ」をベースに、ブレンボ製のフロントブレーキやBBS製のホイール、専用のボディキットなどを加えた「ブレンボ/BBSパッケージ」を装着したモデルだった。

「速い上に楽」な2.0リッターエンジン

直列4気筒DOHC 2.0リッター「SKYACTIV-G 2.0」エンジン。最高出力は155HP/6000rpm、最大トルクは148lb-ft/4600rpmを発生
「SKYACTIV-G 2.0」エンジンのボア×ストロークは83.5×91.2mm、圧縮比は13:1とアナウンスされている

 歴代モデル中で最もコンパクトなロードスター――そう紹介される最新モデルだが、アメリカならではの広大な光景の中で目にしても、その存在感の高さは文句ナシだ。「薄目の表情には違和感が残る」という意見には、個人的にも賛同の気持ちがないわけではない。だが、サイズが小さいことをそのまま“貧相”な雰囲気に結びつけない伸びやかなプロポーションや、ボディ各部に与えられた強い抑揚がもたらす表現力の豊かさは、例え世界に名だたるスーパースポーツカーと一緒に並べたとしても、決して負けることのないものだと改めて実感させられる。

 当然ながら初めて触れる左ハンドル仕様となったが、ドライビング・ポジションの違和感はまったくない。ただし、この個体に限っての印象か、シートフレームやダッシュボードの取り付け剛性がやや甘く、走行によって起きるわずかな振動が時にチープな印象に結びつける場面があったのはちょっと残念だった。

 実は、前述のようにビルシュタイン・ダンパーを用いた専用チューンの足まわりに、ブリヂストン「POTENZA S001」というハイグリップなタイヤを組み合わせた結果による乗り味は、やはりそれなりにハードなもの。特に、コンクリート舗装の継ぎ目が連続するフリーウェイ特有の“チョッピー路面”では、そこを通過する際の突き上げが思いのほか強く、路面からの想像以上の入力の大きさが、このような印象をもたらした可能性があるように思える。

 今でこそダウンサイズ・エンジンは市民権を得ているものの、ひと昔前までは「排気量アップこそが最善のチューニング」と言われてきたもの。そして、この“大排気量”なロードスターに乗ってみると、なるほどそんなフレーズは今でも健在だな、と、そう実感させられたのもまた事実だった。

 現地カタログ上の表記である2332LBという車両重量を単純にkg換算すると1060kg弱。日本仕様とも大差のないそんな重さを、最高出力も最大トルクもグンと余裕の大きい2.0リッターエンジンで動かすのだから、「全域で走りが力強い」のも当然といえば当然だ。

 アクセル操作に対する加速の自由度は、1.5リッターモデルのそれよりも格段に大きい。日本仕様ではちょっとばかり辛い①→③→⑤といった“飛ばし”のシフトも、さほど無理なく受け付けてくれるし、やはり日本仕様ではほとんど期待のできない6速ギアでの加速も「それなり」には可能なので、全般に走りのイージー度がより高いものになっているという実感もある。

 ゼブラゾーンは6500rpmから。そしてレッドゾーンは7200rpmという設定だが、そこまで引っ張ってもさほどの無理は感じない。全般にトルクに余裕があるので、ことさら高回転域まで引っ張る必要には迫られないし、常用するゾーンも1.5リッターモデルの場合よりも低回転域になる。しかし、敢えて高回転域まで回せばそれなりのパワーの伸び感が得られるし、回した分だけ高い加速性能が得られるという実感がある。

 かくして、1.5リッターモデルよりも「速い上に楽」という判定が下せるのがこちら2.0リッターモデルである一方、逆に1.5リッターモデルに対して明らかに見劣り、いや“聞き劣り”したのが、そんなより大きな排気量のユニットから発せられる音だった。

 残念ながら、かなり好意的に解釈してもサウンドというよりは“ノイズ”という印象が強いその音は、きちっと調音が行き届いた印象の強い1.5リッターユニットが発するものよりも明らかに魅力度に欠けるもの。ちなみに、マツダの社内事情に詳しい人物から伝え聞いた話では、「2.0リッターエンジンの搭載が急遽決定されたため、フィーリング面の作り込みの時間が1.5リッターユニットほど十分に採れなかった」という事情があるのだという。

 直接開発者から耳にした話ではないために真偽のほどにはいささか不明瞭な部分もあるものの、1.5リッターユニットのなかなか心地よい音を演出するためには相当な苦労があったという話題を耳にしただけに、そんなコメントに対しては恐らくは「当たらずといえども遠からず」と、そんな雰囲気が漂ってくる。

 ところで、ロードスターの“命”とも言えるハンドリングの感覚は、基本的には1.5リッターモデルのそれと同様の好印象が抱けるものだった。大きなエンジンを搭載することによるフロントヘビーな印象は、走りのシーンにかかわらず、ほとんどそれを実感させられない。全般的なフットワークのテイストは軽快そのもの。新型ロードスターならではの人とクルマの一体感を、色濃く享受することができるのだ。

 一方で、前述のように特にフリーウェイ上などでは、さらなるしなやかさを演じて欲しいと強く感じることにもなった。ワインディング路を右に左にとクリアして行くのは至福の瞬間でも、常にややせわしなくボディが動き、今1つ落着き感に欠ける乗り味は、長時間のクルージングではちょっと苦痛であったりもする……というのは、やはり日本で乗った1.5リッターモデルとも同様の感覚だ。

 なるほど、走りのバランスは1.5リッターモデルの方が上、と言いたくなる気持ちは確かに分かる。だが、だからと言ってそれが2.0リッターモデルを日本で売らない理由にはならないだろうと思ったのもまた事実。例えば、まだ課題を残しているサウンド面などを含め、さらなるリファインを行なった上で、より魅力ある2.0リッターモデルをいずれ日本にも導入してほしい……。それがカリフォルニアでアメリカ仕様をテストドライブした結果の結論である。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

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