試乗インプレッション

富士スピードウェイでアウディ三昧。集中試乗で分かった「RS 3」の実力

5ドアのスポーツバックとともに、RSシリーズ唯一の4ドアセダンをテストドライブ

アウディの歴史

 Audi Sportは、アウディの究極のスポーツモデルである「R8」やRSシリーズを扱うショップ・イン・ショップとして、2016年7月から全国24拠点で展開されている。これらの車両は通常のラインからAudi Sport(少し前まではquattro GmbHと呼ばれていた)に送られ、組み立てられる特別なモデルだ。ちなみにスポーティなSモデルは通常のアウディ店で購入できる。

 アウディの歴史を振り返ってみると、躍動的なブランドに成長したのは4WDのクワトロを展開してモータースポーツ活動を積極的に行なうようになってからだ。「アウディ・クーペ」をベースとした「クワトロ」が華々しく雪のモンテカルロラリーにデビューし、これまでの2輪駆動車の強豪チームを蹴散らし、世界をアッと言わせたのは1980年のことだ。クワトロは多くのスターを生み出し、WRC(FIA世界ラリー選手権)を一気に4WD化したパンチがあり、WRCを戦うメーカーはターボ4WDを推し進めることになった。

 クワトロはラリーフィールドからレーストラックにも進出し、北米のツーリングカーレースで猛威を振るい、ドイツ DTMでもクワトロ旋風は吹き荒れた。また、有名なパイクスピーク・ヒルクライムでも当時のコースレコードを打ち立てる偉業を成し遂げた。加えてWEC(FIA世界耐久選手権)でもル・マン24時間レース連勝などの記録を続け、アウディは高い技術力を持つアクティブなメーカーとしての地位を世界で不動のものにした。

「RS 3」に集中試乗

 さて、前置きが長くなった。そのAudi Sportのラインアップ試乗会が富士スピードウェイで行なわれた。RSシリーズやR8の高いパフォーマンスを広いサーキットで堪能することができるイベントだ。2016年から行なわれているトラックイベントだが、今年、筆者は「RS 3」を集中的に乗ることになった。スポーツバックと4ドアセダンだ。

富士スピードウェイで行なわれたAudi Sportのラインアップ試乗会。R8、TT RS、RS 5、RS 3といった高性能モデルをフルコースで試乗できた
PlayStation4用ソフトウェア「グランツーリスモSPORT」とのコラボレーションでアウディがワンオフ製作した「アウディ e-tron ビジョン グランツーリスモ」もデモ走行

 ベースとなる「A3」は、コンパクトだが広い居住空間を持ったモダンなモデルで、日本の道にも馴染みやすい。RSモデルでもオリジナルのよさを大切に、Audi Sportの手によって飛躍的な性能アップが図られている。RSシリーズの中で唯一4ドアをラインアップしていることも、このモデルを特別なものにしている。ハイパフォーマンスの実力と4ドアの利便性を両立させたモデルだ。

 通常のA3は、1.4リッターと2.0リッターの4気筒エンジンを横置きに搭載しているが、RS 3ではRSのために新開発された新開発の2.5リッター5気筒ターボを同じく横置きに積んでおり、その出力は294kW(400PS)/480Nmの爆発力を秘めたものだ。ブースト圧が最大1.35barに設定された5気筒エンジンはコンパクトな設計で、従来のアウディ5気筒エンジンよりも26kgの軽量化が図られている。

 エンジンサウンドは5気筒特有のリズミカルなもので、RS 3を特徴付けている。グワーという吸気音と低音のエキゾーストノートはなかなか魅力的だ。気持ちよく伸びる5気筒エンジンは、6000rpmに近づくとタコメーターにイエローゾーンの表示が示され、6500rpmを超えるとレッドゾーンに近づいたことを知らせるコーションが出る。トップエンドまでのエンジン回転は素晴らしく、シャープで気持ちよく、さすがにAudi Sportで組まれただけのことはある。

2017年6月に受注を開始した「RS 3 スポーツバック」(762万円)のボディサイズは4335×1800×1440mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2630mm。搭載する直列5気筒DOHC 2.5リッター直噴ターボ「DAZ」型エンジンは最高出力294kW(400PS)/5850-7000rpm、最大トルク480Nm(48.9kgfm)/1700-5850rpmを発生

 トルクバンドは広く、2000rpmも回っていればアクセルを踏むだけでグイグイと加速していくが、メリハリが付けられており、3500rpmぐらいでパンチ力がついてくる。サーキットではこの回転域で走っていると実に楽しい。

 トランスミッションは7速Sトロニック。デュアルクラッチシステムのギヤ比はワイドに散らされており、低いギヤはローレシオに、高いギヤはハイレシオに設定されている。強力なターボエンジンは高いギヤでも加速をカバーしてくれるが、やはり積極的にシフトチェンジした方が面白い。パドルシフトは多少ハンドル舵角がついていても操作しやすい。また、ダイレクト感のある加速フィールにもかかわらず、変速時のショックは小さく滑らかな感触だ。

ドライブモードは「コンフォート」「オート」「ダイナミック」「インディビジュアル」から選択可能

 ドライブモードはコンフォート、オート、ダイナミック、インディビジュアルが選択できる。サーキットではダイナミックが当然適しており、オートとはかなり差がつけられている。エンジン回転を高くするようにSトロニックが変速点を変えるが、これに加えてステアリングやエンジン、4WDのセッティング、オプションのマグネティックドライブの設定も変わる。

