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アカザーの「国際福祉機器展 H.C.R.2018」をユーザー視点で見てきました!
2018年10月24日 00:00
- 2018年10月10日~12日 開催
どうもアカザーっす! スノーボード中の事故で脊髄を損傷して以来、18年ほど車いすを使っているアカザーっす。いきなりですが、皆さんは「国際福祉機器展」ってご存じですか? 14か国から約2万点の最新福祉機器が集まる世界最大規模の展示会で、2018年で45回目。毎年どんどん凄くなっていく感じです。
最近ではAIやICTにVRや各種ロボットといった最新テクノロジーとの融合で、超進化しているアイテムが目白押しの国際福祉機器展。2018年は10月10日~12日の3日間、東京ビッグサイトにて開催されました。
熟成と低価格化が進む最近の福祉車両
いつもはオレが愛用している車いすメーカーことOXエンジニアリングからチェックするのですが、この日はCar Watchの編集者が一緒だったので、クルマメーカーからチェック開始!
個人的にはメーカー製の福祉車両はどれも画一的だったりする印象が先行し、毎年ざっと見る程度だったのですが……。むむ、この数年でかなり進化しているかも!
例えば本田技研工業の「N-BOX スロープ仕様」。運転席と助手席の後ろから出る2本の牽引ロープで車いすを引っかけて、車いすを車内に牽引する仕様なのですが、実際に自前の車いすで体験したところ、かなり洗練されている印象。
まず2本のロープを引き出し、車いすの左右にフックをかける。次に車体にセットされた牽引モーターを駆動させるリモコンを取り出し、車いすのハンドルに装着。後は車いすを保持しつつ、リモコンのボタンを押せば牽引開始ってワケです。これなら介護者が力のない女性の場合や、老老介護的なシチュエーションでもバッチリ機能しそうです。
車いすに乗って車内に引き込まれたオレが感心したのが、車いすがストレスなく収まった点!。実はオレの車いすは介護前提の車いすとは違い、自分で動かすのが前提の自走タイプで、小回りがきくようにキャスターは小さく、フットレストもかなり低くなっている。なので、フロアに折りたたまれた後部座席のヒンジ部が少し当たるかも?と思っていたのですが……。見事にパス! 担当者にそのコトを伺うと、「色々な車いすを積むことを想定し、先代モデルより低くしています。さらにフロアもよりフラットしました」とのこと。
さすが7年目となるホンダ N-BOX スロープ仕様! さまざまなトライ&エラーを経て熟成が進んでいる感じ。こういう所って実際に使ってみるまで意外と分からないんですよね~。
そしてさらにオレを感動させたのがその価格。フツーのN-BOXにたった20万円ほどの上乗せとのこと。担当者にこの価格の秘密を伺うと「N-BOXと同じ製造ラインで作っているからです」とのこと。なるほど納得! 通常こういった装備は外部メーカーに出して特注で装着されることが多く、そのぶん価格も高くなるのですが、それをラインで製造するコトで価格を抑えているワケですね。
この後、他のブースでもこのN-BOX スロープ仕様の価格の安さを話題に出したところ、そのメーカーの担当者さん曰く「あれはホンダさんの企画力の賜ですね。もともと自転車や、アウトドア用品を積めるクルマというコンセプトでN-BOXが企画開発されたらしいので、その延長線上に“車いす”をもってきて低価格を実現したのだと思います」とのことでした。なるほどなぁ、他メーカーさんの言葉だけに妙な説得力があるわ~。
実際に「20万円ほどのプラスなら、数年後に必要になるかもしれないので」と、購入されるお客さんも多いとのこと。確かにこれからの高齢化社会では、こういうプラスアルファで車いすを積むことができるクルマのニーズが増えそう。中でも、いち早く車いすの車載に取り組んできた、N-BOX スロープ仕様はかなりオススメだと思います。
ワクワクが止まらない福祉車両!
