インプレッション

足の不自由なオレでも“Be a driver.”!「手動運転装置付きロードスター」

足の不自由なオレでもBe a driver.! 手動運転装置付きロードスターを試乗

アカザーっす(イラスト:水口幸広)

 どうもアカザーっす! 怪我で車椅子になって16年のオレですが、クルマが大好きで仕事に遊びにと、運転しまくりの毎日です。皆さんは、足が不自由な俺なんかでも運転ができる“手動運転装置”という便利なモノをご存じでしょうか?

 俺が愛車「レガシィ」に取り付けているのはニッシン自動車工業(現在はミクニ ライフ&オート)の「APドライブ オーエックスバージョン」(現在は廃番)。操作はこのスティックを押してブレーキ&引いてアクセルというもの。ホーンやウインカーやハザードスイッチなんかも内蔵されおり、左手1本で全て操作できる超便利アイテムなんすよ。

 この手動運転装置、これまでは購入した車輌を専門メーカーの工場に持ち込んで取り付けてもらうのが一般的だったんですが、10月に開催された「第43回 国際福祉機器展 H.C.R.2016」にて、マツダがメーカーコンプリート車として手動運転装置付きのものを2台も発表! 1台は「アクセラ」で、そしてもう1台がなんとオープンスポーツカーの4代目「ロードスター」!

 実はこの「手動運転装置付きロードスター」は2015年も参考出品で展示してあったのですが、1年の熟成期間を経てさらなる改良が成され、もう間もなく発売とのこと!

「手動運転装置付きロードスター」

 メーカーコンプリート車としての最たる点は、ステアリングスポーク右に埋め込まれたシフトダウンボタン! このボタンを見た瞬間、俺はマツダの本気を感じましたよ! つまり、「すべての人に走る楽しみを!」な、“Be a driver.”のキャッチコピーは嘘じゃないというコトなんすよ! マツダは本気で足の不自由な車椅子のオレ達にも、運転する楽しみを提供するつもりなんすよ! 素晴らしい!

 この手動運転装置付きロードスターのトランスミッションは6速ATで、スポーツ走行を楽しむためにステアリング裏にパドルシフトが付いています。しかし、オレ達が手動運転装置を使って運転する際には、左手でアクセルとブレーキを操作する必要があるので、左手でパドルを操作してのシフトダウンは、手動運転装置から手を外さないとムリ!

手動運転装置「APドライブ オーエックスバージョン」を装着した愛車スバル「レガシィ」

 実は俺の愛車レガシィにもATパドルシフトが付いており、この機能を活かすため、手動運転装置にシフトアップとシフトダウンのボタンが内蔵されている「APドライブ オーエックスバージョン」を装着しているのですが……。シフトアップとダウンボタンのほかに、ホーンボタンにブレーキ固定ボタンなど、グリップのなかに4つもボタンが付いている為、ちょいちょい押し間違いが発生!(笑)

 でも、このロードスターではそれがないような気が、する! ていうか、感覚的にパドルシフト関係のスイッチは全部ステアリングまわりにあったほうがしっくりくるよね~。っていうか~、このロードスターに~、乗ってみたいんすけど~。あ~乗りたい! 乗りたいなぁ! 超乗ってみて~! とか思っていたら、Car Watchから試乗依頼が来ました。

 というワケで国際福祉機器展から約2週間後にやって来たのは、マツダR&Dセンター横浜です。

まさかの小型化! 4代目ロードスターは“あの頃”の匂いが!

 マツダR&Dセンター横浜のテラスで見るロードスターは「アレ? こんなに小さかったっけ?」という印象。街ですれ違った時は“4代目のロードスターカッコいいな~”ぐらいしか思わなかったんですが、“コレから運転するクルマ”として見ると、前後オーバーハングも短いし車高も低いしで、かなりちっちゃく見える!

 四半世紀前に出た初代ロードスターと同じく、1tを切る軽量ボディに開発したというのも納得のコンパクトさ。大きく重くなっていく自動車業界の流れとはまったく逆に、あえて4代目で初代の設計思想に立ち返っての小型軽量化! いいすね~! デザインは今風でカッコいいのに、なぜか1980~1990年代のライトウェイトスポーツカーが熱かった時代の匂いがして、何かドキドキするわ~!

運転前には車椅子の積み込みを!