 RS 3はサーキットでも高いスタビリティとニュートラルなハンドリングを持つが、クワトロシステムが高速でも4輪を制御して、より高い旋回力を持つように働く。ダイナミックではさらにロールが少なくなり、姿勢安定性が高くなる。ハンドルを切った時の姿勢変化は、オートではノーズの入りが容易に感じられるが、それもハンドルの切る速度が少し速めになると、大きなロールが気になってくる。オートは万能モードだが、サーキットなどではやはりダイナミックが走りやすい。

 そしてハンドルの操作量が少ない点もドライバーに優しい。切るほどにギヤレシオが小さくなるプログレッシブステアリングが、RS 3の場合さらに効果的に役割を果たしている。操舵力も重すぎず軽すぎずちょうどよい。

 RS 3は全長4480mm、全幅1800mm(以上セダン)、ホイールベース2630mmと振り回しやすいサイズで、サーキットでもコンパクトセダンの本領を発揮して楽しい。RS 3に投入されたAudi Sportの技術で、ハンドリングはニュートラル。狙ったライン通りにトレースする。ノーマルのA3と比較するとフロントトレッドは5mm広く(ホイールアーチにフレアがつけられている)、リアトレッドも10mm広げられて、強大なエンジンパワーが生み出す高い速度に抗してハイグリップを誇るが、それでも高速で荷重が連続してかかるコーナーでは徐々にアウト側に膨らもうとする。ピレリ「P ZERO」(235/35 ZR19)は相当踏ん張ってくれ、過渡特性もつかみやすく、こんな場面でもアクセルコントロールで元のコーナリングラインに戻すことができる。

 400PSものパワーがあるエンジンを搭載しているが、ドライバーと一体感のあるハンドリングはRS専用の高剛性ボディの作り込みの結果でもある。大きな荷重がかかる高速のロングコーナーでも、ステアリングの正確性は高い。

 骨格はA/Bピラー、ルーフアーチ、センタートンネル、サイドシル、フロアパネルに硬度の高い熱間成形のスチールが使われて高い剛性を誇る。また、ボンネットはアルミ製で通常のスチールからは7kgの軽量化が図られる。基本的にフロント荷重の大きなRSシリーズの前後重量配分が多少改善されている。ちなみに、車両重量はスポーツバックで1590kgである。

 なお、5ドアのスポーツバックと4ドアセダンでは、スポーツバックの全長が145mm短い4335mmだ(セダンは4480mm)。セダンではリアのオーバーハングが長いが、サーキット走行では挙動が穏やかで、細かい挙動が一定しており運転しやすく感じられた。リアの開口部の大きなハッチバックはややキビキビとした動きになる。高速サーキットだけに空力の影響も大きそうだ。

2017年3月に受注を開始した「RS 3 セダン」(780万円)。ボディサイズは4480×1800×1380mm(全長×全幅×全高)と、スポーツバックと比べて145mm長く、60mm低い。RS 3専用のシングルフレームグリルやバンパー、拡大したトレッドとフレア付きのフェンダーなどが目を引く

 ブレーキはエンジンパワーに相応しい8ピストンキャリパーを持つが、その制動力は目覚ましい。クワトロシステムではブレーキ制御も使うのでブレーキの重要性は大きいが、サーキットで無闇にブレーキを使わなければ、フェードなどへこたれることはない。

RS 3の足下は19インチアルミホイールにピレリ「P ZERO」の組み合わせ。ブレーキシステムには8ピストンキャリパーが奢られる

 今回の試乗は先導車付きで旧知のいのまりこさんと番場彬君が引っ張ってくれたが、そこそこいいペースで走れ、ブレーキやタイヤもいたわった走行ラインを取っていたが、十分楽しかった。

先導車のドライバーを務めていただいた、ラリーなどで活躍する番場彬選手と筆者

RS 3レーシングカーの同乗試乗も

 最後にHitotsuyama Racingの「RS 3 LMS」のサイドシートに乗せてもらった。こちらは2.0リッターターボのFFで、完全なレーシングカーだ。クラッチを使わないドグミッションは、大きなギヤのうなり音と変速するたびに大きなショックを伴なうが、瞬間的な変速ができ、大きなタイム短縮になるだろう。挙動はFFらしい動きが顔を出す。特にプリウスコーナーなどでリアがふわりとボディについていく感触は、ロードカーのRS 3と違っている。

 さらに強力なブレーキはロードカーとは比べものにならず、高速からタイトコーナーの飛び込みもズコン! と入っていける。スリックタイヤの強大なグリップと大きなブレーキ、そして軽量ボディがもたらすストッピングパワーは素晴らしい。デジタルメーターで236km/hを指していた富士スピードウェイのストレートエンドでは、シートベルトに縛り付けられた身体が容赦なく前に飛び出そうとする。それでも姿勢安定性は高く、コーナーでもブレーキでも安心して乗っていられる。

 RS 3三昧の富士スピードウェイの半日だったが、やはり存分にパフォーマンスを発揮できるサーキットは楽しかった。こんな機会を設けてくれたアウディ ジャパンに感謝である。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学