気になった展示をもう1つ、今度は福祉車両なのにワクワクするクルマをご紹介! 福祉車両ド定番、ハイエースをさらにマルチユースにした「ハイエース送快UD-W リラックス仕様」です。
ミクニライフ&オートとTOWAが共同開発したこのクルマは、フロアをフルフラットにしてそこにマルチレールを装着。そして、このレールにモジュール化されたシートやテーブルを装着することで、色々な用途に合わせた車内レイアウトを数分で構築可能というクルマ。
特にオレがこのクルマにひかれたのは、この移動オフィス的なレイアウト展示。電源付きの作業用テーブルに、ベッドにもなる大型テーブルまで完備! 車中泊にも対応というかコイツで生活できそうな装備! 福祉車両なのにワクテカしまくり。
もちろん福祉車両としての実力も十分で、福祉車両レイアウトでは車いす3台+5名。施設送迎レイアウトではストレッチャー1台+7名、人員輸送に特化したレイアウトでは最大定員10名といった多種多様なレイアウトが構築可能。なのに、価格は車体込みで500万円ほどなので、汎用性の高い送迎車として購入される法人さんも多いようです。
2020年の東京パラリンピックに向けて車いすスポーツを広めたい!
前身がバイクのチューニングメーカーだったOXエンジニアリング。先代社長の石井重之氏が事故で車いすになり、自身で使用する車いすを作ったのがそのはじまり。以来、ユーザー視点に立ったカッコイイ車いすを作り続け、障碍者の自立を促してきたメーカーです。
元バイクメーカーということで、ホンダ同様に「レースが何よりの実験室」と考えていた石井重之社長の方針で、創業当時から車いすスポーツに力を入れてきたOXエンジニアリング。その甲斐あって、車いす陸上競技用でOX製品を使う日本人選手は実に80%以上! そんなOXエンジニアリングが2020年東京パラリンピック用の競技車両として新たに製作したのが、パラバドミントン用の競技用車いす。
パラバトミントン競技では車いすと立位があり、さらに障害によりクラスが6つに分かれています。車いすを使用するWH1とWH2というクラスには、これまでテニス用やバスケットボール用の車いすが使われる事が多かったのですが、2020年のパラリンピックから公式種目になったのをきっかけに、専用の車いすを作ったとのこと。
右側に取り付けられたハンドルバーが目を惹きますが、真にこの車いすが凄いのはその材質! スカンジュウム合金という希少金属を数%ほどアルミニウムに混ぜて作られた、従来のものより強く軽い鋼材を使用しているとのこと。
次に気になったのは、コチラの雪国用モジュールがついた車いす。これは札幌に住むOXユーザーからの要望で試作されたという、車いすの前に取り付けるモジュール。
オレも経験があるのですが、車いすで雪道を行こうとすると前のキャスター(車輪)が小さいので、雪に埋まっちゃうんですよ。なので、埋まった車輪を「車いすウイリー」させて雪から抜く→そのままウイリーで進むという、けっこう難易度の高い操作を要求されるんです。まぁ、そんな大雪の日の東京はほぼ電車が止まるので、わざわざ出掛ける必要もないのですが、札幌あたりだとそうはいかない。雪道で車いすを使いたいとなれば、こういうアイテムが必要になるワケです。これなら雪道をコイツで通勤し、仕事場ではフロントモジュールを外せばいつもどおり使えますからね! ナイスアイディア!
試乗してみた感想は、以前に乗ったビーチ・オフロード用車いすの操作感を、フツーの車いすに近づけた感じ。しかし、車いすに乗った状態でも簡単に取り付けられるのは、想像以上に便利ですね。
最後は今年リニューアルされたOXエンジニアリングのフラグシップモデル「ZZR」。その特徴は3つ。
1つめは“セパレートフレーム”。これまで繋がっていたホイール、キャスター、シートまわりのフレームを分割し、それぞれをカーボンプレートで繋ぐことで、高剛性・軽量化・快適な乗り心地を実現。さらに将来的にはそれぞれのフレームの材質を適材適所に合わせた変更にも対応可能という。
2つ目は“リアサスペンション”の変更。これまではホイール取り付け基部の外側にあったものをリアサスペンション内に内蔵。これにより見た目がすっきりすると共に、サスのブッシュが壊れた際にも、自走することが可能になったとのこと。
「オレのマシンに装着しているブッシュ、9年間無交換なんすけど……」と石井社長に伝えると、「そろそろ交換したほうがいいですね、いくときは一気に割れてバラバラになるんで、車高が落ち過ぎて走れなくなる危険もあります」とのこと。マジすか!? やべぇ! 次のタイヤ交換のときにメンテしよう。
そして最後、3つ目が“スムーズリンク”。個人的には一番感動した新機能がコレ。ていうか見た瞬間、思わず石井社長に「このパーツオレの車いすにも着けられませんかね?」とか言っちゃうほどコレが気に入りました! その機能は……車いすを“ピッタリ”折りたためる機能! 車いすを使ったコトがない方は、なにそれ?って感じだと思います。でもコレはOXやOXに似た厚手のシートバックをもつ折り畳み車いすのユーザーには、ドストライクな機能なんです。
折り畳み用の車いすって、クルマに載せたりするときに折り畳めるのがメリットなのですが、その際にフカフカしたシートやシートバックを装着したモデルだとどうしてもその厚みぶん、折りたたんだ車いすがモッサリと広がってしまうんです。でも、このスプリングが取り付けられた“スムーズリンク”だと広がらずにビシッと畳める!