 クルマを前にドキドキしてても始まらないので、さっそく乗ってみます! 運転席のドアを空けたら、シートの右にある「乗降用補助シート」(オプション)を手前に倒します。

 運転席への乗り移りでは、車椅子からシートまで腕の力のみで身体を運ぶんですが、いちどこの乗降用補助シートに腰を下ろすことで、乗降はかなり楽に。サイドシルが厚く、シートが車椅子の座面よりも低いロードスターだからか、その恩恵はよりいっそう強い感じ。

 シートに腰を下ろしたあとは車椅子の積み込みですが、ひとりで運転する場合は、助手席が車椅子の積み込み場所。というワケでいつも自分のレガシィでやっているように、シートをめいっぱい後ろに下げてリクライニング……って、全然下がらねーし。リクライニングもほとんどしねーよ! まぁオープン2シーターなので当然っちゃぁ当然なんすけど。とりあえず下げられるだけシートを後ろに下げて、折りたたんだ車椅子を持ち上げ、身体の上を通して助手席へ。

 っと、その前に助手席にある「車いすカバー」(オプション)を開いておくのを忘れずに! このカバーはヘッドレストにひっかけるように装着し、助手席の足下をはわせた後、コの字状に折りたたみふたたびヘッドレストに固定するつくり。車椅子をこのコの字部分に入れて、くるむようにホールドします。

 こうすることで、車椅子が走行中に動いて車内が汚れたり傷んだりすることを防げるんですヨ! すげぇ! スポーツ走行時に、車椅子が車内で転がりまくってエライコトになるといった悩みを、この車イス用カバーが1発解決ですよ! しかもカッコよく!

 と、ニマニマしつつ俺のOX製車椅子を積んでみたところ……あれ?なんかパッツンパッツンなんすけど……ていうか、ホイールがシフトノブの上まで張り出して、これじゃあBe a driver.どころじゃないんすけど……。

 と、そんなダメダメな積み方をした俺を見かねたのか、このクルマの開発を担当した、マツダ 商品本部 主査の田中賢二氏から「24インチタイヤの車椅子はタイヤを外すと、もっとコンパクトに収納できますよ」とのアドバイスが!

 おお! なるほど、タイヤを外して折りたたんだ車椅子の上に、2本のタイヤを乗せる感じにすると、助手席にピッタリとイイ感じにおさまりましたヨ。田中さん、ありがとうございます!

 田中さん曰く「22インチまでなら折りたたんだ状態で助手席に乗りますが、24インチならタイヤを外すなど少しコツがいります」とのこと。これはトランクへの車椅子を入れる場合も同様で、24インチなら工夫が必要なようなので、購入前にはいちど自分の車椅子をマツダディーラーに持ち込んで、収納方法のシミュレーションをしてみたほうがいいかも。

 そんな感じで苦労して積み込んだ車椅子ですが、いったん下ろして、助手席には商品本部 主査の田中賢二氏をお迎え。アレコレお話しを聞きながらマツダR&Dセンター横浜の敷地内道路をドライブ開始!

左から筆者とマツダ株式会社 商品本部 主査 田中賢二氏

手動運転装置付き車でも人馬一体を体感!

 しかし、運転席に収まると、身長173cmの俺でも思った以上に低くタイトすね。うむ、この低さタイトさこそがスポーツカーのコックピットよ! ていうか田中さん、よくこのめちゃタイトなコクピットのロードスターに、手動運転装置を取り付ける気になりましたね~。

タイトなコックピットの左端ギリギリに手動運転装置をセット

「マツダがBe a driver.で掲げるように、クルマの楽しさを足の不自由な人にも知ってもらいたくて、ロードスターをチョイスしました。コックピットがタイトで取り付けが難しいからこそ、技術的に得るものも多いと考えて、チャレンジしたという面もあります」(田中氏)

 そうそう! 国際福祉機器展なんかでも障碍者を介助する人のためのクルマがほとんどなんですよね~。なので、クルマや運転が好きな俺みたいな車椅子ユーザーにとっては、こういった“自分で運転するためのバリアフリーなクルマ”が増えるのは本当にうれしいです。

「そうした際に、足の不自由なドライバーでも気持ちよく運転操作ができるように、ステアリングへのシフトダウンボタンの配置をはじめ、手動運転装置やサイドブレーキの取り付け位置を、実走を繰り返し何度も検討しました」(田中氏)

ステアリングに取り付けられたステアリングノブのおかげで、右手を持ち替えることなく大きくステアリングを回すことが可能
ステアリングシフトダウンスイッチにより、右手親指でシフトダウンができる
引いてアクセル、押してブレーキの操作以外にも、ウインカーやハザード、ホーンといったスイッチ操作なども可能
手動運転装置下部にあるスイッチを切り替えれば、健常者でも普通に運転が可能になる

 おお~、確かに! 実際に運転してみると、このサイドブレーキに左手を乗っけて力点を固定しつつ、手動運転装置を操作するこの感じ! 最高っすね! ていうかヤバイ!  顔がニヤけてくるほど操作が楽しいわ~!

