インプレッション

マツダ「ロードスター RF」(公道試乗)

ファストバックスタイルを採用

「こんなロードスターがあったら欲しい」と思う人も少なくないことだろう。すでに高く評価されているNDロードスターのハードトップ版「ロードスター RF」が、かねてからの期待に応えてついに登場した。

 先代NC型のRHTがソフトトップをハードトップに置き換えた印象の作りだったのに対し、今回のRFではだいぶ差別化されている。車名の「RF」が意味する、R=リトラクタブル、F=ファストバックの文字どおり、ファストバックスタイルとなったのが最大の特徴。さらにはルーフ後部の形状が、このとおりミッドシップのスポーツカーのようになっているのも印象的だ。ソフトトップモデルのロードスターのようなフルオープンよりも、むしろほどよい包まれ感のあるロードスター RFを好む人も少なくないのでは?

 このクルマの要となるルーフの仕組みは、3分割されたルーフが7本のリンクで連結されており、それらが連動して動いて格納されるようになっている。手動でのロック操作が不要となり、スイッチ操作のみで開閉が可能となった。開閉に要する時間は約13秒。NC型のRHTでは停止状態でないと開閉できなかったところ、ロードスター RFは利便性を鑑みて10km/h未満であれば動きながら開閉できるようになったのも新しい。ただし、技術的にはもっと高い速度で開閉させることも可能なところ、安全への配慮からあえて10km/hにとどめられた。また、横から見たルーフの動きをメーターディスプレイに表示することで、前を向いたままでも開閉状況が分かるようになっているのもユニークなアイデアだと思う。

 ソフトトップモデルにはない、最近のマツダのイチオシのボディカラーであり、独特の凄みのある「マシーングレープレミアムメタリック」が設定されたのもニュースだ。とにかく、ルーフを開けても閉じても非常にスタイリッシュであることが印象的だ。小さなサイズの中で、伸びやかさと凝縮感の同居した流麗なフォルムを実現したのは今のマツダが持つデザイン力の高さを物語っているように思える。

11月10日に予約受付を開始し、12月22日に正式発売となるリトラクタブルハードトップモデル「ロードスター RF」。「S」「VS」「RS」の3グレードを展開し、いずれも直列4気筒DOHC 2.0リッターに6速MTまたは6速ATを組み合わせる(RSは6速MTのみの設定)。今回試乗したのは「VS」グレードの6速AT車で、価格は359万6400円。ボディサイズは3915×1735×1245mm(全長×全幅×全高)で、ソフトトップモデルと比べ全高のみ10mm高いサイズ
ルーフから車両後端にかけてなだらかに傾斜していく形状の「ファストバック」スタイルを採用するロードスター RF。電動格納式ルーフはアルミ製のフロントルーフ、スチール製のミドルルーフ、樹脂製のリアルーフで構成され、トップロック解除を含むスイッチ操作開始からルーフがロックされるまでにかかる時間は約13秒。そのほかソフトトップよりも大型のエアロボード(アクリル)を装備し、強めの風にも対応する剛性と後方視界の確保を両立した
「VS」グレードの足下は、高輝度塗装の17×7Jインチアルミホイールにブリヂストン「S001」(205/45 R17)の組み合わせ
ロードスター RFのルーフ開閉シーンをフロントから(37秒)
ロードスター RFのルーフ開閉シーンをリアから(36秒)

 デザインだけなく実用性にも配慮されている。トランクは飛行機に持ち込み可能なサイズのキャリーバッグを2つ積めるスペースが確保されている。そもそもND型はNC型に対してリアオーバーハングが短く、リアタイヤは前方に、乗員は後方に配置されているため、ルーフを格納できるスペースそのものが短くなっている。むろんソフトトップですら大変だったのに、これほどの構造体を収めつつ、十分なトランク容量を確保し、美しいデザインまでも成立させているのだから、その苦労たるや相当なものであったことは想像に難くない。

 エンジンはすでに海外では設定のあった2.0リッター仕様のみ。グレード体系は「S」「VS」「RS」の3つから選べる。今回はよりロードスター RFのイメージに相応しい「VS」の6速AT仕様を拝借した。

