インプレッション
フォルクスワーゲン「ザ・ビートル R-Line」(1.4リッターターボ)
2016年11月11日 07:00
1.4リッターターボを搭載する新グレード「R-Line」登場
登場から4年、2016年9月に新型となった「ザ・ビートル」。フォルクスワーゲン グループ ジャパンの資料には「刷新」という言葉が使われているが、内容からして事実上は大幅なマイナーチェンジというイメージだ。
新型に施されたメニューは、前後のバンパーデザインの変更のほか、一部グレード(「デザイン」)ではインテリアの各パーツがボディカラーと同色になり、合わせてシートも専用格子調ファブリック地(黒色かベージュ色の選択可)に。また、これはオプション装備となるものの、本革仕様へとグレードアップすることも可能。こうした数々の変更により、ボディ&インテリアからなるカラーバリエーションは32パターン(!)となった。
パワーユニットはこれまでのラインアップである1.2リッター(「ベース」と「デザイン」)と2.0リッター(「2.0 R-Line」)の各直列4気筒直噴ターボに、従来型の特別仕様車「ザ・ビートル・デューン」に搭載されていた1.4リッター直列4気筒直噴ターボが新たに標準エンジンとして11月9日に加わった。この1.4リッターは「R-Line」という新グレードに搭載され、トランスミッションは7速DSG(デュアルクラッチトランスミッション)が組み合わされる。
ADAS(先進安全技術)も新たに追加された。長時間走行時にドライバーの運転特性をモニタリングし、疲労度が蓄積したとシステムが判断した際に警報とディスプレイ表示で休憩を促す「ドライバー疲労検知システム」を全グレードに標準装備したほか、自車の左右後方の車両を検知する「後方死角検知機能」、後退時に後方の死角を検知して必要に応じて自律自動ブレーキを作動させる「後退時警告・衝突被害軽減ブレーキ」(超音波ソナーではなくレーダーセンサーを使用/作動速度は1~12km/hまで)を標準、もしくはオプション設定とした。
こうした意匠変更に加えて装備の充実やパワートレーンの追加とくれば、輸入車にありがちな「イヤーモデル」制によるものかと思われるかもしれないが、じつは走行性能にも大きな変化があった。注目は今回からカタログモデルとなった「R-Line」に搭載される1.4リッターだ。150PS/25.5kgmを発生する同エンジンは、アイドリングストップ機構とブレーキエネルギー回生機構が組み合わされ、結果カタログ燃費値は18.3km/Lを記録する。この数値は1.2リッターとの比較で0.7km/L、2.0リッターとは4.9km/Lそれぞれ上回るものだ。
走り出してすぐに実感できるのが、サスペンションの動き方が従来型から大きく変わったこと。30km/h程度までの微速域でもしっかりと足が動いていることが分かる。2016年夏に試乗した従来型「デューン」では、18インチの大径タイヤとやや硬めのダンパー特性をもつ専用サスペンションとの組み合わせもあって少々滑らかさに欠く印象だったが、新型の「R-Line」では215/55 R17タイヤとR-Lineならではの滑らかなダンパー特性によって上質な乗り味に生まれ変わった。
ご存知のように、フォルクスワーゲンでは各モデルに“スポーティグレード”として「R-Line」を設定しているが、いわゆるガチガチの足まわりに派手なエクステリアデザインの組み合わせ、という手法はとっていない。標準グレードのよさを活かしながら細部を少しだけシャープにまとめ上げた外観へと変更(バンパー形状変更やリアスポイラーなどを追加)し、同時にダンパー特性を伸び/縮みの両方で引き締めることで大人の走りを表現している。
