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フォルクスワーゲンの先進安全技術「オールイン・セーフティ」をテストコースで体験してみた
衝突被害軽減ブレーキやACCなどを紹介する「Volkswagen Tech Day 2016」
(2016/3/22 00:00)
- 2016年3月17日 開催
フォルクスワーゲン グループ ジャパンは3月17日、初めての開催となる技術体験イベント「Volkswagen Tech Day 2016」を開催した。このイベントでは同社の衝突被害軽減ブレーキである「Front Assist」をはじめ、多数のフォルクスワーゲン車に与えられた安全装備を実際に体験することができ、合わせてフォルクスワーゲン車の特徴や設計思想などについても理解を深められる内容となっている。
初開催のVolkswagen Tech Day 2016
Volkswagen Tech Day 2016は、栃木県にあるテストコース「GKN ドライブライン ジャパン プルービンググラウンド」で開催。フォルクスワーゲンのWebサイトから応募した一般参加者のほか報道関係者が参加して、フォルクスワーゲンの安全技術を自らステアリングを握って体験した。
フォルクスワーゲン車に与えられた安全装備の体験として、衝突被害軽減ブレーキを試したり、「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」を使ってみる時間も用意されているが、フォルクスワーゲン側が最も強く訴求していたのは、自社のクルマが持つ走る、止まる、曲がるという基本的な性能の高さだった。
例えばESCは、滑りやすい路面で横滑りを感知したときにタイヤの必要なところにブレーキを効かせ、常にクルマをドライバーが目指す進行方向に向けようとする装備。しかし、いくらESCの性能が優れていたとしても、シャシー性能が低かったりしてタイヤの接地性能がわるければクルマはなかなか安定しない。ESCで補正しようとしても限度があるからだ。
これはABSも同じで、サスペンション性能が低くてコーナリング時や急減速時にタイヤの接地性能がよくなければ、ABSは単に制動距離は伸ばすだけの機能になってしまう。イベント内では安全技術の体験と同時に、ESCやABSの効果を体感するシーンでシャシー性能が高いことによる効果を詳しく解説していた。
今年は「お客様からの信頼を取り戻す」という目標
Volkswagen Tech Day 2016では、最初にフォルクスワーゲン グループ ジャパン マーケティング本部 プロダクト・マーケティング課 プロダクト・マーケティング担当部長の新道学氏がフォルクスワーゲン車の安全に関する考え方や歴史を紹介した。
新道氏はまず「本年をお客様からの信頼を取り戻すという目標を設定して活動している」と説明。コーポレートロゴを変更し、「誕生当初の“国民車”のありかたを再度見つめ直し、より安全で高品質なクルマをお客様にお届けできるよう原点回帰してまいります」と述べた。安全については「これまで十分にご説明できていなかった」と振り返り、このイベントで改めてフォルクスワーゲン車のよさを紹介するとした。
そして、クルマを取り巻くすべての環境において「安全」であることを目指すというフォルクスワーゲンの安全に対する考え方を示す「オールイン・セーフティ」というキーワードを掲げた。これは「予防安全」「衝突安全」と、さらに「二次被害防止」まで含んだもの。万が一、事故が起こった場合でも、被害を最小限にとどめるための対策まで行なっていることを強調した。
また、「ゴルフ」を例にとって安全装備の歴史を紹介。1986年にABSを標準搭載、2003年にESCを標準搭載するなど、他社に先駆けた安全装備の標準装備化を進めてきたことを紹介。さらに現行ラインアップの主要車種となるゴルフや2015年7月発売の「パサート」、今年1月発売の「ゴルフ トゥーラン」といったモデルと、競合モデルにおける安全装備の充実度を比較して紹介した。
まずは正しいシートポジションから
スライドでの解説に続き、いよいよフォルクスワーゲン アカデミーのトレーナーから実際に車両を使って安全装備についての解説を受ける。トレーナーは普段はフォルクスワーゲンディーラーの販売スタッフにフォルクスワーゲン車が持つ安全性能の高さなどを指導しており、レース参戦経験のある人など運転に“腕に覚えがある”という人たちばかりだ。
今回の体験プログラムでは、ステアリングを握って運転する前に講師から正しいシートポジションを指導された。
最初に説明されたことは、自分のお尻をシートの奥までぴったりとつけて座ること。これはブレーキペダルを強く踏んだときでも身体の位置が動かないため。その上で、ブレーキペダルをいっぱいに踏みこんでも膝が伸びきらないところにシートの前後位置を合わせる。さらにステアリングの上部を握り、背もたれに肩をつけても肘が伸びきらないところに背もたれをセット。最後にステアリングホイールの位置を微調整して完了となる。
シートの高さも重要で、視界を確保するため低い位置よりなるべく高いほうがよいという。頭から天井までこぶし1つくらいに調整することが目安とのこと。
次にステアリングホイールの扱い方。時計の針で言う“9時15分”の位置を握り、背もたれに肩がしっかりと密着した状態ならば、ステアリング操作は押すような方法でするほうがよいという。引く方向にステアリングを回そうとすると、特にスポーツカーはシート左右のサポートの張り出しが大きく、肘が左右のサポートに当たってうまく操作できないことがあるからだ。
