インプレッション

マツダ「ロードスター RF」(公道試乗/橋本洋平)

乗る前からゾッコン

 現行ロードスターが登場した時、僕はどこか称賛しきれなかったところがある。初代から歴代ロードスターを乗ってきた身からすれば、排気量のダウンサイジングから徹底した軽量化を施すことで1t切りしたことに対し、目新しさを感じなかったからだ。原点回帰といえば聞こえはいいが、それって単なる焼き直しでは?

 もちろん、実際のところはそんなことはない。乗ればドライバーを後ろ寄りに座らせ、ピッチングセンターを後ろ寄りにしたことで目線のブレは少なくなり、操りやすさは増したように感じるし、右寄りに位置していたペダル配置も違和感なくドライバーのセンターに配置できるようにもなった。おまけに初代と変わらぬ軽快感溢れる走りと、爽快な吹け上がりを示す1.5リッターエンジンを搭載しているのである。単なる原点回帰で終わっていないことは明らか。ロングノーズ・ショートデッキでボリューム感溢れるスタイルと、フロントフェンダーから続くラインをインテリアにまで伸ばしていたこともまた魅力的に映った。

 けれども、先代の2.0リッターロードスターに乗っていた視点で現行型を見ると、どこか貧弱に見えることも事実。パワーやトルクは明らかに不足しているし、速さだって損なわれてしまった。「RX-8」と部品を共用したことで豊かに感じていたシャシーやトランスミッション&デフの強靭さもまた、失ったように感じたところ。パワーはないけれど、軽さ重視で造ったからコレでいいのだと言われたところで、全体的に貧弱に感じることはたしか。そんな意見が出るだろうと予測し、マツダはアメリカでは2.0リッターモデルを導入した。それを知ると、日本の1.5リッターだけというラインアップに不満を感じていた。

 きっとそんな奴らを唸らせようと登場したのが「ロードスター RF」ではないだろうか。アメリカ同様の2.0リッターエンジンを投入。それだけじゃ終わらず、凝りに凝った電動ルーフを押し込み、ロードスターとは思えぬスタイリッシュなデザインを提供してくれたのだ。真横からのシルエットは、個人的にベストなFR車の姿だと思い込んでいる「S30 フェアレディZ」を感じるほど。現行型のロングノーズ・ショートデッキスタイルをより強調して見せてくれるそのスタイルには陶酔した。いままでになかったロードスターの世界観を実現したロードスター RFには、乗る前からゾッコンである。

2016年12月に発売されたリトラクタブルハードトップモデル「ロードスター RF」。今回試乗したのは直列4気筒DOHC 2.0リッターエンジンに6速MTを組み合わせる「VS」グレード(357万4800円)。ボディサイズは3915×1735×1245mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2310mmと、ソフトトップのロードスターから全高が10mm高くなるだけで、そのほかの数値はホイールベースを含め同一になっている
ロードスター RFで採用する電動格納式ルーフは、アルミ製のフロントルーフ、スチール製のミドルルーフ、樹脂製のリアルーフという3つの異なる素材で構成。トップロックは先代のハードトップモデルでは手動式だったところ、電動式にして利便性を高めた。スイッチ操作開始からルーフがロックされるまでにかかる時間は約13秒としている
インテリアではBピラーや後方から巻き込んでくる風を効果的に抑えるため、リアルーフのトップ部形状を最適化するとともに、ソフトトップよりも大型のエアロボードを装備。またクローズ時の静粛性を高めるため、フロントルーフとミドルルーフの内側に吸音性能を持つ3層構造のヘッドライナーを採用し、ロードノイズや風切音を低減させている
直列4気筒DOHC 2.0リッター「SKYACTIV-G 2.0」エンジンは最高出力116kW(158PS)/6000rpm、最大トルク200Nm(20.4kgm)/4600rpmを発生。JC08モード燃費は15.6km/L

 ただ、ロードスター RFならではのスタイルを成立させるにはかなりの苦労があったらしい。先代NC型よりも現行ND型は、まず全長が105mmも短い。対してトランク容量はNCと変わらず。すなわち、RFならではの電動ルーフを押し込むスペースはNCよりも短いということになる。ルーフを収納するための検討はかなり重ねられたそうだ。真横から見たときに切れ目を感じさせないようにしたこと。ボディとの接合面を表にできるだけ見せないようにしたこと。さらには剛性バランスを損なわないように造るため、Cピラー下の内側にはウェッジと呼ばれるパーツを配置したことも苦労のポイント。

 ルーフ側は凸、ボディ側は凹となることでガッチリと接合させようとしたそのウェッジは、Uの字の形が剛性バランス的にベストであることを開発段階で見極めたのだとか。剛性が上がり過ぎてクルマの動きがナーバスになることを嫌ったようである。また、その凹凸にはラバーを設定することで前後左右、そして上下方向にも確実な位置出しが可能に。ボディやルーフの製造誤差があったとしても、シッカリと接合できたことで切れ目のないスタイルが可能になったわけだ。

今回の試乗会ではソフトトップのロードスターにも試乗できた。橋本氏による現行ND型のインプレッションは関連記事を参照いただきたい

オトナの余裕を感じさせる走り

 乗るとこれまた新鮮だ。ルーフを閉じていれば静けさ際立つ仕上がり。かつて初代のハードトップを搭載したモデルに乗っていたことがあるが、あの時のようにミシミシガタガタなんていう音は一切ない。優雅なクーペとして乗れること、これがまたとにかく嬉しい。試乗した時は雨だったのだが、雨音もそれほど感じることなく走れる静粛性は、明らかに幌とは違ったもの。これから暑くなったとしても遮熱性も高いことだろう。

 その上で、ワインディングを走った時のしなやかさも備えている。ヒラヒラと軽快にコーナーを駆け抜けるオープンとは違い、どちらかといえばドッシリとした乗り味がロードスター RFならではの世界。今回試乗したグレードがVSだったということもあるだろうが、ナーバスな動きも見せずにジワリとクルマが動き、安定してコーナーをクリアするところにオトナの余裕のようなものを感じるのだ。剛性バランスと程よい重量増がそんな乗り味に繋がっているように思える。

 雨が止んだところで走りながらルーフを開けてみる。といっても30km/h以下でのことなのだが、渋滞時に「ちょっと開けてみるか」と気軽に開閉できるところは嬉しいところ。すると、風にさらされるのではなく、程よく風が感じられるくらいの感覚で室内に心地よい風が舞い込んでくる。フルオープンだと外から見えすぎていたり、風が強すぎてルーフを解放することを躊躇するところが多少あるのだが、これならいつでもどこでもオープンカーを楽しめそう。高速道路で開けたとしても、風で身体が疲れるようなことがないところが好感触だ。

 そんな落ち着いた仕上がりを見せた上で2.0リッターエンジンである。1.5リッターのように7500rpmまで回るエンジンではないのだが、レブリミットへ向けての吹け上がりが一定しており、常に同じ感覚で蹴り出してくれるところは心地いいし、速さもNCに乗っていたころを思い出させてくれるくらいのものがあった。これなら納得の仕上がりだ。

 ロードスター RFというファミリーが追加されたことによって、ロードスターは初代から先代まですべてのオーナーの心を受け止めることに成功したのではないかと感じる。その上で、まったく新しいデザインと走りの提案ができたことにロードスター RFの価値を感じる。より一層充実した現行型のロードスターは、いま個人的に最も気になる1台だ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