なかでも秀逸なのは足まわりのセッティングで、たとえば段差などを通過した際に感じるフワつくような車両挙動をピシッと抑えつつ、ロールを適度に許しながらジワッとした車両挙動で路面の状況をドライバーへと伝えてくれるため、雨天のワインディング路などでも安心してステアリングを握っていられる。また、聞けば今回ボディにはさらなる補強が施されたという。ドアを開けた際に見ることのできるサイドシル(乗降時に跨ぐ場所)がその主な部位であるとのこと。ここはボディの共振を抑える上で大切な場所だから、今回乗り味が大幅に向上したことは至極当然というわけだ。
R-Lineの美点はずばり「総合力」
さて、こうなると気になるのが同じ「R-Line」を名乗る1.4リッターと2.0リッターの違いだろう。パワートレーンの比較では、2.0リッターは1.4リッターに対して61PS/3.1kgm上回り、トランスミッションも6速DSGに対して1.4リッターでは7速DSGへと改めてられている。車両重量では2.0リッターが40kg重いだけだ。しかし、実際の走行フィーリングはこれらの数値以上に大きく、というより極端に違っていることに驚く。
最初に結論だが、筆者は1.4リッターをオススメしたい。当然ながら絶対的なパワーは2.0リッターが断然上だし、速さという意味でも満足度は高い。2.0リッターが織りなす加速フィールは踏み込んだアクセルペダルに対して若干の遅れ(ターボラグ)を伴いながら、ある時点からグワッと躍度が高まる刺激的なもの。その際のエキゾーストノートは図太く頼もしい。一方、濡れた路面では前世代プラットフォームによる限界点なのか、電子制御デファレンシャルロック機構である「XDS」(標準装備)をもってしても、ハンドルには微少のトルクステアが感じられる。よって、純粋にパワーを味わうのであればMQBプラットフォームを採用してトラクション性能が格段に高められた「ゴルフ GTI」(220PS/35.7kgm)が持つ走行性能に強く惹かれてしまうのだ。
ちなみにゴルフ GTIが搭載する2.0リッターは、エンジン型式にはじまりトルク値が大きく違う(7.1kgmも大きい!)が、単体で見ればボア×ストロークは「2.0 R-Line」と同じだ。それでも「50万円以上高いゴルフ GTIと比較するなんて無意味」とか、「キュートなザ・ビートルのスタイルに速さを求めたい!」というユーザーやファンもいることだろう。しかし、個人的には愛くるしいボディラインには1.4リッターの“ちょうどいいパワー感”が似合うと感じた。
1.4リッターを搭載する「R-Line」の美点はずばり「総合力」。浅いアクセルペダルの踏み込みからじんわりパワーが立ち上がり、そのまま急激なトルク変化もなくすんなりトップエンドまで回り切る特性はどんなシーンでも使いやすい。一方、5000rpm以上の高回転域は苦手で、6000rpm手前あたりから明確にパワーダウンを感じるが、よほどのスポーツ走行でもしない限り不足は感じなかった。乗り味にしてもエアボリュームが確保されたタイヤサイズ(215/55 R17を装着。「2.0 R-Line」は235/45 R18)によって、「R-Line」の得意とするしなやかさが助長されている。当然、出力特性や装着タイヤに合わせてダンパーも設定が変更されており、比較すれば同じ「R-Line」でも1.4リッターがより上質で、荒れた路面になればなるほどその違いは大きくなっていく。
車両価格にしても345万9000円の「2.0 R-Line」に対して、1.4リッターの「R-Line」は294万5000円と51万4000円安価の設定だ。自動車税も4万5000円に対して3万4500円と1万500円安くなる。これに加えて、燃費数値もキツい勾配が連続する試乗ルートでの計測ながら20%ほど1.4リッターがよかった。
優れた実用性と高いファッションを兼ね備えたザ・ビートルだからこそ、今回は敢えてこうした比較を行なったが、見た目はほぼ同じで大きく性格の違う2台の考察はとても興味深かった。加えて、ベースモデル(1.2リッター)のシンプルなキャラクターも捨てがたい。装いも新たにしたザ・ビートルだが、相変わらずグレード選びに大いに悩む魅力的な1台であった。