さらにステアリングの回しかたでは、常に9時15分の位置を握るようにして、180°回転させたところで持ち替える。こうすることで、タイヤの向きがよく分かるという。
基本性能、シャシー、サスペンション
実際の走行では、フォルクスワーゲン車の基本的なハンドリング性能に加え、走行性能を切り替える「ドライビングプロファイル」の変更による走行性能の変化を体験した。レッスン車両に「ゴルフ ヴァリアント」や「ゴルフ GTI」などを使い、「ノーマル」「エコ」「スポーツ」の各モードで、全長約1kmのハンドリング路を走行。モード切替によるシフトチェンジタイミングの変化や走行感覚の違いを体験した。
ブレーキングとABS
アクティブセーフティ性能の体験では、急ブレーキによるABSの効果と、ブレーキを踏みながらの障害物の回避を体験した。また、トレーナーからはフォルクスワーゲン車はノーズダイブが少なく、急制動時でもリアタイヤがしっかり接地しているので、ブレーキ性能が高いという説明も受けた。
路面には滑りやすいよう水がまかれているが、従来型のABS特有の前後振動もなく、短い距離で停止した。障害物の回避もステアリングを切った方向にきちんとクルマが向く。トレーナーはブレーキ箇所でブレーキの強さやタイミングを確認しており、踏み方が甘いとすぐに指摘され、理想的な急ブレーキのかけ方も教わることができた。
衝突被害軽減ブレーキ
赤外線レーザーを使った衝突被害軽減ブレーキを標準装備するup!を使い、ノーブレーキでクルマを模したバルーンに直進。自動でブレーキがかかることを体験した。
5km/h以上~30km/h未満で働く「シティエマージェンシーブレーキ」は、ブレーキ、アクセル、ステアリングのいずれも操作しない、つまりドライバーが衝突回避行為を行わない場合に動作する。順番で1人ひとりが運転席に座り、実際に急ブレーキがかかることを体験した。
低μ路スキッドパッド
直径140mの低μ路での旋回走行。最初はESC(横滑り防止装置)をOFFにして、30km/h以上の速度で走行するという指定で実施。スピンした参加者はいなかったものの、非常に不安定な走行を体験した。続いてレクチャーを受けた後に、ESCのONとOFFによる違いを体験した。
とはいえ、結果から言えばESCのONとOFFで劇的な差は出なかった。トレーナーによれば、他メーカーのクルマだともっと曲がらない場合もあり、たとえESCがOFFでもある程度スピンせずに走行できることがフォルクスワーゲン車の特徴だと説明された。
レーンキープアシストとアダプティブクルーズコントロール
全長1.8kmの高速周回路では、ACCや「レーンキープアシスト」を体験した。トレーナーが運転するクルマの後ろに付くだけで完全に速度追従するACCの効果や、車線を逸脱しないようステアリングの補助が行なわれる点を体験した。
レッスン車両になった「パサート」は、0km/hまで追従する全車速追従機能付きのACCを備えている。直線では最大70km/h、コーナーでは40km/hの速度で走行したが、アクセルペダルもブレーキペダルも一切操作することなく、先行車をしっかりとらえて同じ速度で走行することができた。なお、追従走行は車間距離ではなく車間時間を基準としている。日本以外では距離ではなく時間で示すことが一般的で、制御もそれに沿ったものとなっているという。
また、車線変更時に併走車の存在を警告するサイドアシストも、トレーナーの車両が横を走ることで体験。接近するだけでサイドミラーの根元にあるLEDが点灯、この状態から車線変更しようとウインカーを操作するとLEDが点滅し、レーンアシストが有効な状態ではステアリング操作をすると振動が発生して警告するシステムとなっている。
事故が予想されると自動的にウィンドウ類を閉める
ゴルフやパサートには「プロアクティブ・オキュパント・プロテクション」という、急制動や極端なオーバーステア/アンダーステアを検知するとウィンドウ類やスライディングルーフを閉め、シートベルトを強く締め付けることでエアバッグの効果を最大限にする機能が備わっている。
トレーナーがステアリングを握って急なステアリングやブレーキ操作を連続させると、ウィンドウ類やスライディングルーフが自動で閉まることが確認できた。ドアウィンドウは指1本分だけ開けるようになっており、窓に手をかけていた場合の挟み込みを回避し、同時にエアバッグ展開時の圧力を逃がすようにしているという。
非常に欲張りな安全装備体験
1日のプログラムをすべて終了してみると、高速周回コースなどを使って安全装備の数々を実際に自らステアリングを握って体験できるだけでなく、フォルクスワーゲン車の基本性能の高さ、そして日常的には体験しにくい急ブレーキや低μ路コースの走行まで試せるなど、非常に欲張りなイベントだったと実感した。
安全装備の効果を有効に発揮させるためには、ボディやシャシーの基本性能が高いことが必要だとトレーナーが強調していたが、自分で体験してみると、それが十分に納得できた。参加者も運転姿勢が変わるなど、安全に対する認識に変化が見られた。
なお、Volkswagen Tech Day 2016の次回開催は未定だが、フォルクスワーゲン グループ ジャパンの担当者によれば「今後はテーマを変えて、年2~3回の開催を目指していきたい」としている。