このかゆいところに手が届く仕様はさすがOX! 個人的には外食に行った際に、細い通路などに車いすを折り畳んで置く時がわりとあるんですが、その時に他のお客さんに申し訳ないな~と思っていたあの感覚も、このリンクでバッチリ解消できそう! 現在はまだパーツでの販売はしてないとのことですが、ユーザーのかゆいところに手が届く製品を開発するOXなら、きっと販売してくれるハズ!
次世代の電動車いすは“座る”から“乗る”へ!
個人的には福祉機器展の中で一番面白い製品が集まっていると思うのが、福祉機器開発最前線ブース。今年のオレのイチオシは「RODEM」。これは福岡のロボットメーカーtmsukが開発した電動車いす。災害現場用ロボット「T-54援竜」を作ったメーカーといえばピンとくる方も多いのでは?
「車いすの常識を“座る”から“乗る”に進化させた次世代車いす」とのキャッチコピーどおり、電動車いすらしからぬその外観。さっそく試乗させてもらうと……、すでにその乗り方からして次世代! RODEMの真後ろに車いすをつけて、上下するシートを車いすの座面の高さにあわせ、そのまま前に腰をずらして乗り移る。
乗り込んだ感じは、まるでバイクに跨っているような感覚。確かにコレなら頸椎損傷や脳梗塞などで、上半身の力が弱く身体を持ち上げての車いすへの乗り移りが難しい人でも大丈夫かも。身体はアームレストとチェストレストに預けて、中央のジョイステック操作で前後左右に移動する感じ。
そして一番イケてると感じた機能はシートを785mmまで上げることができて、目線を立っている人とほぼ同等にできたり、高い場所のモノを取れるようになる点。しかもその視点のまま自由に動けちゃうとか、最高じゃないすか! もともとは室内用として開発したので、狭いエレベーター内での旋回性能も申し分ナシとのこと。これならコンビニやスーパーの店内でも、他のお客さんに迷惑をかけず使えそう。
VRを使ったエンタメ系コンテンツの展示も!
リアルタイムで選手とシンクロするスポーツ観戦システムと銘打たれた「シンクロアスリート」は、競技車両に取り付けられた360度カメラとスマートフォンで得た画像やデータを、観戦者の座るモーションシミュレーター内蔵シートとVRゴーグルに送ることで、競技者と同じ目線で競技を体感しながら観戦できるシステム。
カヌー体験では水しぶきを浴びながら川のうねりでシートにあずけた身体が上下して、姿勢を保つのがせいいっぱい! 陸上用車いす体験では路面の振動が伝わってくるなか、横に視線を向ければライバル車が! といった手に汗握る体験ができました。
映画館の4DXをさらにリアルにしたようなこのシステムを開発・出展したのが東京高専と聞いて2度びっくり。いや~、安価で導入可能なように民生品の360度カメラやスマートフォンをうまく使って、導入コストを下げている点とかも企業顔負けの完成度です。
気が付けばかれこれ15年以上も国際福祉機器展を見ていますが、近年出てくるアイテムはそのどれもがデザインに気を遣い、さらにそれを使う人の立場に立ってきちんと作られたものが増えてきたなぁ、と感じました。これはひとえにユーザーの悩みに耳を傾け、製品を少しでもよくしようと真摯に取り組んできたメーカーや開発者さんたちの努力の賜だと思います。今後、高齢化が加速して超高齢化社会となる日本ですが、世界をリードする次世代の“ものづくり日本”のヒントがこの国際福祉機器展示にあるようにも感じました。