「そうなんですよ! 私もそれがいちばん気に入っているポイントなんです。手動運転装置とサイドブレーキの位置のクリアランス調整を、現物合わせでなんども繰り返しているうちに、偶然産まれたポジションなんですけどね(笑)」(田中氏)

 今回はシフトダウンボタンの操作感を期待して来たんですが、この位置がバッチリ決まった手動運転装置でのロードスターとの人馬一体感が本当に気持ちイイ!

手動運転装置の動きを妨げないように15ミリ左に移動させて取り付けられたサイドブレーキ
サイドブレーキの上に薬指と小指を乗せて力点とすることで、より繊細で正確なアクセル&ブレーキコントロールが可能に

 こんなに一体感のある運転感覚になれたのは、車椅子になって初めてかも! あ~、も~、ずっと乗っていたい! さっきの車椅子の積み下ろしのめんどくささを帳消しにして、さらにおつりがくるほど気持ちいいわ~! コレを体験するためなら、めんどくさい積み下ろしもむしろ積極的にやって行きますよ!

「昨年の国際福祉機器展で、お客さまから“手動装置の保持に左手のサポートがほしい”というご意見をいただいていたのですが、それにも応えられたように思います」(田中氏)

 いやー、マジでこの手動運転装置の操作感ヤバイわ~。昔乗った「RX-7(FD-3S)」で、左手をアームレストの上に置いて、手首だけでシフトを入れるあの感じを思い出すわ~!

 大型化する自動車業界の流れにあって、この4代目ロードスターであえて小型軽量化してまで軽さに拘った人馬一体のクルマづくり。スピードを出さなくても、アドレナリンがドバドバ出とちゃうこのイカしたエンジン音! 速さだけで言ったら、今どきの低回転からトルクもりもりのターボエンジンなんだろうけど、気持ちよさでいったら俺は断然こっちすね!

 うむ、このロードスターから伝わってくるマツダのクルマ作りの哲学、俺は大好きですよ! というワケで、あとはこの手動運転装置付きロードスターのお値段ですかね~、田中さん! (チラッ

 「ありがとうございます。実はまだ正確な価格は決まってないのですが、運転する喜びをより多くの方に知ってもらいたいので、車両価格プラス20~30万円あたりで、来年3月までには発売できればと考えています」(田中氏)

16年ぶりにスポーツカーを運転してみて感じたこと

 いやー、16年ぶりに運転したスポーツカーが、この手動運転装置付きの4代目ロードスターで本当によかった! 人馬一体の「クルマを着ているような感じ」が本当に最高でした。スポーツカーでの運転が大好きだった、あの頃の自分を思い出しましたヨ! でもって、俺みたいなおっちゃんはアホみたいに速いクルマよりも、こういう運転してて気持ちのイイクルマがピッタリってことも。

 今回は残念ながらマツダR&Dセンター横浜の敷地内しか走れなかったので、シフトダウンボタンの真の気持ちよさを実感できるほどじゃなかったのですが、現在検討中だという、ディーラー試乗車ができたおりには、Be a driver.したいすねぇ。

「自分で行く道は、自分で決めたほうが、楽しいに決まっている」とマツダが提唱するように、車椅子になって「運転する歓び」を忘れかけたアナタも、この手動運転装置付きロードスターに乗れば“あの頃に感じたスポーツドライビングの楽しさ”を思い出すんじゃないでしょうか?

 そして、そんな自分で決める“Be aスポーツカー Driver”な選択肢をくれたマツダに幸あれ! マツダさん、アンタらのクルマづくりマジでイケてんよ!

【お詫びと訂正】記事初出時、記事タイトルなどに誤植がありました。お詫びして訂正させていただきます。

アカザー

アカザー(赤澤賢一郎)
週刊アスキーの編集者を経て、フリーの編集・ライターとして独立。初めて買った愛車はカローラレビン(AE86)。以来、240SX(北米版180SX)やRX-7(FC3S)などMTスポーツカーを乗り継ぐ。2000年にスノーボードの事故で車椅子になった後も、手動運転装置を使ってAT車を運転。現在の愛車はレガシィ ツーリングワゴン2.0R スペックB。週刊アスキーの体験レポート漫画「カオスだもんね!PLUS」の担当編集をしつつ、ホビー好きが高じてモデルアート誌や電撃ホビーウェブなどで執筆。ほかにインターネット動画「プラモづくりは見てナンボ」に月イチで出演中。

Photo:安田 剛