 インテリアも渋い。VSには「オーバーン」(赤褐色)のナッパレザーを用いたエレガントなシートが新たに設定されたこともニュースだ。

オーバーン(赤褐色)のナッパレザーシートを装備する「VS」グレードのインテリア。3眼メーターの左側ではルーフの開閉状況をアニメーションで表示することもできる
ルーフの開閉シーンをメーター内にアニメーション表示(19秒)
トランク容量はソフトトップモデルとほぼ同等の127Lを確保

 また、今回は乗れなかったがレカロシートとビルシュタイン製ショックアブソーバーが付くほか、ブレンボ製ブレーキキャリパーやBBSホイールも選べるようになったRSについても、いずれぜひ試してみたいと思う。

ソウルレッドプレミアムメタリックカラーの「RS」グレード(373万6800円)。撮影車はBBS製17インチ鍛造アルミホイール、ブレンボ製対向4ピストンキャリパー(フロント)、レッド塗装のリアキャリパーをパッケージにしたセットオプションを装着。BBSとブレンボは市販品ではなくマツダオリジナルのもの

大人になったロードスター

 少し走らせてみただけでも、ソフトトップとのドライブフィールの違いは明らかだ。全体的により上質になり、いわば“大人になったロードスター”のように感じられた。

 方向性としては、重量や剛性のバランスの違いや、重量物が高い位置にくることなどの車両特性への対処と、ロードスター RFに相応しい乗り味の追求を念頭に、フロントのロール剛性を高め、サスペンションストロークの仕方を見直し、車体剛性の最適化といった変更が施されている。結果、ロードスターらしい意のままに操れる「人馬一体」感をけっして損なうことなく、走り味には落ち着きが感じられるようになっている。

 また、NC型のRHTではルーフの開閉によってハンドリング特性が少なからず変わる印象だったが、ロードスター RFも多少は変化するものの、ずいぶん抑えられているのも進化のポイントの1つだ。

 2.0リッターエンジンと6速ATの組み合わせもいたって好印象。プラス500㏄の余裕は、ソフトトップの60~80kg増しとなる車両重量を補ってあまりあるものだ。余力のある動力性能を、踏み込みに対して遅れなく応答するATが巧みに引き出してくれるので、まったくストレスを感じさせない。ロードスター RFに新設定されたスポーツモードを選ぶと、より瞬発力が増す。むろんMTにはまた違った醍醐味もあるだろうが、ロードスター RFはATでさりげなくイージーにオープンエアドライブを楽しむほうが似合うような気もする。

ロードスター RFが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター「SKYACTIV-G 2.0」エンジンは、最高出力116kW(158PS)/6000rpm、最大トルク200Nm(20.4kgm)/4600rpmを発生。JC08モード燃費は全グレード15.6km/Lとしている

 オープンでもサイドウィンドウを上げた状態では、60km/h程度までなら風の巻き込みはほとんど気にならず、それでいて吸気音や排気音に加えて周囲を走るクルマの音は自然な感じで耳に伝わってくる。外界との接触と開放感を味わえながらも不快感はないという、そこのさじ加減が絶妙だなと感じたのだが、まさしくそこは今回のロードスター RFで開発陣が大いに力を入れたところだという。

 シート後方のディフレクターはソフトトップとは異なるものが装備されていて、これの切り欠きの形状も、どうすれば最も音を楽しめるかという検討を重ねて決定されたものだ。そしてひとたびルーフを閉じると、あたかも固定されたルーフを持つクルマのように、外界と遮断されたような感覚となる。ロードスターRFは、音や振動に対してはソフトトップモデルに比べて追加した部分も多々あるらしく、それも上質なドライブフィールにひと役買っていることに違いない。

 こうして見ていくと、ハードトップを与えただけでなく、各部が非常に丁寧に作り込まれていて、それぞれに「理由」があることがヒシヒシと伝わってきた。さらには、このクルマの本質的なコンセプトが、より多くの人にオープンカーの楽しさを味わってほしいというところにあるわけだが、たしかに所有することのハードルを引き下げることに成功しているのは間違いないように感じられた。そして、もともと魅力的なNDロードスターに、ひと味違った魅力を持つ選択肢が加わったことを大いに歓迎したいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一