イベントレポート

【インタビュー】マツダ「MX-5 RF」開発者インタビュー

「リアルーフを残す決断をしたときに、世界がガラッと変わった」

2016年3月23日(現地時間)世界初公開

MX-5 RFの開発主査を務めた山本修弘氏(左)とチーフデザイナーの中山雅氏(右)

 ニューヨーク国際自動車ショーにて世界初公開された「MX-5 RF」。流麗なファストバックスタイルで登場し、各国のメディアを始め多くの来場者に驚きを与えた。

 ロードスターが電動ハードトップを採用したのは先代のNCロードスターが初となる。2005年に登場したNCロードスターは、従来モデルと同様のソフトトップ仕様として発売が始まった。だが、翌年の英国国際モーターショーでパワー・リトラクタブル・ハードトップ(RHT)が初披露され、同年に市販化された。

 RHTモデルはロードスターの世界観を拡げることに成功し、10年の発売期間の中で後半はほぼRHTモデルが売れるというほど人気を得ていた。

 RHTは、先代モデルでの成功があったために現行のNDロードスターでも計画されていることは予想されていた。しかし、NDロードスターは先代よりも全長が約100mm小さくなっている。ボディサイズが小さくなった分、ルーフを収納するスペースを設けるのが難しい。よって、どのようにルーフ形状にするのかが注目されることになった。

 そして、公開された車両のルーフはファストバックスタイルとなっていて、ポルシェのタルガトップのようにルーフトップのみが開閉するようになっている。

マツダ「MX-5 RF」のルーフ開閉のようす

 それでは、新たなオープンスタイルを生み出した「MX-5 RF」の山本修弘主査と中山雅チーフデザイナーの2人に特徴と開発時のエピソードなどを伺った。

──昨年2015年の5月に発売がスタートしたNDロードスターですが、1年経たずにRFを発表することになりましたね

長年ロータリーエンジンの開発に携わってきた山本氏。NCロードスターで副主査となり、NDロードスターの開発主査を務める

山本氏:元々、開発がスタートした時点で2つのルーフを想定していました。見て分かるようにソフトトップを計画してからRFを考えたのではなく、同時に進めています。2つのルーフを企画し、プラットフォームをレイアウトしてきました。プラットフォームを設計するときには、ハードトップが収納できるようにパッケージングしています。

──NDロードスターは先代に比べてボディサイズをコンパクトにしたので、RFはエンジニアリング的にも難しいところがあったのではないですか?

山本氏:NDロードスターは、コンパクトで軽量に作ることを重視しました。なので、RFのモデルだけ全長を伸ばすことは考えていません。もちろん居住スペースやトランクスペースを犠牲にすることも考えませんでした。なので、どのようにルーフを収納するか凄く悩みました。最初はすべてのルーフを格納するために分割してみました。6分割や8分割、それでもすべてのルーフが収納され、スペースが犠牲にならないという理想には届きませんでした。さらに細かく分割すれば収納することができたのですが、電動で収納するときの美しさがないことや複雑なため断念しました。そもそも美しくないのは私の流儀に反しますので。シンプルな構造でかつキレイなクローズドスタイルが目的ならば、「ルーフを全部入れる必要はない」と考え、現在のようにリア側のルーフを残すことにしました。そこで世界がガラッと変わりました。

──それほどの困難をしてでも、2つのルーフを持つことにこだわった理由を教えてください。

山本氏:2つのモデルがあることでユーザーの選択肢は当然拡がります。RFについてはコンパクトなボディのままで、スペースを犠牲にすることなく、さらにクローズドの状態で美しいものを作りたかった。それがソフトトップとの違いです。RFによってより多くの人にオープンカーを楽しんでもらいたいと思っています。NCロードスターのときにも思ったのですが、オープンモデルだからといって常にルーフを開けて走っている訳ではありません。だったらクローズドのときに美しいモデルがあったほうがよいというのがRFの考え方です。

──デザイナーとしてはRFを作り上げるのは難しかったのですか?

中山氏は、新世代商品郡の最初のモデルとなったCX-5のチーフデザイナーを務めた直後に現行ロードスターのデザインを担当。両モデルともに現行ラインアップを引っ張る存在となっている

中山氏:ロードスターの原則として軽快なハンドリングやコンパクトなサイズ、荷物の積載スペースがあることなどがルールです。ルーフをすべて収納することで全長が伸びたら原則を破ってしまう。原理原則から外れないリトラクタブル・ハードトップを生み出そうとしたら、現状のリアを残したファストバックスタイルしかないと思い、デザインチームから提案しました。

──ソフトトップとRFはルーフ部分のみが異なっているのですか?

中山氏:そうです。ルーフのところのみが異なるだけで、それ以外の部分はすべてソフトトップと同様です。トランクルームについては、間口がソフトトップと異なるのですが容量は同一です。

──カラーリングが新色のマシーングレーですが、どのような理由で採用したのですか?

中山氏:昨年のロサンゼルスオートショーでデビューしたCX-9で初採用したカラーですが、RFはエレガントなモデルなのでマッチするかと。ファストバックスタイルや質感の高さなども含めてイメージに合っていると思っています。ルーフはマシーングレーに対してブラックアウトし、締まったイメージにしています。ツートーンはタイトな印象を与えるので、市販のときはワントーンも選べるはずです。

ルーフはリア側を残してトップルーフのみ収納される。電動ハードトップの格納は流れるように滑らかで、時間も短くなっている
センターコンソールに開閉スイッチは付属する。ワンタッチでルーフの開閉が可能
ルーフのロックはソフトトップと同様で1カ所のみとなる。電動でロックされるので、ドライバーの手を煩わすことはない

──リトラクタブル・ハードトップの収納を見ていたのですが、実にキレイで素早く閉まりますね。

山本氏:ルーフのリンクはかなりこだわって製作しました。何度もやり直して、今の形状になっています。リア側が持ち上がり、ルーフトップが収納されるのですが、同時に動いて収納されます。滑らかで美しい動き、そして収納のスピードを求めています。走行中でも低速ならば操作できますし、電動でロックも解除され、操作性も向上しています。

──では、最後にRFと名付けた理由を教えてください

山本氏:RFがあることでロードスターの世界観を拡げたいと思っています。なので、今までのRHTというネーミングではなく、端的で言いやすいモデル名を考えていました。見た目がファストバックスタイルなので、RF(リトラクタブル・ファストバック)としました。言いやすいと思っていますが、どうですか?

ニューヨーク国際自動車ショーにてワールドプレミアされたMX-5 RF

 このように、先代ではルーフ全体が収納されるRHTスタイルを採用したが、コンパクトなボディのNDロードスターでは難しかった。ファストバックスタイルは、クローズドを美しく見せること、オープンエアを楽しめることの両面を最大限に活かすことができるデザインなのだ。

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。